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第7章 食欲と挑戦の秋(1)
第53話 開店を待ちながら
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俺ハ何故コンナ処デコンナ事ヲシテイルノダロウ。
そう思いつつ俺は街角で、行列に並んでいる。
今は安息日の朝8時50分。並んでいるのは自分の家の新店の行列だ。無論サクラという訳では無い。
もちろん俺一人でいる訳では無い。当然いつものうるさい皆さんも一緒だ。
「どれがいいかなっと」
「全種類買って味を確認させていただきますわ」
「研究会費ですので一人小銀貨2枚までです」
「皆で分担して色々買おうよ」
「甘いな、これは戦争だ」
「楽しみ」
皆さんまあこんな感じである。このテンションの高さは何なのだろう。俺には理解出来ない。
なお皆の手元には木版刷りの一枚紙がある。店の紹介と主なメニューの一覧だ。先程姉が列の全員に配って行った。
思いきり俺がいることがバレたが姉の奴にやりとしただけで去って行った。絶対後で色々言われること確定だ。ああ気が重い。
「ところで本当にどれを買おうかな。ミタキのおすすめはどれになるの?」
ミド・リー、そう言われてもな。
「だいたいどれも一通りは食べた事があるだろ」
そう、一通りは俺がつくっておやつで出している筈なのだ。
「そうなんだけれど迷うよね。ボックスクリームは絶対として、スイートサンドとプリンとチーズケーキと……」
どうやら予算目一杯まで買うつもりらしい。何だかなあと思う。残念ながら女性陣みんなそんな感じだけれど。
「俺達は別にケーキ1個でも充分だよな」
思わずそうシンハ君に言ってしまう。しかしそれが失敗だった。
「だったら残りのお金でパウンドケーキとかクッキーセットとか買って! そうすれば皆で味を確認できるから」
おいおいミド・リーよ。
「そこまで食べる気かよ」
「当然だ」
ヨーコ先輩が参戦してきた。
「もし予算が余っているようならこのホールチーズケーキかドライフルーツ入りパウンドケーキ大がお勧めだぞ。そうすれば皆が分け合って食べられるしな」
「クッキーセットの方がいいなあ。あれ色々種類が入っているらしいじゃない」
「この、おいもちゃんケーキホールってどんな感じでしょうか」
「クリームとサツマイモと水飴を混ぜた甘い黄色いので飾ってあるケーキだ確か」
つまりはモンブランのイモ版である。以前試作した際、ちょうどいい栗が無かったのでイモを使ったら、それが標準となってしまったのだ。
「ずいぶん列が長くなってきたね。これ最後の方は買えるのかな」
「相当用意している筈だから大丈夫じゃないか」
今日はオープン初日だから姉も気合いを入れて商品を用意している。今日の分は確か昨日の夜から作り続けていた。
それも専用の工房をこの建物内に作って姉貴含め5人位で量産しまくっていたのだ。
材料も恐ろしい量を用意している。だから商品数は問題ない筈。
「甘いですわミタキ君、列をよくご覧なさい」
アキナ先輩がそんな事を言う。しかしそう言われても100人位並んでいるな、としかわからない。
「どういう意味ですか?」
「一番前の2人組はうちのハウスメイドだ。その3つ後ろの3人組はアキナ先輩の家のメイドだな」
何故か返答はヨーコ先輩からだった。更にアキナ先輩が続ける。
「他にもカミヤス家、ターカトリ家、トモー家のメイドさんがいらっしゃいますわ。皆さん目聡いようですね」
「他にもいるだろうな。私もこの辺の貴族の使用人を全部覚えている訳ではない」
大貴族2名が言った意味はどういう事だろう。ほんの少し考えて俺は理解した。
しかしちょっと待って欲しい。ここは思い切り庶民の街なのだ。大貴族の皆さんが買い物に来るような場所ではない。
それでももし俺の考えが正解なら……
「その辺の皆さんは大量注文する恐れがあるという事ですか」
「そうだろうな。うちも最低20人分は買っておけと指示した」
答合わせがきてしまった。そして犯人はここにもいた。でもそうなるると計算が変わってくる。
「私達は前から数えてちょうど10組目ですけれど、危ないかもしれないですね」
俺の危惧をナカさんが言語化してくれた。しかし何故皆さんそんなに気合いを入れているのだろう。僕には訳がわからない。
「何もこんな庶民の店まで来なくても」
つい本音が出てしまう。
「甘いもの専門で作って売る店なんて初めてだからな」
「他にお昼はサンドイッチも出すとか言っていましたけれど」
配られたパンフレットにもそう書いてある。ジャムとか餡子とか瓶詰め系も売っているらしい。
つまりこの店、元の店から新規に作った食品を独立させて販売する形だ。
あっちはあっちで化粧品とか蚊取り線香とか旧来の食品系で忙しい。それに新規アイテム数が増えてきて、どれも好評。
なら元々姉も独立したがっていたし、ここで新店を出してみよう。そういう店だ、ここは。
「それでは開店致します。前の方から順番にお進み下さい」
姉ではない女性の声が前方からした。列がゆっくりと動き始める。
「聖戦開始」
フールイ先輩が縁起でもない言葉を呟く。
頼む、大事にしないでくれ! 御願いだから。
そう思いつつ俺は街角で、行列に並んでいる。
今は安息日の朝8時50分。並んでいるのは自分の家の新店の行列だ。無論サクラという訳では無い。
もちろん俺一人でいる訳では無い。当然いつものうるさい皆さんも一緒だ。
「どれがいいかなっと」
「全種類買って味を確認させていただきますわ」
「研究会費ですので一人小銀貨2枚までです」
「皆で分担して色々買おうよ」
「甘いな、これは戦争だ」
「楽しみ」
皆さんまあこんな感じである。このテンションの高さは何なのだろう。俺には理解出来ない。
なお皆の手元には木版刷りの一枚紙がある。店の紹介と主なメニューの一覧だ。先程姉が列の全員に配って行った。
思いきり俺がいることがバレたが姉の奴にやりとしただけで去って行った。絶対後で色々言われること確定だ。ああ気が重い。
「ところで本当にどれを買おうかな。ミタキのおすすめはどれになるの?」
ミド・リー、そう言われてもな。
「だいたいどれも一通りは食べた事があるだろ」
そう、一通りは俺がつくっておやつで出している筈なのだ。
「そうなんだけれど迷うよね。ボックスクリームは絶対として、スイートサンドとプリンとチーズケーキと……」
どうやら予算目一杯まで買うつもりらしい。何だかなあと思う。残念ながら女性陣みんなそんな感じだけれど。
「俺達は別にケーキ1個でも充分だよな」
思わずそうシンハ君に言ってしまう。しかしそれが失敗だった。
「だったら残りのお金でパウンドケーキとかクッキーセットとか買って! そうすれば皆で味を確認できるから」
おいおいミド・リーよ。
「そこまで食べる気かよ」
「当然だ」
ヨーコ先輩が参戦してきた。
「もし予算が余っているようならこのホールチーズケーキかドライフルーツ入りパウンドケーキ大がお勧めだぞ。そうすれば皆が分け合って食べられるしな」
「クッキーセットの方がいいなあ。あれ色々種類が入っているらしいじゃない」
「この、おいもちゃんケーキホールってどんな感じでしょうか」
「クリームとサツマイモと水飴を混ぜた甘い黄色いので飾ってあるケーキだ確か」
つまりはモンブランのイモ版である。以前試作した際、ちょうどいい栗が無かったのでイモを使ったら、それが標準となってしまったのだ。
「ずいぶん列が長くなってきたね。これ最後の方は買えるのかな」
「相当用意している筈だから大丈夫じゃないか」
今日はオープン初日だから姉も気合いを入れて商品を用意している。今日の分は確か昨日の夜から作り続けていた。
それも専用の工房をこの建物内に作って姉貴含め5人位で量産しまくっていたのだ。
材料も恐ろしい量を用意している。だから商品数は問題ない筈。
「甘いですわミタキ君、列をよくご覧なさい」
アキナ先輩がそんな事を言う。しかしそう言われても100人位並んでいるな、としかわからない。
「どういう意味ですか?」
「一番前の2人組はうちのハウスメイドだ。その3つ後ろの3人組はアキナ先輩の家のメイドだな」
何故か返答はヨーコ先輩からだった。更にアキナ先輩が続ける。
「他にもカミヤス家、ターカトリ家、トモー家のメイドさんがいらっしゃいますわ。皆さん目聡いようですね」
「他にもいるだろうな。私もこの辺の貴族の使用人を全部覚えている訳ではない」
大貴族2名が言った意味はどういう事だろう。ほんの少し考えて俺は理解した。
しかしちょっと待って欲しい。ここは思い切り庶民の街なのだ。大貴族の皆さんが買い物に来るような場所ではない。
それでももし俺の考えが正解なら……
「その辺の皆さんは大量注文する恐れがあるという事ですか」
「そうだろうな。うちも最低20人分は買っておけと指示した」
答合わせがきてしまった。そして犯人はここにもいた。でもそうなるると計算が変わってくる。
「私達は前から数えてちょうど10組目ですけれど、危ないかもしれないですね」
俺の危惧をナカさんが言語化してくれた。しかし何故皆さんそんなに気合いを入れているのだろう。僕には訳がわからない。
「何もこんな庶民の店まで来なくても」
つい本音が出てしまう。
「甘いもの専門で作って売る店なんて初めてだからな」
「他にお昼はサンドイッチも出すとか言っていましたけれど」
配られたパンフレットにもそう書いてある。ジャムとか餡子とか瓶詰め系も売っているらしい。
つまりこの店、元の店から新規に作った食品を独立させて販売する形だ。
あっちはあっちで化粧品とか蚊取り線香とか旧来の食品系で忙しい。それに新規アイテム数が増えてきて、どれも好評。
なら元々姉も独立したがっていたし、ここで新店を出してみよう。そういう店だ、ここは。
「それでは開店致します。前の方から順番にお進み下さい」
姉ではない女性の声が前方からした。列がゆっくりと動き始める。
「聖戦開始」
フールイ先輩が縁起でもない言葉を呟く。
頼む、大事にしないでくれ! 御願いだから。
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