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第18章 めでたく夏合宿
第153話 きっとこれは芋煮うどん
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あたりを見てみる。ユキ先輩がスケッチブックを抱えていた。どうやら絵を描いているらしい。
「見てみていいですか」
「あまり面白い絵ではありませんよ」
そう言ってスケッチブックをこっちに向けてくれる。ここから見た景色そのままだ。木炭の柔らかな濃淡で山々と遠くに見える街、海まで描かれている。
「凄い、本物そのままだ」
「つまりはあまり面白く無い絵なのですわ」
えっと思う事をユキ先輩は言う。
「どういう事ですか」
「本物そのままという事は景色に対して何の意見も無いという事です。つまり無色透明な存在感の無い絵。そこに自分なりの意見なり想いなりをのせて共感させてこそ初めて面白い価値のある絵になると想うんです」
「変わらないですわね」
アキナ先輩の声だ。俺と同様休憩していたらしい。
「以前も同じ事を聞いたように思います」
「ええ、絵もまた私の言葉のひとつですから」
そこで一度言葉を切って、そしてユキ先輩は続ける。
「ただこの絵は記録としては意味があります。今描いているのもここでこの風景を見た今の気持ちを忘れない為です。いつかまた別の言葉としてこの経験を紡げるように。備忘録みたいなものですね」
写真とかアルバムみたいなものだろうか。
「ただあの頃よりは少しだけ進歩したつもりですわ。例えば今はすこし違う形で記録する事も出来ます。ちょっと描いてみましょうか」
ユキ先輩はページをめくり筆記具を細いペンに替えた。料理中のフールイ先輩とナカさんを見てささささっとペンを動かす。
「例えばこんな感じです」
どれどれとアキナ先輩と2人でのぞき込んでみる。
フールイ先輩とナカさんが料理している絵だ。ただし写実的な絵では無い。線も少ないし陰影等もつけていない。
それでも確かにフールイ先輩とナカさんだとわかる絵だ。簡単な線と面だけなのにうまく特徴をつかんでいる。漫画的な描き方だな。
「面白い描き方ですわね。写実的では無いのに誰が何をしているのかわかる」
「西部はこういう絵で物語を描くのが盛んですから。表現方法としてなかなか面白いかなと思います」
つまり漫画が盛んだったと。似たような事をタカス君も言っていたなと思い出す。
「そろそろ出来ますよ」
ナカさんの声。俺達はナカさんとフールイ先輩のところへ集合だ。
本日の昼食はうどんときしめんの間くらいの麺が入った鍋だった。それぞれの食器に麺を入れて、牛肉とイモとキノコとネギをいれて汁をかける。食器がいきわたれば昼食開始だ。
「ちょうどここは肌寒いし、暖かいものっていいよね」
確かにそうだなと思って食べる。
汁は味としては醤油味に近い。勿論醤油は無いので実際は塩と魚出汁とキノコの出汁だけれども。
特にキノコの出汁がいい感じだ。キノコは俺自身が種類を知らないので鑑定魔法でもわからないけれど。
そして汁と麺がまたいい感じにあうのだ。
「美味しいな、暖かくて」
「こういう時にいいよな」
確かにそう思う。
そしてイモが俺の知っているイモと違う。大きさはサトイモと同じくらいで、ジャガイモとサツマイモとサトイモの中間くらいの味だ。栗と言われるとそんな感じもする。
その甘みとほくほくさ加減がこの塩味の汁とよくあう。
「このイモは初めて食べたな」
「この辺では豆芋って呼んでいる。寒いところでも出来るから山間部の隙間みたいな場所でよく作る」
なるほど。
そして俺は気づいた。これっていわゆる芋煮にうどんを入れた感じだろうかと。俺は本場の芋煮を食べた事が無いからわからないけれど。
芋もサトイモでないし醤油も使わないしこんにゃくも無いから味はきっと違う。しかしとりあえず美味しいのは確かだ。体に栄養分が染み渡るような気がする。
◇◇◇
暖かい芋煮うどんを食べたら大分疲れも取れてきた気がする。なのでちょっと頂上部分をぐるりと散策。
この山の山頂はなだらかで広い。地面は基本的に茶色っぽい岩や小石で植物は岩にへばりついている草類だけ。
そんな殺風景な山頂だが周りの景色は格別だ。さっきと反対側は高い山が連なっている。左右もいまいる場所からずっと山脈が連なっているのがわかる。空の青さが一段と濃い。
そして登山者の皆さんはだいたいうちと同じような感じだ。料理を作って食べたりお弁当を持って来ていたり。
気持ちはいいのだがだんだん肌寒くなってくる。雨風を通さない長袖のジャンパーを着ると少しは暖かくなるけれど。
そろそろかな。皆のところへ戻ってみる。
「そろそろ出ましょうか」
ちょうどユキ先輩がそんな話をしているところだった。
「勿体ないけれどそうしましょうか。身体も冷えそうですし」
「仕方ないですね」
荷物を入れてザックを背負う。そうだ忘れないうちにやっておこう。身体強化、対象俺!
下りはなかなか楽だ。足が自動的に進んでいく。
強いて言えばちょっと膝下脛後ろ側の筋肉がちょっと疲れてきた感じ。でも身体強化魔法と回復魔法を使えば問題無い。
シンハ君とかフルエさんは余力が有り余っているらしく凄い勢いで下りていく。仕方ないなという表情でタカス君も別荘の鍵を持って同行。
彼もなかなかタフだよな。まあタカス君は身体強化も回復魔法もほぼ何でも使えるのだけれど。
他の皆さんは快調に歩く速度で下山中だ。
「見てみていいですか」
「あまり面白い絵ではありませんよ」
そう言ってスケッチブックをこっちに向けてくれる。ここから見た景色そのままだ。木炭の柔らかな濃淡で山々と遠くに見える街、海まで描かれている。
「凄い、本物そのままだ」
「つまりはあまり面白く無い絵なのですわ」
えっと思う事をユキ先輩は言う。
「どういう事ですか」
「本物そのままという事は景色に対して何の意見も無いという事です。つまり無色透明な存在感の無い絵。そこに自分なりの意見なり想いなりをのせて共感させてこそ初めて面白い価値のある絵になると想うんです」
「変わらないですわね」
アキナ先輩の声だ。俺と同様休憩していたらしい。
「以前も同じ事を聞いたように思います」
「ええ、絵もまた私の言葉のひとつですから」
そこで一度言葉を切って、そしてユキ先輩は続ける。
「ただこの絵は記録としては意味があります。今描いているのもここでこの風景を見た今の気持ちを忘れない為です。いつかまた別の言葉としてこの経験を紡げるように。備忘録みたいなものですね」
写真とかアルバムみたいなものだろうか。
「ただあの頃よりは少しだけ進歩したつもりですわ。例えば今はすこし違う形で記録する事も出来ます。ちょっと描いてみましょうか」
ユキ先輩はページをめくり筆記具を細いペンに替えた。料理中のフールイ先輩とナカさんを見てささささっとペンを動かす。
「例えばこんな感じです」
どれどれとアキナ先輩と2人でのぞき込んでみる。
フールイ先輩とナカさんが料理している絵だ。ただし写実的な絵では無い。線も少ないし陰影等もつけていない。
それでも確かにフールイ先輩とナカさんだとわかる絵だ。簡単な線と面だけなのにうまく特徴をつかんでいる。漫画的な描き方だな。
「面白い描き方ですわね。写実的では無いのに誰が何をしているのかわかる」
「西部はこういう絵で物語を描くのが盛んですから。表現方法としてなかなか面白いかなと思います」
つまり漫画が盛んだったと。似たような事をタカス君も言っていたなと思い出す。
「そろそろ出来ますよ」
ナカさんの声。俺達はナカさんとフールイ先輩のところへ集合だ。
本日の昼食はうどんときしめんの間くらいの麺が入った鍋だった。それぞれの食器に麺を入れて、牛肉とイモとキノコとネギをいれて汁をかける。食器がいきわたれば昼食開始だ。
「ちょうどここは肌寒いし、暖かいものっていいよね」
確かにそうだなと思って食べる。
汁は味としては醤油味に近い。勿論醤油は無いので実際は塩と魚出汁とキノコの出汁だけれども。
特にキノコの出汁がいい感じだ。キノコは俺自身が種類を知らないので鑑定魔法でもわからないけれど。
そして汁と麺がまたいい感じにあうのだ。
「美味しいな、暖かくて」
「こういう時にいいよな」
確かにそう思う。
そしてイモが俺の知っているイモと違う。大きさはサトイモと同じくらいで、ジャガイモとサツマイモとサトイモの中間くらいの味だ。栗と言われるとそんな感じもする。
その甘みとほくほくさ加減がこの塩味の汁とよくあう。
「このイモは初めて食べたな」
「この辺では豆芋って呼んでいる。寒いところでも出来るから山間部の隙間みたいな場所でよく作る」
なるほど。
そして俺は気づいた。これっていわゆる芋煮にうどんを入れた感じだろうかと。俺は本場の芋煮を食べた事が無いからわからないけれど。
芋もサトイモでないし醤油も使わないしこんにゃくも無いから味はきっと違う。しかしとりあえず美味しいのは確かだ。体に栄養分が染み渡るような気がする。
◇◇◇
暖かい芋煮うどんを食べたら大分疲れも取れてきた気がする。なのでちょっと頂上部分をぐるりと散策。
この山の山頂はなだらかで広い。地面は基本的に茶色っぽい岩や小石で植物は岩にへばりついている草類だけ。
そんな殺風景な山頂だが周りの景色は格別だ。さっきと反対側は高い山が連なっている。左右もいまいる場所からずっと山脈が連なっているのがわかる。空の青さが一段と濃い。
そして登山者の皆さんはだいたいうちと同じような感じだ。料理を作って食べたりお弁当を持って来ていたり。
気持ちはいいのだがだんだん肌寒くなってくる。雨風を通さない長袖のジャンパーを着ると少しは暖かくなるけれど。
そろそろかな。皆のところへ戻ってみる。
「そろそろ出ましょうか」
ちょうどユキ先輩がそんな話をしているところだった。
「勿体ないけれどそうしましょうか。身体も冷えそうですし」
「仕方ないですね」
荷物を入れてザックを背負う。そうだ忘れないうちにやっておこう。身体強化、対象俺!
下りはなかなか楽だ。足が自動的に進んでいく。
強いて言えばちょっと膝下脛後ろ側の筋肉がちょっと疲れてきた感じ。でも身体強化魔法と回復魔法を使えば問題無い。
シンハ君とかフルエさんは余力が有り余っているらしく凄い勢いで下りていく。仕方ないなという表情でタカス君も別荘の鍵を持って同行。
彼もなかなかタフだよな。まあタカス君は身体強化も回復魔法もほぼ何でも使えるのだけれど。
他の皆さんは快調に歩く速度で下山中だ。
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