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第11章 冬合宿・おかわり ~冬休み合宿編・下~
第89話 自慢の別荘
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この国ではある程度以上の大きさの川は徹底して改修されている。
かなり深い掘割になろうともできうる限り舟が通れるように水面高を揃える。それでも駄目な水位差があれば閘門で水位を調節させて船を通れるようにする。
そして目的地までの間には、二階建ての校舎並みに高い閘門が3カ所もあった。
つまりはまあ、それくらい山奥へ行った訳だ。
なお何処へ向かっているかはヨーコ先輩しか知らない。船頭のシモンさんもヨーコ先輩の指示に従っているだけだ。
3つめの閘門を過ぎてようやく回りの景色が確認できる高さになった。思い切り山と山の間、ど田舎だ。
何か微妙に異臭がするような気がするが何だろうか。
なお途中そこそこ大きい町で食料の買い出しはやっている。
「ヌクシナより物が無いからな。買える物は買っておいた方がいい」
どんな田舎で何があるのだろう。わざわざそんな田舎に別荘を建てるなら何かしらあるとは思うのだけれども。
村共用らしい船着き場の先からは川の整備状況が一気に悪くなった。一応馬車道もついているが河川の幅が一定しない。
さしものシモンさんもボートの速度をかなり落とした。
「大丈夫かな、この水路」
「あとこの臭い、何かしら」
もう異臭がするのは明らかだ。何というか、ゆで卵を茹ですぎたときのような臭い。
「もうすぐ目的地だ」
その言葉通りすぐに終点らしい池が見えた。すぐ横にそこそこ大きな家が建っているのが見える。普通の家よりはかなり大きめだが、素焼き壁のごく普通の建物だ。
「ここが目的地?」
「そう、父の個人的な別荘だ」
何があるのだろう。
よく見ると池から家に直接入れる水路がある。
「あの中につけてくれ。船着き場がある」
シモンさんはボートを一回転させ、後ろ向きで中へ入っていく。
中は予想外に広い空間だった。湿気を防ぐためかここの壁は全部土に釉薬を塗って焼いた濃緑色の壁だ。
風通しと明かり取り両用らしい窓が横にある。更に一角には木工所のような場所があり、ノコギリ等の工具や作業台もあった。
「これは」
「父の趣味の場所だよ。下手くそなりに何かを作るのが好きなんだ。貴族らしい趣味じゃないからこの別荘に封印してあるけれどさ。暇をみつけてはここにこもって何やら作っているよ」
なにやらちょっとヨーコ先輩の父親に親近感を持った。実際にお目にかかった事は無いのだけれど。
「ここで色々な試作も出来るね」
「ボートに載せられる程度までだけどな。でもここの別荘の良さはここじゃない。上へ行くぞ」
階段を上り扉を開ける。柱が数本立っているだけのかなり広い部屋だった。キッチン、応接スペース、リビング等が壁の無い広い空間に配置されていて居心地よさそうだ。
「最近忙しくて来ていないからちょっと風通さないと駄目だな。ナカさん清拭魔法を頼む」
「わかりました」
「窓も開けるね」
開けると冷たいけれど新鮮な空気がさっと入ってきた。
「上に個室形式の寝室が12室ある。でもこの別荘の売りは広さじゃ無い。この部屋に荷物を置いてこっちに来てくれ」
言われた通り部屋の奥へ。壁で仕切られた小部屋があり、何故か棚が壁の一面に作られている。どこかで見覚えがあるような作りなのだけれど思い出せない。
「こっちだ」
扉を開けると石畳で出来た広い空間があった。さっきまでの異臭が一段と強く感じる。
石畳には何か言いたげな低い部分があった。大きさは大体横1腕半、奥行3腕くらい。低い部分の深さは膝程度。長方形では無くある程度凸凹でまるで池のような形になっている。
これはまさか……
「風呂ですか、これは」
「ああ、しかも温泉だ」
やっぱり。異臭は硫黄系の温泉の匂いだったか。
「なるほど、それでこんな場所に作ったのですね」
「温泉なんて初めて」
「広い」
「そうだろ」
ヨーコ先輩は自慢そうな笑みを浮かべる。
「これだけ広いと身体を目一杯伸ばせるから気持ちいいぞ。普通の風呂とは全く違う感覚だ。外からの風も気持ちいいしな」
「早く試したいです」
「同意」
確かに良さそうな感じだ。
広いだけではない。一方の壁が開いていて外と繋がっている。露天風呂気分も味わえそうだ。
「蒸気を利用したミストサウナもある。こっちの部屋だ」
ヨーコ先輩は壁側にある扉を開く。素焼きの壁で内部を仕上げた小部屋があった。両側の壁には椅子がついていて座れるようになっている。
「ナカさん清拭魔法をお願いしていいかな」
「勿論です」
さーっと魔法の気配が広がった。浴槽のゴミとか落ちている枯れ葉等が一掃される。
ヨーコ先輩は部屋の隅にある青銅製のレバーを2つ動かした。浴槽にお湯が入り始める。
「これで半時間もすれば入れるようになる。それまでは部屋を掃除したり寝室に荷物を運んだりして待っていてくれ。半時間後に室内用のよれてもかまわないできるだけ丈夫で簡単な服に着替えて集合だ」
楽しみだけれど不安というか心配事もある。当然ここは男女別なんて別れていない。
なおこの世界に混浴という概念は無い。それは単に広い風呂というものが存在しないせいだ。
普通は日常魔法で加熱するから浴槽も必要最小限の大きさ。体育座りで入る事になる。温泉なんてものも極々珍しいからそういった文化は無いといっていい。
どうなるんだ一体。期待と不安で……
かなり深い掘割になろうともできうる限り舟が通れるように水面高を揃える。それでも駄目な水位差があれば閘門で水位を調節させて船を通れるようにする。
そして目的地までの間には、二階建ての校舎並みに高い閘門が3カ所もあった。
つまりはまあ、それくらい山奥へ行った訳だ。
なお何処へ向かっているかはヨーコ先輩しか知らない。船頭のシモンさんもヨーコ先輩の指示に従っているだけだ。
3つめの閘門を過ぎてようやく回りの景色が確認できる高さになった。思い切り山と山の間、ど田舎だ。
何か微妙に異臭がするような気がするが何だろうか。
なお途中そこそこ大きい町で食料の買い出しはやっている。
「ヌクシナより物が無いからな。買える物は買っておいた方がいい」
どんな田舎で何があるのだろう。わざわざそんな田舎に別荘を建てるなら何かしらあるとは思うのだけれども。
村共用らしい船着き場の先からは川の整備状況が一気に悪くなった。一応馬車道もついているが河川の幅が一定しない。
さしものシモンさんもボートの速度をかなり落とした。
「大丈夫かな、この水路」
「あとこの臭い、何かしら」
もう異臭がするのは明らかだ。何というか、ゆで卵を茹ですぎたときのような臭い。
「もうすぐ目的地だ」
その言葉通りすぐに終点らしい池が見えた。すぐ横にそこそこ大きな家が建っているのが見える。普通の家よりはかなり大きめだが、素焼き壁のごく普通の建物だ。
「ここが目的地?」
「そう、父の個人的な別荘だ」
何があるのだろう。
よく見ると池から家に直接入れる水路がある。
「あの中につけてくれ。船着き場がある」
シモンさんはボートを一回転させ、後ろ向きで中へ入っていく。
中は予想外に広い空間だった。湿気を防ぐためかここの壁は全部土に釉薬を塗って焼いた濃緑色の壁だ。
風通しと明かり取り両用らしい窓が横にある。更に一角には木工所のような場所があり、ノコギリ等の工具や作業台もあった。
「これは」
「父の趣味の場所だよ。下手くそなりに何かを作るのが好きなんだ。貴族らしい趣味じゃないからこの別荘に封印してあるけれどさ。暇をみつけてはここにこもって何やら作っているよ」
なにやらちょっとヨーコ先輩の父親に親近感を持った。実際にお目にかかった事は無いのだけれど。
「ここで色々な試作も出来るね」
「ボートに載せられる程度までだけどな。でもここの別荘の良さはここじゃない。上へ行くぞ」
階段を上り扉を開ける。柱が数本立っているだけのかなり広い部屋だった。キッチン、応接スペース、リビング等が壁の無い広い空間に配置されていて居心地よさそうだ。
「最近忙しくて来ていないからちょっと風通さないと駄目だな。ナカさん清拭魔法を頼む」
「わかりました」
「窓も開けるね」
開けると冷たいけれど新鮮な空気がさっと入ってきた。
「上に個室形式の寝室が12室ある。でもこの別荘の売りは広さじゃ無い。この部屋に荷物を置いてこっちに来てくれ」
言われた通り部屋の奥へ。壁で仕切られた小部屋があり、何故か棚が壁の一面に作られている。どこかで見覚えがあるような作りなのだけれど思い出せない。
「こっちだ」
扉を開けると石畳で出来た広い空間があった。さっきまでの異臭が一段と強く感じる。
石畳には何か言いたげな低い部分があった。大きさは大体横1腕半、奥行3腕くらい。低い部分の深さは膝程度。長方形では無くある程度凸凹でまるで池のような形になっている。
これはまさか……
「風呂ですか、これは」
「ああ、しかも温泉だ」
やっぱり。異臭は硫黄系の温泉の匂いだったか。
「なるほど、それでこんな場所に作ったのですね」
「温泉なんて初めて」
「広い」
「そうだろ」
ヨーコ先輩は自慢そうな笑みを浮かべる。
「これだけ広いと身体を目一杯伸ばせるから気持ちいいぞ。普通の風呂とは全く違う感覚だ。外からの風も気持ちいいしな」
「早く試したいです」
「同意」
確かに良さそうな感じだ。
広いだけではない。一方の壁が開いていて外と繋がっている。露天風呂気分も味わえそうだ。
「蒸気を利用したミストサウナもある。こっちの部屋だ」
ヨーコ先輩は壁側にある扉を開く。素焼きの壁で内部を仕上げた小部屋があった。両側の壁には椅子がついていて座れるようになっている。
「ナカさん清拭魔法をお願いしていいかな」
「勿論です」
さーっと魔法の気配が広がった。浴槽のゴミとか落ちている枯れ葉等が一掃される。
ヨーコ先輩は部屋の隅にある青銅製のレバーを2つ動かした。浴槽にお湯が入り始める。
「これで半時間もすれば入れるようになる。それまでは部屋を掃除したり寝室に荷物を運んだりして待っていてくれ。半時間後に室内用のよれてもかまわないできるだけ丈夫で簡単な服に着替えて集合だ」
楽しみだけれど不安というか心配事もある。当然ここは男女別なんて別れていない。
なおこの世界に混浴という概念は無い。それは単に広い風呂というものが存在しないせいだ。
普通は日常魔法で加熱するから浴槽も必要最小限の大きさ。体育座りで入る事になる。温泉なんてものも極々珍しいからそういった文化は無いといっていい。
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