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プロローグ 最初の開発品

第1話 はじまり

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 街から少し東、海沿いの丘陵地帯。その白い花はそこここに咲き誇っていた。

 改めて鑑定魔法で確認する。
『地球のシロバナムシヨケギクと同系統の花。同様に胚珠部分にピレトリンを含んでいる』
 よし、これに間違いない。

「シンハ、この花だ。この花の花部分、ここより上の部分を取って袋に入れてくれ」

「よしきた。でもこの花で本当にいいのか。単なる雑草だろ」

「うまく行けば儲かる筈だ。ただし時間と手間がある程度必要だけれどさ。まあ長い目でみてくれると助かるな。うまく行けば夏頃には牙ウサギ狩りする以上の金は手に入ると思うぞ」

 牙ウサギとはその名の通り牙の生えた凶暴なウサギ。魔獣では無いが畑を荒らすし繁殖力最強。しかもその名の通り牙を持っていて結構手強く無茶苦茶素早い。
 ただしその肉はなかなか美味だったりする。

 そんな訳で農場組合へ死体を持っていくと報奨金が出るのだ。死体の状況にもよるが買い取り価格は最低でも1匹小銀貨1枚1,000円以上。

 シンハ君の腕なら一日頑張れば3匹程度はいけるかもしれない。俺だと逆襲されて怪我するか体力不足で倒れるかだけれども。

 あまり効率のいい稼ぎ方では無いが中等学生には他に稼ぐ宛てなど無いのだ。普通の場合は。
 
 そんな訳で俺とシンハ君は白い花を摘みまくっては麻袋の中へ放り込む。何せ雑草扱いの草花だから遠慮はいらない。

「花びらはいらないからな。必要なのは花びらの元のここの膨らみ部分だ」

「こんなの何に使うんだ」

「うまくいったら説明するよ。何ならその前にまずは前渡し金でも渡しておこうか。今は小銀貨1枚1,000円程度しか出せないけれど」

「いいよ、お前だって懐は豊かじゃないだろ。いつもの昼食のお裾分けで充分だ」

「悪いな。何せ俺の体力が体力だからさ」

 俺の体力ではこの丘まで来るのがやっと。ここから大量の荷物を持って降りる体力気力ともに残っていない。

 だがシンハ君は貧乏子爵家の次男ながらも仮にも貴族の子弟。小さい頃から剣術等を習っていて体力は売るほどある。
 頭の中身は本人もいまひとつと認めているけれどさ。

「それにしてもミタキ、お前最近変わったよな。突然授業の成績は良くなるし、何か色々植物やら何やらを研究しはじめたし」

「まあ心境の変化という奴だ。気にするな」

「何かお前だけが急に何処かへ行ってしまいそうで不安なんだけどさ」

「俺の体力じゃ何処か行く前にばてて倒れているっちゅーの」

「それもそうだな」

 何処か行くってそういう意味だったのか!
 そういうツッコミは無しの方向で。

 俺、ミタキ・バーシ14歳。ウージナ王立学校中等部1年生。親はぱっとしない商会をこのウージナの街で経営中。

 シンハが言う変わったというのは一月前のこと。流行風邪にかかったのがきっかけだった。

 俺は元々体力は無いが、それでも病気はしない方だった。
 正確には体力が無いので病気にならないようにしていたというのが正しい。

 そんなわけで流行風邪にかかったのも初めて。
 体力が無いので思い切りよく高熱を出して寝込んでしまった。熱い身体、くらっとする視界、生成りの木綿布団と板仕上げの天井。
 そんな中でうんうん唸っていた俺を、ふと何か既視感が襲ったのだった。

『あれは白い天井だったな……』

 この世界の天井は板仕上げが普通。だから白い天井なんてまず存在しない。

 その白い天井を見ているのはうんうん布団でうなっている俺……
 いや違う。俺はこんな白い天井で白い壁のこんな部屋にいた憶えは無い。

 それにベッドの横に色々見覚えない物品が置かれている。見慣れない白い服を着た男女が動き回っていたりもする。

 これは……そうか。
 俺は思い出した。かつて、ここでない世界に生きていたことを。

 かつての俺は人生のほとんどを病院で過ごしていた。生まれつき身体が弱くて、ひとつ病気がおさまると次の病気が顔を出す状態。

 だから病院から外へ出ることはほとんど無かった。不憫に思った両親が買い与えてくれたのがインターネットを閲覧可能なノートパソコンと様々な書籍類。

 それらで学校へと通う同い年の連中と同等の学力を身につけながら、様々な情報を読みあさっていた訳だ。いつか学校とやらに通う日とかを夢見ながら。
 結局は18歳で色々病気が併発して死んでしまうのだけどさ。

 でもまあ、そうやって生きていたかつての俺の事を、俺は思い出したのだ。病院の外への想いとかため込んだ知識とかも一緒に。

 さて、ここアストラム国がある世界サンヨードには、かつての俺がいた世界と違い、魔法という物が存在する。
 そのかわり科学の進歩は大分遅い。まだ産業革命以前の段階だ。

 そして大体の人間が魔法を使える。
 ただし人によって使える魔法は色々違う。誰でも使える簡単な日常魔法の他、遺伝で伝わる特殊な魔法があるのだ。金属加工可能な位の強烈な熱操作もあれば、加工や工作に適した魔法なんてものまで。
 ちなみに一番人気は治療魔法だ。

 ただし特殊魔法はあくまで遺伝で伝わる物。最初から持っていないのに習得するのはまず不可能だ。
 そんな訳でどんな特殊魔法を持っているかで人生の有利不利が出てしまう。

 例えば貧乏子爵家の御曹司であるシンハ・クシーマ君は身体強化魔法と体力増強魔法持ち。
 これは騎士だの戦士だのになるには非常に有利な特殊魔法だ。何でもご先祖がこの魔法で一騎当千の戦いぶりをみせたらしい。

 そして商家の次男坊の俺ことミタキ・バーシが持つのは鑑定魔法。対象物がどんな物か、物の実態を自分の知識で理解できるよう鑑定する魔法だ。

 確かに商家にとっては便利な魔法だ。しかし学生としては使い処が無い。いまいちぱっとしない外れ魔法、俺はそう思っていた。

 しかしもうひとりの俺の記憶が目覚めて、全てが変わった。鑑定魔法とかつての俺の知識が結びついたのだ。

 かつての俺の知識が対象物がどんな物であり、地球ではどのように使われていたかを鑑定してくれる。勿論かつての俺と今の俺の知識の範囲内で理解できる程度にだけれども。

 それと同時に周りの世界に対する感じ方が変わった。もう見る物何でも何か楽しい。

 そう、今の俺はかつての俺がしたくても出来なかった事を体験しているのだ。
 データでしか知らなかった草や木、色々な物を実際に見たり触ったり出来る。実際に自分の五感で確かめられる。

 そして以前の世界とこの世界、世界こそ違うけれど植物も動物も結構似たようなものが多いのだ。まあ人間がいる時点でもう同じだけれど。

 そして俺はある日、ある白い花をつける雑草を見つけた。そこから俺の物語は広がりはじめる事になった訳だ。
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