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第5章 旅立ちは蒸気ボート

第37話 新学期早々のお疲れ事案

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 夏休みが終わってしまった。

 この国の夏休みは7月の1ヶ月。なおこの国は太陽太陰暦を使っていて今年の7月は29日だ。
 年によっては冬休みが閏月分長くなったりする。今年は残念ながら閏月は無いけれど。
 一日は24時間で午前午後とあるのは地球と同じだ。

 さて、本日は夏休み後の初日だから授業は無い。始業式を終え、ホームルームを経て、新学期の授業時間割を鞄に入れてシンハの家というか石鹸工場へ行こうかと立ち上がったときだ。
 教室の廊下側がざわざわっとした。

 何だろう。微妙に嫌な予感がする。予知魔法では無いが、俺の予感は嫌な予感に限ってよく当たるのだ。
 さっさと反対側の扉から教室を出るべきか。そう思った時は既に遅かった。

「ミタキ君はこの教室でいいのかな」

 よく知っている声とともに声の主が顔を出す。
 おいおいちょっと待て。学内の有名人がわざわざ教室までやってくるんじゃない! 俺の名前を出すんじゃ無い!
 俺は鞄をひっつかんでさっさと俺は教室の外に出る。長居されてこれ以上注目を集められては困るから。

「どうしたんですか、いきなり」

「いつもの場所まで一緒に行こうと思ってさ」

 ヨーコ先輩はそう言って笑みを浮かべる。

「剣術の方はいいんですか」

「こっちの方が面白いからさ」

 わかった、理解した。しかしいらぬ誤解をうけるのでわざわざ教室まで来ないで欲しい。
 ヨーコ先輩は目立つのだ。その辺自覚をしてほしい。

 チラリと周りを見る。他人事のように遠巻きに見ているシンハ君とミド・リーを発見。

「シンハ、ミド・リー、行こう」

 こいつらも共犯者だぞと宣言したつもりだが、皆さんわかってくれただろうか。
 クラスの皆さん、特に男子の、いや女子の目も怖い。勘弁してくれ。

 そんな訳で仕方なくヨーコ先輩と並んで歩く羽目になる。校門までの間注目を集めること集めること。辺りの皆さんの視線が非常に怖い。


 俺は身体が弱いんだからこんな負担かけないでくれ。そう思ったら背後からばたばた追いかけてくる音がする。誰と思って振り向いてみたらナカさんだ。

「ミタキ君、ヨーコ先輩が誤解を受けるからやめて下さい」

 えっ、俺が悪いの? 何で?

「いや、誘ったのは私だ。どうせいつもの場所へ行くのだからな」

「だったら少し控えて下さい。家の格もありますし御自分の立場をもう少し考えた方がいいと思います」

「ここの生徒でいる間は平等さ。校長の式辞等でも言っていただろう」

「物事には建前と本音があります。そうで無くともヨーコ先輩は人の目を引くんですから、お気をつけて下さい」

「はいはい」

「あと剣術の稽古等はどうするんですか」

「研究会の朝練には出るさ。自主練もしているし心配はいらない」

 そんな感じで結局、シンハ宅の別館に着くまでの間、ヨーコ先輩の横から俺は解放されなかった。
 
 ◇◇◇

 さて、ここ数日は蒸気ボートの関係で石鹸から離れていた。そろそろ石鹸やスキンケアグッズを作らなければならない。
 なおアキナ先輩やヨーコ先輩がお買い上げになる貴族用は特別仕上げ。香りや色、仕上げの綺麗さや梱包が別物になる。実用上は市販用高級品と同じだがその辺がステイタスらしい。ちなみに今回の貴族用ラインの香りはセージだ。


 なお精油は既に生成してあるので、本日やるのは混ぜたり切ったり包んだりといった作業だけ。なおこの辺の作業は手先が器用なシモンさんやナカさん、フールイ先輩の作業。センスが独自すぎるアキナ先輩や手先が繊細では無いその他の皆さんは戦列外だ。

 そして俺を含めた戦列外の皆さんは一般用普及版スキンケアグッズの製造。香りはこの辺で手に入りやすい柑橘系の香り固定。
 あと普及版は尿素が入っていないが実用上はあまり変わらない。他には簡易包装なのと仕上げを手先が器用でない方がやっている程度の違いだ。

 ほぼ作業は機械化したので、放課後作業だけでも充分な数を製造できる。今まで製造にあてていた安息日は晴れたらボートでお出かけする予定だ。本日ここへ来るまでの過程で若干お疲れ気味の俺も真面目に作業する。

「安息日は何処へ行こうか?」

「普通に考えると王都オマーチだよな」

 シンハ君の考えはいつもストレートで宜しい。

「王宮とか正教会とか、大きくて綺麗だそうですね」

 ナカさんも同意見。
 
 しかしだ。

「あそこは評判の割に面白く無いですわ」

「そうそう、見るだけで面白い店とか何もない。遠いしさ」

 大貴族2名が反対した。

「どうせ行くならカーミヤだよな」

「そうですね。刺激があって楽しい街ですわ」

 ふむふむ。

「具体的に言うとカーミヤにはどんなものがあるんですか?」

「ウージナ以上に色々店が多いですし、劇場や博物館なんてものもありますね」

「服なんかも最新の流行とか色々考えられているぞ。魔法縫製を使う店なら2時間もあれば見本から完成品を作ってくれるからな」

「いいですね、それは」

「同意」

「楽しそうだね」

 俺もそう思う。特に博物館という単語に俺は惹かれた。
 ひょっとしたら何かを作る材料になるものが見つかるかもしれない。そう思うと是非とも行ってみたい。
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