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第19章 近づく暗雲

第156話 非常事態

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 さて、『ユリナちゃんは妄想症』はどんな漫画だろう。俺は1巻を手に取ってみてみる。
 絵のタッチは確かにあの時のイラストそっくりだ。そして内容は……

 あるところにアキカちゃんとユリナちゃんという仲良しの女の子がいた。しかしユリナちゃんは父親の仕事の都合で引っ越してしまう。

 アキカちゃんに会えなくなったユリナちゃんは、アキカちゃんがどんな風に日々生活しているか妄想しながら一日を過ごすのだった。


 話の大筋はこんな感じだ。
 手紙が来て返事を書いたら何十枚になっても完結せず結局送れなかったり。ちょっとアキカちゃんに似た女の子を半ばストーキングよろしく追跡しながら妄想してみたり。


 内容そのものはなかなか面白い。
 ただこれってつまり、引っ越したユキ先輩がアキナ先輩を思って描いた半分実話の物語では無いのだろうか。実際にやっていそうな感じでリアルなのが問題だ。

 少なくともうちの古い連中には見せられない。特にアキナ先輩に見せるわけにはいかない内容だ。
 でも確かに面白い。思わず次々に読んでしまう。

 3巻を読み終えて4巻を手に取ろうとした時だった。気配察知魔法に反応があった。
 もう帰ってきたのだろうか。でも動きが変だ。鑑定魔法を上乗せしてみる。

 違う、奴らじゃない。しかも何だ、ステータスが変だ。何も表示されない。何だこれはどういう事だ。


 身体強化、対象俺、実行!とっさに身体強化魔法をかける。これで何とか動くことは出来る。
 次はアキナ先輩に連絡だ。

『アキナ先輩、非常事態かもしれません』

『どうしましたでしょうか』

 よかった起きていた。

『鑑定魔法で読めない人間が近づいてきます。人数は5人、今は家の周囲をゆっくり確認しているような状態です』

 単なる通りがかりという感じではない。動きがあきらかにおかしい。

『わかりました。合流します。そのまま警戒していて下さい』

『了解』

 ベッドから起きてすぐに動けるように体勢をとりつつ鑑定魔法で更に観察。
 5人とも細かい情報を一切見ることが出来ない。逆鑑定魔法か耐解析魔法等で情報を隠しているのだろう。


 そんな事をする必要性は普通ならあり得ない。そしてこの、通行人ではない動き。つまりこれは異常事態か非常事態、もしくはその両方だ。

『入りますわ』

 扉を開けてアキナ先輩が入ってくる。

『人間であるという以上の情報《ステータス》は読めません』

『心理魔法で読む事も出来ませんわ。明らかに偶然ではありません。恐らくこちらを狙うつもりでしょう』

 どうしようか。

『通報しますか』

『通信魔法が遠くに届きません。多分妨害魔法をかけられています』

『どうしますか』

『取りあえず敵の出方をみましょう。これでも一応軍幹部の娘ですのでひととおり襲撃時の訓練は受けています。流石に実際の襲撃に遭うのは初めてですけれど』

 そう、これは間違いなく襲撃だ。

『まず狙いが何か確認しましょう。私達か、私達のどちらかか、それとも蒸気自動車か、魔法杖かですわ。でもその前に』

 ちょっとの間。

『念の為耐魔法防護をかけました。直接攻撃魔法で攻撃されると困りますから。でもこれで相手の動きが変わるかもしれません』

 確かにその方が安全だろう。俺も同じ魔法を起動する。
 耐魔法防護、対象俺、実行! 耐魔法防護、対象アキナ先輩、実行! 

 5人の動きが止まった。今までは全員でこの別荘を取り囲むように動いていたが、止まった後方向転換。

 2人、2人、1人に別れ1人はこの別荘から離れる方向へ。残り2人は蒸気自動車へ。あと2人はその2人を援護するように動く。

『目的は蒸気自動車のようですわ。勿論このまま盗ませませんけれど』

 ガシャン! ガシャン! 大きな音があちこちで響いた。
 窓ガラスが割れている。音からするとこの部屋だけではない。

『今のはこちらを脅しただけですわ。気づいている事に気がついているぞと。
 でもこのままだとこっちも攻撃されそうですわね。ですので先手をうって』

 そう言った直後。 

「きゃ!」

 アキナ先輩が小さな悲鳴をあげる。

「大丈夫ですか」

『大丈夫ですわ、でも熱魔法で攻撃しようとしたらカウンターを食らいました。どうやら私本来の魔法は対策済みのようです』

 こっちの魔法は事前に調べられ対策済みという訳か。つまりこの襲撃は偶然ではなく計画的犯行であると。

 おそらく今日残っているのがアキナ先輩と俺だけだというのも知られている。監視を続けたうえで人数が少ない今こそいい機会だと判断したのだろう。

 だが今、俺もアキナ先輩も作りたての万能魔法杖を持っている。これは調べには入っていない筈だ。

『あの蒸気自動車は機構を知らない人がすぐ動かせる物ではないでしょう。ですから動かせないとわかると逃げるか私達を狙ってくるか、どちらかになると思います』

 その通りだ。ボイラーを熱魔法で温めたり幾つかの手順を知らないと動かすことが出来ない。

『なら攻撃をかけましょう。俺とアキナ先輩が残っているところまで知っていて対策もとっている。それなら逆に仕掛けやすい筈です』

『そうですわね』

 アキナ先輩はそう言って頷く。先輩も気づいているようだ。俺達が敵の知らない攻撃手段を持っている事に。
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