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第7章 食欲と挑戦の秋(1)
第54話 楽しい世界
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何と言うか俺の予想以上に圧倒的だった。姉貴の奴、無茶苦茶気合いを入れて色々作りまくっていた。
数も多いが種類も多い。ホールケーキだけで何種類作っていたんだあの姉貴は!
しかも皆さん限度を知らない買い方をしていた。研究会の皆さんに限らずだ。
かつて日本で見たのよりちょっと小さめのホールケーキがだいたい小銀貨2枚。
ロールケーキやパウンドケーキが小銀貨1枚。
カットケーキが正銅貨4枚
クッキー2枚やボックスクリーム1個が正銅貨1枚。
決して安くない値段なのだが恐ろしい勢いで売れていく。まあ俺達も売り上げに貢献してしまったのだけれど。
結果、研究室で飽食の宴を開いた後、皆さん食べ過ぎで仮眠室行き。1人あたりホールケーキ1個分以上食べているから当然だろう。
まあ今日も風が少し強め。だから気球の試運転は出来ないけれど。
「お腹の調子が戻ったら、もう一度買いに行ってみましょうか」
「あの調子だと売れ切れていると思うけれどな」
「でも行ってみる価値はあると思います」
仮眠室からそんな会話が聞こえてくる。あれだけ甘い物を食べてもまだ食べる気らしい。まったく懲りないなこいつらは。
シンハ君も仮眠室行きになったので、俺は1人のんびり紅茶を味わっている。
最初に届いた紅茶のうち半分は姉貴に渡したし、2回目からは姉貴が全量取引することになった。
だからここにあるのは1回目の残りと、本日の買い物客に配っていたサービス用紅茶の2種類。
サービス用紅茶の方が微妙に香りがいいような気がする。
気のせいでなければこれは2回目以降のもの。
様々な改良により品質が向上したものなのだろう。
これで紅茶が広がれば悪くは無いかな。俺自身は緑茶より紅茶の方が好きだから。
病院だと緑茶は食事毎に出るけれど紅茶はまず出なかった。仕方ないから売店でティーバッグ買って自分で煎れたりしていた。
でもそうやって煎れた紅茶は病室にいつもと違う香りを俺に運んでくれた訳だ。俺が見ることが出来なかった遠い世界の香りを。
でも俺が今見て体験しているのもその遠い世界に当たるのかもしれない。あの頃の俺が楽しんでいるのが俺にも感じられるのだ。しかもあの時得た知識が別世界に来て色々役立っている。
あの時は色々な物の作り方を調べるのが趣味だった。手元の物がどんな世界からどんな風に生まれてきたかを知りたかったから。
高認の試験勉強もしたし自信もあったけれど結局受けないまま終わったな。今、主に理系の授業で役立ちまくっているけれど。
拝啓、前世での知り合いの皆さん。俺はこっちの世界で元気にしてますよ。残念ながら伝える事は出来ないけれど。
◇◇◇
熱気球の点検をしたり資材として購入した博物図鑑を読んでみたり。久しぶりにのんびりと次に作る物を考えてみたりする。
熱気球の後はまた魔法関連かな。アンテナの時は魔法を電波と同じように考えてうまくいったけれど。
今度はどんな発想で作るべきかな。光にフィルターをかけると色が変わるように、使える魔法を変更できるフィルターは可能だろうか。可能なら杖と組み合わせて面白い事が出来そうだ。
フィルターになりそうなのはやはり宝石とか鉱石とかかな。色々な杖を作って試してみるか。
他に魔獣が持つ魔石というものも気になる。扱いを間違うと爆発するなんて話も聞くけれど、込められた魔力を使う事が出来れば魔力の電池として使える訳だ。問題はこの辺から魔獣が一掃されていて、魔石が手に入りにくいことかな。
あと食べ物で欲しいのはカカオの実だ。チョコレートが出来ればこれまた楽しそうだ。あとはゴムも欲しい。
ただシモンさんがプラムの木から取って気球に使っていた樹脂。あれをひょっとしたら代用で使えるかもしれない。これは機会があったら試してみよう。
そんな事を色々考えてノートに書いていると、仮眠室の方からごそごそ気配がしはじめた。
どうやら皆さん休憩終了のようだ。のそーっという感じで皆さん出てくる。寝起きという感じで学校とかでは見せられない顔だなこれは。
まあそれ以上に魅力的な表情も色々知っているから俺は問題ないけれど。あ、今余分な事を考えたような気がするので取り消し。
数分後、顔を洗ったり髪を整えたりして支度を調えたヨーコ先輩が宣言する。
「それでは買い出し第二弾、『残っている物があれば買い占めるぞ作戦』行くぞ!」
おい何だよその作戦は。
「充分買って食べましたよね」
「別腹という言葉もあるのですわ」
別腹ものしか食べていない気がする。僕の気のせいでは無い筈だ。
「予算はまだ充分です」
経理担当をしているナカさんがそう報告。いくら予算を考えているのか聞くのも恐ろしい。
「善は急げですわ。幸い研究院の門からお店まではすぐです」
「そうだよね。だから行くよ、ミタキ」
しょうがないなと思いつつも楽しいなとも思う自分がいる。まあ付き合いという事で仕方ない。
自分の家の店だけれど行くとしょう。絶対後で姉貴にからかわれると思うけれど。
追記
やっぱり売れ切れていたので旧店の方で卵とか材料を購入。俺がスイートサンドの応用版、カスタード餡版を作る羽目になった。
なんだかなと思う、本当に。
数も多いが種類も多い。ホールケーキだけで何種類作っていたんだあの姉貴は!
しかも皆さん限度を知らない買い方をしていた。研究会の皆さんに限らずだ。
かつて日本で見たのよりちょっと小さめのホールケーキがだいたい小銀貨2枚。
ロールケーキやパウンドケーキが小銀貨1枚。
カットケーキが正銅貨4枚
クッキー2枚やボックスクリーム1個が正銅貨1枚。
決して安くない値段なのだが恐ろしい勢いで売れていく。まあ俺達も売り上げに貢献してしまったのだけれど。
結果、研究室で飽食の宴を開いた後、皆さん食べ過ぎで仮眠室行き。1人あたりホールケーキ1個分以上食べているから当然だろう。
まあ今日も風が少し強め。だから気球の試運転は出来ないけれど。
「お腹の調子が戻ったら、もう一度買いに行ってみましょうか」
「あの調子だと売れ切れていると思うけれどな」
「でも行ってみる価値はあると思います」
仮眠室からそんな会話が聞こえてくる。あれだけ甘い物を食べてもまだ食べる気らしい。まったく懲りないなこいつらは。
シンハ君も仮眠室行きになったので、俺は1人のんびり紅茶を味わっている。
最初に届いた紅茶のうち半分は姉貴に渡したし、2回目からは姉貴が全量取引することになった。
だからここにあるのは1回目の残りと、本日の買い物客に配っていたサービス用紅茶の2種類。
サービス用紅茶の方が微妙に香りがいいような気がする。
気のせいでなければこれは2回目以降のもの。
様々な改良により品質が向上したものなのだろう。
これで紅茶が広がれば悪くは無いかな。俺自身は緑茶より紅茶の方が好きだから。
病院だと緑茶は食事毎に出るけれど紅茶はまず出なかった。仕方ないから売店でティーバッグ買って自分で煎れたりしていた。
でもそうやって煎れた紅茶は病室にいつもと違う香りを俺に運んでくれた訳だ。俺が見ることが出来なかった遠い世界の香りを。
でも俺が今見て体験しているのもその遠い世界に当たるのかもしれない。あの頃の俺が楽しんでいるのが俺にも感じられるのだ。しかもあの時得た知識が別世界に来て色々役立っている。
あの時は色々な物の作り方を調べるのが趣味だった。手元の物がどんな世界からどんな風に生まれてきたかを知りたかったから。
高認の試験勉強もしたし自信もあったけれど結局受けないまま終わったな。今、主に理系の授業で役立ちまくっているけれど。
拝啓、前世での知り合いの皆さん。俺はこっちの世界で元気にしてますよ。残念ながら伝える事は出来ないけれど。
◇◇◇
熱気球の点検をしたり資材として購入した博物図鑑を読んでみたり。久しぶりにのんびりと次に作る物を考えてみたりする。
熱気球の後はまた魔法関連かな。アンテナの時は魔法を電波と同じように考えてうまくいったけれど。
今度はどんな発想で作るべきかな。光にフィルターをかけると色が変わるように、使える魔法を変更できるフィルターは可能だろうか。可能なら杖と組み合わせて面白い事が出来そうだ。
フィルターになりそうなのはやはり宝石とか鉱石とかかな。色々な杖を作って試してみるか。
他に魔獣が持つ魔石というものも気になる。扱いを間違うと爆発するなんて話も聞くけれど、込められた魔力を使う事が出来れば魔力の電池として使える訳だ。問題はこの辺から魔獣が一掃されていて、魔石が手に入りにくいことかな。
あと食べ物で欲しいのはカカオの実だ。チョコレートが出来ればこれまた楽しそうだ。あとはゴムも欲しい。
ただシモンさんがプラムの木から取って気球に使っていた樹脂。あれをひょっとしたら代用で使えるかもしれない。これは機会があったら試してみよう。
そんな事を色々考えてノートに書いていると、仮眠室の方からごそごそ気配がしはじめた。
どうやら皆さん休憩終了のようだ。のそーっという感じで皆さん出てくる。寝起きという感じで学校とかでは見せられない顔だなこれは。
まあそれ以上に魅力的な表情も色々知っているから俺は問題ないけれど。あ、今余分な事を考えたような気がするので取り消し。
数分後、顔を洗ったり髪を整えたりして支度を調えたヨーコ先輩が宣言する。
「それでは買い出し第二弾、『残っている物があれば買い占めるぞ作戦』行くぞ!」
おい何だよその作戦は。
「充分買って食べましたよね」
「別腹という言葉もあるのですわ」
別腹ものしか食べていない気がする。僕の気のせいでは無い筈だ。
「予算はまだ充分です」
経理担当をしているナカさんがそう報告。いくら予算を考えているのか聞くのも恐ろしい。
「善は急げですわ。幸い研究院の門からお店まではすぐです」
「そうだよね。だから行くよ、ミタキ」
しょうがないなと思いつつも楽しいなとも思う自分がいる。まあ付き合いという事で仕方ない。
自分の家の店だけれど行くとしょう。絶対後で姉貴にからかわれると思うけれど。
追記
やっぱり売れ切れていたので旧店の方で卵とか材料を購入。俺がスイートサンドの応用版、カスタード餡版を作る羽目になった。
なんだかなと思う、本当に。
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