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第16章 新人到来

第129話 新人歓迎合宿計画

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「おーい2人とも、こっちで会議やるぞ」

 上からヨーコ先輩の声が聞こえた。

「何の会議ですか」

「新人歓迎合宿の件だ」

 議題は理解した。しかし疑問がある。

「何故そっちで会議をやるんですか」

「こっちの方が快適だからに決まっているだろう」

 何を当然のことと言わんばかりの口調だ。俺とタカス君は顔を見合わせる。

『断れるか』

『諦めろ』

 言葉には出さない。目だけでそんな会話をかわし仕方なく上へ。

 一応上にもテーブルもあるし椅子もある。更にリクライニングチェアもあるしキャンプコットまである。かつて作ったアウトドア用グッズの流用だ。
 テーブルに一応ついている者2名。リクライニングチェア2名。キャンプコットで昼寝状態1名。ぬるめの浴槽で伸びている者3名。 
 どう見ても会議という状態では無い。

「これで会議なんて出来るんですか」

「心配ないですわ。ほとんどの事は決定事項ですから」

 コットで横になっているアキナ先輩がそんな台詞を吐く。だったらこんな目の毒な場所に呼ぶなと言いたい。特に今のアキナ先輩、ビキニの上が強調状態なのだ。次に危険なフールイ先輩は浴槽内だからちょっとましだけれど。
 勿論俺とタカス君にそんな苦情を言える度胸は無い。

「それで合宿というのは?」

「次の次の週は1の曜日が祝日でお休みですよね。ですから5の曜日の授業終了から安息日、1の曜日と2泊3日で合宿をしようという話なのです」

 ついこの前も春合宿をしたばかりのような気がするのは気のせいだろか。
 しかしそれを言っても始まらない。皆さん泊まりがけで好き放題やるのが好きなのだ。
 まあ俺だって楽しいとは思うけれどさ。

「場所はアージナにあるのアキナ先輩宅の別荘だ。この前合宿をした場所だな」

 あそこは行ったばかりだろう。

「今の季節海で遊ぶにはいい」

 フールイ先輩、理由は理解しました。

「カナヤ・マーの別荘はその日父が使うらしいんだ。だから今回もアキナ先輩の処にお邪魔しようという事になった」

 なるほど。

「アージナはここから距離がある。午後出発で明るい内に着けるか」

 タカス君がもっともな疑問を口にする。

「大丈夫だ。うちの蒸気自動車は馬車より数倍速い。寄り道をしなければ2時間くらいでアージナにつくことが可能だ」

 実際前に帰るときはそれくらいの時間で帰ってきたしな。

「飛脚人並みかそれ以上なのだ」

「道が空いていれば飛脚人より速いよ。遅い馬車を追い越したりするのに時間がかかっちゃったりするけれど」

 フルエさんが身を乗り出してきた。

「シンコ・イバシまでどれくらいで行けるのだ? 来るときは馬車と川舟を乗り継いで10日間かかったのだ」

「1日でも行けますけれどね。途中ヨーコ先輩の領地辺りで一泊した方が無難です」

「その程度なのか!」

 考えてみればこの世界ではそれくらい異常な乗り物なのだ。俺達の感覚では当たり前になってしまっていたけれど。

「用意するものは前回と同じ装備。フルエさんとタカス君は着替えと水着、タオル等一般的な旅行道具でいい。参加費は会費で出すから一切いらない。朝のうちにここに荷物を置いて、授業が終わったらここに集合して出発。途中ドバーシとアージナで買い出しをする。そんなところかな」

「それでいいと思いますわ」

「僕は蒸気自動車をもう少し人数が乗れるよう改良しておくよ。今のままでも11人までは乗れるけれど、この前みたいな事があるとまずいしね」

 予期せぬ途中同乗者が出ると困るという事だろう。あの人は何処で出てくるかわからないから。

「新人歓迎合宿って何をするんですか」

 タカス君がもっともな質問を口にする。

「海鮮祭りと肉祭りだよな」

 おいヨーコ先輩、それ欲望ダダ漏れだし新人には通じない。案の定2人とも? という顔をしている。

「基本的には美味しいものを買ったり捕ったりして食べるだけです。今回は魔獣狩りは出来ないですから、捕るのは魚や貝等の海鮮ですね」

「代わりに肉は新鮮なモツ含めて用意させていただきますわ」

 おいおい本当に海鮮祭りと肉祭りかよ。でもそれならタレの材料も今のうちから集めておいた方がいいかもしれない。
 何なら次の週に買い出しに行ってもいいだろう。

「なら早速車を改良しないとね」

 そう言って浴槽からシモンさんが出てくる。

「今からやるのか」

「平日の放課後よりは時間があるよ」

 確かに現在時刻はまだ12時前。朝一でお菓子を買ってきて食べて、一休み終了しただけだからそんなものだ。
 しかしシモンさん、その格好でそのまま車の改良をやるのか。せめて上にTシャツ着てくれ。
 言えないけれど。

 2人でシモンさんの魔法杖を蒸気自動車のところまで運ぶ。

「さて、どう改良しようか。簡単なのは車体を伸ばして真ん中にもう一列席をつくる方法だけれど」

「それをやると小回りがきかなくなるな。出来れば前のタイヤと後ろのタイヤの間の長さを今とあまり変えないようにしたい」

「だよね。角を曲がる時なんか大変だし」

「ステアリングのギアを前後逆にして軸を前にやるか。前は少し狭くなるけれど2人だったら問題無いし。ペダルの位置は大丈夫かな」

「問題無いと思うよ。あとは水タンクと冷却系を全部前に持って来て、後ろのボイラーももう少し小型にして低く配置しようかな。石炭庫も薄く幅広く高くして」

 シモンさんの作図能力は俺より遙かに上だ。手書きの概念図すら綺麗に線のゆがみも無く描く。
 色々図を描いては直し描いては直しした結果、運転席をより真ん中に近く動かし、助手席はやや足を上げる形に座らせる事で運転席の列を更に前方へ移動。前後の車軸間距離ホイルベースは前より少しだけ増えた270cmで抑えた。

 乗員は一番前に2人、そこから後ろは3人掛けが4列で最大14人乗り。流石にこの人数乗れれば問題無いだろう。これ以上人数を乗せるならもう一台作った方がいい。

「あとは外装だね」

 そこで俺は前から考えていた事を話す。

「前の窓は大型の1枚ガラスの方がいいと思う。ガラスを厚めにして外側を金属フレームで囲めば強度的には大丈夫だろ」

「うん、此処でなら大きい板ガラスも簡単だよ」

 それが出来るなら次のステップだ。

「それなら前側の窓の上部と屋根をくっつけたいんだ。そうすれば万が一雨が降っても走れるしさ。左右は雨が降ったら布をかぶせられるようにしておけば、取りあえず雨も吹き込まない。まああんまり雨が強ければ走らない方がいいだろうけれどさ」

 つまりはまあ、現代の普通の自動車に近づけようという訳だ。
 長期休み中ならいいが今回の日程は2泊3日。3日目に雨が降ってしまったら帰れませんでは困る。この季節は滅多に雨が降らないのだけれど念の為だ。

「ガラスに雨がついて前が見えにくくなったらどうする?」

「窓の外を拭く装置をつければいい。機構そのものは簡単さ。要は窓にバネを使ってある程度密着するような布付きの棒をつけて、それを左右に動かす感じで」

 ワイパーを図を描いて説明する。

「必要に応じて窓の上から石けん水が出るようにすれば、動きも悪くならないと思う。動力は蒸気でやってもいいけれどモーターの方が簡単かな。タービン発電機はどうせついているんだし」

 更に送風装置とか色々考えてつけてみる。
 更にどの列も横から乗るように変更。前後の座席移動は無しにしたのでその分座席も広くなった。
 なお簡単な扉も一応各席横についている。乗った後手動で閉めて金具でロックするだけだけれども。カーブを曲がった時の遠心力で落ちたりしたら困るから念の為。

 大体の事が決まったらシモンさんが最終デザインを描く。
 うん、大分俺の知っている自動車に近づいた。ミニ・モークを巨大化したような感じだ。

「こんな感じかな」

「そうだな」

「なら練成するよ」

「その前にガラスを作らないと」

「もう何度も作って作り方を理解したからね、このまま行けるよ」

 おいおい。そんなので出来るようになるのか工作系魔法!

 そんな訳で材料にガラスと炭酸ナトリウム、石灰石の粉を追加。ガラスは元々2階の窓についていた半透明のガラスだ。
 他には鉄と丸太が少々。この辺は俺の細腕では運べないのでシンハ君を召喚。
 あとはおなじみ強化魔法アンテナを使って一発作成だ。

「あ、何か格好良くなったね」

「何か家っぽい」

「新しい乗り物、という感じです」

 皆さんいつのまにか下りてきて色々確認している。
 俺としてはなかなかいい感じに仕上がったと思う。今までより大分車らしくなったし。
 ただ皆さん水着でうろうろするのはやめて欲しい。どこぞの世界のコンパニオンじゃないのだから。

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