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第18章 めでたく夏合宿
第145話 未来予想図
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再びさっき食事を食べた場所に戻ってくる。
食堂は既に片付けられていた。俺達がボートを改造している間に片付けが入ったらしい。
まだ寝る時間には少し早いのでリビングと思える部屋でうだうだする。
「ここは本来何に使う場所なのでしょうか」
「王家が個人的な客をもてなす場合の建物さ。国や政府の招聘した公式な客用ではなく私的な客用の迎賓館という感じかな」
「先日はミヤジ・マー殿下が高等部時代の友人とここでどんちゃん騒ぎをしていましたね」
いいのだろうか。そんな使い方をして。まあ俺達も使わせて貰っている身なのだけれど。
「それにしてもユキさんがこちらに合流するとは思わなかったな。確かにアキナさんと昔は仲が良かったと聞いていたけれど」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「トモさんは残念がっていたけれどね。まあ確かに此処が一番面白いグループだし仕方ないかな。他にオマーチやハツカイ・チーの研究院で面白いグループがあるけれどね。僕が把握しているのはそんなところかな」
つまり最低でも2つはうちと同じようなグループがある訳だ。そして殿下はユキ先輩とも知り合いだったと。トモさんというのが誰かはわからないけれど。
「ところで対策の方は順調でしょうか」
ユキ先輩の言葉に殿下は顔をしかめる。
「状況は良くない。6月からスオーとブーンゴで小競り合いが続いている。危険なのは10年後だと予測していたがもっと早くなるだろう」
以前も情勢が悪いという話をしていた。けれど10年後というのは……
「戦争ですか」
あえてその言葉を出して聞いてみる。
「そうならなければいいんだけれどね。未来視達は確実に起こるだろうとみている」
未来視というのは国公認の予知職だ。定員10名ほどの上級未来予知魔法持ちで、予知魔法で国の政策に助言を与える。
「アストラムにとっては何の利益も無いのだけれどね。上手くいっていない国というのは往々にして国外に活路を求めるものなんだ。リョービ帝国みたいに常に拡張していかなければ壊れる国なんてのもあるしね」
リョービ帝国は東の新興国家だ。軍国主義的な国家で近隣の弱小国を併合しながら急速に版図を広げている。
「隠しても仕方ないから言うけれどね。およそ10年以内にスオーとリョービがイーヨと同盟を結び、ブーンゴとアストラムに仕掛けてくる。それが未来視達の予測さ。なら今のうちにリョービを潰せばいいかというとそうでもない。
今なら確かにリョービを倒す事は出来る。でもかわりに東側諸国の民衆の恨みをかうことになってしまう。結果今のリョービよりもっとタチの悪い国が出てくるという予測さ。なにせ東側で一番国民の支持を得ているのがリョービだという状態だ。他の国々はもう制度疲労を起こして援助しても無駄な状態だしね。それにリョービに兵を向けるとスオーが攻めてくるだろうし。
一応北のイワーミとは不可侵条約を結んでいる。でもあそこは正直なところ信用できる国ではないしね。ブーンゴは信用できると思うけれどアストラムと隣接している訳では無いし。一応同盟を結んではいるけれどね」
「戦争の結果までは予知されていないんですか」
「戦争開始後の未来はまだ不確定なんだそうだ。だから色々対策して少しでもアストラムの未来が明るくなるよう飛び回っているんだけれどね。なかなか上手くいかなくて此処で愚痴を言っている状態さ」
うーん、聞かなければ良かったかもしれない。夢も希望も無い未来予想図だ。
「ただ未来視達が見ているのもあくまで現在で最も可能性が高い未来というだけでね。必ずしも予測がそのまま起こるという訳じゃない。それにこれでも30年前の予測よりは大分ましになっているんだ。当時の予測だと戦争でブーンゴとイワーミに占領されるという結果が見えていた。それが勝敗が見えないところまで押し戻せた。もう少し頑張れば更に未来予測が変わって戦争が起きなくなるかもしれない」
「何故予測が変わったんですか?」
「色々あるけれどね。一番大きかったのは生活魔法の普及と産業技術の進歩じゃないかと言われている。生活魔法が普及したおかげで都市人口が増えたし、産業とくに農業の技術進歩で生産力が上がったしね。単純計算で人口が2倍になってもやっていけるようになった訳だ。まあその辺は学校の授業で知っていると思うけれどね」
連作障害の克服と効率的な農地改良による生産高の大幅な増加。農地改良等を可能にした国の長期農業援助制度。知的財産権保障制度をはじめとする法律改革。各産業の新規参入者の障害になっていたギルド制度の廃止。
その辺はここに繋がる訳か。
「結局は国力をつける以外の方法論は無い訳なのですか」
「その通りさ。それ以外の方法だと色々国としてのバランスが崩れるしね」
フルエさんの言葉に殿下は同意する。ならばだ。
「ここで開発した蒸気機関や魔法杖等を民間に公開するとどうなりますか」
「実はそれももう検討したんだ。というか考えられる方法論は敵国家重要人物の暗殺まで含めて常に色々検討しているのだけれどね」
物騒な事を平然と言いつつ殿下が説明してくれる。
「蒸気機関や魔法杖については『今のところは公開するべきでは無い』とされているんだ。産業を発展させるには時間が無いし、かえって敵の戦力を増やす事にもなりかねないとね」
食堂は既に片付けられていた。俺達がボートを改造している間に片付けが入ったらしい。
まだ寝る時間には少し早いのでリビングと思える部屋でうだうだする。
「ここは本来何に使う場所なのでしょうか」
「王家が個人的な客をもてなす場合の建物さ。国や政府の招聘した公式な客用ではなく私的な客用の迎賓館という感じかな」
「先日はミヤジ・マー殿下が高等部時代の友人とここでどんちゃん騒ぎをしていましたね」
いいのだろうか。そんな使い方をして。まあ俺達も使わせて貰っている身なのだけれど。
「それにしてもユキさんがこちらに合流するとは思わなかったな。確かにアキナさんと昔は仲が良かったと聞いていたけれど」
「その節はご迷惑をおかけしました」
「トモさんは残念がっていたけれどね。まあ確かに此処が一番面白いグループだし仕方ないかな。他にオマーチやハツカイ・チーの研究院で面白いグループがあるけれどね。僕が把握しているのはそんなところかな」
つまり最低でも2つはうちと同じようなグループがある訳だ。そして殿下はユキ先輩とも知り合いだったと。トモさんというのが誰かはわからないけれど。
「ところで対策の方は順調でしょうか」
ユキ先輩の言葉に殿下は顔をしかめる。
「状況は良くない。6月からスオーとブーンゴで小競り合いが続いている。危険なのは10年後だと予測していたがもっと早くなるだろう」
以前も情勢が悪いという話をしていた。けれど10年後というのは……
「戦争ですか」
あえてその言葉を出して聞いてみる。
「そうならなければいいんだけれどね。未来視達は確実に起こるだろうとみている」
未来視というのは国公認の予知職だ。定員10名ほどの上級未来予知魔法持ちで、予知魔法で国の政策に助言を与える。
「アストラムにとっては何の利益も無いのだけれどね。上手くいっていない国というのは往々にして国外に活路を求めるものなんだ。リョービ帝国みたいに常に拡張していかなければ壊れる国なんてのもあるしね」
リョービ帝国は東の新興国家だ。軍国主義的な国家で近隣の弱小国を併合しながら急速に版図を広げている。
「隠しても仕方ないから言うけれどね。およそ10年以内にスオーとリョービがイーヨと同盟を結び、ブーンゴとアストラムに仕掛けてくる。それが未来視達の予測さ。なら今のうちにリョービを潰せばいいかというとそうでもない。
今なら確かにリョービを倒す事は出来る。でもかわりに東側諸国の民衆の恨みをかうことになってしまう。結果今のリョービよりもっとタチの悪い国が出てくるという予測さ。なにせ東側で一番国民の支持を得ているのがリョービだという状態だ。他の国々はもう制度疲労を起こして援助しても無駄な状態だしね。それにリョービに兵を向けるとスオーが攻めてくるだろうし。
一応北のイワーミとは不可侵条約を結んでいる。でもあそこは正直なところ信用できる国ではないしね。ブーンゴは信用できると思うけれどアストラムと隣接している訳では無いし。一応同盟を結んではいるけれどね」
「戦争の結果までは予知されていないんですか」
「戦争開始後の未来はまだ不確定なんだそうだ。だから色々対策して少しでもアストラムの未来が明るくなるよう飛び回っているんだけれどね。なかなか上手くいかなくて此処で愚痴を言っている状態さ」
うーん、聞かなければ良かったかもしれない。夢も希望も無い未来予想図だ。
「ただ未来視達が見ているのもあくまで現在で最も可能性が高い未来というだけでね。必ずしも予測がそのまま起こるという訳じゃない。それにこれでも30年前の予測よりは大分ましになっているんだ。当時の予測だと戦争でブーンゴとイワーミに占領されるという結果が見えていた。それが勝敗が見えないところまで押し戻せた。もう少し頑張れば更に未来予測が変わって戦争が起きなくなるかもしれない」
「何故予測が変わったんですか?」
「色々あるけれどね。一番大きかったのは生活魔法の普及と産業技術の進歩じゃないかと言われている。生活魔法が普及したおかげで都市人口が増えたし、産業とくに農業の技術進歩で生産力が上がったしね。単純計算で人口が2倍になってもやっていけるようになった訳だ。まあその辺は学校の授業で知っていると思うけれどね」
連作障害の克服と効率的な農地改良による生産高の大幅な増加。農地改良等を可能にした国の長期農業援助制度。知的財産権保障制度をはじめとする法律改革。各産業の新規参入者の障害になっていたギルド制度の廃止。
その辺はここに繋がる訳か。
「結局は国力をつける以外の方法論は無い訳なのですか」
「その通りさ。それ以外の方法だと色々国としてのバランスが崩れるしね」
フルエさんの言葉に殿下は同意する。ならばだ。
「ここで開発した蒸気機関や魔法杖等を民間に公開するとどうなりますか」
「実はそれももう検討したんだ。というか考えられる方法論は敵国家重要人物の暗殺まで含めて常に色々検討しているのだけれどね」
物騒な事を平然と言いつつ殿下が説明してくれる。
「蒸気機関や魔法杖については『今のところは公開するべきでは無い』とされているんだ。産業を発展させるには時間が無いし、かえって敵の戦力を増やす事にもなりかねないとね」
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