168 / 266
第20章 それでも続く夏合宿
第159話 飛び道具な質問
しおりを挟む
まずい。今朝はユキ先輩とアキナ先輩の顔をまともに見ることが出来ない。
昨日読んだ『ユリナちゃんは妄想症』。あれは間違いなくユキ先輩とアキナ先輩の物語だ。
ずっと2人一緒にいたいと思っていたのだが父親の転勤で別れる。それでも変わらない気持ちで手紙をやりとりしつつ、生活の色々な場面でいないはずのアキカちゃんを思い浮かべる。そして最終巻である5巻はユリナちゃんがアキカちゃんと同じ学校を受験して合格し、旅立つところで終わるのだ。
途中自分は女の子なのに女の子が好きなのは変なことなのかと悩んだり、アキカの事を忘れるために男の子と付き合ってみるけれど上手くいかなかったり。時にかなりきわどい描写もあったりするのだ。
そんな訳で絵柄だけは可愛くデフォルメしているが内容は無茶苦茶リアル。でもきっと事実関係はほぼそのまま。絵だってよく見てみると2人に似ている。
何でタカス君はこれを読んで2人の事と気づかないんだろう。昨日あれだけ仲がよさそうな処を見たというのに。それとも気づいてその関係を見て楽しんでいるのだろうか。
案外そっちの可能性が高いような気もする。タカス君は百合大好きだし。
なおこの世界では性同一障害にあたる単語はない。同性婚なんて言葉もやっぱり無い。
そもそも世帯なんて単位で管理していないから家族関係も扶養の有無だけ。だから婚姻そのものの法律的地位は日本ほど面倒でないのは確かだ。宗教的な教えで『ソドミーは地獄に落ちる』なんてのも無いし。
でも障害が無いという事と偏見が無いという事はまた別な訳で。
俺自身としては偏見は無いつもりだ。でもああも気持ちを赤裸々に描かれた漫画なんて読んでしまうと……まあ顔を合わせにくい訳なのだ。
しかも2人は昨日一緒の部屋だったし。
そんな俺の気分とは全く別に朝が始まる。今朝の食事は肉祭り後の定例という事で俺が作ったつけ麺だ。今回は味玉もつけている。
「今日は猪魔獣《オツコト》の解体をした後どうしようか」
「シモンさんは解体後に何か作る予定はあるの?」
「ううん、タイヤ等は学校に帰ってからにするよ。場所を取るしね」
「なら猪魔獣《オツコト》の肉処理かな。2頭もあったら合宿だけでは食べきれないでしょ」
「この面子なら食べそうだけれどさ」
つい本音を言ってしまう。
「でもどうせなら色々な加工品も作ってみたいな」
「塩漬けと燻製くらいかな」
「ソーセージも作れるぞ。小腸の半分以上は塩漬けにしておいたしさ」
「面白そうだな」
「たまにはそういうのもいいですね」
「燻製作業は任せて」
何やら皆さん乗り気のようだ。
「なら俺は店が開いたら香草や香辛料、岩塩を買ってくる。他に材料が欲しい人は言ってくれ」
「チーズ。固いのがいい。燻製にすると美味しい。あとナッツ類、ジャガイモ、塩漬け魚卵なんかも。あと今日食べた味付きのゆで卵も多分美味しい」
なるほどな。味玉はまだ在庫があるし大丈夫だ。
「でもその辺の材料を1人で買うのは大変かな」
「なら私が一緒に行きますわ」
えっ!? よりにもよってアキナ先輩が立候補してしまった。
しかし嫌とは絶対言えない。むしろ怪しまれそうだ。
「昨日と同じ組み合わせだけれどまあいいか」
「そうですね」
ちょっと気が重いが仕方無いか。
そんな訳で朝食を片付けた後、それぞれ出かける事にした。
◇◇◇
ニンニクの他、パセリ、バジル、オレガノ、タイム、ローズマリー、唐辛子、生姜を購入。更に高価だったが胡椒もなんと購入。
「入れたら確実に美味しくなるのなら、多少高価でも買った方がいいでしょう」
流石大貴族の御嬢様は言う事が違う。貧乏性の俺には香辛料に正銀貨3枚も出すなんて真似は出来ない。
店も店だ。胡椒のような高い香辛料まで普通に在庫しているなんて。
他に岩塩だの付け合わせの野菜少々だのを購入する。勿論俺と先輩が持てる程度にだ。一応万能魔法杖を背中のディパックに潜めてあるけれど。
その質問が出たのは歩いて帰る途中だった。
「ところで質問をひとつして宜しいでしょうか」
普通の会話途中にそんな台詞が入る。
「答えられることなら何でも」
「ユキさんの描いた本を読んでどう思いましたでしょうか」
ごく自然にそう聞かれたので一瞬意味がわからなかった。だから動揺と迷いはちょっと遅れてやってくる。
おいおいちょっと待った。アキナ先輩はあの本のことを知っていたのか。
「襲撃があった時、あの本がミタキ君の部屋に置いてありました。おそらくタカス君から借りたのでしょう。動けなくて暇でしたでしょうから」
「あの本の中身は知っていたんですね」
そこが気になったので聞いてみる。
「ええ。5巻全部持っています。ユキが描いた本が出るという事で、本屋に片っ端から問い合わせをしました。ユキ自身は教えてくれなかったのですけれどね。
うわあ、アキナ先輩側もなかなかガチだ。
どうしようか。ごまかすことも出来ない訳じゃない。アキナ先輩も俺が答えたくないとわかればそれ以上聞いてこないだろう。でも……。
少し考えて、俺は答えを口にする。
昨日読んだ『ユリナちゃんは妄想症』。あれは間違いなくユキ先輩とアキナ先輩の物語だ。
ずっと2人一緒にいたいと思っていたのだが父親の転勤で別れる。それでも変わらない気持ちで手紙をやりとりしつつ、生活の色々な場面でいないはずのアキカちゃんを思い浮かべる。そして最終巻である5巻はユリナちゃんがアキカちゃんと同じ学校を受験して合格し、旅立つところで終わるのだ。
途中自分は女の子なのに女の子が好きなのは変なことなのかと悩んだり、アキカの事を忘れるために男の子と付き合ってみるけれど上手くいかなかったり。時にかなりきわどい描写もあったりするのだ。
そんな訳で絵柄だけは可愛くデフォルメしているが内容は無茶苦茶リアル。でもきっと事実関係はほぼそのまま。絵だってよく見てみると2人に似ている。
何でタカス君はこれを読んで2人の事と気づかないんだろう。昨日あれだけ仲がよさそうな処を見たというのに。それとも気づいてその関係を見て楽しんでいるのだろうか。
案外そっちの可能性が高いような気もする。タカス君は百合大好きだし。
なおこの世界では性同一障害にあたる単語はない。同性婚なんて言葉もやっぱり無い。
そもそも世帯なんて単位で管理していないから家族関係も扶養の有無だけ。だから婚姻そのものの法律的地位は日本ほど面倒でないのは確かだ。宗教的な教えで『ソドミーは地獄に落ちる』なんてのも無いし。
でも障害が無いという事と偏見が無いという事はまた別な訳で。
俺自身としては偏見は無いつもりだ。でもああも気持ちを赤裸々に描かれた漫画なんて読んでしまうと……まあ顔を合わせにくい訳なのだ。
しかも2人は昨日一緒の部屋だったし。
そんな俺の気分とは全く別に朝が始まる。今朝の食事は肉祭り後の定例という事で俺が作ったつけ麺だ。今回は味玉もつけている。
「今日は猪魔獣《オツコト》の解体をした後どうしようか」
「シモンさんは解体後に何か作る予定はあるの?」
「ううん、タイヤ等は学校に帰ってからにするよ。場所を取るしね」
「なら猪魔獣《オツコト》の肉処理かな。2頭もあったら合宿だけでは食べきれないでしょ」
「この面子なら食べそうだけれどさ」
つい本音を言ってしまう。
「でもどうせなら色々な加工品も作ってみたいな」
「塩漬けと燻製くらいかな」
「ソーセージも作れるぞ。小腸の半分以上は塩漬けにしておいたしさ」
「面白そうだな」
「たまにはそういうのもいいですね」
「燻製作業は任せて」
何やら皆さん乗り気のようだ。
「なら俺は店が開いたら香草や香辛料、岩塩を買ってくる。他に材料が欲しい人は言ってくれ」
「チーズ。固いのがいい。燻製にすると美味しい。あとナッツ類、ジャガイモ、塩漬け魚卵なんかも。あと今日食べた味付きのゆで卵も多分美味しい」
なるほどな。味玉はまだ在庫があるし大丈夫だ。
「でもその辺の材料を1人で買うのは大変かな」
「なら私が一緒に行きますわ」
えっ!? よりにもよってアキナ先輩が立候補してしまった。
しかし嫌とは絶対言えない。むしろ怪しまれそうだ。
「昨日と同じ組み合わせだけれどまあいいか」
「そうですね」
ちょっと気が重いが仕方無いか。
そんな訳で朝食を片付けた後、それぞれ出かける事にした。
◇◇◇
ニンニクの他、パセリ、バジル、オレガノ、タイム、ローズマリー、唐辛子、生姜を購入。更に高価だったが胡椒もなんと購入。
「入れたら確実に美味しくなるのなら、多少高価でも買った方がいいでしょう」
流石大貴族の御嬢様は言う事が違う。貧乏性の俺には香辛料に正銀貨3枚も出すなんて真似は出来ない。
店も店だ。胡椒のような高い香辛料まで普通に在庫しているなんて。
他に岩塩だの付け合わせの野菜少々だのを購入する。勿論俺と先輩が持てる程度にだ。一応万能魔法杖を背中のディパックに潜めてあるけれど。
その質問が出たのは歩いて帰る途中だった。
「ところで質問をひとつして宜しいでしょうか」
普通の会話途中にそんな台詞が入る。
「答えられることなら何でも」
「ユキさんの描いた本を読んでどう思いましたでしょうか」
ごく自然にそう聞かれたので一瞬意味がわからなかった。だから動揺と迷いはちょっと遅れてやってくる。
おいおいちょっと待った。アキナ先輩はあの本のことを知っていたのか。
「襲撃があった時、あの本がミタキ君の部屋に置いてありました。おそらくタカス君から借りたのでしょう。動けなくて暇でしたでしょうから」
「あの本の中身は知っていたんですね」
そこが気になったので聞いてみる。
「ええ。5巻全部持っています。ユキが描いた本が出るという事で、本屋に片っ端から問い合わせをしました。ユキ自身は教えてくれなかったのですけれどね。
うわあ、アキナ先輩側もなかなかガチだ。
どうしようか。ごまかすことも出来ない訳じゃない。アキナ先輩も俺が答えたくないとわかればそれ以上聞いてこないだろう。でも……。
少し考えて、俺は答えを口にする。
応援ありがとうございます!
3
お気に入りに追加
2,157
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる