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第5章 旅立ちは蒸気ボート

第38話 商都カーミヤ

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 ヨーコ先輩による放課後お迎え行動は続いている。昨日からはパワーアップし、右がヨーコ先輩、左がアキナ先輩という状態だ。
 クラスの男子、及び一部女子が俺を見る視線がどんどん冷たくなってきているような気がする。

 何とか解決方法は無いだろうか。ミド・リーとシンハ君に脇を固めてくれと頼んだが断られてしまった。ナカさんのお小言は何故か8割方俺に向かってくる。勘弁してくれよ本当に。
 
 さて、本日は新学期始まって最初の安息日。俺達は商都カーミヤまで蒸気ボートでお出かけだ。

 本来、ウージナからカーミヤまでは馬車で2日間、船だと3日間かかる。具体的に言うとウージナからオッター川を30離60km遡り、セノー運河を5離10km行き、ハチョーク湖に出た対岸の港がカーミヤだ。


 しかし高速蒸気ボートでは2時間もかからなかった。今回は省燃費試験で少なめに石炭をくべたにも関わらずである。

「でもスリルあったよな。いつ岸や他の船にぶつかるかヒヤヒヤしたぜ」

「割と余裕を持って操縦したつもりだったけれどな」

「まだこの船の速度に感覚がついて行かないのです」

「少し煩いけれどミタキも倒れなかったし、乗り心地はいいんじゃない」

 俺は乗り心地測定器扱いの模様。

 とりあえず有料の係船所に船を預ける。

「それでは午後3時にここ集合だな」

「そうですね」

 女子の主力はまず洋服の買い出し。早く注文すれば帰るまでに作ってもらえるからだ。時間までに出来なくても配送してもらうことは出来るのだけれど。
 シンハ君はグルメ街へ行ってくるそうだ。 俺も誘われたが博物館に行きたいのでパス。

「じゃあな」

 ここで皆バラバラになる。

 事前に調べたところによると、博物館はここから湖沿いに歩いてすぐ。見てみるとそれらしい大きな建物が見える。あれだな、きっと。
 近づいてみるとまさしくその建物だった。建物だけではなく、屋外にも色々展示があるようだ。
 これは面白いかもしれない。期待しつつ受付で正銅貨5枚500円を払って中へ。

 最初は綿や麻といった糸や布の関係。主要部分が竹や木で出来た人力の織物機が展示されている。
 過去の俺が『歴史の博物館で昔のものとして展示してあったなあ』なんてしょうもない感想を頭の中で述べている。ここでは現在進行形の最新型織機の展示なのだけれど。

 糸の材料として綿と麻、それに羊毛があげられている。という事は生糸というか蚕は使っていないのだろうか。虫系統は苦手だからやる気は無いけれど。

 その後は紙すきで、さらにその次が金属精錬だった。過去の俺が教科書で見たたたら式なんて方法が模型で説明されている。更に何人かの熱魔法使いにより高熱を造り、木炭やコークスを使って鉄鉱石を還元する魔法起動式高炉がまもなく実用化するらしい。


 この辺は大規模になりすぎて俺の出る幕は無さそうだ。ただ各地で採取される鉱石や珍しい石の展示では色々メモさせてもらった。例えば硫黄とか硝石、緑礬の産地等だ。
 今後硫酸を作るためにも使用分補充の為にも手に入れておく必要があるだろう。硫酸を作るために学校の試料を大分使ってしまったから。

 あと灰重石もあったので、これからタングステンを作れるかもしれない。電球を作るときのフィラメントとして使いやすいだろう。
 珪石の産地も確認した。これでガラスも作れるだろう。石灰岩も色々使えそうなので産地を確認。

 ただこういった鉱石系統の材料は大量に入手すると運搬方法が大変だ。手持ちで持てる範囲を手に入れて蒸気ボートで運ぶしか無いだろう。俺自身は力と体力が無いのでこの辺はシンハ君頼り。 

 一方で植物試料の方は色々見てみたがピンと来るものは無かった。わかりやすい材料になるものがあるとよかったのだけれども。例えばゴムの木とかカカオとかさ。

 特にゴムは欲しかったのだ。これがあればタイヤを作れる。もちろんイオウや黒鉛を加える等色々工夫しないとならないだろうけれど。

 そうすれば馬車の乗り心地も改善するし蒸気自動車だって視野に入るのだ。でも残念ながらその夢は叶わなかった模様。

 一通り見たところで鐘の音が聞こえた。鐘の音は1回、つまり午後1時だ。午前10時には入っていたからたっぷり3時間は見たことになる。
 集合が午後3時だからあと2時間か。とりあえず飯を食べて、あとはふらふら街を散歩してみるか。そう思って博物館から2ブロックほど歩いたところだった。

「あれミタキ君。こんなところでどうされたのですか」

 真横方向、視野の外から声をかけられた。振り向いてみるとやっぱりアキナ先輩、1人だ。

「どうしたんですか、ほかの皆さんは」

「皆さんは洋服がまもなく仕上がるので店に行っています。私は気に入ったものが無かったので皆さんと別れて、少し個人的なお買い物をしてきた処ですわ」

 そう言って先輩は紙袋を見せる。俺にはわからないが高級な店っぽい感じの紙袋だ。


「それでミタキ君はどちらへ?」

「博物館を見終わったから軽くお昼を食べようかと思って」

 俺は基本的に小食だ。しかも後でまた蒸気ボートに乗る予定。ならば体調のためにも食事は軽めの方がいい。


「ならこちらの方にいいお店がありますわ。サンドイッチと甘いもののお店ですけれどいかがかしら」

 確かにそれくらいの店がちょうどいいかな。アキナ先輩と一緒というのがひっかかるけれど。
 でもここはウージナではないから2人で歩いても問題はない。しかも俺はこの街に不案内だ。

「どの辺りですか」

「ここからですと歩いてすぐですわ」

 先輩はそう言って歩き始める。
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