上 下
64 / 266
第8章 食欲と挑戦の秋(2)

第59話 学園祭初日の朝

しおりを挟む
 この辺は大体、10月中旬は毎年天候がいい。元々雨は少ないのだが、この季節は快晴で風も少ない日が続く。
 学園祭初日の今日も絶好調に晴れ上がった。空気も涼しいし色々な意味で熱気球びよりという訳だ。

 なお熱気球のコントロールは改良した。具体的にはアキナ先輩が気球に同乗しなくも良くなっている。
 『空中閲覧体験・午前10時~午後1時・晴天で無風時に限る』と書かれた大型掲示板と気球のアンカー、これが改良部分だ。

 大型掲示板はアンカーを兼ねて地中に埋まっているが、実はこれが魔力アンテナになっている。もちろん熱魔法用のアンテナだ。
 つまりここにアキナ先輩がいて、看板から伸びている線を手に持っていれば、アンテナ経由で熱気球内の気温をコントロール出来る。


 これでアキナ先輩も同乗しなくて済むし魔力も節約出来る訳だ。設置するためグラウンドを3メートル掘ったシンハ君、お疲れ様だ。

 グラウンド中央に設置した屋根付きのブース。巨大タープ2つと超大型ドームテントを並べたものだが、実はこれも展示品。
 例えば屋根として設置したタープはドーム型テントと同様にポールのテンションで自立するタイプ。テーブルは折りたたみ出来る軽量タイプ。椅子も折りたたみ式でまったり座れるタイプだ。

 気球の収納用を兼ねた大型ドームテントまである。更に悪乗りして昼寝用キャンプコットなんてのも作った。アウトドアなんてのも前世で憧れだった俺が思いついてシモンさんに作ってもらった品々だ。

 大型タープ2つのうちひとつは気球の受付等の事務用。もう一つは制作品色々の展示用だ。
 テーブル、椅子、コット等の他に熱気球開発時にあの布地で作ったドレスも展示している。更に精油とかお香のようなアロマテラピーグッズまで。
 流石に蒸気機関関係とか魔法アンテナ、石鹸関連は展示しなかったけれど。

「肝心なものを出していない割には色々モノがあるなあ」

 ヨーコ先輩が全体を眺めてそんな感想を漏らす。

「シモンさんに頼めば何でもすぐ作ってくれますしね」

「ミタキの考えるものは面白いからね。作って試すのが楽しいんだ」

「この椅子もなかなか座り心地がいいですわ」

 アキナ先輩はリラックスチェアにオットマンまで使って完全にくつろいでいる。

「それにしてもお客さん誰もこないね」

「学園祭は開場したけれどな」

「まあ展示場所が他と離れているしね」

 他は大体教室棟など建物内で展示をしている。一方でこっちは第一グラウンドの中央。
 普通に考えたら人はなかなか来ないだろう。

「気球を出したらきっと集まると思いますわ」

「同意。それまで休憩」

「でもお客さんがいないのも……あれ」

 何か女子数人が校舎棟からこっちに来るぞ。

 顔が見えるようになる。何人かは俺の知っている顔だった。同じクラスで、俺と極めて仲が宜しくない皆様だ。
 何故仲が宜しくないかというとまあ、ある人物の存在がある訳で……

「ヨーコ様、こちらにいらっしゃったんですか」

「こんな処で何をしていらっしゃるのですか?」

 そう、こいつらはヨーコ先輩のファンクラブの皆様だ。ちなみにこっちのファンクラブは全員女子。
 なお男子だけの秘密のファンクラブもあるが詳細は不明。かつてシンハ君も所属していたらしいが除名されたらしい。

「最近の放課後はこっちで物を作っている方が多くてね。何なら見てみるかい」

「是非お願いします」

 わいわいきゃあきゃあ。そんな女子の一群を引き連れてヨーコ先輩は隣のタープへ。

「大変だな、ヨーコ先輩も」

「なんだかんだ言って人がいいですからね」

 ナカさんがそう言ってため息をつく。

「私がマネージャーとしてそばにいるのでさえ、色々チクチク文句を言われましたから。ミタキ君が無事なのが不思議なくらいです」

 おいおい。
 しかしだ。

「ミタキを昔から知っている奴は手を出さないだろ」

「そうよね、危なくて」

 シンハ君とミド・リーがそんな台詞を吐く。

「何故ですか? 身体が弱くて死にそうだからとか」

 ナカさんの台詞に2人は苦笑。

「まあそれもきっとあるけれどさ、それだけじゃない」

「怒ると怖いのよね。相手を散々挑発した後実力行使に出るから」

「必ず先に相手に手を出させるんだよな」

「そうそう、自分は被害者で正当防衛だって」

「酷い事言うなあ」

 俺の台詞に対し2人の台詞がハモる。

「事実でしょ」

「事実だろ」

 大分昔の事なので正直もうあまり話題にしてもらいたくない。あの頃俺はまだ幼かった。それだけだ。

「失礼ですが、ミタキ君はそんなに強そうにはみえないのですが」

「文句なく弱いわよ。でも受けて立った時は最強最悪」

「捨身技しか使わないけれどな」

「ぎりぎりで相手の方が被害が大きいかな程度の結果が多いよね」

「階段の上から捨て身技って、普通の人間はそんな危ないヤバい技出さないよな」

「病気で痛いのや苦しいのに慣れているから気にしない、って凶悪すぎだよね」

 おいおい2人で昔の傷をえぐりまくるのはやめてくれ。

「まあそれはおいておいて、そろそろ気球の準備をしようか」

「そうね。出して広げて組み立てて、空気を入れればいいくらいに」

 よし話題が変わったぞ。そんな訳で俺達は気球をしまってあるドームテントの方へ向かう。
 
しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...