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第9章 狩って吊して皮剥いで ~冬休み合宿編・上~

第74話 まずは料理の試作から

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 今まで無かった新しい材料をかなり入手した。魔石や魔法銅オリハルコン等の工作材料。唐辛子、ニンニク等ウージナにはなかった目新しい食材。
 どっちを優先しようか少しだけ考えた結果、今日は食材を優先する事にする。

 まずは調味料としてラー油とタバスコを作っておく。ラー油は油を熱して、唐辛子たくさんとニンニクちょっとをみじん切りにして入れてやり、塩で味を調整すればいい。
 油は本当はゴマ油が欲しいところだが、無いのでオリーブ油で代用だ。香りが少々異なってしまうが辛み油として使うにはいいだろう。

 タバスコは唐辛子を潰して潰して潰しまくって、塩と酢を入れれば完成。本当は熟成期間が必要だけれど仕方ない。

「ヨーコ先輩すみません。ちょっと換気お願いします」

 ニンニクの匂いと唐辛子の目に悪い空気が充満し始めたので換気をお願いする。

「わかった。確かにこれは強烈だな」

 ニンニクの匂いはともかく唐辛子の目に痛い空気は厄介だ。ヨーコ先輩のおかげで無事に正しい空気に戻ったけれど。
 さて、あの麺がどんな性質か確かめよう。数本を茹でて味とか腰を確認。
 うん、間違いなくパスタ、それもやや細めのスパゲティだな。なら試食用にペペロンチーノを作るぞ!

 ペペロンチーノはかつての俺にとって憧れの料理のひとつだった。病院ではニンニク臭のある料理は出なかったから。
 ニンニクと唐辛子をじっくりオリーブオイルで炒めつつ、試食用のスパゲティを茹でる。炒めて炒めて炒めてちょいゆで汁を加え、混ぜて混ぜて混ぜた後、湯切りしたスパゲティを加えて混ぜる。最後に皿に盛りチーズを乾燥粉砕したものをかければ完成だ。
 イタリアンパセリが無いのは勘弁して貰おう。気づく人は俺以外いないけれど。

 ニンニクの臭いで既に皆様キッチン方面に召喚されている。

「ほい、この麺の試食用。ちょっと辛いし臭うから苦手な人がいたらご免な」

「これまた刺激的な臭いだな。これも昔のミタキが知っていた料理か?」

「ええ。でも食べ慣れないタイプの癖があるので、駄目な人はいるかもしれません」

 ささっとナカさんが人数分の皿に少量ずつ盛り付けてくれる。ついでにさっき作った粉チーズの皿とタバスコの皿、それにラー油の皿もおいて小スプーンをそえた。

「では、いただきます」

 一口食べた途端、皆さん色々反応する。

「何だこりゃ」

「臭くて辛い」

「この感覚は初めてですわ」

「知らない味」

 ウージナには香辛料らしい香辛料が無かった。レモン塩を代用にしていた感じだ。だから慣れない味だろうと思う。その上でニンニクと唐辛子の“辛い”という感覚をどう感じるか。

「知らない味だ。でも癖になるかもしれない」

 ヨーコ先輩は気に入った模様。第二弾を思い切り盛っている。

「そのチーズをかければ若干マイルドに、真ん中の赤いのを書ければ辛酸っぱくなります。ただ試すなら少しずつやった方がいいですけれど」

 言っているそばからシンハ君がタバスコをガンガンにかけた。案の定タバスコを馬鹿かけした部分を食べた瞬間妙な呼吸を始め、そして水をがぶ飲み。間違いなく熟成されていないタバスコを盛ったのが敗因だ。
 なお作った俺としてはほんの少しタバスコかけた位がちょうどいい状態。うん、なかなかいける。

「不思議な味。臭くてきついのに後を引く」

「本当です」

 皆さんの食べっぷりを見るに多少辛い程度なら大丈夫な模様。女子は辛いの苦手だと前世で聞いたような気がするけれどな。
 試食用程度に茹でたスパゲティはあっという間に全滅した。

「おかわりは無いのか」

「あくまで試食ですから」

 不満そうなヨーコ先輩にそう言っておく。

「それにしても前にこの村に来た時にはこんな料理は無かったぞ」

「最小限の材料で作れる、どちらかというと貧乏人の家庭料理ですからね」

 何せ材料はスパゲティの他にはニンニクと唐辛子、チーズくらい。領主様に出すような料理では無いのだ。

「夕食もこれが出るのか?」

 ヨーコ先輩の質問に俺は首を横に振る。

「まだ試していないものがありますから、そちらをメインにする予定です」

 俺の視線にはあの丸くて薄めのパン。そう、夕食はピザだ!

 ◇◇◇

 ピザもまた病院では出てこない料理だった。つまりはまあ、前世の俺の憧れと未練。
 今回は正確に言うと買ってきた大きな円形パンにピザ風トッピングをして焼いたもの。
 トマトとチーズ、それにソーセージ代わりに塩漬け肉をのせた定番風ピザ。とにかくチーズを載せまくったチーズピザ。マヨネーズ味ベースでチーズと鶏肉とトマトを載せたピザ。そんな感じで思いつくままに適当に作った具材を載せて焼きまくった。

 結果、夕食は直径36cmの大型ピザを5枚。8人ならこれだけ作れば充分だろう。そう思ったのだが俺の計算は甘かった。

「旨いよなこれ。食べやすいし」

「なかなかパンチの効いた味ですわ」

「これってミタキのオリジナル?」

 いや前世の記憶です、なんて事は勿論言えない。

「このパンが売っているという事は、多分同じような料理があると思うぞ」

「チーズが熱い。でもそこがいい」

 足りなくなりそうだったので、追加でスパゲティを茹でた位だ。ちなみに今回はカルボナーラ風。
 しかし皆さん自分の食べた分のカロリーをわかっているのだろうか。チーズだのマヨだのガンガン使ったからとんでもなくハイカロリーなのだけれど。

「合宿行くとこれが楽しいよね。目新しい物を思い切り食べられる!」

「目新しいと言いつつもほぼミタキ君に作らせているけれどな」

「以前ミタキ君のいた世界って料理が豊富だったんですね」

「という事はだ、ミタキ君」

 あ、ヨーコ先輩が何か良からぬ事を考えているようだ。

「ひょっとして今日売った鹿魔獣肉のモツも、色々な料理方法を知っているのかい」

 ぎくっ。実は無い訳では無いのだ。

「前世の世界には魔獣はいませんし鹿肉のような自然の肉は貴重だから食べた事はありませんでした。でも豚や牛等のモツとか内臓肉の焼き肉とかユッケなら……」

「明日捕まえたら夕食用に確保ですわね」

 アキナ先輩が即断。俺以外の全員が頷く。君達どれだけ喰意地がはっているんだ!
 でも俺も食べてみたいかもしれない。なら焼き肉のタレとかも作っておこう。一晩じゃ熟成が足りないけれど即席よりはいいだろう。

 あと焼き網とかバーベキューセットを作って貰おうか。安い銅地金を買ってシモンさんに作って貰えばいい。
 そうなると米が欲しい。今日見た限りでは市場には無かったが、駄目なら押麦でもいいだろう。

 そんな事を考えながら夕食は追加分まで含めて無事完食される。さて、焼き肉のタレでも少し仕込んでおくか。
 
 ◇◇◇

「そういえば魔石で何を作るつもりなのかな?」

 夕食を皆で片づけた後。キッチンで焼き肉のタレの他、ピザ用トマトソースとかスパゲティやサラダ用のジェノベーゼソースとかをノリと勢いで作っていたら、シモンさんにそう尋ねられた。


「魔石をエネルギー源にして魔法を使える魔法杖とか便利道具とかを作れないかなと思ってさ。例えば猿魔獣ヒバゴンの魔石を使った送風機とか」

「でも魔石を魔法のエネルギー源にしようとした研究は大体失敗しているよ。唯一の成功例が魔法銅オリハルコン魔法銀ミスリルの製造。他は爆発させたり反応が無かったり。だから魔法金属を作る以外では宝石の代わりくらいにしかならない、それが今の常識だよ」

 シモンさんの言っていることは事実だ。俺も色々調べたので知っている。そのうえで出来るだろうと思ったのだ。もちろん根拠もある。

「爆発したってのは多分、エネルギーの引き出しには成功したって事なんだと思うんだ。ただ引き出した魔法エネルギーを放出させるのに失敗しただけでさ。
 実はある程度目処はついている。このソースを作り終わったら試してみよう。大した工作じゃない。今日購入した銅と魔法銅オリハルコンを使って、ヨーコ先輩用の大型魔法杖を使えば実験できる」

 すりつぶして混ぜたバジルやニンニク、松の実にオリーブオイルをひたひたに注ぎながら俺はそう計画を話す。

「それってあの杖に魔石をつけるっていう事かな」

「そう。これでこのソースは完成だから、片づけたら概念図を描くよ。ただ繋ぐだけだと危険な可能性もあるからさ。安全装置部分を作らないと」

 止められないまま動きっぱなしになると困るし危険だ。

「ううー、そんな事を言われると早く作りたくなるじゃないか。片づけは僕が全部やるから早く概念図を描いて欲しいな。そうすれば概念図が出来次第作れるから」
「わかった」

 シモンさんは新しい物を作る話にはすぐ飛びつく。それで俺も助かっているのだけれど。

 そんな訳で俺は手を洗うとその場をシモンさんに任せてテーブルへ。適当な紙を取り出してペンで概念図を描き始める。
 魔法に対して銅と反応が違いそうな金属というと鉛か錫あたりかな。手持ちで弾丸用の鉛があるし青銅があるなら錫もあるだろう。
 とりあえずは手元にある鉛で作ってみることにする。
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