ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録4 帰りたい場所

21 帰りたい場所(エミリア視点)

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「なら教育局の方も、今後は正常化していくと思っていいのね」
 
 リディナの言葉に、私は頷く。

「ええ。国立学校もナイケ教会色を一掃します。ナイケ教会そのものについても、新聞記事で出ている通りです」

 今回の件に関わった教皇以下は収監され、ナイケ教会から追放。
 ナイケ教会は関わっていなかった者を中心に、立て直しを図ることになった。

 それでもエールダリア教会のように、完全に国内拠点を潰す事にならないらしい。
 国の教育関係から手を引いて、教会と道場の運営に専念する形で落ち着くようだ。

「見たわ。要はエールダリア教会の時の失敗を繰り返さないという事ね。ナイケ教会を潰して被害が多数に及ぶ事も、次は学校や教育を他教会に委ねない事も」

「ええ、その方針です」

 リディナは、ほぼ全て把握済みという事だろう。
 新聞、あるいは私が知らない情報網経由で。

「ただこの件で、リディナには大変面倒をかけてしまったと思います。それに有名になった事で、今後活動しにくくなったという事もあるかもしれません」

 あの審判で見せた強さ、そしてアコルタ子爵の師匠だという事実。
 注目されるのは間違いない。
 その結果、影響がカラバーラの本拠の方に及ぶ可能性は、充分に考えられるのだ。

「その辺はまあ、仕方ないかな。ただ私の拠点はカラバーラの街から結構離れているし、カラバーラの街そのものもここからは遠いからね。すぐには面倒な事にはならないと思うよ」

 確かに一般の平民にとって、カラバーラは遠すぎる。
 しかしだ。

「それでも、貴族等の有力者が面倒な事を言ってくる可能性は、否定できないと思うのです」

 ここまでが前置きだ。エクセスタ伯爵から下命を受けた件についての。
 ここからが本題だ。私は頭の中で言うべきことを確認して、そして口に出す。

「現在の教育局トップのエクセスタ伯爵から話が出ています。リディナの能力にふさわしく、安全なポストを教育局の方で用意させていただこうと。具体的には王都に新設する義務教育学校の総校長か、それ以外が良ければ本部の課長級のポストとなります」

 今の私は管理官級で、本部ポストで言えば課長代理級。
 課長級はそれより上になるけれど、エクセスタ伯爵が確約しているし、リディナなら問題ないと思うのだ。
 あとは、付帯条件その他について。

「こちらを受けていただければ、貴族等有力者がらみの面倒な事があっても、国王庁経由で抑えることが可能です。また住居等についても、こちらの方で安全な場所を手配できます。という事で、どうでしょうか。もちろん答えはすぐに出さなくても大丈夫ですけれども」

 条件としては破格に近い筈だ。
 ただそれでも、私はある予感がしていた。

 リディナは頷いて、口を開く。

「とてもいい話なのは、私にもわかるの。地位だけでなく、やりがいもあるだろうしね。それだけ認めてもらえるなんて、本当にありがたいとは思う」

 リディナはそこで言葉を一度切る。
 しかしここまでの彼女の言葉で、私には結論は見えてしまった。 

 それでも気になることがまだ残っている。
 そこは大丈夫なのか、解決できるのか。
 私は再び話始めたリディナの口元を眺めながら、話を聞き続ける。

「ただね、私はもう帰るべき場所、ううん、帰りたいと思う場所が出来てしまったの。場所というか人と言うか、その人がいる場所と言うべきかは難しいんだけれど。だからごめんね、せっかくのいい話なんだけれど」

 そう、断られるだろうというのは、さっきの言葉でもうわかっていた。
 だから気になるのは、この先だ。

「あと、面倒なことというのは、多分大丈夫。この義務教育協議会の話を受ける時に、対策について話し合ってそれなりの事を約束してもらったから。詳細についてミリィに言えないのは申し訳ないんだけれど」

 何処を相手にこの話を受けて、今後の件について約束したか。
 それについては私は知らない。
 リディナの私塾というか勉強会についての情報、そして特別報告者としてリディナを招くという判断は、エクセスタ伯爵から下りてきたものだ。
 
 リディナの背後には国王家、そして冒険者ギルドの存在があるのではないか。
 多くの新聞ではそう推測している。

 可能性としては充分あり得ると、私は思っている。
 そしてその辺が本当かどうか、私は確かめる気はない。

 どうであれリディナが安全で、そして生活に問題無いなら。
 私としては、それで充分だ。

「なら仕方ありません。エクセスタ伯爵には断られた旨、伝えておきましょう。それにしても帰りたいと思う場所が出来た、ですか。良かったです」

 先程の言葉は嘘では無いと感じた。
 かつての友人としての勘以外に根拠はないけれど。

 リディナは私から少し目をそらして、そして微笑んだ。

「まあ普通と少し違う形かもしれないけれどね」

「どんな形であろうと、自分がそう思えるならそれでいいと思うのです。おめでとうございます」
 
 これは私の本心だ。
 あと、もう少しだけ付け加えさせて貰おう。

「いつか私も行ってみたいですね。出来ればイーリアとサアラも一緒に」

 そして、会いたいと思うのだ。
 リディナの先程の言葉は、『帰りたい』と思うのは『その人がいる場所』。
 リディナがそんな事を言える、そう思える相手と。

 きっと素敵な人なんだろうと思う。
 リディナの目は信用出来るから。
 
 リディナは大きく頷いて、こう言ってくれた。

「ミリィ達なら大歓迎だよ。連絡してくれれば、いつでも」
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