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第16章 新人到来
第123話 新入生登場
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今日はやや暑いくらいなので冷たい紅茶を準備。菓子はロールケーキを2本用意した。
本日は最初から風呂という事も無く、皆さん鏡のデザインだの精油作りだの真面目にやっている。俺も例の魔法杖の研究を続行中だ。
そうやって待ち構えているのだけれど、新入生はまだ来ない。
「今日は来ないのかな」
「どうでしょうか。私は来ると思っていますけれど」
「来るとすればヨーコ先輩達が来た後だね。2人の動きでここの場所を確認しようと思っているのかもしれないし」
「そうですね。ところでアキナ先輩、調査結果は来ていないのですよね」
「ええ。ヨーコさんのところに来ていれば別ですけれど」
まあそんな感じ。まだかまだかと思いつつ自分の作業なり研究なりをやっている。
「ちわー。新人もう来ている?」
ヨーコ先輩とシンハ君が現れた。トレーニングが終了したらしい。
「まだ。でもそろそろだと思うよ」
「気配は特に感じなかったけれどな」
「そうか。模擬戦をしている時、いつもと違う視線を感じた気がするけれど」
「私は視線を無視する癖がついているからな。よくわからん」
そう言いながら鞄を置いてシャワールームへ消えていく。
言っておくがシャワールームは完全個室だ。中で着替えも出来るシャワー付き個室が4室あるという作り。
だから別にシンハ君とヨーコ先輩が連れ立って行っても問題は無い。俺だと色々妄想が捗ってしまうけれどシンハ君はあまり気にしないようだし。
さて、そろそろデザートの用意をするか。俺がキッチンへ行こうと立ち上がった処だった。
コンコンコン。扉が間違いなくノックと思われる音を立てた。
「はいはい」
一番近くにいたシモンさんが返事して扉に向かう。これは来たな。
「私が用意します」
ナカさんがデザートの用意を代わってくれた。お客様の時はサーブ担当が俺では無くナカさんになるから。
ちなみにここに来たお客様は2組目。一組目はホン・ド王子殿下ご一行だ。
「失礼します。入会希望の新入生なのです。グループ研究実践の部屋はこちらで宜しいのでしょうか」
声は女子だ。ただ複数人いる可能性がある。
どうしようか、と背後を見たシモンさんにアキナ先輩が頷いた。
「どうぞ」
シモンさんが扉を開ける。
いたのは2人組だった。銀髪の女子と俺以上に細くて俺以上に背が高い男子の2人。
「どうぞ、こちらでご説明させていただきますわ」
アキナ先輩が2人を会議室に案内する。
今現在この部屋にあるものは念の為逆鑑定魔法をかけてある。だから原理や構造がバレる可能性は極めて少ないが念の為だ。
まだこの2人にここの秘密を教えていいのか判明していない。しかし国王庁の審査結果ってどうやって請求すればいいのだろうか。
「それでは皆さんも集まって下さいな」
取りあえずその声で全員が作業を中断する。元々即時中断できるような体制だったし問題無い。シンハ君達もすぐ来るだろう。そんな訳で俺も会議室へ。
2人が奥のお誕生席、俺達が横の適当な席という形で座る。すぐにナカさんがデザートとお茶を持って現れた。空けてあるシンハ君達の席にもセットを置いて、ナカさんも着席する。
ふとある事に気づく。ナカさん、10人分のお茶入りカップとデザート入りの皿を持って来たんだよな。どうやって持って来たんだろう。もっとよく見ておけば良かった。
まあでもそんな事は後にしてと。
新入生男子の方は身長180位はあるんじゃないかと思う。体形はガリガリに細く、そして髪は濃い茶色のもじゃもじゃ髪。細面で、前髪で目を隠しているのは昔のフールイ先輩と同じ。
雰囲気的には寡黙そうだが、エレキギターを持たせれば変わりそうな感じだ。そんなものはこの世界に無いけれど。
女子の方は中肉中背。肩までの銀髪と意思が強そうな大きい目が印象的だ。
「あと2人ほどメンバーがいますがすぐ来ると思いますわ。
さて、私は高等部1年でこの中では最年長のアキナ・ガーツカと申します。特にここには代表とかそういった存在はいませんので、とりあえず今日は私がお話の進行をさせていただきますね。
まず、よろしければお茶とお菓子をどうぞ。ウージナで昨年から流行っているものです」
???
アキナ先輩はこの2人を知っているのだろうか。今の台詞は明らかに2人がウージナの人間でないと知っているような感じだから。
とすると、少なくとも片方は貴族さんなのかな。それならばアキナ先輩が知っていてもおかしくはないから。
「自己紹介とかは宜しいのでしょうか」
銀髪女子の方が口を開く。
「ええ、今の段階では。ここは少し特殊な研究会ですので、入会までに少しステップがあるのですわ。ですので名乗るのも今は私だけにしておきます」
誰が参加しているかも一応秘密だぞ、という事か。
勿論彼女達も色々調べているだろう。ここの面子が割れている可能性が高い。今のはお約束の注意という奴だ、きっと。
「それでしたら紹介状があるのです。こちらを確認お願いするのです」
女子の方が出したのは封書2通。ひとつはこの学校の事務局で使用している学校名入りの封筒だ。もう一つはもっと高価そうな紙質で、金箔で封がしてあったりする。
「ありがとうございます。それでは確認させていただきますわ」
先輩はまず学校名入りの方の封筒を開く。彼女はさっと目を通してうんうんと頷いた。
そしてもう一つの封筒を開こうとして、一瞬嫌なものを見たという表情をする。何を見たのだろう。
中を改めて確認して、そして先輩は深い深いため息をついた。何なんだこの反応は。
「状況はわかりました。ようこそ当研究会へ」
えっ。どういう事だ?
「詳細はこちらを見ればわかりますわ。お2人もどうぞ確認なさって下さいな」
そんな訳で俺達はどやどやとアキナ先輩の周りに集合。2人もちょっと考えた後、一緒にやってきた。
さて学校名入り封筒の方の中身は、国王庁の調査結果だ。
『以下の者は貴研究会に所属しても問題無いと認められます』
そう記載した下に2人の名前らしきものが記載されている。
なるほど、事務局は調査結果を2人に渡して持ってこさせた訳か。これなら入会するつもりなら確実にこちらに届く。なお魔法暗号で国王庁の鍵が確認できるため、これが偽造である心配は無い。
さて、問題は次の書面だ。
『前略元気かい。こっちで燻っているには惜しい人材を見つけたからそっちに送る。仲良くしてやってくれ。また面白いものが出来たら見に行く。では失礼。草々』
文面は以上。そして署名が……
俺はアキナ先輩が一瞬見せたあの表情の理由を理解した。ホン・ド・ヒロデン、そう署名されている。言うまでも無くあの第一王子殿下だ。
「この調査結果とは何なのですか」
銀髪女子の質問にアキナ先輩が答える。
「ここの研究活動では色々機密に属する物も扱っています。ですから新人を入れる際には必ず国王庁による調査を受けてからにしてくれと言われているのです。私達も新たに受け入れるのは初めてなので、これを受け取るのは初めてなのですけれども」
「機密に属する物、なのですか」
「ええ。お茶菓子を食べ終わったら案内しますわ。そのお菓子の由来等もここの活動に関連しているのですけれどね。
ところでホン・ド殿下とはどちらでお知り合いになったのでしょうか」
銀髪女子が長身の男子の方を見る。出会ったのは男子の方なのだろうか。
「声をかけられたのは昨年春の魔法制御学会。学会を聴講した帰りに、殿下にここに進学するよう勧められた。この前の春休みにまたシンコ・イバシにやってきて、この学校に進学するならグループ研究実践という研究会を訪ねてみるといいと言われ、その紹介状を貰った」
なるほど。わざわざスカウトしたのなら、彼は何か特異な能力なり知識なりを持っている可能性が高い。しかも初等学校時代から学会を聴講していたなんて、いかにも何かありそうだ。それにいくらあの殿下でも普通の生徒をここにスカウトするとは……
まああの殿下だから何をするかわからないけれどな。
ん、待てよ。今の台詞、記憶に何か引っかかるような。
「そう言えば春休み、殿下がシンコ・イバシの学会へ行って、その後ここへ馬無し馬車の件で来た事があったね。あの時殿下がお願いしたい事があるって言っていたのは、ひょっとしてこの件?」
ミド・リーの台詞は俺がその件を思い出すのとほぼ同時だった。
「おそらくそうでしょう。あの時は時間が無くて最後まで言えませんでしたけれど」
「殿下はこちらに良くいらっしゃるのですか?」
銀髪女子の言葉にアキナ先輩は小さくため息をついて頷く。
「神出鬼没な御方ですからね」
そう言ってもう一度ため息をついてから続ける。
「もうすぐ残りの会員2人が来るでしょう。一度席に戻ってお茶菓子を食べながら自己紹介でも始めましょうか」
本日は最初から風呂という事も無く、皆さん鏡のデザインだの精油作りだの真面目にやっている。俺も例の魔法杖の研究を続行中だ。
そうやって待ち構えているのだけれど、新入生はまだ来ない。
「今日は来ないのかな」
「どうでしょうか。私は来ると思っていますけれど」
「来るとすればヨーコ先輩達が来た後だね。2人の動きでここの場所を確認しようと思っているのかもしれないし」
「そうですね。ところでアキナ先輩、調査結果は来ていないのですよね」
「ええ。ヨーコさんのところに来ていれば別ですけれど」
まあそんな感じ。まだかまだかと思いつつ自分の作業なり研究なりをやっている。
「ちわー。新人もう来ている?」
ヨーコ先輩とシンハ君が現れた。トレーニングが終了したらしい。
「まだ。でもそろそろだと思うよ」
「気配は特に感じなかったけれどな」
「そうか。模擬戦をしている時、いつもと違う視線を感じた気がするけれど」
「私は視線を無視する癖がついているからな。よくわからん」
そう言いながら鞄を置いてシャワールームへ消えていく。
言っておくがシャワールームは完全個室だ。中で着替えも出来るシャワー付き個室が4室あるという作り。
だから別にシンハ君とヨーコ先輩が連れ立って行っても問題は無い。俺だと色々妄想が捗ってしまうけれどシンハ君はあまり気にしないようだし。
さて、そろそろデザートの用意をするか。俺がキッチンへ行こうと立ち上がった処だった。
コンコンコン。扉が間違いなくノックと思われる音を立てた。
「はいはい」
一番近くにいたシモンさんが返事して扉に向かう。これは来たな。
「私が用意します」
ナカさんがデザートの用意を代わってくれた。お客様の時はサーブ担当が俺では無くナカさんになるから。
ちなみにここに来たお客様は2組目。一組目はホン・ド王子殿下ご一行だ。
「失礼します。入会希望の新入生なのです。グループ研究実践の部屋はこちらで宜しいのでしょうか」
声は女子だ。ただ複数人いる可能性がある。
どうしようか、と背後を見たシモンさんにアキナ先輩が頷いた。
「どうぞ」
シモンさんが扉を開ける。
いたのは2人組だった。銀髪の女子と俺以上に細くて俺以上に背が高い男子の2人。
「どうぞ、こちらでご説明させていただきますわ」
アキナ先輩が2人を会議室に案内する。
今現在この部屋にあるものは念の為逆鑑定魔法をかけてある。だから原理や構造がバレる可能性は極めて少ないが念の為だ。
まだこの2人にここの秘密を教えていいのか判明していない。しかし国王庁の審査結果ってどうやって請求すればいいのだろうか。
「それでは皆さんも集まって下さいな」
取りあえずその声で全員が作業を中断する。元々即時中断できるような体制だったし問題無い。シンハ君達もすぐ来るだろう。そんな訳で俺も会議室へ。
2人が奥のお誕生席、俺達が横の適当な席という形で座る。すぐにナカさんがデザートとお茶を持って現れた。空けてあるシンハ君達の席にもセットを置いて、ナカさんも着席する。
ふとある事に気づく。ナカさん、10人分のお茶入りカップとデザート入りの皿を持って来たんだよな。どうやって持って来たんだろう。もっとよく見ておけば良かった。
まあでもそんな事は後にしてと。
新入生男子の方は身長180位はあるんじゃないかと思う。体形はガリガリに細く、そして髪は濃い茶色のもじゃもじゃ髪。細面で、前髪で目を隠しているのは昔のフールイ先輩と同じ。
雰囲気的には寡黙そうだが、エレキギターを持たせれば変わりそうな感じだ。そんなものはこの世界に無いけれど。
女子の方は中肉中背。肩までの銀髪と意思が強そうな大きい目が印象的だ。
「あと2人ほどメンバーがいますがすぐ来ると思いますわ。
さて、私は高等部1年でこの中では最年長のアキナ・ガーツカと申します。特にここには代表とかそういった存在はいませんので、とりあえず今日は私がお話の進行をさせていただきますね。
まず、よろしければお茶とお菓子をどうぞ。ウージナで昨年から流行っているものです」
???
アキナ先輩はこの2人を知っているのだろうか。今の台詞は明らかに2人がウージナの人間でないと知っているような感じだから。
とすると、少なくとも片方は貴族さんなのかな。それならばアキナ先輩が知っていてもおかしくはないから。
「自己紹介とかは宜しいのでしょうか」
銀髪女子の方が口を開く。
「ええ、今の段階では。ここは少し特殊な研究会ですので、入会までに少しステップがあるのですわ。ですので名乗るのも今は私だけにしておきます」
誰が参加しているかも一応秘密だぞ、という事か。
勿論彼女達も色々調べているだろう。ここの面子が割れている可能性が高い。今のはお約束の注意という奴だ、きっと。
「それでしたら紹介状があるのです。こちらを確認お願いするのです」
女子の方が出したのは封書2通。ひとつはこの学校の事務局で使用している学校名入りの封筒だ。もう一つはもっと高価そうな紙質で、金箔で封がしてあったりする。
「ありがとうございます。それでは確認させていただきますわ」
先輩はまず学校名入りの方の封筒を開く。彼女はさっと目を通してうんうんと頷いた。
そしてもう一つの封筒を開こうとして、一瞬嫌なものを見たという表情をする。何を見たのだろう。
中を改めて確認して、そして先輩は深い深いため息をついた。何なんだこの反応は。
「状況はわかりました。ようこそ当研究会へ」
えっ。どういう事だ?
「詳細はこちらを見ればわかりますわ。お2人もどうぞ確認なさって下さいな」
そんな訳で俺達はどやどやとアキナ先輩の周りに集合。2人もちょっと考えた後、一緒にやってきた。
さて学校名入り封筒の方の中身は、国王庁の調査結果だ。
『以下の者は貴研究会に所属しても問題無いと認められます』
そう記載した下に2人の名前らしきものが記載されている。
なるほど、事務局は調査結果を2人に渡して持ってこさせた訳か。これなら入会するつもりなら確実にこちらに届く。なお魔法暗号で国王庁の鍵が確認できるため、これが偽造である心配は無い。
さて、問題は次の書面だ。
『前略元気かい。こっちで燻っているには惜しい人材を見つけたからそっちに送る。仲良くしてやってくれ。また面白いものが出来たら見に行く。では失礼。草々』
文面は以上。そして署名が……
俺はアキナ先輩が一瞬見せたあの表情の理由を理解した。ホン・ド・ヒロデン、そう署名されている。言うまでも無くあの第一王子殿下だ。
「この調査結果とは何なのですか」
銀髪女子の質問にアキナ先輩が答える。
「ここの研究活動では色々機密に属する物も扱っています。ですから新人を入れる際には必ず国王庁による調査を受けてからにしてくれと言われているのです。私達も新たに受け入れるのは初めてなので、これを受け取るのは初めてなのですけれども」
「機密に属する物、なのですか」
「ええ。お茶菓子を食べ終わったら案内しますわ。そのお菓子の由来等もここの活動に関連しているのですけれどね。
ところでホン・ド殿下とはどちらでお知り合いになったのでしょうか」
銀髪女子が長身の男子の方を見る。出会ったのは男子の方なのだろうか。
「声をかけられたのは昨年春の魔法制御学会。学会を聴講した帰りに、殿下にここに進学するよう勧められた。この前の春休みにまたシンコ・イバシにやってきて、この学校に進学するならグループ研究実践という研究会を訪ねてみるといいと言われ、その紹介状を貰った」
なるほど。わざわざスカウトしたのなら、彼は何か特異な能力なり知識なりを持っている可能性が高い。しかも初等学校時代から学会を聴講していたなんて、いかにも何かありそうだ。それにいくらあの殿下でも普通の生徒をここにスカウトするとは……
まああの殿下だから何をするかわからないけれどな。
ん、待てよ。今の台詞、記憶に何か引っかかるような。
「そう言えば春休み、殿下がシンコ・イバシの学会へ行って、その後ここへ馬無し馬車の件で来た事があったね。あの時殿下がお願いしたい事があるって言っていたのは、ひょっとしてこの件?」
ミド・リーの台詞は俺がその件を思い出すのとほぼ同時だった。
「おそらくそうでしょう。あの時は時間が無くて最後まで言えませんでしたけれど」
「殿下はこちらに良くいらっしゃるのですか?」
銀髪女子の言葉にアキナ先輩は小さくため息をついて頷く。
「神出鬼没な御方ですからね」
そう言ってもう一度ため息をついてから続ける。
「もうすぐ残りの会員2人が来るでしょう。一度席に戻ってお茶菓子を食べながら自己紹介でも始めましょうか」
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