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第4章 太平の眠りを覚ますか蒸気船
第35話 蒸気ボート御披露目
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鑑定魔法で石炭も水も充分な量がある事を確認。
落ち着け俺。手順は昨日と同じで大丈夫だ。そう思いながら石炭をボイラーに入れて火をつける。圧力計の針がじりじり上昇するのがもどかしい。
緊張している理由は簡単だ。いつもの皆さんでは無くお客様が乗っているから。それも5人。1人はアキナ先輩の親父殿だそうだけれど他の4人は不明。おそらく海軍のお偉いさんか技術者だろう。
そんな訳でこのボートに乗っている仲間は俺の他には操縦担当のシモンさんと解説および懐柔役のアキナ先輩だけ。他の皆さんはドックから心配そうな顔で見ている。
ヒューンと軽やかな音をさせて補助タービンが回り始めた。圧力計の針が一度下がって、そして再上昇。
昨日と同様、大気圧の60倍を超えたところでシモンさんに声をかける。
「圧力、充分です」
「発進します」
シモンさんが半オクターブ高い声でそう告げる。彼女も緊張しているようだ。
ボートは昨日と比べ幾分ゆるやかに進み始めた。低いどよめきの気配。漕がずに船が進み出すのはやっぱり違和感があるらしい。
「出たらどうしましょうか」
「港を出て川の右側を川上目指して下さいな。この時間なら川上へ航行する船は少ない筈ですから」
シモンさんの質問にアキナ先輩が答える。川や運河は右側通行。そして今は引き潮の時間だ。普通の船は川の流速が速くなるこの時間に上流へ向かう事は無い。
「わかりました」
ボートの速度が小走りくらいまで上がる。でもまだまだこの船にとってはお散歩程度の出力だ。メインタービンに回っている蒸気は全力の半分も行っていない。
港の出口で速度を一度落とし、左右を確認してから川の本流右側に出る。やや海側に流されるのを出力調整とボートの向きで相殺。
予想通り川の右側は空いていた。
「それでは皆さん、加速しますので手近なところにお掴まり下さい。シモンさん。この前と同様に加速させてくださいな」
全力加速をしろか。大丈夫だろうか。
ヒュオー
タービンの響きが一気に高まった。音から少し遅れて船は加速をはじめる。すぐに昨日の試運転と同様、暴力的な加速となった。
俺は石炭を入れたり圧力計を見たりするからポジションが後ろ向きで前方向は見えない。それでも動きで船首が上がり始めたのがわかる。
「うおっ」
この加速、やっぱり強烈だ。俺から見える後ろ側の景色がどんどん加速して遠ざかっていくのがわかる。
それにしてもこの速度でよく直進を維持できているなと思う。船前方が上がっている間は相当直進性が落ちる筈なのに。
きっとその辺はシモンさんの制作の腕と操縦のセンスだろう。昨日の試運転で早くもコツを掴んだようだ。
明らかに馬車や早馬より速い速度に到達して加速は終了。
「これ以上はこの川幅でも操縦が困難になるので勘弁して下さい」
シモンさんの言葉で少し圧力をセーブしても大丈夫だなと判断する。なら次の給炭を少し遅めにして調節しよう。
どうやら川なら幅が広くてもせいぜい圧力45倍位で大丈夫そうだ。次回からは60倍まで使わずそうしよう。その方が燃費もいいだろうし
「どうでしょうか、このくらいで」
アキナ先輩の声。
「魔力の検知は?」
これはアキナ先輩のお父様こと司令官の声だ。俺達にでは無く同行の1人に質問している模様。
「着火の際にのみ魔法を使用しましたが日常魔法の範囲内です。それ以外には魔法の気配はありません」
この人はきっと海軍の魔法将校さんだろう。
「オハラ君の意見は」
「おそらく水を高温の蒸気にして、その圧力で動かしているものと思われます。詳細は逆鑑定魔法がかかっているので確認できません。ただ単純な蒸気圧の反動だけではなく、他にもいろいろな機構があるのは確実です」
他の人より若めの声。前方側は見えないけれど、先程見た外見からこの中では一番若めの、30代前半位に見えた人だろう。
「オツカ殿はどう思われる」
「これが他国の技術でなくて幸いです。風がなくとも自在に動ける船。海戦戦術を一変させるだけでなく、軍全体の補給等も一気に改善させるでしょう」
口調から副司令官とか参謀長とかそういった人かなと勝手に判断。まあ答合わせの機会は無いだろうけれど。
「それでは一度港に帰りましょう。シモンさん、帰りは安全運転で結構ですわ」
「わかりました」
アキナ先輩のその言葉でタービン音が弱まり、ボートは速度を落とす。
ゆっくり歩くくらいの速度まで落とした後、ボートはほとんど位置を変えずにくるりと向きを変えた。
川の下り方向はそこそこ船が混んでいる。だから大回りしない為にそうしたのだろう。しかしこれは船としては異常な動きだ。
「何と!」
案の定皆様驚いている様子。
「それでは帰港します」
今度は船首をあげない程度で加速する。それでも早馬より速い。
最後は港入口からまっすぐドックに向かい、ドック前で停止。180度ターンをかけて後退でドック内へ。
シモンさん、大分操縦に慣れてきたようだ。ただ船として考えるとなかなか気持ち悪い動きだろう。
シモンさんは製作者で機能を知っているから、そう動いて当然だと思っているようだけれど。
落ち着け俺。手順は昨日と同じで大丈夫だ。そう思いながら石炭をボイラーに入れて火をつける。圧力計の針がじりじり上昇するのがもどかしい。
緊張している理由は簡単だ。いつもの皆さんでは無くお客様が乗っているから。それも5人。1人はアキナ先輩の親父殿だそうだけれど他の4人は不明。おそらく海軍のお偉いさんか技術者だろう。
そんな訳でこのボートに乗っている仲間は俺の他には操縦担当のシモンさんと解説および懐柔役のアキナ先輩だけ。他の皆さんはドックから心配そうな顔で見ている。
ヒューンと軽やかな音をさせて補助タービンが回り始めた。圧力計の針が一度下がって、そして再上昇。
昨日と同様、大気圧の60倍を超えたところでシモンさんに声をかける。
「圧力、充分です」
「発進します」
シモンさんが半オクターブ高い声でそう告げる。彼女も緊張しているようだ。
ボートは昨日と比べ幾分ゆるやかに進み始めた。低いどよめきの気配。漕がずに船が進み出すのはやっぱり違和感があるらしい。
「出たらどうしましょうか」
「港を出て川の右側を川上目指して下さいな。この時間なら川上へ航行する船は少ない筈ですから」
シモンさんの質問にアキナ先輩が答える。川や運河は右側通行。そして今は引き潮の時間だ。普通の船は川の流速が速くなるこの時間に上流へ向かう事は無い。
「わかりました」
ボートの速度が小走りくらいまで上がる。でもまだまだこの船にとってはお散歩程度の出力だ。メインタービンに回っている蒸気は全力の半分も行っていない。
港の出口で速度を一度落とし、左右を確認してから川の本流右側に出る。やや海側に流されるのを出力調整とボートの向きで相殺。
予想通り川の右側は空いていた。
「それでは皆さん、加速しますので手近なところにお掴まり下さい。シモンさん。この前と同様に加速させてくださいな」
全力加速をしろか。大丈夫だろうか。
ヒュオー
タービンの響きが一気に高まった。音から少し遅れて船は加速をはじめる。すぐに昨日の試運転と同様、暴力的な加速となった。
俺は石炭を入れたり圧力計を見たりするからポジションが後ろ向きで前方向は見えない。それでも動きで船首が上がり始めたのがわかる。
「うおっ」
この加速、やっぱり強烈だ。俺から見える後ろ側の景色がどんどん加速して遠ざかっていくのがわかる。
それにしてもこの速度でよく直進を維持できているなと思う。船前方が上がっている間は相当直進性が落ちる筈なのに。
きっとその辺はシモンさんの制作の腕と操縦のセンスだろう。昨日の試運転で早くもコツを掴んだようだ。
明らかに馬車や早馬より速い速度に到達して加速は終了。
「これ以上はこの川幅でも操縦が困難になるので勘弁して下さい」
シモンさんの言葉で少し圧力をセーブしても大丈夫だなと判断する。なら次の給炭を少し遅めにして調節しよう。
どうやら川なら幅が広くてもせいぜい圧力45倍位で大丈夫そうだ。次回からは60倍まで使わずそうしよう。その方が燃費もいいだろうし
「どうでしょうか、このくらいで」
アキナ先輩の声。
「魔力の検知は?」
これはアキナ先輩のお父様こと司令官の声だ。俺達にでは無く同行の1人に質問している模様。
「着火の際にのみ魔法を使用しましたが日常魔法の範囲内です。それ以外には魔法の気配はありません」
この人はきっと海軍の魔法将校さんだろう。
「オハラ君の意見は」
「おそらく水を高温の蒸気にして、その圧力で動かしているものと思われます。詳細は逆鑑定魔法がかかっているので確認できません。ただ単純な蒸気圧の反動だけではなく、他にもいろいろな機構があるのは確実です」
他の人より若めの声。前方側は見えないけれど、先程見た外見からこの中では一番若めの、30代前半位に見えた人だろう。
「オツカ殿はどう思われる」
「これが他国の技術でなくて幸いです。風がなくとも自在に動ける船。海戦戦術を一変させるだけでなく、軍全体の補給等も一気に改善させるでしょう」
口調から副司令官とか参謀長とかそういった人かなと勝手に判断。まあ答合わせの機会は無いだろうけれど。
「それでは一度港に帰りましょう。シモンさん、帰りは安全運転で結構ですわ」
「わかりました」
アキナ先輩のその言葉でタービン音が弱まり、ボートは速度を落とす。
ゆっくり歩くくらいの速度まで落とした後、ボートはほとんど位置を変えずにくるりと向きを変えた。
川の下り方向はそこそこ船が混んでいる。だから大回りしない為にそうしたのだろう。しかしこれは船としては異常な動きだ。
「何と!」
案の定皆様驚いている様子。
「それでは帰港します」
今度は船首をあげない程度で加速する。それでも早馬より速い。
最後は港入口からまっすぐドックに向かい、ドック前で停止。180度ターンをかけて後退でドック内へ。
シモンさん、大分操縦に慣れてきたようだ。ただ船として考えるとなかなか気持ち悪い動きだろう。
シモンさんは製作者で機能を知っているから、そう動いて当然だと思っているようだけれど。
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