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第10章 便利道具と魔獣狩り ~冬休み合宿編・中~
第81話 シモンさんとお話中
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本日の夕食で何を食べたいか皆さんに聞いたところ『肉』という返答だった。昨日に引き続き懲りない人達だ。そんな訳で今日も肉祭りの予定。
幸い今日は仕込みに手間がかかるモツが無いので準備は前より楽。味付け肉を仕込み、骨から出汁を取るスープをことこと煮込み始めた後。
新たな制作物を考えてみる。
審査魔法で確認した結果、錫より炭素棒の方が魔力の抵抗は大きい。
でも炭素棒は金属と比べて加工しにくいので装置にするには適さない。錫でコイルでも作って抵抗にしようか。
でも電気の場合はコイルを通すと自己誘導作用で電流変化を妨げる。そういう効果が魔力では発生するのだろうか。
もし電気と同じならコンデンサを作ればコイルと併せて出力周波数を調節できるかもしれない。その辺は鹿魔獣の魔石を使えば色々調べやすそうだ。なにせ鹿魔獣の使う魔法は電撃だから。
電撃魔法の入った魔石から電気を取り出すにはどうしようか考える。
直接電気を出せればいいのだがそう出来ない可能性もある。魔法杖やそれに相当する物を経ないと魔力が電気に変換されない可能性だ。
その場合の装置はどういう設計にすべきだろうか。考えつつ何枚も概念図を描く。
「どう、何か面白い物思いついた?」
シモンさんの声で顔を上げる。
「色々実験してみないとならないかな。装置をいくつか考えるからよろしく頼むな」
「うんいいよ。ミタキ君の作る物は新しくて面白いから」
そんな会話をしてふと気づいた。
「あれ、皆は?」
気配が無い。
「買い物に行っていると思うよ。僕はボートと荷車の改造の為に残ったけれど。気づかなかった?」
「ずっと図面を描いていたからさ、気づかなかった」
「ミタキ君らしいよね」
俺は熱中していると回りの事が見えないし聞こえない。わかってはいるけれど治らないのだ。
「ところでミタキ君に質問があるんだけれど、いいかな?」
「ん、何かな」
「色々先輩方に迫られているようだけれど、誰か選ばないのかなって?」
えっ! 予想外の質問だ。ちょっと待ってくれ。
「迫られたって、そんな覚えは無いぞ」
「秋くらいから先輩3人ともそれぞれ頑張っているように見えたけれどな。アキナ先輩とヨーコ先輩はお出迎えなんて言って帰りに必ずミタキ君と並んで研究室に来るしね。他にもアキナ先輩は隙あらば2人きりになるのを割と狙っているよね。ヨーコ先輩がこの合宿を企画したのも一緒にいる機会を少しでも増やしたかったからみたいだよ。フールイ先輩も時々思い切りよく迫っているみたいだしね。一昨日位にも失敗した、勇気が足りないってぼやいていたし」
えええっ!
しかしそう言われると思い当たる事も無いわけでは無い。カーミヤでアキナ先輩と会ったのは偶然だろうかとか。ヨーコ先輩がここで合宿を強引に決めて、かつ男女混合編成でも問題無いと言い切った事とか。フールイ先輩とも学園祭の時のテントの時とか、ひょっとしたらこの前の部屋間違え事件だって故意かもしれないとか。
でもそれを口に出すのは何だしな。
「全然気づかなかったな」
これが俺のシモンさんに対する回答となる。
ふうっと彼女はため息をついた。
「そんな事だろうと思っていたんだ。皆さん言い寄られるのを断るのには慣れているけれど、自分から言い寄るのは得意そうじゃないしね。
でも3人ともそれぞれ魅力的な先輩だと思うけれどな。ミタキ君は3人の中では誰が好きかな?」
おいおいおいおい。ちょっと待ってくれ。どう言い訳しようか。
考えても思い浮かばないので、結局正直なところを答える。
「多分俺自身もそういった状況に慣れていないんだ。このグループが出来るまでは女の子で良く話をするのはミド・リーくらいだったし。だから先輩達それぞれ確かに魅力的だとは思うけれどさ。それを自分が、って考えになれないんだ。
それにアキナ先輩もヨーコ先輩も身分が身分だろ」
「2人とも上に兄なり姉なりいるからそんなに問題はないよ。フールイ先輩に至ってはとやかくいう身内はいないしね。まあ誰を選んでも学校内で色々言われるとは思うけれど、ミタキ君は基本的にあまり気にしないだろ、そういう事」
おいおい。
「俺だって少しは外聞とか気にするぞ」
「でもシンハやミド・リーが言っていたよ。ミタキ君は自分が正しいと思ったら孤立しても引かないし、本気で怒ったら身体が弱いくせに相手が倒れて引くまで容赦しないって。シンハなんか未だに本気のミタキ君相手に喧嘩で勝てる気がしないって言っているし」
おいおい。大分昔の事だぞそれは。
「向こうみずだっただけだな。まだ初等学校前で日常魔法が使えない状態だったし」
「地区のいじめっ子相手、それも年上3人相手に大喧嘩の上倒して、以来それを知っている奴は絶対ミタキ君を怒らせないって。だから今でもヨーコ先輩達と仲良くしていても、その辺を知っているから表だってミタキ君に文句を言えないんだろうって」
その喧嘩は本当に昔の話だ。まだ俺が9歳かそこら、向こうが1つ上と同学年2人の3人。
貧乏貴族だの汚い治療院のガキで病気がうつるだの、口だけならまだしも陰湿ないじめ行為をやっていたからつい腹をたてて、実力行使してしまったのだ。
ただあくまで向こうが先につっかかる形にしたし、確実に勝てるように場所も作戦も吟味してやった。だから正確には単なる喧嘩じゃない。俺による俺の意思表示としての暴力だ。
ただ俺の弱くて力のない身体で勝つために石段なんて場所を使って、かつ審査魔法で相手の動きを読んだ上でやったけれど。
その結果は相手の骨折。同時に俺も肩の骨が外れたり腕の骨にヒビが入ったりした。
でも俺は元々病弱で身体の痛みに慣れているし治療魔法の性質をよく知っている。これくらいの痛みならミド・リーの処で完全に治せるという事も知っている。
だから慣れない骨折の痛みでピーピー泣いている悪ガキ共相手に、
『今度シンハやミド・リーをいじめたら殺すぞ』
と大見得を切った訳だ。
以来奴らは俺を恐れて近づかなくなった、それだけだ。その後俺は危険人物扱いされるようになってしまったが、まあそれは仕方ない。
「ずいぶん古い話だよな、それって」
「シンハとは昔からの知り合いだからね。リアルタイムでその話は聞いたよ」
おいおい。
幸い今日は仕込みに手間がかかるモツが無いので準備は前より楽。味付け肉を仕込み、骨から出汁を取るスープをことこと煮込み始めた後。
新たな制作物を考えてみる。
審査魔法で確認した結果、錫より炭素棒の方が魔力の抵抗は大きい。
でも炭素棒は金属と比べて加工しにくいので装置にするには適さない。錫でコイルでも作って抵抗にしようか。
でも電気の場合はコイルを通すと自己誘導作用で電流変化を妨げる。そういう効果が魔力では発生するのだろうか。
もし電気と同じならコンデンサを作ればコイルと併せて出力周波数を調節できるかもしれない。その辺は鹿魔獣の魔石を使えば色々調べやすそうだ。なにせ鹿魔獣の使う魔法は電撃だから。
電撃魔法の入った魔石から電気を取り出すにはどうしようか考える。
直接電気を出せればいいのだがそう出来ない可能性もある。魔法杖やそれに相当する物を経ないと魔力が電気に変換されない可能性だ。
その場合の装置はどういう設計にすべきだろうか。考えつつ何枚も概念図を描く。
「どう、何か面白い物思いついた?」
シモンさんの声で顔を上げる。
「色々実験してみないとならないかな。装置をいくつか考えるからよろしく頼むな」
「うんいいよ。ミタキ君の作る物は新しくて面白いから」
そんな会話をしてふと気づいた。
「あれ、皆は?」
気配が無い。
「買い物に行っていると思うよ。僕はボートと荷車の改造の為に残ったけれど。気づかなかった?」
「ずっと図面を描いていたからさ、気づかなかった」
「ミタキ君らしいよね」
俺は熱中していると回りの事が見えないし聞こえない。わかってはいるけれど治らないのだ。
「ところでミタキ君に質問があるんだけれど、いいかな?」
「ん、何かな」
「色々先輩方に迫られているようだけれど、誰か選ばないのかなって?」
えっ! 予想外の質問だ。ちょっと待ってくれ。
「迫られたって、そんな覚えは無いぞ」
「秋くらいから先輩3人ともそれぞれ頑張っているように見えたけれどな。アキナ先輩とヨーコ先輩はお出迎えなんて言って帰りに必ずミタキ君と並んで研究室に来るしね。他にもアキナ先輩は隙あらば2人きりになるのを割と狙っているよね。ヨーコ先輩がこの合宿を企画したのも一緒にいる機会を少しでも増やしたかったからみたいだよ。フールイ先輩も時々思い切りよく迫っているみたいだしね。一昨日位にも失敗した、勇気が足りないってぼやいていたし」
えええっ!
しかしそう言われると思い当たる事も無いわけでは無い。カーミヤでアキナ先輩と会ったのは偶然だろうかとか。ヨーコ先輩がここで合宿を強引に決めて、かつ男女混合編成でも問題無いと言い切った事とか。フールイ先輩とも学園祭の時のテントの時とか、ひょっとしたらこの前の部屋間違え事件だって故意かもしれないとか。
でもそれを口に出すのは何だしな。
「全然気づかなかったな」
これが俺のシモンさんに対する回答となる。
ふうっと彼女はため息をついた。
「そんな事だろうと思っていたんだ。皆さん言い寄られるのを断るのには慣れているけれど、自分から言い寄るのは得意そうじゃないしね。
でも3人ともそれぞれ魅力的な先輩だと思うけれどな。ミタキ君は3人の中では誰が好きかな?」
おいおいおいおい。ちょっと待ってくれ。どう言い訳しようか。
考えても思い浮かばないので、結局正直なところを答える。
「多分俺自身もそういった状況に慣れていないんだ。このグループが出来るまでは女の子で良く話をするのはミド・リーくらいだったし。だから先輩達それぞれ確かに魅力的だとは思うけれどさ。それを自分が、って考えになれないんだ。
それにアキナ先輩もヨーコ先輩も身分が身分だろ」
「2人とも上に兄なり姉なりいるからそんなに問題はないよ。フールイ先輩に至ってはとやかくいう身内はいないしね。まあ誰を選んでも学校内で色々言われるとは思うけれど、ミタキ君は基本的にあまり気にしないだろ、そういう事」
おいおい。
「俺だって少しは外聞とか気にするぞ」
「でもシンハやミド・リーが言っていたよ。ミタキ君は自分が正しいと思ったら孤立しても引かないし、本気で怒ったら身体が弱いくせに相手が倒れて引くまで容赦しないって。シンハなんか未だに本気のミタキ君相手に喧嘩で勝てる気がしないって言っているし」
おいおい。大分昔の事だぞそれは。
「向こうみずだっただけだな。まだ初等学校前で日常魔法が使えない状態だったし」
「地区のいじめっ子相手、それも年上3人相手に大喧嘩の上倒して、以来それを知っている奴は絶対ミタキ君を怒らせないって。だから今でもヨーコ先輩達と仲良くしていても、その辺を知っているから表だってミタキ君に文句を言えないんだろうって」
その喧嘩は本当に昔の話だ。まだ俺が9歳かそこら、向こうが1つ上と同学年2人の3人。
貧乏貴族だの汚い治療院のガキで病気がうつるだの、口だけならまだしも陰湿ないじめ行為をやっていたからつい腹をたてて、実力行使してしまったのだ。
ただあくまで向こうが先につっかかる形にしたし、確実に勝てるように場所も作戦も吟味してやった。だから正確には単なる喧嘩じゃない。俺による俺の意思表示としての暴力だ。
ただ俺の弱くて力のない身体で勝つために石段なんて場所を使って、かつ審査魔法で相手の動きを読んだ上でやったけれど。
その結果は相手の骨折。同時に俺も肩の骨が外れたり腕の骨にヒビが入ったりした。
でも俺は元々病弱で身体の痛みに慣れているし治療魔法の性質をよく知っている。これくらいの痛みならミド・リーの処で完全に治せるという事も知っている。
だから慣れない骨折の痛みでピーピー泣いている悪ガキ共相手に、
『今度シンハやミド・リーをいじめたら殺すぞ』
と大見得を切った訳だ。
以来奴らは俺を恐れて近づかなくなった、それだけだ。その後俺は危険人物扱いされるようになってしまったが、まあそれは仕方ない。
「ずいぶん古い話だよな、それって」
「シンハとは昔からの知り合いだからね。リアルタイムでその話は聞いたよ」
おいおい。
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