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第3章 飽食の宴 ~夏休み合宿編・下~
第24話 見た目はいまいちな餡蜜もどき
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シンハ君が布を買って戻ってきた。なので買ってきた布を清拭魔法で綺麗にし、シモンさんに袋にして貰う。
この袋を大鍋に広げた形で入れて煮込んだ海藻を汁ごと中に入れる。布の上部分だけを熱魔法で冷やして、そこに竹棒を巻き込んでぐるぐる回すようにして中身を絞る。
絞って出た液体を一度冷やして固め、崩したら今度は凍結乾燥だ。
先ほどと同じくらいの鍋を持ってくる。
「シモンさん、またこの鍋を空気抜きできるように加工お願いします」
「任せて。うん、うん、これで大丈夫」
次はアキナ先輩の出番だな。
「そうしたらこのちょっと茶色いぷよぷよを中に浅く入れて、ここでアキナ先輩、がっつり凍らせてください」
「わかりました。これでどうかしら」
シモンさんの次はヨーコ先輩だ。
「今度は凍った状態でヨーコ先輩、空気抜きをお願いします」
「わかった。うーん、こんなものかな」
これで凍結乾燥という訳で。特殊魔法持ちが揃っているとお高い機械無しでも余裕。まあこの世界にそんな機械は無いけれど。
フリーズドライを繰り返して粉末状の寒天が完成。茶色い色がついてしまっているがまあいいか。天然由来だし仕方ない。
あとはこの粉状寒天で味なしの寒天とずんだ餡代用の羊羹とを作る。更に味なし寒天を適当な大きさに切ってずんだ餡をのせて上からちょっとゆるめにといた水飴をかけたあんみつもどきを作れば完成だ。
加熱も冷却も魔法があればあっさり出来る。そんな訳であんみつもどきとずんだ餡羊羹の試食会となる。
寒天がやや茶色くて餡が緑色で他に豆類とかサクランボは無い。その辺はいまいちなのだが、そんなの俺にしかわかるまい。
皆さんの評価はさあどうだ!
「これはいいな。何か幸せになりそうな味だ」
「うーん、ずっと食べていたくなるよね」
「こんな食べ物があるんですね」
無言で食べている奴を含め、皆さん幸せそうで宜しい。
俺としては少し味が素朴すぎる気がするのだが、それでも美味いことは美味い。特にこの地方は甘味が少ないから美味しく感じる。甘味なんて冗談じゃなく蜂蜜トーストくらいなのだ。
蜂蜜は高価だから滅多に買えないしさ。南国から輸入する白砂糖や北国の名産カエデ蜜は更に高価だし。
「甘いというのはこんなに美味しいのだな。何かしみじみ感じてしまった」
「蜂蜜とはまた別の味わいで、特にこのような料理になるとまたいいですわね」
「これも石鹸と同じように作って販売するの?」
そこで俺はふと考える。
麦芽糖の水飴、寒天、ずんだ餡。この辺の扱いはどうしようかと。
化粧品は贅沢品だから少量生産で充分、つまり俺達が作るのに適している。しかしこの水飴はもっと大量に生産して行き渡らせた方がいいのではないか。
そうすると一番いい手段は……
「シンハ、この辺の農家で特産物を作るつもりはないか?」
「えっ、どういう事だ?」
残念ながらシンハ君にはこれだけでは伝わらなかった。しかし大貴族の御令嬢2人は俺の台詞の意味を直ぐに理解した模様。
「いいのかミタキ」
「同じくですわ。これは独占すればかなりの利益を生むと思いますけれども」
確かにそうだろう。それは俺もわかっている。しかしだ。
「これは大量生産した方が楽しい材料だと思うんです。特にこの水飴は他にも使い道が多いでしょう。なら材料がそろうこの場所の産業にして貰えば、この地域一帯で一般的に手に入るようになると思います。ずんだみたいな甘味も他にもっと色々考案されると思いますし」
これでやっとシンハ君も話の内容を理解した模様だ。
「ミタキ、お前はそれでいいのか。その気になればこれは相当儲かる話だろ」
「この水飴が一般的になってさ、色々な人が工夫して色々な料理が出てくる方が楽しそうだろ」
「勿体ないよね。でも賛成」
これはミド・リーだ。
「確かにこれが気軽に手に入るようになると嬉しいな」
「同意」
「賛成です」
それでもシンハ君、納得していない様子だ。
「でもミタキ、本当にいいのか」
「スキンケアで十分儲かっているしさ。これ以上忙しくなるのも御免だ」
「なら早速親父に言ってくるぜ」
「まあ待て」
このまま飛び出しそうになるシンハを手で制す。
「今回は魔法を使って時間をだいぶ短縮して作ったけれどさ。魔法なしで作る方法もあるんだ。それをメモにしておく。そのメモと現物を持って行ったほうが説得力があるだろ。製法の他に簡単な調理法も書いておくから、それが出来てから持って行け」
ここからウージナのシンハの家まで馬車で6時間ちょっと。
しかし荷物が十分軽ければ馬車よりシンハが走ったほうが実は速い。奴は身体強化魔法も使えるし。
そんな訳で1時間後、
○ 俺が書いた水飴の製法
○ 同じく俺が書いたシンハ用父説得想定問答集
○ シモンさんが作った保冷効果のある小箱
○ アキナ先輩謹製のドライアイス
○ ずんだ餡、寒天、水飴
を持ってシンハが出る。
「明日には帰ってくるからな」
「ここを貸してもらったお礼もしておいて下さい」
「わかった」
シンハ君、だだーっと走っていってしまった。あっという間に見えなくなる。
俺は思わずため息をひとつついてしまった。
「あの体力が俺にもあったらなあ」
「ミタキは今のままで十分よ」
「いや、もう少し体力があったほうがいいと私は思うぞ」
ヨーコ先輩の台詞に頷く者、俺とミド・リー以外全員。
そうだよな。でも前世に比べればこれでもだいぶ動けるし楽しいぞ。俺の中にいる前世の俺がそう感じている。
この袋を大鍋に広げた形で入れて煮込んだ海藻を汁ごと中に入れる。布の上部分だけを熱魔法で冷やして、そこに竹棒を巻き込んでぐるぐる回すようにして中身を絞る。
絞って出た液体を一度冷やして固め、崩したら今度は凍結乾燥だ。
先ほどと同じくらいの鍋を持ってくる。
「シモンさん、またこの鍋を空気抜きできるように加工お願いします」
「任せて。うん、うん、これで大丈夫」
次はアキナ先輩の出番だな。
「そうしたらこのちょっと茶色いぷよぷよを中に浅く入れて、ここでアキナ先輩、がっつり凍らせてください」
「わかりました。これでどうかしら」
シモンさんの次はヨーコ先輩だ。
「今度は凍った状態でヨーコ先輩、空気抜きをお願いします」
「わかった。うーん、こんなものかな」
これで凍結乾燥という訳で。特殊魔法持ちが揃っているとお高い機械無しでも余裕。まあこの世界にそんな機械は無いけれど。
フリーズドライを繰り返して粉末状の寒天が完成。茶色い色がついてしまっているがまあいいか。天然由来だし仕方ない。
あとはこの粉状寒天で味なしの寒天とずんだ餡代用の羊羹とを作る。更に味なし寒天を適当な大きさに切ってずんだ餡をのせて上からちょっとゆるめにといた水飴をかけたあんみつもどきを作れば完成だ。
加熱も冷却も魔法があればあっさり出来る。そんな訳であんみつもどきとずんだ餡羊羹の試食会となる。
寒天がやや茶色くて餡が緑色で他に豆類とかサクランボは無い。その辺はいまいちなのだが、そんなの俺にしかわかるまい。
皆さんの評価はさあどうだ!
「これはいいな。何か幸せになりそうな味だ」
「うーん、ずっと食べていたくなるよね」
「こんな食べ物があるんですね」
無言で食べている奴を含め、皆さん幸せそうで宜しい。
俺としては少し味が素朴すぎる気がするのだが、それでも美味いことは美味い。特にこの地方は甘味が少ないから美味しく感じる。甘味なんて冗談じゃなく蜂蜜トーストくらいなのだ。
蜂蜜は高価だから滅多に買えないしさ。南国から輸入する白砂糖や北国の名産カエデ蜜は更に高価だし。
「甘いというのはこんなに美味しいのだな。何かしみじみ感じてしまった」
「蜂蜜とはまた別の味わいで、特にこのような料理になるとまたいいですわね」
「これも石鹸と同じように作って販売するの?」
そこで俺はふと考える。
麦芽糖の水飴、寒天、ずんだ餡。この辺の扱いはどうしようかと。
化粧品は贅沢品だから少量生産で充分、つまり俺達が作るのに適している。しかしこの水飴はもっと大量に生産して行き渡らせた方がいいのではないか。
そうすると一番いい手段は……
「シンハ、この辺の農家で特産物を作るつもりはないか?」
「えっ、どういう事だ?」
残念ながらシンハ君にはこれだけでは伝わらなかった。しかし大貴族の御令嬢2人は俺の台詞の意味を直ぐに理解した模様。
「いいのかミタキ」
「同じくですわ。これは独占すればかなりの利益を生むと思いますけれども」
確かにそうだろう。それは俺もわかっている。しかしだ。
「これは大量生産した方が楽しい材料だと思うんです。特にこの水飴は他にも使い道が多いでしょう。なら材料がそろうこの場所の産業にして貰えば、この地域一帯で一般的に手に入るようになると思います。ずんだみたいな甘味も他にもっと色々考案されると思いますし」
これでやっとシンハ君も話の内容を理解した模様だ。
「ミタキ、お前はそれでいいのか。その気になればこれは相当儲かる話だろ」
「この水飴が一般的になってさ、色々な人が工夫して色々な料理が出てくる方が楽しそうだろ」
「勿体ないよね。でも賛成」
これはミド・リーだ。
「確かにこれが気軽に手に入るようになると嬉しいな」
「同意」
「賛成です」
それでもシンハ君、納得していない様子だ。
「でもミタキ、本当にいいのか」
「スキンケアで十分儲かっているしさ。これ以上忙しくなるのも御免だ」
「なら早速親父に言ってくるぜ」
「まあ待て」
このまま飛び出しそうになるシンハを手で制す。
「今回は魔法を使って時間をだいぶ短縮して作ったけれどさ。魔法なしで作る方法もあるんだ。それをメモにしておく。そのメモと現物を持って行ったほうが説得力があるだろ。製法の他に簡単な調理法も書いておくから、それが出来てから持って行け」
ここからウージナのシンハの家まで馬車で6時間ちょっと。
しかし荷物が十分軽ければ馬車よりシンハが走ったほうが実は速い。奴は身体強化魔法も使えるし。
そんな訳で1時間後、
○ 俺が書いた水飴の製法
○ 同じく俺が書いたシンハ用父説得想定問答集
○ シモンさんが作った保冷効果のある小箱
○ アキナ先輩謹製のドライアイス
○ ずんだ餡、寒天、水飴
を持ってシンハが出る。
「明日には帰ってくるからな」
「ここを貸してもらったお礼もしておいて下さい」
「わかった」
シンハ君、だだーっと走っていってしまった。あっという間に見えなくなる。
俺は思わずため息をひとつついてしまった。
「あの体力が俺にもあったらなあ」
「ミタキは今のままで十分よ」
「いや、もう少し体力があったほうがいいと私は思うぞ」
ヨーコ先輩の台詞に頷く者、俺とミド・リー以外全員。
そうだよな。でも前世に比べればこれでもだいぶ動けるし楽しいぞ。俺の中にいる前世の俺がそう感じている。
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