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第9章 狩って吊して皮剥いで ~冬休み合宿編・上~

第72話 魔物討伐第1回

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 猿魔獣ヒバゴンは毛皮と報奨金を合わせて正銀貨1枚1万円だった。魔石があればあと小銀貨5枚5,000円程高く買い取ってくれたらしい。

「悪いな。何か俺のせいで安くなって」

 俺としてはちょっと申し訳ないのだが、そこは皆さんあまり気にしていない様子。

「元々魔石を手に入れるための合宿だしさ、問題無いだろ」

「そうですわ。学生としては既に充分なお小遣いが入ってきていますし」

「これ以上収入が増えると大変です。既に皆さん1人あたりの収入は免税額を超えていますから。これが終わった後総収入を計算し直して、本年の全員分の収入報告書を作って申請出さないと……」

「……何かすまん」

「まあ計算魔法を使えるからいいんですけれど。収入が多い方がありがたいのも確かですから」

 ナカさんはどうやら俺達と違う戦いをしている模様。この辺も色々申し訳ない。

「さて、次は本格的な魔獣退治だな」

 そんな訳で堰堤下にアキナ先輩の魔法で乾燥した場所を作り、そこで戦闘準備。
 まずは巨大な魔法アンテナが4本並んだ。アキナ先輩、ヨーコ先輩、フールイ先輩、ミド・リーの分だ。

 勿論武器類も全部準備する。俺とフールイ先輩の猟銃も三脚でがっちり固定。シンハ君の投げ槍もいつでも取り出せるように専用ケースに入っている。シモンさんもクロスボウに矢を3本セットした。

「それでは追い立て作戦を始めるぞ。ミド・リーさん、魔獣が何処にどれくらいいるかわかるか?」

「反応は多いよ。例えば川の右側の山、稜線からこっち側、奥側が最初の谷までの間。川から30腕60m上に4匹、これは多分鹿魔獣チデジカ。あともう少し上の奥側に猿魔獣ヒバゴンも2匹。その谷の先にもまだまだいるよ」

 ミド・リーがアンテナを操作しながら答える。

「川沿いをできるだけ奥まで見てくれ。熊魔獣アナログマとか猪魔獣オツコトのような危ないのでこっちへ下りてきそうなのはいるか?」

「今川沿いを見てる。うーんと、川から20腕40m以内には今はいない。ここから1離2km奥の川沿いに猪魔獣オツコト3匹がいるけれど、これは水を飲んだら上に戻りそう」

 ミド・リーは治療魔法というか生物魔法の殆ど全てを使用可能。アンテナを使えば数離離れた生物の生体反応や魔力反応を確認できるそうだ。
 何気にあいつミド・リーは凄いんだよな。初等学校の時は魔法の天才扱いされていたし。治療法が無かった俺の心臓も治したしさ。

「なら近場にいる鹿魔獣チデジカ猿魔獣ヒバゴンを狙おう。場所を正確に教えてくれ」

「私の魔法では距離は正確に出ないから大体の見当になるわよ。
 ここから川を200腕400m位行った先右側30腕60m鹿魔獣チデジカが4匹。更にその右側40腕80m奥へ20腕40m猿魔獣ヒバゴン2匹」

「よし」

 ヨーコ先輩は頷いてその方向に魔法アンテナを構える。

「フールイ、猿魔獣ヒバゴンよりさらに奥の右方から軽い爆発で追い立ててくれ。私は手前やや右から風爆発魔法エアバーストで追い立てる。カウントダウンは私がかけるから同時に頼む。一度撃った後は各自判断で」

「承知」

「では行くぞ、5、4、3、2、1、ゼロ!」

 パンパーン、破裂音が山の方から2発分響いた。

「動いた。どっちも川に向かって下りている。鹿が速い、反対側の山に逃げるかも」

「誘導するまで」

 更にパーン、パーンと破裂音。

「方向を変えた。鹿魔獣チデジカは川沿いをこっちに向かっている。猿魔獣ヒバゴンはまだ下りている途中」

 山からは破裂音が何度も何度も響く。2人の魔法でそれぞれ魔獣を追い立てているのだろう。2種類の魔獣の場所は逐一ミド・リーが教えてくれている。
 まもなく鹿魔獣チデジカが見える場所にくる筈だ。俺達はそれぞれの武器を構える。

 右側陰から茶色い塊がふっと飛び出た。
 速い! 異様に速くそして高く飛び跳ねて照準が定まらない!
 そう思った瞬間だった。鹿魔獣4匹が突然ぐたっと倒れた。そしてそのまま動かなくなる。

「誰だ、仕留めたの」

「強制睡眠魔法の範囲指定よ。鹿魔獣チデジカ程度なら大丈夫。でもあれより大きいのは無理よ。アキナ先輩、とどめをお願いします」

「わかりましたわ」

「あとは猿魔獣ヒバゴンがまもなく川筋」

「了解。更に追う」

 ◇◇◇

 熱気球用の折りたたみ型荷車では魔獣6体を運ぶに3往復必要だった。それ以上だとエアタイヤの強度が危険な感じだったからだ。
 ただスレッドに比べるとやはりエアタイヤの荷車は引いていて楽だ。多少の段差でもつっかえる事無く動いてくれる。引くのは主にシンハ君だけれども。

 昨日と同じく船着場の石畳で血を抜いたり内臓を抜いたりする作業を実施。今日は獲物が多いのでフールイ先輩だけで無く、ヨーコ先輩、シモンさん、それに見習い格でシンハ君が処理を実施。
 なお鹿魔獣チデジカは肉も内臓も売り物になるのでフールイ先輩とシモンさんが担当。猿魔獣ヒバゴンは毛皮だけなのでヨーコ先輩とシンハ君が担当だ。

「わかってみれば牙ウサギと処理は一緒なんだな」

「その通り」

 シンハ君も大分慣れてきた模様。

 最後に鹿魔獣チデジカの内臓を売り物用として水洗いして箱詰め。ナカさんの清拭魔法で汚れた服を綺麗にして貰った後、砦の受付に持っていく。
 結果4匹分で小銀貨4枚になった。

「内臓だけでこの値段なのは結構いいよな」

「鹿魔獣のモツはこの地方では珍味なんだ。新鮮なら殺菌殺虫魔法を使った後、生のまま油と塩で食べたり鍋にしたり。ただ独特の食感と匂いがあるけれどな。私はあまり好きじゃない」

 なるほど。レバ刺しとかそんな感じなのかな。

「さて、風呂に入って昼食を食べたら町へ行くぞ」

 そんな訳で一度部屋に戻る。
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