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第19章 近づく暗雲
第157話 魔法戦闘
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『方法はお任せします。車にとりついている2人をお願いしますわ』
『わかりました』
本来の俺には攻撃魔法は無い。ただし今は万能魔法杖を持っている。専門の魔法使いより威力は弱いが使える魔法の種類だけは豊富だ。
個別睡眠魔法、対象先頭の敵1、実行! 個別睡眠魔法、対象先頭の敵2、実行!
2人が倒れる。
思ったよりあっさり行った。しかしある意味それは当然だ。多種類の魔法を使ったり抵抗出来たりするなんて人はほとんどいない。
そしてこの2人は生物系魔法に抵抗力が無かったようだ。さて次は!
『別行動の1人急いで!』
アキナ先輩はこっちに向かっている2人と魔法戦闘中。だから俺は最奥にいる別行動の1人、おそらくこの部隊の指揮官を狙う。
個別睡眠魔法、対象敵、実行!
効かない! 生物系魔法に耐性があるのか防護魔法をかけているのか。
『その対象には熱魔法も効きません』
何だと。なら風魔法! 駄目だ跳ね返された。
敵の魔法攻撃を感じる。おそらく電撃系だ。
しかし二重にかけた耐魔法防護が効いている。静電気以下の衝撃しか感じない。
敵も耐魔法防護をかけているようだ。なら通りそうな魔法は何だ。
土魔法で足下の土を掘り起こす。連続ジャンプで逃げられた。身体強化も使っている模様。どんな魔法なら耐魔法防護を抜けるか。
ふと思いついた魔法を実行してみる。
熱魔法、温度30度、対象敵、実行! 普通の攻撃と違って温度変化が小さい熱魔法だが、これならどうだ! 若干ぐらついた! 効いている!
熱魔法、温度30度、対象敵、実行! 熱魔法、温度30度、対象敵、実行!
ひたすらかけて体温を低下させる。
向こうも電撃系魔法を連続してかけている。びりっとした不自然な感触が続いている。
でも俺には二重にかけた耐魔法防護がある。大丈夫、この程度なら耐えられる。
そしてようやく敵の攻撃が止まった。敵が気絶したからか鑑定魔法が効く。
間違いなく気絶、というか低温による仮死状態だ。
「そっちはどうですか」
「大丈夫ですわ。それに味方も到着したようです」
ドカン! 少し遠くで爆発音。ほぼ同時に気配察知魔法に2人の反応が現れる。
この2人の反応を俺は知っている。何度もお目にかかった人間の気配だ。
「挨拶に行きますか」
「そうですね」
俺とアキナ先輩は部屋を出て玄関経由で外へ。
見覚えある2人がこっちへ歩いてきている。細身の鋭い印象の若い男性と小柄な女性。
今日はミスリルを織り込んだ黒色の魔法戦闘服姿だ。黒色の魔法杖をそれぞれ手にしている。
「遅くなってすみません。でもまさかそっちで実働部隊全員を倒すとは思っていませんでした」
ターカノさんがそう言って頭を下げる。
「送り狼を倒していただいたようでありがとうございます」
「ああ、もう後続は無い、大丈夫だ」
アキナ先輩の礼にシャクさんの返答。何だそれは?
「実働部隊を監視して、失敗した際に証拠を隠滅して逃走する見張り役の魔法兵士部隊の事ですわ。おそらく最後の爆発は送り狼部隊を倒した際のものでしょう」
「全部お見通しなのですね」
「いえ、まさか襲われるとは思いませんでした。ですから助かりましたわ」
うーん、何というかやっぱりアキナ先輩は俺と経験値が違いすぎる。色々読めない。
「ところでうちの他の皆さんは大丈夫でしょうか」
「あっちには敵は行っていない。連絡はした。戻ってきている最中だ」
シャクさんとターカノさんは移動魔法を使える。歩いて行ける程度の距離など2人にとっては無いも同然。妨害魔法が消えていないこの場所でも移動魔法の応用で容赦なく遠方へ連絡することが可能だ。
「取りあえず皆さん揃ったら今回の事案について説明させて頂きます。本来はホンから説明させていただくところです。でも流石に敵がいる現場までアレを連れてくる訳にもいきません」
アレ扱いかよ殿下は。しかし言っていることはもっともだ。
仮にもホン・ド殿下は第一王子。そう危ないところをうろつかれても困る。
「それではちょっと別荘を修理するのでお待ち頂けますか。明かり取り窓のガラスが割られてしまったので」
「何でしたらこちらで修理業者を呼びますけれど」
「それには及びませんわ。ミタキ君、あのミタキ君専用工作魔法杖で何とかなりますよね」
「ええ」
シモンさんほどでは無いが俺もあの杖を使えば修理くらいは出来る。俺は一足先に家の中に入り、工作魔法杖を各窓に向けて修理を開始した。
◇◇◇
約半時間後。戻ってきた連中とシャクさん、ターカノさんを含みテーブルを囲む。なおユキ先輩だけはソファーの上だ。
連絡を受けた後真っ先に戻ってきたのがユキ先輩だった。身体強化魔法を多重掛けしてとんでもない速度で走って戻ってきたのだ。そしてアキナ先輩が無事なのを見て抱きついて、そのまま動けなくなって……
今も身体強化魔法を多重掛けした影響で身体をうまく動かせない状態だ。
シンハ君も似たような事が出来るがあれは頑丈人間だからこそ。普通の身体だと耐えられる出力ではないらしい。 それでも明日までには治るだろうとのことだけれど。
そんな訳でユキ先輩だけは椅子ではなくソファーで伸びている。意識ははっきりしているし話すことは出来るけれど。
「実は近々君達が襲われるだろう、そういう予知が出ていた。敵の目的は蒸気自動車。ただいつ何処で襲われるかという正確な予知は出来なかった。だからあえて君達に知らせずに周囲を警戒して罠を張った」
「今回は国境に近いですし山岳地帯で隠れる場所も多い。ですので決行するなら今回の合宿期間中で場所は此処だろう。そういう見当をつけていたんです」
「いずれにせよ君達を危険な目に遭わせてしまったのは確かだ。申し訳ない」
なるほどな。
「それは仕方無いですわ。それにこうやって無事に済みましたし」
「知らせを聞いた方は気が気ではありませんでしたけれどね」
ソファーからユキ先輩がそう言っている。
まあそれは駆けつけてきたユキ先輩の形相からわかっている。本当にアキナ先輩の事が心配だったんだな。普段はそんなそぶりを見せないのだけれども。
「でもどうやって警戒されていたのですか。これでも旅行中は常に警戒していたのですが、そちらの気配は感じませんでしたけれど」
ナカさんが尋ねる。どうやらナカさんの持ち魔法には警戒関係も含まれている模様だ。俺は今まで知らなかったけれど。
「その方法は残念ながら言えないんだ。普通の気配感知魔法では確認不能な方法だとしか」
「ただ向こうも妨害と隠蔽をかけていたので接近感知に手間取りました。結果的にはアキナさんとミタキ君が全部倒してしまいましたけれどね」
「その辺はまたホンが聞きに来ると思う。面倒だと思うが相手してやってくれ」
勘弁してくれ、そう思うがまあ仕方無い。
俺達の持ち魔法は2人とも予め知っているだろう。そして今回敵を倒した魔法はそれ以外の魔法。つまり未知の魔法を俺達が使えるというのはバレている。
「ところで捕らえた敵はどうするんですか」
「事情聴取した後全魔法無効化された場所で拘禁する。向こうの国に抗議して陳謝でもあれば別だが、おそらくは無視するだろう」
まあそれは仕方無い。何せ他国へ侵入して秘密道具を強奪しようとしたのだ。向こうも認めるわけには行かないしこっちもそのままにする訳にいかない。
アストラムとしては魔法でも何でも使ってとれるだけ情報を取って、あとは証拠として生かしておくだろう。それくらいの設備はこの国にも無い訳では無い。
「あとホンが言っていましたね。時期が更に早まるだろうって。今まではリョービ帝国がビンーゴ地方を統一した後と予測していましたが、それ以前にスオー単独で動くのではないかと。どの国も未来視と同様な機関を使って予測をしています。ですから予知魔法で視る内容も日々変わるそうです」
「行軍なり兵站なりで自動車が使えれば状況は一変する。特に山地では馬を使用しても迅速な移動は困難だ。だがあの自動車が数台あれば状況は一変する」
「その辺でもいずれホンの方から相談があると思います。ただ今はまだその事は出来るだけ気にしないでください。こちらも出来るだけ気にしないで済むよう心がけますから」
『わかりました』
本来の俺には攻撃魔法は無い。ただし今は万能魔法杖を持っている。専門の魔法使いより威力は弱いが使える魔法の種類だけは豊富だ。
個別睡眠魔法、対象先頭の敵1、実行! 個別睡眠魔法、対象先頭の敵2、実行!
2人が倒れる。
思ったよりあっさり行った。しかしある意味それは当然だ。多種類の魔法を使ったり抵抗出来たりするなんて人はほとんどいない。
そしてこの2人は生物系魔法に抵抗力が無かったようだ。さて次は!
『別行動の1人急いで!』
アキナ先輩はこっちに向かっている2人と魔法戦闘中。だから俺は最奥にいる別行動の1人、おそらくこの部隊の指揮官を狙う。
個別睡眠魔法、対象敵、実行!
効かない! 生物系魔法に耐性があるのか防護魔法をかけているのか。
『その対象には熱魔法も効きません』
何だと。なら風魔法! 駄目だ跳ね返された。
敵の魔法攻撃を感じる。おそらく電撃系だ。
しかし二重にかけた耐魔法防護が効いている。静電気以下の衝撃しか感じない。
敵も耐魔法防護をかけているようだ。なら通りそうな魔法は何だ。
土魔法で足下の土を掘り起こす。連続ジャンプで逃げられた。身体強化も使っている模様。どんな魔法なら耐魔法防護を抜けるか。
ふと思いついた魔法を実行してみる。
熱魔法、温度30度、対象敵、実行! 普通の攻撃と違って温度変化が小さい熱魔法だが、これならどうだ! 若干ぐらついた! 効いている!
熱魔法、温度30度、対象敵、実行! 熱魔法、温度30度、対象敵、実行!
ひたすらかけて体温を低下させる。
向こうも電撃系魔法を連続してかけている。びりっとした不自然な感触が続いている。
でも俺には二重にかけた耐魔法防護がある。大丈夫、この程度なら耐えられる。
そしてようやく敵の攻撃が止まった。敵が気絶したからか鑑定魔法が効く。
間違いなく気絶、というか低温による仮死状態だ。
「そっちはどうですか」
「大丈夫ですわ。それに味方も到着したようです」
ドカン! 少し遠くで爆発音。ほぼ同時に気配察知魔法に2人の反応が現れる。
この2人の反応を俺は知っている。何度もお目にかかった人間の気配だ。
「挨拶に行きますか」
「そうですね」
俺とアキナ先輩は部屋を出て玄関経由で外へ。
見覚えある2人がこっちへ歩いてきている。細身の鋭い印象の若い男性と小柄な女性。
今日はミスリルを織り込んだ黒色の魔法戦闘服姿だ。黒色の魔法杖をそれぞれ手にしている。
「遅くなってすみません。でもまさかそっちで実働部隊全員を倒すとは思っていませんでした」
ターカノさんがそう言って頭を下げる。
「送り狼を倒していただいたようでありがとうございます」
「ああ、もう後続は無い、大丈夫だ」
アキナ先輩の礼にシャクさんの返答。何だそれは?
「実働部隊を監視して、失敗した際に証拠を隠滅して逃走する見張り役の魔法兵士部隊の事ですわ。おそらく最後の爆発は送り狼部隊を倒した際のものでしょう」
「全部お見通しなのですね」
「いえ、まさか襲われるとは思いませんでした。ですから助かりましたわ」
うーん、何というかやっぱりアキナ先輩は俺と経験値が違いすぎる。色々読めない。
「ところでうちの他の皆さんは大丈夫でしょうか」
「あっちには敵は行っていない。連絡はした。戻ってきている最中だ」
シャクさんとターカノさんは移動魔法を使える。歩いて行ける程度の距離など2人にとっては無いも同然。妨害魔法が消えていないこの場所でも移動魔法の応用で容赦なく遠方へ連絡することが可能だ。
「取りあえず皆さん揃ったら今回の事案について説明させて頂きます。本来はホンから説明させていただくところです。でも流石に敵がいる現場までアレを連れてくる訳にもいきません」
アレ扱いかよ殿下は。しかし言っていることはもっともだ。
仮にもホン・ド殿下は第一王子。そう危ないところをうろつかれても困る。
「それではちょっと別荘を修理するのでお待ち頂けますか。明かり取り窓のガラスが割られてしまったので」
「何でしたらこちらで修理業者を呼びますけれど」
「それには及びませんわ。ミタキ君、あのミタキ君専用工作魔法杖で何とかなりますよね」
「ええ」
シモンさんほどでは無いが俺もあの杖を使えば修理くらいは出来る。俺は一足先に家の中に入り、工作魔法杖を各窓に向けて修理を開始した。
◇◇◇
約半時間後。戻ってきた連中とシャクさん、ターカノさんを含みテーブルを囲む。なおユキ先輩だけはソファーの上だ。
連絡を受けた後真っ先に戻ってきたのがユキ先輩だった。身体強化魔法を多重掛けしてとんでもない速度で走って戻ってきたのだ。そしてアキナ先輩が無事なのを見て抱きついて、そのまま動けなくなって……
今も身体強化魔法を多重掛けした影響で身体をうまく動かせない状態だ。
シンハ君も似たような事が出来るがあれは頑丈人間だからこそ。普通の身体だと耐えられる出力ではないらしい。 それでも明日までには治るだろうとのことだけれど。
そんな訳でユキ先輩だけは椅子ではなくソファーで伸びている。意識ははっきりしているし話すことは出来るけれど。
「実は近々君達が襲われるだろう、そういう予知が出ていた。敵の目的は蒸気自動車。ただいつ何処で襲われるかという正確な予知は出来なかった。だからあえて君達に知らせずに周囲を警戒して罠を張った」
「今回は国境に近いですし山岳地帯で隠れる場所も多い。ですので決行するなら今回の合宿期間中で場所は此処だろう。そういう見当をつけていたんです」
「いずれにせよ君達を危険な目に遭わせてしまったのは確かだ。申し訳ない」
なるほどな。
「それは仕方無いですわ。それにこうやって無事に済みましたし」
「知らせを聞いた方は気が気ではありませんでしたけれどね」
ソファーからユキ先輩がそう言っている。
まあそれは駆けつけてきたユキ先輩の形相からわかっている。本当にアキナ先輩の事が心配だったんだな。普段はそんなそぶりを見せないのだけれども。
「でもどうやって警戒されていたのですか。これでも旅行中は常に警戒していたのですが、そちらの気配は感じませんでしたけれど」
ナカさんが尋ねる。どうやらナカさんの持ち魔法には警戒関係も含まれている模様だ。俺は今まで知らなかったけれど。
「その方法は残念ながら言えないんだ。普通の気配感知魔法では確認不能な方法だとしか」
「ただ向こうも妨害と隠蔽をかけていたので接近感知に手間取りました。結果的にはアキナさんとミタキ君が全部倒してしまいましたけれどね」
「その辺はまたホンが聞きに来ると思う。面倒だと思うが相手してやってくれ」
勘弁してくれ、そう思うがまあ仕方無い。
俺達の持ち魔法は2人とも予め知っているだろう。そして今回敵を倒した魔法はそれ以外の魔法。つまり未知の魔法を俺達が使えるというのはバレている。
「ところで捕らえた敵はどうするんですか」
「事情聴取した後全魔法無効化された場所で拘禁する。向こうの国に抗議して陳謝でもあれば別だが、おそらくは無視するだろう」
まあそれは仕方無い。何せ他国へ侵入して秘密道具を強奪しようとしたのだ。向こうも認めるわけには行かないしこっちもそのままにする訳にいかない。
アストラムとしては魔法でも何でも使ってとれるだけ情報を取って、あとは証拠として生かしておくだろう。それくらいの設備はこの国にも無い訳では無い。
「あとホンが言っていましたね。時期が更に早まるだろうって。今まではリョービ帝国がビンーゴ地方を統一した後と予測していましたが、それ以前にスオー単独で動くのではないかと。どの国も未来視と同様な機関を使って予測をしています。ですから予知魔法で視る内容も日々変わるそうです」
「行軍なり兵站なりで自動車が使えれば状況は一変する。特に山地では馬を使用しても迅速な移動は困難だ。だがあの自動車が数台あれば状況は一変する」
「その辺でもいずれホンの方から相談があると思います。ただ今はまだその事は出来るだけ気にしないでください。こちらも出来るだけ気にしないで済むよう心がけますから」
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