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第4章 太平の眠りを覚ますか蒸気船
第31話 そして僕らは途方に暮れる
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今の環境だと新たな素材の発見は難しい。ならば次に作るのは機械類という事になるだろう。
しかし機械類の製造なんて俺達には手が出ない。俺が出来るのは企画と概念設計だけ。メインの製作はシモンさんに任せるしかない。
だから機械類を作るとすれば製作を楽しむという事では無い。使う事で俺達が楽しめるものを作るという事だ。
最初に思い浮かぶのは飛行機。しかしエンジン部分が作れそうにないし翼とかの設計も無理。
飛行場なんてものを用意する事も出来ないだろう。だから却下だ。
自動車やバイクはタイヤ部分がネック。タイヤに使えるゴムのような材料はこの辺には無い。
コルクを使ったらあっという間に崩れそうだ。馬車みたいに木の車輪だと振動でエンジンを壊しそうだし。
そうすると乗り物系は船……
船か。そうだ、蒸気動力の船なら何とかなりそうだ。
外洋に出るような船は大きすぎて買えないし作れない。でも沿岸や河川、運河用の小型船なら中古で案外安く買える。スキンケアグッズの売り上げが順調に伸びれば視野に入らないこともない値段だ。
普通の川船だと上流へ遡行する時に馬に引かせたり魔法を使ったりする。でも動力を積めば自由に行き来出来る訳だ。馬車ほど強烈な揺れも無いから俺が乗ってもきっと大丈夫。動力は蒸気タービンでいいだろう。
「こういうのはどうだ。そこの蒸気機関を使ってさ。漕がなくても進む船を作るなんてのは」
「おっ、何だそれ」
シンハ君が身を乗り出してきた。俺はアイデア帳にしているスケッチブックを出す。
「こんな感じでさ」
動力船を考えながら図に描いていく。
「ここにいる全員が乗るには全長3腕、幅1腕《2m》は必要だろう。確か河船の規格にそれくらいのがある筈だ。だから中古船を買って改造すれば安く済む」
「確かにそれくらいの川船なら中古でもあるな」
「ああ」
そして次は動力部だ。
「軸の防水処理が大変だから動力伝達部は船の最後尾につける。必然的に動力の蒸気機関は船の後ろ側だ」
図の船には後方部分半腕に蒸気機関とタービン、発電機を縦型にして詰め込んだ。その前は機関士席で、蒸気機関に燃料を入れる役。
操縦はワイヤで前で出来るようにすればいい。操縦系統は2系統。スクリュー出力上下と舵の左右。
「これだと横に動かすのが大変だから、横付けする時用に人力用の櫂も入れておこう。動力を積むから帆は必要無い。だから帆柱も外す」
図面がほぼ仕上がった。前世のモーターボートより後ろの機関部が大きいが、まあこんなものだろう。
「こんな感じかな。これで運河や河川を自由に動けるぞ」
「面白そうですね」
背後から予期していなかった声で返事がきた。
えっ、えっ。気がつくと敵、いや女子の皆さんに囲まれていた。いつの間に。
「面白そうな事をしていたので確認させてもらったのですわ」
アキナ先輩が俺の心を読んだかのように返事をする。この人は読心の魔法を持っていない筈。だのに何故わかったのだろう。
アキナ先輩はシモンさんの方を向く。
「それでシモンさん、今ミタキ君が説明して図に描いた船ですけれど、材料が揃った場合、実際に作る事は出来ますでしょうか」
「船本体さえ中古でいいから調達して貰えばね。動力はこの部屋で動いているアレとほぼ同じ造りだから難しくはないかな。材料が全部揃えば3日程度で作れるよ」
確かにシモンさんの魔法があればそれくらいで作ってしまうだろう。魔法で金属を延ばしたり曲げたりくっつけたり自由にできるから。
でもしかしだ。
「材料なんてそう揃わないでしょう。使う鉄とか銅とか相当な量ですし、中古船なんてそんなに安い額でちょうどいいのがあるとは思えないです」
そう、中古と言っても船は結構いいお値段する。長さ2腕半の最小サイズの20年ものでも動けば正金貨1枚位だ。
つまり俺たちは半ば夢のつもりで話していたのだ。しかしアキナ先輩は意味ありげに笑う。
「もし明後日までに材料が揃えば、夏休み中に出来ますね」
「うん、多分……」
日程的には確かにその通りだ。あくまで日程的には、だけれど。
「わかりましたわ。参考までにこの図を貰っていきますね」
アキナ先輩は有無を言わさず俺のスケッチブックを手に取って、こっちを向いて頭を下げた。
「急用が出来ましたので失礼いたします。それではごきげんよう」
そのままさっと向きを変えて部屋から出て行く。
突然の動きに俺たちは半ば唖然とした感じでただ見送るしか出来なかった。
扉が閉まった後、ミド・リーが若干弱い調子の声でつぶやく。
「まさかと思うけれど、船を用意するってんじゃないよね、きっと」
「まさか、だよなあ」
俺達は顔を見合わせる。
「ヨーコ先輩、何か貴族的に簡単に中古船を手に入れる方法ってありますか」
ナカさんがアキナ先輩と同じ大貴族のヨーコ先輩に尋ねた。
しかし先輩は首を横にふる。
「私には思いつかない。アキナ先輩、何を考えているんだろう」
「でもあれは確信ある目。きっと用意する」
これはアキナ先輩と付き合いの長いフールイ先輩の意見。
急な展開に俺たちはただ途方に暮れるだけだった。
しかし機械類の製造なんて俺達には手が出ない。俺が出来るのは企画と概念設計だけ。メインの製作はシモンさんに任せるしかない。
だから機械類を作るとすれば製作を楽しむという事では無い。使う事で俺達が楽しめるものを作るという事だ。
最初に思い浮かぶのは飛行機。しかしエンジン部分が作れそうにないし翼とかの設計も無理。
飛行場なんてものを用意する事も出来ないだろう。だから却下だ。
自動車やバイクはタイヤ部分がネック。タイヤに使えるゴムのような材料はこの辺には無い。
コルクを使ったらあっという間に崩れそうだ。馬車みたいに木の車輪だと振動でエンジンを壊しそうだし。
そうすると乗り物系は船……
船か。そうだ、蒸気動力の船なら何とかなりそうだ。
外洋に出るような船は大きすぎて買えないし作れない。でも沿岸や河川、運河用の小型船なら中古で案外安く買える。スキンケアグッズの売り上げが順調に伸びれば視野に入らないこともない値段だ。
普通の川船だと上流へ遡行する時に馬に引かせたり魔法を使ったりする。でも動力を積めば自由に行き来出来る訳だ。馬車ほど強烈な揺れも無いから俺が乗ってもきっと大丈夫。動力は蒸気タービンでいいだろう。
「こういうのはどうだ。そこの蒸気機関を使ってさ。漕がなくても進む船を作るなんてのは」
「おっ、何だそれ」
シンハ君が身を乗り出してきた。俺はアイデア帳にしているスケッチブックを出す。
「こんな感じでさ」
動力船を考えながら図に描いていく。
「ここにいる全員が乗るには全長3腕、幅1腕《2m》は必要だろう。確か河船の規格にそれくらいのがある筈だ。だから中古船を買って改造すれば安く済む」
「確かにそれくらいの川船なら中古でもあるな」
「ああ」
そして次は動力部だ。
「軸の防水処理が大変だから動力伝達部は船の最後尾につける。必然的に動力の蒸気機関は船の後ろ側だ」
図の船には後方部分半腕に蒸気機関とタービン、発電機を縦型にして詰め込んだ。その前は機関士席で、蒸気機関に燃料を入れる役。
操縦はワイヤで前で出来るようにすればいい。操縦系統は2系統。スクリュー出力上下と舵の左右。
「これだと横に動かすのが大変だから、横付けする時用に人力用の櫂も入れておこう。動力を積むから帆は必要無い。だから帆柱も外す」
図面がほぼ仕上がった。前世のモーターボートより後ろの機関部が大きいが、まあこんなものだろう。
「こんな感じかな。これで運河や河川を自由に動けるぞ」
「面白そうですね」
背後から予期していなかった声で返事がきた。
えっ、えっ。気がつくと敵、いや女子の皆さんに囲まれていた。いつの間に。
「面白そうな事をしていたので確認させてもらったのですわ」
アキナ先輩が俺の心を読んだかのように返事をする。この人は読心の魔法を持っていない筈。だのに何故わかったのだろう。
アキナ先輩はシモンさんの方を向く。
「それでシモンさん、今ミタキ君が説明して図に描いた船ですけれど、材料が揃った場合、実際に作る事は出来ますでしょうか」
「船本体さえ中古でいいから調達して貰えばね。動力はこの部屋で動いているアレとほぼ同じ造りだから難しくはないかな。材料が全部揃えば3日程度で作れるよ」
確かにシモンさんの魔法があればそれくらいで作ってしまうだろう。魔法で金属を延ばしたり曲げたりくっつけたり自由にできるから。
でもしかしだ。
「材料なんてそう揃わないでしょう。使う鉄とか銅とか相当な量ですし、中古船なんてそんなに安い額でちょうどいいのがあるとは思えないです」
そう、中古と言っても船は結構いいお値段する。長さ2腕半の最小サイズの20年ものでも動けば正金貨1枚位だ。
つまり俺たちは半ば夢のつもりで話していたのだ。しかしアキナ先輩は意味ありげに笑う。
「もし明後日までに材料が揃えば、夏休み中に出来ますね」
「うん、多分……」
日程的には確かにその通りだ。あくまで日程的には、だけれど。
「わかりましたわ。参考までにこの図を貰っていきますね」
アキナ先輩は有無を言わさず俺のスケッチブックを手に取って、こっちを向いて頭を下げた。
「急用が出来ましたので失礼いたします。それではごきげんよう」
そのままさっと向きを変えて部屋から出て行く。
突然の動きに俺たちは半ば唖然とした感じでただ見送るしか出来なかった。
扉が閉まった後、ミド・リーが若干弱い調子の声でつぶやく。
「まさかと思うけれど、船を用意するってんじゃないよね、きっと」
「まさか、だよなあ」
俺達は顔を見合わせる。
「ヨーコ先輩、何か貴族的に簡単に中古船を手に入れる方法ってありますか」
ナカさんがアキナ先輩と同じ大貴族のヨーコ先輩に尋ねた。
しかし先輩は首を横にふる。
「私には思いつかない。アキナ先輩、何を考えているんだろう」
「でもあれは確信ある目。きっと用意する」
これはアキナ先輩と付き合いの長いフールイ先輩の意見。
急な展開に俺たちはただ途方に暮れるだけだった。
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