41 / 266
第5章 旅立ちは蒸気ボート
第37話 新学期早々のお疲れ事案
しおりを挟む
夏休みが終わってしまった。
この国の夏休みは7月の1ヶ月。なおこの国は太陽太陰暦を使っていて今年の7月は29日だ。
年によっては冬休みが閏月分長くなったりする。今年は残念ながら閏月は無いけれど。
一日は24時間で午前午後とあるのは地球と同じだ。
さて、本日は夏休み後の初日だから授業は無い。始業式を終え、ホームルームを経て、新学期の授業時間割を鞄に入れてシンハの家というか石鹸工場へ行こうかと立ち上がったときだ。
教室の廊下側がざわざわっとした。
何だろう。微妙に嫌な予感がする。予知魔法では無いが、俺の予感は嫌な予感に限ってよく当たるのだ。
さっさと反対側の扉から教室を出るべきか。そう思った時は既に遅かった。
「ミタキ君はこの教室でいいのかな」
よく知っている声とともに声の主が顔を出す。
おいおいちょっと待て。学内の有名人がわざわざ教室までやってくるんじゃない! 俺の名前を出すんじゃ無い!
俺は鞄をひっつかんでさっさと俺は教室の外に出る。長居されてこれ以上注目を集められては困るから。
「どうしたんですか、いきなり」
「いつもの場所まで一緒に行こうと思ってさ」
ヨーコ先輩はそう言って笑みを浮かべる。
「剣術の方はいいんですか」
「こっちの方が面白いからさ」
わかった、理解した。しかしいらぬ誤解をうけるのでわざわざ教室まで来ないで欲しい。
ヨーコ先輩は目立つのだ。その辺自覚をしてほしい。
チラリと周りを見る。他人事のように遠巻きに見ているシンハ君とミド・リーを発見。
「シンハ、ミド・リー、行こう」
こいつらも共犯者だぞと宣言したつもりだが、皆さんわかってくれただろうか。
クラスの皆さん、特に男子の、いや女子の目も怖い。勘弁してくれ。
そんな訳で仕方なくヨーコ先輩と並んで歩く羽目になる。校門までの間注目を集めること集めること。辺りの皆さんの視線が非常に怖い。
俺は身体が弱いんだからこんな負担かけないでくれ。そう思ったら背後からばたばた追いかけてくる音がする。誰と思って振り向いてみたらナカさんだ。
「ミタキ君、ヨーコ先輩が誤解を受けるからやめて下さい」
えっ、俺が悪いの? 何で?
「いや、誘ったのは私だ。どうせいつもの場所へ行くのだからな」
「だったら少し控えて下さい。家の格もありますし御自分の立場をもう少し考えた方がいいと思います」
「ここの生徒でいる間は平等さ。校長の式辞等でも言っていただろう」
「物事には建前と本音があります。そうで無くともヨーコ先輩は人の目を引くんですから、お気をつけて下さい」
「はいはい」
「あと剣術の稽古等はどうするんですか」
「研究会の朝練には出るさ。自主練もしているし心配はいらない」
そんな感じで結局、シンハ宅の別館に着くまでの間、ヨーコ先輩の横から俺は解放されなかった。
◇◇◇
さて、ここ数日は蒸気ボートの関係で石鹸から離れていた。そろそろ石鹸やスキンケアグッズを作らなければならない。
なおアキナ先輩やヨーコ先輩がお買い上げになる貴族用は特別仕上げ。香りや色、仕上げの綺麗さや梱包が別物になる。実用上は市販用高級品と同じだがその辺がステイタスらしい。ちなみに今回の貴族用ラインの香りはセージだ。
なお精油は既に生成してあるので、本日やるのは混ぜたり切ったり包んだりといった作業だけ。なおこの辺の作業は手先が器用なシモンさんやナカさん、フールイ先輩の作業。センスが独自すぎるアキナ先輩や手先が繊細では無いその他の皆さんは戦列外だ。
そして俺を含めた戦列外の皆さんは一般用普及版スキンケアグッズの製造。香りはこの辺で手に入りやすい柑橘系の香り固定。
あと普及版は尿素が入っていないが実用上はあまり変わらない。他には簡易包装なのと仕上げを手先が器用でない方がやっている程度の違いだ。
ほぼ作業は機械化したので、放課後作業だけでも充分な数を製造できる。今まで製造にあてていた安息日は晴れたらボートでお出かけする予定だ。本日ここへ来るまでの過程で若干お疲れ気味の俺も真面目に作業する。
「安息日は何処へ行こうか?」
「普通に考えると王都オマーチだよな」
シンハ君の考えはいつもストレートで宜しい。
「王宮とか正教会とか、大きくて綺麗だそうですね」
ナカさんも同意見。
しかしだ。
「あそこは評判の割に面白く無いですわ」
「そうそう、見るだけで面白い店とか何もない。遠いしさ」
大貴族2名が反対した。
「どうせ行くならカーミヤだよな」
「そうですね。刺激があって楽しい街ですわ」
ふむふむ。
「具体的に言うとカーミヤにはどんなものがあるんですか?」
「ウージナ以上に色々店が多いですし、劇場や博物館なんてものもありますね」
「服なんかも最新の流行とか色々考えられているぞ。魔法縫製を使う店なら2時間もあれば見本から完成品を作ってくれるからな」
「いいですね、それは」
「同意」
「楽しそうだね」
俺もそう思う。特に博物館という単語に俺は惹かれた。
ひょっとしたら何かを作る材料になるものが見つかるかもしれない。そう思うと是非とも行ってみたい。
この国の夏休みは7月の1ヶ月。なおこの国は太陽太陰暦を使っていて今年の7月は29日だ。
年によっては冬休みが閏月分長くなったりする。今年は残念ながら閏月は無いけれど。
一日は24時間で午前午後とあるのは地球と同じだ。
さて、本日は夏休み後の初日だから授業は無い。始業式を終え、ホームルームを経て、新学期の授業時間割を鞄に入れてシンハの家というか石鹸工場へ行こうかと立ち上がったときだ。
教室の廊下側がざわざわっとした。
何だろう。微妙に嫌な予感がする。予知魔法では無いが、俺の予感は嫌な予感に限ってよく当たるのだ。
さっさと反対側の扉から教室を出るべきか。そう思った時は既に遅かった。
「ミタキ君はこの教室でいいのかな」
よく知っている声とともに声の主が顔を出す。
おいおいちょっと待て。学内の有名人がわざわざ教室までやってくるんじゃない! 俺の名前を出すんじゃ無い!
俺は鞄をひっつかんでさっさと俺は教室の外に出る。長居されてこれ以上注目を集められては困るから。
「どうしたんですか、いきなり」
「いつもの場所まで一緒に行こうと思ってさ」
ヨーコ先輩はそう言って笑みを浮かべる。
「剣術の方はいいんですか」
「こっちの方が面白いからさ」
わかった、理解した。しかしいらぬ誤解をうけるのでわざわざ教室まで来ないで欲しい。
ヨーコ先輩は目立つのだ。その辺自覚をしてほしい。
チラリと周りを見る。他人事のように遠巻きに見ているシンハ君とミド・リーを発見。
「シンハ、ミド・リー、行こう」
こいつらも共犯者だぞと宣言したつもりだが、皆さんわかってくれただろうか。
クラスの皆さん、特に男子の、いや女子の目も怖い。勘弁してくれ。
そんな訳で仕方なくヨーコ先輩と並んで歩く羽目になる。校門までの間注目を集めること集めること。辺りの皆さんの視線が非常に怖い。
俺は身体が弱いんだからこんな負担かけないでくれ。そう思ったら背後からばたばた追いかけてくる音がする。誰と思って振り向いてみたらナカさんだ。
「ミタキ君、ヨーコ先輩が誤解を受けるからやめて下さい」
えっ、俺が悪いの? 何で?
「いや、誘ったのは私だ。どうせいつもの場所へ行くのだからな」
「だったら少し控えて下さい。家の格もありますし御自分の立場をもう少し考えた方がいいと思います」
「ここの生徒でいる間は平等さ。校長の式辞等でも言っていただろう」
「物事には建前と本音があります。そうで無くともヨーコ先輩は人の目を引くんですから、お気をつけて下さい」
「はいはい」
「あと剣術の稽古等はどうするんですか」
「研究会の朝練には出るさ。自主練もしているし心配はいらない」
そんな感じで結局、シンハ宅の別館に着くまでの間、ヨーコ先輩の横から俺は解放されなかった。
◇◇◇
さて、ここ数日は蒸気ボートの関係で石鹸から離れていた。そろそろ石鹸やスキンケアグッズを作らなければならない。
なおアキナ先輩やヨーコ先輩がお買い上げになる貴族用は特別仕上げ。香りや色、仕上げの綺麗さや梱包が別物になる。実用上は市販用高級品と同じだがその辺がステイタスらしい。ちなみに今回の貴族用ラインの香りはセージだ。
なお精油は既に生成してあるので、本日やるのは混ぜたり切ったり包んだりといった作業だけ。なおこの辺の作業は手先が器用なシモンさんやナカさん、フールイ先輩の作業。センスが独自すぎるアキナ先輩や手先が繊細では無いその他の皆さんは戦列外だ。
そして俺を含めた戦列外の皆さんは一般用普及版スキンケアグッズの製造。香りはこの辺で手に入りやすい柑橘系の香り固定。
あと普及版は尿素が入っていないが実用上はあまり変わらない。他には簡易包装なのと仕上げを手先が器用でない方がやっている程度の違いだ。
ほぼ作業は機械化したので、放課後作業だけでも充分な数を製造できる。今まで製造にあてていた安息日は晴れたらボートでお出かけする予定だ。本日ここへ来るまでの過程で若干お疲れ気味の俺も真面目に作業する。
「安息日は何処へ行こうか?」
「普通に考えると王都オマーチだよな」
シンハ君の考えはいつもストレートで宜しい。
「王宮とか正教会とか、大きくて綺麗だそうですね」
ナカさんも同意見。
しかしだ。
「あそこは評判の割に面白く無いですわ」
「そうそう、見るだけで面白い店とか何もない。遠いしさ」
大貴族2名が反対した。
「どうせ行くならカーミヤだよな」
「そうですね。刺激があって楽しい街ですわ」
ふむふむ。
「具体的に言うとカーミヤにはどんなものがあるんですか?」
「ウージナ以上に色々店が多いですし、劇場や博物館なんてものもありますね」
「服なんかも最新の流行とか色々考えられているぞ。魔法縫製を使う店なら2時間もあれば見本から完成品を作ってくれるからな」
「いいですね、それは」
「同意」
「楽しそうだね」
俺もそう思う。特に博物館という単語に俺は惹かれた。
ひょっとしたら何かを作る材料になるものが見つかるかもしれない。そう思うと是非とも行ってみたい。
87
お気に入りに追加
2,266
あなたにおすすめの小説
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる