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第4章 太平の眠りを覚ますか蒸気船
第33話 アキナ先輩の口車
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午後1時過ぎ。俺達はアキナ先輩を先頭にウージナの街を東方向へ歩いている。
こっちへ歩くと港方面だ。オッター川の河口部分に大きな港があり、周辺に倉庫や造船所等が並んでいる。
ただ向かっている方向が微妙に不穏だ。こっち側へ進むと一般の小型船区画を通り過ぎてしまう気がする。その先にあるのは大型外洋船区画と、海軍基地。
アキナ先輩の父はアストラム海軍関係者。ならひょっとして……
いや、こっちにも民間の造船所や中古船置き場がない訳ではない。大型船区画でも小型船がいない訳でもない。そう思いつつ、あるいは願いつつ歩いていく。
しかし俺のそんな想いは4半時間位後、見事に裏切られた。アキナ先輩が立ち止まったのは思い切り海軍基地の正門。
「ちょっと待っていて下さいね」
そう言って彼女は正門真横の受付窓口でちょっとだけ会話する。事前に話は通っていたようで、先輩はすぐ何かを受け取るとこっちへ戻って来た。
「それではこれを左腕に付けて下さいね」
青い地に黄色い線が入った腕章だ。
「それでは参ります。ついてきて下さいな」
どうしようもないのでただただ先輩についていく。
「どういう状況なのですか」
歩きながらヨーコ先輩がアキナ先輩に尋ねた。そう、俺達もそれが知りたい。
「昨日の夜、お父様とお話をしたのですわ。魔法でも風の力でもなく、勿論人力でも馬力でもなく川や運河を自在に動くことが出来る船があると便利ですよねって。
そうしたらお父様が『そんな物ある筈ないじゃないか』と仰ったんです。
ですから私は言ったのですわ。『既にそういった物を理論から考えて、材料さえあれば出来ると言っている方がいますわ』って」
あ、何か嫌な予感がする。
「それで、『何でしたら材料を用意していただけますか。そうすれば数日のうちに今の言葉を実証出来るモデルを作りあげてみせましょう』と言ってみたのです。そうしたらお父様は『やれるものならやってみろ。実証出来るなら多少の出費など安いものだ』そう仰ったのですわ。
ですのであの図面を見せて、必要な物を用意していただいたのです。ただ物が揃うのに本日の午前中いっぱいかかってしまいました。おかげでいつもの美味しいお昼ご飯が食べられないのではないかと思い、急いでシンハさんの家へ向かったのですわ」
つまり海軍司令官殿を口車にのせて資材提供させた訳か。大丈夫なのか、それは。
「出来なかったら処罰とか、出来たとしても取り上げられたりとかそういう事はないよね」
シモンさんが心配そうに尋ねる。
「そのようなリスクはありませんわ。私達は昨日話し合ったあの船を製作して、実際に動かしてみるだけです。うまく行っても船を取り上げられたり勝手に中を分析されたりすることはありませんわ。あくまで実証すればいいだけですから。
それに失敗するとは私は思っていませんし」
本当にそれで大丈夫なのだろうか。仮にも海軍の責任者にそんな準備させて。なんだか胃が痛くなりそうだ。俺より実際に作るシモンさんの方がプレッシャーを感じそうだろうけれど。
理論的には問題ないと思う。理論上はあの発電機とほぼ同じ構造だ。冷却水を河川等から取れる分むしろ難易度は高くない。
強いて言えば船は揺れるから、その対策を少し考えるくらい。その辺は昨日色々シモンさんと話しているし大丈夫な筈だ。
さて、そんな事を考えながら歩いていると。アキナ先輩は勝手知ったると言う感じで海軍基地内の大きな建物の中に入った。
何の建物だと思いつつ中へ入る。
これは……軍の船をメンテナンスする工場だ。水を出し入れ出来るドックがあり、その上に船を固定出来るような骨組みがある。
今はドック部分は空で、骨組みのところに小型の船が固定されている。全長6.5腕、幅1腕50指位の細長い平底の船だ。
「軍の河川・運河用標準連絡艇です。ちょっとだけ予定より大きいですけれど、大抵の運河は入れますし問題無いでしょう。これを自由に改造していいそうです。材料も銅、青銅、鉄等ひととおり揃えていただきました。燃料用の上質石炭もありますわ」
おいちょっと待ったそれいいのか。この船、どう見ても新品だぞ!
しかもこれは軍人が20人程度で漕ぐ高速船だ。予定の中古荷物船よりかなり高価な筈だぞ!
「大きく重い分、ボイラー内積を予定の2倍位大きくする必要があるかな。ただ素材としては不足ない。大きい方が作りやすいし。これは燃えるよね」
あ、シモンさんが燃えている。何かスイッチが入ってしまった感じだ。
「よし、この船にあわせてを設計し直そう。ミタキ、意見頼むね」
そう言ってシモンさんはいきなり足場を登り始めた。船を確認して頭の中の図面を修正するつもりのようだ。こうなったら付き合うしかない。俺も製作モードに頭を切り替える。
鑑定魔法で確認。概ね長さは倍、幅2割5分増し。高さは3割増し。となると容積的には3.25倍だから……
「船が当初予定の3.25倍になった。なら出力的にもそのくらい欲しい。だからボイラーの内容積をそれくらい増やそう」
「そうだね。余裕を見て4倍くらいにしようか。でも元設計のままボイラーを拡大するのは重量バランス的に良くない気がするんだけれど」
「ああ。だから設計変更だ。ボイラーの高さをそのままにして幅と長さで拡大し、更に少し高圧化しよう。船が大きくなったから若干重くなっても問題無いだろう。羽根車は長さを活かして三連化して……」
こっちへ歩くと港方面だ。オッター川の河口部分に大きな港があり、周辺に倉庫や造船所等が並んでいる。
ただ向かっている方向が微妙に不穏だ。こっち側へ進むと一般の小型船区画を通り過ぎてしまう気がする。その先にあるのは大型外洋船区画と、海軍基地。
アキナ先輩の父はアストラム海軍関係者。ならひょっとして……
いや、こっちにも民間の造船所や中古船置き場がない訳ではない。大型船区画でも小型船がいない訳でもない。そう思いつつ、あるいは願いつつ歩いていく。
しかし俺のそんな想いは4半時間位後、見事に裏切られた。アキナ先輩が立ち止まったのは思い切り海軍基地の正門。
「ちょっと待っていて下さいね」
そう言って彼女は正門真横の受付窓口でちょっとだけ会話する。事前に話は通っていたようで、先輩はすぐ何かを受け取るとこっちへ戻って来た。
「それではこれを左腕に付けて下さいね」
青い地に黄色い線が入った腕章だ。
「それでは参ります。ついてきて下さいな」
どうしようもないのでただただ先輩についていく。
「どういう状況なのですか」
歩きながらヨーコ先輩がアキナ先輩に尋ねた。そう、俺達もそれが知りたい。
「昨日の夜、お父様とお話をしたのですわ。魔法でも風の力でもなく、勿論人力でも馬力でもなく川や運河を自在に動くことが出来る船があると便利ですよねって。
そうしたらお父様が『そんな物ある筈ないじゃないか』と仰ったんです。
ですから私は言ったのですわ。『既にそういった物を理論から考えて、材料さえあれば出来ると言っている方がいますわ』って」
あ、何か嫌な予感がする。
「それで、『何でしたら材料を用意していただけますか。そうすれば数日のうちに今の言葉を実証出来るモデルを作りあげてみせましょう』と言ってみたのです。そうしたらお父様は『やれるものならやってみろ。実証出来るなら多少の出費など安いものだ』そう仰ったのですわ。
ですのであの図面を見せて、必要な物を用意していただいたのです。ただ物が揃うのに本日の午前中いっぱいかかってしまいました。おかげでいつもの美味しいお昼ご飯が食べられないのではないかと思い、急いでシンハさんの家へ向かったのですわ」
つまり海軍司令官殿を口車にのせて資材提供させた訳か。大丈夫なのか、それは。
「出来なかったら処罰とか、出来たとしても取り上げられたりとかそういう事はないよね」
シモンさんが心配そうに尋ねる。
「そのようなリスクはありませんわ。私達は昨日話し合ったあの船を製作して、実際に動かしてみるだけです。うまく行っても船を取り上げられたり勝手に中を分析されたりすることはありませんわ。あくまで実証すればいいだけですから。
それに失敗するとは私は思っていませんし」
本当にそれで大丈夫なのだろうか。仮にも海軍の責任者にそんな準備させて。なんだか胃が痛くなりそうだ。俺より実際に作るシモンさんの方がプレッシャーを感じそうだろうけれど。
理論的には問題ないと思う。理論上はあの発電機とほぼ同じ構造だ。冷却水を河川等から取れる分むしろ難易度は高くない。
強いて言えば船は揺れるから、その対策を少し考えるくらい。その辺は昨日色々シモンさんと話しているし大丈夫な筈だ。
さて、そんな事を考えながら歩いていると。アキナ先輩は勝手知ったると言う感じで海軍基地内の大きな建物の中に入った。
何の建物だと思いつつ中へ入る。
これは……軍の船をメンテナンスする工場だ。水を出し入れ出来るドックがあり、その上に船を固定出来るような骨組みがある。
今はドック部分は空で、骨組みのところに小型の船が固定されている。全長6.5腕、幅1腕50指位の細長い平底の船だ。
「軍の河川・運河用標準連絡艇です。ちょっとだけ予定より大きいですけれど、大抵の運河は入れますし問題無いでしょう。これを自由に改造していいそうです。材料も銅、青銅、鉄等ひととおり揃えていただきました。燃料用の上質石炭もありますわ」
おいちょっと待ったそれいいのか。この船、どう見ても新品だぞ!
しかもこれは軍人が20人程度で漕ぐ高速船だ。予定の中古荷物船よりかなり高価な筈だぞ!
「大きく重い分、ボイラー内積を予定の2倍位大きくする必要があるかな。ただ素材としては不足ない。大きい方が作りやすいし。これは燃えるよね」
あ、シモンさんが燃えている。何かスイッチが入ってしまった感じだ。
「よし、この船にあわせてを設計し直そう。ミタキ、意見頼むね」
そう言ってシモンさんはいきなり足場を登り始めた。船を確認して頭の中の図面を修正するつもりのようだ。こうなったら付き合うしかない。俺も製作モードに頭を切り替える。
鑑定魔法で確認。概ね長さは倍、幅2割5分増し。高さは3割増し。となると容積的には3.25倍だから……
「船が当初予定の3.25倍になった。なら出力的にもそのくらい欲しい。だからボイラーの内容積をそれくらい増やそう」
「そうだね。余裕を見て4倍くらいにしようか。でも元設計のままボイラーを拡大するのは重量バランス的に良くない気がするんだけれど」
「ああ。だから設計変更だ。ボイラーの高さをそのままにして幅と長さで拡大し、更に少し高圧化しよう。船が大きくなったから若干重くなっても問題無いだろう。羽根車は長さを活かして三連化して……」
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