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プロローグ 最初の開発品

第5話 蚊取り線香製造過程

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 今日は待ちに待っていた週に一度の安息日。なおこの世界の1週間は6日で、最後の1日が安息日でお休みである。

 そして休みだから朝から蔵の中に籠もって蚊取り線香の試作。なお蚊取り線香、作り方は面倒くさいが原理は簡単。

  ① 乾かしていた木の枝や葉っぱを石臼で粉にする
  ② 乾かしていたファントゥナの花を石臼で粉にする
  ③ ①と②とを混ぜ合わせて水で練る
  ④ 練った材料を渦巻き状の溝を掘った板に押しつけ渦巻き状に成形する
  ⑤ 型から取りだして乾かす

 こんな感じ。

 勿論石臼で粉にするなんて作業、俺の体力では効率が良くない。いつも通りシンハ君にご協力願う訳だ。

「何か最近、ミタキも怪しい事ばかりしているような気がするな。ミド・リーの趣味でもうつったか。同じ錬金術研究会に入ったというし」

「やめてくれ。俺はあんな根拠なしに作業をしている訳じゃ無い」

「充分同類に見えると思うけれどな。まあ昼飯をおごってくれるならいいけど」

 相変わらず貧乏思考なシンハ君だ。それでも昼飯だけで手伝ってくれるとは本当に有り難い。

 まあ割と何でも断らない奴なんだけれどさ、シンハ君は。いい奴なのだ、色々な意味で。

「今日の昼食はうちの商会の新商品の試作品の予定だ。食べたことのない物が出てくると思う」

「試作といって外れの味だと悲しいぞ」

「大丈夫、俺も何度か試食している。味には折り紙付きだ」

「ならちょっとは期待してやろう」

 そんな訳でシンハ君は石臼ごろごろ作業、俺は粉を練り練り作業を開始。

「ところで今作っている薄い茶色の物は何なんだ?」

 そろそろ教えてもいいだろう。

「部屋の中で使うと蚊がいなくなるという画期的な新製品だ」

「そんなのどうやって思いついたんだよ」

「色々文献を読んだらそんな物が作れそうな気がして」

「怪しいな。まあいいけれどな」

 一旦製造が軌道に乗るとまあ順調に蚊取り線香が出来ていく。ほとんどは石臼をごろごろやってくれるシンハ君のおかげだ。

 これも水車動力とかあれば便利なんだろうな。この辺は街中だし適当な水路は無いけれど。

 やがて石臼の動力が疲れてきた。そろそろ頃合いかな。見本品は十分出来たしそろそろいいか。

「お疲れ。石臼作業はその辺でいいや。ありがとう」

「こんな物でいいのか」

「今回は見本品だけでいいからさ。これだけあれば充分だ」

 ちょうど30巻ほど蚊取り線香が出来ている。

「残った粉はこの中に入れて、粉にする前の花の方もここに入れてと」

 湿気を防ぐため材料を茶箱に入れて片付ければちょうど昼だ。

「さて昼飯を持ってくる。ちょい待っていろよ」

 本日の昼食は店頭配布中のマヨネーズ料理試作品の横流し。無論父母や姉の了解はとってある。
 内容はツナマヨサンド、タマゴマヨ野菜サンド、サバタルタルサンド。シンハ君は大食いなので俺の分とあわせて3人前をお盆に取ってくる。

「何だこれは、サンドイッチにしては中身が見慣れないが」

「騙されたと思って食べてみてくれ」

 そう言って俺はまずツナマヨサンドからいただく。うん悪くない。

 それを見てシンハ君も同じツナマヨサンドを手に取った。奴は脳筋のくせに慎重派だったりするのだ。
 シンハ君は一口頬張り、目を瞑って味を確認している。

「何だこれは。食べたこと無いけれど美味いぞ」

「これも俺が考案した調味料で明日から販売予定。売れると俺に小遣いが入る仕組みになっている」

「これなら売れるな。おっこっちも美味い。これタマゴか?」

「ああ、茹で卵をあの調味料と和えた奴だ」

「これはいくらで売るつもりだ」

 あ、シンハめ、これ気に入ったな。よしよし、ならばこの先は簡単だ。

「取り敢えず小瓶1個あたり正銅貨5枚500円の予定だ」

 俺はあくまでいつも通りの口調でそうシンハ君に告げる。

「やっぱり結構な値段するな」

 あからさまにがっかりしたシンハ君。しかし話はまだ終わっていない。
 俺は彼の前に用意して置いた小瓶を取り出す。

「シンハには色々世話になっているしな。取り敢えずお礼という事で」

「いいのか」

 そう言いつつも既にシンハ君の手は小瓶を掴んでいる。正直な奴め。まあそれでこそシンハ君なのだが。

「なお瓶が空になった場合、中身詰め替えだと正銅貨4枚400円な」

「結構高いな、やっぱり」

 まあ調味料としては安い方ではないだろう。香辛料とかは別として。
 しかし俺達には明日がある。いや、明日と言うほど早くはないけれど、儲けられる未来が。

「安心しろ。この虫除けが売れればこんなもの幾らでも買える。そこで食べ終わったら頼みがある」

「何だ?」

 シンハ君はサバタルタルサンドを頬張りつつ尋ねる。
 なおこのサバタルタル、今回のサンドイッチの中で一番のお勧めだ。というのはまあ、別の話として。
 俺は用意していて瓶をもう1個、シンハ君の前に置く。

「もう1個このソースを進呈する。だからまたファントゥナの花を採取するのを手伝ってくれ。花が咲いているうちに出来るだけ収穫しておきたいんだ」

「それ位なら簡単だな」

 そう言ってくれると大変有り難い。何せ俺の体力は丘への往復だけで終了してしまうから。
 石臼作業も俺の腕力では無理だし。
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