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第7章 食欲と挑戦の秋(1)

第52話 紅茶の試飲会

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 ここ3日程はちょっと天候が悪い。雨は降らないのだが風が強いのだ。おかげで完成した熱気球も試運転が出来ない。
 そんな訳で本日は別のもののお試しだ。そう、シンハ君が俺の注文した物を持ってきてくれたのだ。

「お茶作り農家の方に言わせるとよ。まだこの方法には色々な可能性を感じるそうだ。だから今回送った分はあくまで初回のサンプルだと思って欲しいとの事だ」

 何やら職人気質のお茶農家に頼んだ模様だ。今後が楽しみで大変宜しい。

 今回のデザートはお茶に見合うものにすべくパウンドケーキ。干した杏とリンゴを酒漬けしたものを中に散らしてある。
 残念ながら俺の作品では無く俺の姉の作品。つまりはまあ我が家の商品というか試作品を持ってきた訳だ。

「入れた瞬間から香りが違いますね。お茶の青い香りと違って、花とかフルーツに近い香りがします」

「確かにそうですね。少し葡萄に似た感じの甘みある香りですわ」

 最初の香りは概ね好評の模様。

「まずはストレートで」

 カップに透明感ある綺麗な茶色の液体が注がれる。

「一気に香りが広がるな。期待できそうだ」

「これって味はどうなのかな。やっぱりお茶の味なのかな」

 俺は猫舌なので魔法で冷ましてから飲む。
 うん、悪くない。いかにも紅茶という感じで。

「いつものお茶と全く違う」

「わずかな甘みとかすかな酸味、そしてごく少ない渋みか」

「何か微妙に熟成したような味だよね」

「確かにこのケーキに合うな、これは」

 うんうん、皆さん味の違いがわかる人種だね。俺は単純に美味しいとしかわからないけれどさ。無言のシンハ君もきっと同類だと思う。

「いつものお茶と違って、レモン汁を入れたり水飴を入れたりしてもいいと思うよ」

「どれ、試してみよう」

「お、確かにこれもいいかも」

「水飴レモン両方入れがいいな、俺は」

「私はストレートの方が好みかな」

「水飴をちょっと入れると香りが複雑になって面白いね」

 確かに水飴は麦の香りがするからな。砂糖が無いのでやむをえないけれど。
 蜂蜜のほうが良かったかなとちょっと思ったりもする。

「さて、今度はミルクティという飲み方をしてみよう。感想よろしく」

 今回はミルクティなのでかなり濃いめに入れる。
 幸い送って貰った茶葉は結構量がある。だからここは惜しみなく。

「意外だ。薄めたミルクなんて飲めたもんじゃないと思ったのだが」

「上品な味と香りですね。これは軽いパーティに合うと思いますわ」

「これ好き。ちょっとレモンと水飴入れるといい感じ」

 こちらも好評。

 お茶とともにパウンドケーキも消費されていく。これは予定売価が1個小銀貨1枚1000円という割にお高めの商品だ。試飲会という事で気合いを入れて2個作って貰い1指半位に切って出している。


 1個あたり20指cm位の長さだから24切れはあった筈。それが気づくと残り3切れだったりする訳だ。
 あ、3人一気にとって無くなってしまった。

「この組み合わせは最高だな何か。このケーキはミタキの家で売っているんだよな」

「まだ試供品段階です。もうすぐ本格的に販売する予定ですけれど」

「この茶色いお茶はまだ非売品なのですよね」

「ああ。うちの領地で作り始めたばかりだ」

 それを聞いたアキナ先輩とヨーコ先輩の視線が交差する。

「この組み合わせ、次はどっちの家のパーティで出すか決めようか」

「いえ、まだまだ組み合わせはあると思いますわ」

 アキナ先輩が俺の方を向く。

「ミタキ君。あなたの家ではこのケーキ以外にもきっと色々甘い物を取り扱う予定なのですよね」

「ええ」

 水飴が出て以来、俺は思い出した甘い物レシピを色々と姉に渡した。姉がそれを作って改良して時々店に出しているのだ。だからなじみの客しか存在を知らないがどれもなかなか好評。
 常時販売すべきだという声が多くなったので近くに居抜きで店舗を購入した。現在従業員を雇ったり内外装を直したりして今度の安息日には営業開始予定だ。

「直接お店に行けばもっと色々このお茶に合う甘くて美味しい物がある。違いますでしょうか」

「そうか、その手があるんだな。それでどんな物を売っているんだ?」

 2人、いや他の女子も含めた視線が怖い。

「まだお試し中で本格的には出していないんだ。今度の安息日には新店がオープンするんでそこで色々と出す予定だけれども」

「ミタキ、そういえば昨日帰ったら家の中で甘い香りがしていたけれど、それって」

「治療院には色々お世話になっているからお礼がてら挨拶に行ったんだろ。今度近くに新店を出しますので宜しくって」

 そうか。この紅茶も新店で扱えばいいかもしれないな。そんな事を今更ながらに思う。4半重1.25kgも買ったから在庫は充分だ。

「シンハ、このお茶継続注文していいか。多分家の新店で出したらちょうどいいような気がする」

「向こうはもとよりそのつもりらしいぞ。次はもっと美味しいのを作るって言っていたしな」

 よしよし、後で姉に相談しておこう。
 当初は試供品扱いでいいだろうな。本格生産に入ったら販売という事で。

「ミタキ君確認します。ミタキ君の家では甘い物を売る新店を今度の安息日に出す。これは本当ですね」

 何かナカさん、いつもと微妙に違う口調だ。

「ええ、その予定です」

「どんな物を売るの?」

 これはフールイ先輩。

「ここで出したのと大体同じような感じですね。パウンドケーキの他はプリンとか、甘いビスケットでレーズン入りの甘いバターを挟んだものとか、ちょっとカサカサ気味の皮の中にクリームを入れたものとか、甘くしたチーズを焼いたケーキとか」

「そんな重要な事を何故今まで言わなかったんだ?」

 ヨーコ先輩にそう言われても困る。

「あくまで俺の家の事情でこことは関係ないですから」

「でも今までミタキ君がここで出したようなお菓子を買うことが出来るようになるのでしょう」

「まあそうですけれど」

「それは重要事項です。違いますか?」

 俺とシンハ君以外の全員がうんうんと頷く。何だ、何なんだこの状態は。

「今度の安息日の予定が決まりました」

「そうだな」

 頷き合う女性陣。おい待て何をする気だ君達は!
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