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第8章 食欲と挑戦の秋(2)
第57話 緊張の時間
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ヨーコ先輩の風魔法で空気を抜いて熱気球を折りたたむ。シンハ君が身体強化を使って杭を引き抜き、全部を荷車に乗せれば撤収準備完了だ。
「それでは参りましょう」
「そうだね、色々楽しみだ」
謎な彼がそう頷く。
本当は気球をたたむ前に先に案内しようとアキナ先輩が言ったのだ。しかし彼は全員一緒に行くことを希望した。なお気球に乗った時に一緒にいた2人も一緒である。
この2人は護衛とかお付きの人とかそんな感じなのかな。俺にはわからないけれど。
「ホン・ド殿下はどのような御用でこちらにいらしたのでしょうか」
ヨーコ先輩がいつもとまるで違う口調だ。そして謎の若い男はホン・ドという名前なのか。しかも殿下と呼ばれていたな。
この国で殿下と呼ばれるのは確か辺境伯以上。日本だと殿下は天皇、皇后、太皇太后及び皇太后以外の皇族と三公以上の公卿への敬称だけれども。
「今回は研究院での発表の傍ら色々ここの学校を見せてもらっていたんだ。そうしたら見慣れないものが空を飛んでいるので見に来てみた訳さ。
あとヨーコさんもいつもの言葉遣いでいいよ。一応親戚なんだしさ」
ヨーコ先輩の親戚か。でも雰囲気的にヨーコ先輩より格上っぽいよな。とすると現役の侯爵か、それとも公爵家あたりか……
「それにしてもこの荷車、車輪が普通と違うね。どういう構造なのかな」
ホン・ド殿下は何気に目聡い模様。この回答は俺よりシモンさんの担当だな。お互いの視線でその辺をやりとりする。
「中には空気が入っています。外側は丈夫な布を重ね合わせ、内部にプラムの木から取れる樹脂を均等に塗ったものです。中の空気のおかげで振動が少なく、段差にも強くなっています」
「ならこれを馬車に使えば大分楽になるかな」
「その辺を目指しているのですけれど、まだまだ改良が必要な状態です」
シモンさんまで雰囲気を察してかいつもと違う言葉遣いになっている。
そしてついに俺達の研究棟へ。蒸気機関とか発電タービン、シモンさんの魔法用アンテナ、更に蒸気ボートまである秘密の宝庫だ。
でもアキナ先輩もヨーコ先輩も入るのを止めないどころかむしろ案内しているような状況。だから見せても大丈夫なのだろうけれど、俺としては疑問だらけだ。
「これはまた、よりどりみどりだね。とりあえず説明して貰えるかな」
「それでは説明させていただきます」
アキナ先輩が説明役を担当してくれるらしい。どこまで話していいのかわからないだけに大変ありがたい。
「まず右側奥の機械はボイラーです。王宮等で暖房に使っているのと原理は同様ですが、より高い圧力を……」
『思い出したわ』
ミド・リーの伝達魔法が入る。
『何をだ?』
俺はミド・リー一人だけを対象に伝達魔法で尋ねる。これくらいの伝達魔法は日常魔法の範囲内だ。
『ホン・ド・ウーリ殿下よ。王位継承権第2位でヒロデン女王の第一王子』
えっ! 何だって!
『何で第一王子が継承権2位なんだ?』
『上に長女のミヤジ・マー殿下がいるの』
そういえばうちの王位は男女関係なく長子優先相続だった。そもそも今の王も女王だし。
『そんな偉いのに対する扱いなんてわかんないぞ』
『私だってわからないわよ。アキナ先輩やヨーコ先輩に任せておくしかないよね基本的に。シンハは相変わらず動きが固まっているし』
つまりシンハ君も気づいていたという事か。まあシンハ君はあれでも子爵家の一員だしな。顔を見た事があるんだろう。
「そちらは蒸気から電気を作るための装置です。電気は主に試薬を作るのに使っています。そしてその手前がタービン。これは動力が必要な時に蒸気の圧力を利用して回転する力を出す為の物です。
そして右側一番手前が大型強力魔法杖です。これは工作魔法用に最適化されており、何かを作るときに使用しています」
アキナ先輩の説明は続いている。
アキナ先輩とヨーコ先輩がいて本当に良かった。王子と知っていたら俺も流石に緊張してうまく話せないだろうから。
気球に乗っている際に気づかなくて幸いだったと思う。いや気球の時の会話はちょっとまずかっただろうか。
そんな事を考えている間に説明が終わったらしい。
「それではお茶でもいかがでしょうか。最近ウージナでは少し変わったお茶が流行っておりますので、是非ご賞味いただけたらと思います」
「それは楽しみだな」
俺は、そして恐らくミド・リーとかシンハ君とかは楽しみと言うより緊張しっぱなしだ。
きっとフールイ先輩やシモンさん、ナカさんもそうだろう。ミド・リーがホン・ド殿下の正体を伝えただろうから。
そんな訳でキッチン横の会議室でお茶。幸い皆さん大食いなのでデザートは充分な量を買ってある。ちなみに今日はロールケーキだ。
なおデザートはいつもは基本的に俺の担当。でも本日はやんごとなきお客様がいるし女子の方がいいかな。そう思ったらナカさんがキッチンの方に来た。
「私がサーブしますから、お茶を入れるのとケーキをカットして並べるのはお願いします」
助かった、色々と。
「それでは参りましょう」
「そうだね、色々楽しみだ」
謎な彼がそう頷く。
本当は気球をたたむ前に先に案内しようとアキナ先輩が言ったのだ。しかし彼は全員一緒に行くことを希望した。なお気球に乗った時に一緒にいた2人も一緒である。
この2人は護衛とかお付きの人とかそんな感じなのかな。俺にはわからないけれど。
「ホン・ド殿下はどのような御用でこちらにいらしたのでしょうか」
ヨーコ先輩がいつもとまるで違う口調だ。そして謎の若い男はホン・ドという名前なのか。しかも殿下と呼ばれていたな。
この国で殿下と呼ばれるのは確か辺境伯以上。日本だと殿下は天皇、皇后、太皇太后及び皇太后以外の皇族と三公以上の公卿への敬称だけれども。
「今回は研究院での発表の傍ら色々ここの学校を見せてもらっていたんだ。そうしたら見慣れないものが空を飛んでいるので見に来てみた訳さ。
あとヨーコさんもいつもの言葉遣いでいいよ。一応親戚なんだしさ」
ヨーコ先輩の親戚か。でも雰囲気的にヨーコ先輩より格上っぽいよな。とすると現役の侯爵か、それとも公爵家あたりか……
「それにしてもこの荷車、車輪が普通と違うね。どういう構造なのかな」
ホン・ド殿下は何気に目聡い模様。この回答は俺よりシモンさんの担当だな。お互いの視線でその辺をやりとりする。
「中には空気が入っています。外側は丈夫な布を重ね合わせ、内部にプラムの木から取れる樹脂を均等に塗ったものです。中の空気のおかげで振動が少なく、段差にも強くなっています」
「ならこれを馬車に使えば大分楽になるかな」
「その辺を目指しているのですけれど、まだまだ改良が必要な状態です」
シモンさんまで雰囲気を察してかいつもと違う言葉遣いになっている。
そしてついに俺達の研究棟へ。蒸気機関とか発電タービン、シモンさんの魔法用アンテナ、更に蒸気ボートまである秘密の宝庫だ。
でもアキナ先輩もヨーコ先輩も入るのを止めないどころかむしろ案内しているような状況。だから見せても大丈夫なのだろうけれど、俺としては疑問だらけだ。
「これはまた、よりどりみどりだね。とりあえず説明して貰えるかな」
「それでは説明させていただきます」
アキナ先輩が説明役を担当してくれるらしい。どこまで話していいのかわからないだけに大変ありがたい。
「まず右側奥の機械はボイラーです。王宮等で暖房に使っているのと原理は同様ですが、より高い圧力を……」
『思い出したわ』
ミド・リーの伝達魔法が入る。
『何をだ?』
俺はミド・リー一人だけを対象に伝達魔法で尋ねる。これくらいの伝達魔法は日常魔法の範囲内だ。
『ホン・ド・ウーリ殿下よ。王位継承権第2位でヒロデン女王の第一王子』
えっ! 何だって!
『何で第一王子が継承権2位なんだ?』
『上に長女のミヤジ・マー殿下がいるの』
そういえばうちの王位は男女関係なく長子優先相続だった。そもそも今の王も女王だし。
『そんな偉いのに対する扱いなんてわかんないぞ』
『私だってわからないわよ。アキナ先輩やヨーコ先輩に任せておくしかないよね基本的に。シンハは相変わらず動きが固まっているし』
つまりシンハ君も気づいていたという事か。まあシンハ君はあれでも子爵家の一員だしな。顔を見た事があるんだろう。
「そちらは蒸気から電気を作るための装置です。電気は主に試薬を作るのに使っています。そしてその手前がタービン。これは動力が必要な時に蒸気の圧力を利用して回転する力を出す為の物です。
そして右側一番手前が大型強力魔法杖です。これは工作魔法用に最適化されており、何かを作るときに使用しています」
アキナ先輩の説明は続いている。
アキナ先輩とヨーコ先輩がいて本当に良かった。王子と知っていたら俺も流石に緊張してうまく話せないだろうから。
気球に乗っている際に気づかなくて幸いだったと思う。いや気球の時の会話はちょっとまずかっただろうか。
そんな事を考えている間に説明が終わったらしい。
「それではお茶でもいかがでしょうか。最近ウージナでは少し変わったお茶が流行っておりますので、是非ご賞味いただけたらと思います」
「それは楽しみだな」
俺は、そして恐らくミド・リーとかシンハ君とかは楽しみと言うより緊張しっぱなしだ。
きっとフールイ先輩やシモンさん、ナカさんもそうだろう。ミド・リーがホン・ド殿下の正体を伝えただろうから。
そんな訳でキッチン横の会議室でお茶。幸い皆さん大食いなのでデザートは充分な量を買ってある。ちなみに今日はロールケーキだ。
なおデザートはいつもは基本的に俺の担当。でも本日はやんごとなきお客様がいるし女子の方がいいかな。そう思ったらナカさんがキッチンの方に来た。
「私がサーブしますから、お茶を入れるのとケーキをカットして並べるのはお願いします」
助かった、色々と。
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