3 / 5
#3 僕は思ってしまった
しおりを挟む
お別れした人の身体は少ない資源を補う為に投入される。例えば食事の肉とか、石鹸等に使用する油脂だとかの材料となる訳だ。
別にそれに良い悪いも無い。単なる現実。少なくとも僕はそう思っていたしそれを受け入れていた。
しかし今、僕は気づいてしまったのだ。アキコ姉とお別れしたら、アキコ姉もまたそうなってしまうという事に。
変な感情かもしれない。少なくともこの団地の規則からは外れている。
しかし僕はこの時、それは嫌だと強く思った。アキコ姉とお別れしたくない。そう思ってしまった。
だから僕はつい言ってしまう。
「アキコ姉、僕からもお願いがあります」
「何かな?」
アキコ姉はちょっと首を傾げて尋ねる。
「散歩に付き合って下さい。長い散歩に」
アキコ姉は少しの間考えるような素振りをした後、ゆっくりと頷いた。
「いいよ。それでどんな用意をしていけばいいかな?」
思ってもみなかった質問をされてしまう。用意をする、か。
ただの散歩なら用意は必要ないだろう。アキコ姉は僕の考えに気づいたのだろうか。今の質問の意味がわかってしまったのだろうか。
しかし僕はこの質問を利用しようと思った。ちょうどいいと思うことにした。
「食べ物を持てるだけ。次に服を持てるだけ。蓋をして水を入れられるものがあったらそれも一緒に」
此処を離れて遠くまで行けるように。そんな用意だ。
もちろん僕が言ってこの用意、常識的などう考えても怪しいし常識から外れている。
それでもアキコ姉は頷いた。
「長い散歩になりそうだね。でもいいの、ミナト君。帰れなくなっても」
やっぱりアキコ姉、僕の考えに気づいているとしか思えない。
ここは確認した方がいいだろう。
「何でそう思いますか」
「顔に書いてあるもの」
あっさり。勿論本当に書いてあるわけは無い。
でも僕はアキコ姉の返答に驚きつつもちょっとだけほっとしている。これでアキコ姉にこれからどうするか、ごまかしたり騙したりする必要が無くなったから。
「ただ、ミナト君はこの調子でいけば大人になれるでしょ。ここで無茶することはないと思うの」
「でもそうやって大人になって何が残るんですか」
そこへの疑問が今の僕の行動になったのだ。
「自分の子孫を未来に残せるわ。それは学校でも習ったでしょ」
そう、習って知っている。今まではそれが当然だとも思っていた。しかし……
「そうかもしれないけれど、でも思ったんです。それに……」
僕はつい思ってしまった事を口に出す。
「僕が残したいとすれば、アキコ姉と僕との子孫を残したい」
言ってしまってふと恥ずかしくなる。僕はとんでもない事を言っているのではないだろうか、そう感じたから。
子供を作る方法は知っている。決められた日にシステムに選ばれた相手と性交する事だ。身体の調子や状況をシステムが管理調整した上での事なので、数日生活を共にして性交すればほぼ確実に妊娠する。
妊娠した女性は専用の管理居住区に移り出産。子供が乳離れするまでそこで暮らす。男性は再びシステムにマッチングされるか25歳になるまで普段の生活を送る。そんな方法だ。
相手は遺伝子を解析した上でシステムによって決められる。仮にアキコ姉がお別れにならないで、僕も大きくなったとしても、子孫を残す相手がアキコ姉になる可能性はかなり低い。
その事はわかっているし特に疑問を感じた事は無かった。なのに僕は今、何を考えているのだろう。何を言ってしまったのだろう。とんでもなく恥ずかしい事を言ったんじゃないだろうか。
「わかったわ。それじゃ準備をしてくる。用意できたら声をかけるね」
アキコ姉は特にいつもと変わらない感じで自分のブースへ。その事にほっとしつつ、僕も自分のブースに入り荷造りを始める。
学校通学用の背負いカバンに下着類とか服を詰める。本当はもっと大きいカバンがあればいいのだけれど使えるカバンはこれだけ。それでも配給制で最小限度しか無い衣服はあっさりこのカバンに入ってしまう。
あとは非常用の食糧缶と乾パンと食事で残したブロックと。水筒代わりにプラボトルもある分は入れておこう。
これでカバンは目一杯。あとは寝具のタオルケットを畳んで紐でしばってカバンにくっつける。
これ一枚あれば何かの役に立つだろう。寝場所の代わりには少し薄くて寒いかもしれないけれど。
あとはあの拾ったコロニーの図面を印刷して折りたたみ胸ポケットへ。取り敢えずここを出るまでは役に立つだろうから。
あと思いついてあの拾った記録媒体をカバンの内ポケットに入れる。これはまあ、御守りみたいなもの。
最後に非常用の懐中電灯をカバンの外ポケットに入れれば終わり。元々個人の持ち物なんてそんなにある訳じゃ無い。教科書と本と枕、それに敷き布団を置いていくだけだ。
ブースの外に出るとアキコ姉がプラボトルに水を汲んでいた。僕もそれに倣ってプラボトル四本に水を汲む。
「案外簡単なものね。荷物もそんなに無かったし」
アキコ姉の装備も見た限り僕と同じ感じだ。配られている物が共通だからしょうがないけれど。
別にそれに良い悪いも無い。単なる現実。少なくとも僕はそう思っていたしそれを受け入れていた。
しかし今、僕は気づいてしまったのだ。アキコ姉とお別れしたら、アキコ姉もまたそうなってしまうという事に。
変な感情かもしれない。少なくともこの団地の規則からは外れている。
しかし僕はこの時、それは嫌だと強く思った。アキコ姉とお別れしたくない。そう思ってしまった。
だから僕はつい言ってしまう。
「アキコ姉、僕からもお願いがあります」
「何かな?」
アキコ姉はちょっと首を傾げて尋ねる。
「散歩に付き合って下さい。長い散歩に」
アキコ姉は少しの間考えるような素振りをした後、ゆっくりと頷いた。
「いいよ。それでどんな用意をしていけばいいかな?」
思ってもみなかった質問をされてしまう。用意をする、か。
ただの散歩なら用意は必要ないだろう。アキコ姉は僕の考えに気づいたのだろうか。今の質問の意味がわかってしまったのだろうか。
しかし僕はこの質問を利用しようと思った。ちょうどいいと思うことにした。
「食べ物を持てるだけ。次に服を持てるだけ。蓋をして水を入れられるものがあったらそれも一緒に」
此処を離れて遠くまで行けるように。そんな用意だ。
もちろん僕が言ってこの用意、常識的などう考えても怪しいし常識から外れている。
それでもアキコ姉は頷いた。
「長い散歩になりそうだね。でもいいの、ミナト君。帰れなくなっても」
やっぱりアキコ姉、僕の考えに気づいているとしか思えない。
ここは確認した方がいいだろう。
「何でそう思いますか」
「顔に書いてあるもの」
あっさり。勿論本当に書いてあるわけは無い。
でも僕はアキコ姉の返答に驚きつつもちょっとだけほっとしている。これでアキコ姉にこれからどうするか、ごまかしたり騙したりする必要が無くなったから。
「ただ、ミナト君はこの調子でいけば大人になれるでしょ。ここで無茶することはないと思うの」
「でもそうやって大人になって何が残るんですか」
そこへの疑問が今の僕の行動になったのだ。
「自分の子孫を未来に残せるわ。それは学校でも習ったでしょ」
そう、習って知っている。今まではそれが当然だとも思っていた。しかし……
「そうかもしれないけれど、でも思ったんです。それに……」
僕はつい思ってしまった事を口に出す。
「僕が残したいとすれば、アキコ姉と僕との子孫を残したい」
言ってしまってふと恥ずかしくなる。僕はとんでもない事を言っているのではないだろうか、そう感じたから。
子供を作る方法は知っている。決められた日にシステムに選ばれた相手と性交する事だ。身体の調子や状況をシステムが管理調整した上での事なので、数日生活を共にして性交すればほぼ確実に妊娠する。
妊娠した女性は専用の管理居住区に移り出産。子供が乳離れするまでそこで暮らす。男性は再びシステムにマッチングされるか25歳になるまで普段の生活を送る。そんな方法だ。
相手は遺伝子を解析した上でシステムによって決められる。仮にアキコ姉がお別れにならないで、僕も大きくなったとしても、子孫を残す相手がアキコ姉になる可能性はかなり低い。
その事はわかっているし特に疑問を感じた事は無かった。なのに僕は今、何を考えているのだろう。何を言ってしまったのだろう。とんでもなく恥ずかしい事を言ったんじゃないだろうか。
「わかったわ。それじゃ準備をしてくる。用意できたら声をかけるね」
アキコ姉は特にいつもと変わらない感じで自分のブースへ。その事にほっとしつつ、僕も自分のブースに入り荷造りを始める。
学校通学用の背負いカバンに下着類とか服を詰める。本当はもっと大きいカバンがあればいいのだけれど使えるカバンはこれだけ。それでも配給制で最小限度しか無い衣服はあっさりこのカバンに入ってしまう。
あとは非常用の食糧缶と乾パンと食事で残したブロックと。水筒代わりにプラボトルもある分は入れておこう。
これでカバンは目一杯。あとは寝具のタオルケットを畳んで紐でしばってカバンにくっつける。
これ一枚あれば何かの役に立つだろう。寝場所の代わりには少し薄くて寒いかもしれないけれど。
あとはあの拾ったコロニーの図面を印刷して折りたたみ胸ポケットへ。取り敢えずここを出るまでは役に立つだろうから。
あと思いついてあの拾った記録媒体をカバンの内ポケットに入れる。これはまあ、御守りみたいなもの。
最後に非常用の懐中電灯をカバンの外ポケットに入れれば終わり。元々個人の持ち物なんてそんなにある訳じゃ無い。教科書と本と枕、それに敷き布団を置いていくだけだ。
ブースの外に出るとアキコ姉がプラボトルに水を汲んでいた。僕もそれに倣ってプラボトル四本に水を汲む。
「案外簡単なものね。荷物もそんなに無かったし」
アキコ姉の装備も見た限り僕と同じ感じだ。配られている物が共通だからしょうがないけれど。
20
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
錬金術師と銀髪の狂戦士
ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。
「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。
しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
【完結】Transmigration『敵陣のトイレで愛を綴る〜生まれ変わっても永遠の愛を誓う』
すんも
SF
主人公の久野は、あることをきっかけに、他人の意識に潜る能力を覚醒する。
意識不明の光智の意識に潜り、現実に引き戻すのだが、光智は突然失踪してしまう。
光智の娘の晴夏と、光智の失踪の原因を探って行くうちに、人類の存亡が掛かった事件へと巻き込まれていく。
舞台は月へ…… 火星へ…… 本能寺の変の隠された真実、そして未来へと…… 現在、過去、未来が一つの線で繋がる時……
【テーマ】
見る方向によって善と悪は入れ替わる?相手の立場にたって考えることも大事よなぁーといったテーマでしたが、本人が読んでもそーいったことは全く読みとれん…
まぁーそんなテーマをこの稚拙な文章から読みとって頂くのは難しいと思いますが、何となくでも感じとって頂ければと思います。
ルーインド東京
SHUNJU
SF
2025年(令和7年)
東京オリンピックの開催から4年。
日本は疫病流行の完全終息を経て、今まで通りの日常へと戻っていった。
巣鴨に住むごく一般的な女子中学生、平井 遥は
ゴールデンウィークに家族みんなで大阪万博へ行く計画を立てていたが、
しかし、その前日に東京でM8.8の大規模な巨大地震が発生した。
首都機能存亡の危機に、彼女達は無事に生きられるのか・・・?
東京で大震災が発生し、首都機能が停止したら
どうなってしまうのかを知っていただくための震災シミュレーション小説。
※本作品は関東地方での巨大地震や首都機能麻痺を想定し、
膨大なリサーチと検証に基づいて制作された小説です。
尚、この物語はフィクションです。
実在の人物、団体、出来事等とは一切関係ありません。
※本作は複数の小説投稿サイトとの同時掲載となりますが、
当サイトの制限により、一部文章やセリフが他サイトと多少異なる場合があります。
©2021 SHUNJUPROJECT
グラディア(旧作)
壱元
SF
ネオン光る近未来大都市。人々にとっての第一の娯楽は安全なる剣闘:グラディアであった。
恩人の仇を討つ為、そして自らの夢を求めて一人の貧しい少年は恩人の弓を携えてグラディアのリーグで成り上がっていく。少年の行き着く先は天国か地獄か、それとも…
※本作は連載終了しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
夜明けのムジカ
道草家守
SF
300年前の戦争で文明が断絶した世界。
歌うことで奇械を従えることができる探掘屋の少女ムジカは、暴走する自律兵器に襲われる中、美しき『人型』青年兵器に救われる。
しかし「ラストナンバー」と名乗った彼はそれ以外の記憶を失っていたにもかかわらず、ムジカを主人に選んだという。世に存在しないはずの人型兵器が明るみに出れば、ムジカの平穏な日常は奪われてしまう。
主人登録が解除ができないことを知った彼女は、しかたなく彼にラスと名前付け「人間のふり」を命じて暮らし始めたのだった。
かたくなに一人を貫く少女と、心を知らぬ青年兵器の、想いを信じるための物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/sf.png?id=74527b25be1223de4b35)
日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!
黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。
でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。
この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。
CoSMoS ∞ MaCHiNa ≠ ReBiRTH
L0K1
SF
機械仕掛けの宇宙は僕らの夢を見る――
西暦2000年――
Y2K問題が原因となり、そこから引き起こされたとされる遺伝子突然変異によって、異能超人が次々と誕生する。
その中で、元日を起点とし世界がタイムループしていることに気付いた一部の能力者たち。
その原因を探り、ループの阻止を試みる主人公一行。
幾度となく同じ時間を繰り返すたびに、一部の人間にだけ『メメント・デブリ』という記憶のゴミが蓄積されるようになっていき、その記憶のゴミを頼りに、彼らはループする世界を少しずつ変えていった……。
そうして、訪れた最終ループ。果たして、彼らの運命はいかに?
何不自由のない生活を送る高校生『鳳城 さとり』、幼馴染で彼が恋心を抱いている『卯月 愛唯』、もう一人の幼馴染で頼りになる親友の『黒金 銀太』、そして、謎の少女『海風 愛唯』。
オカルト好きな理系女子『水戸 雪音』や、まだ幼さが残るエキゾチック少女『天野 神子』とともに、世界の謎を解き明かしていく。
いずれ、『鳳城 さとり』は、謎の存在である『世界の理』と、謎の人物『鳴神』によって、自らに課せられた残酷な宿命を知ることになるだろう――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる