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拾遺録4 帰りたい場所
13 カイルの提案(教会騎士エルディッヒ視点)
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とりあえずは理解した。
カイルの槍を見て、そして感じて。
僕は槍をカイルに返して、正直な感想を口に出す。
「どうやら僕が知らないだけで、そっちの勉強会はナイケ教会以上の組織のようだ。教会騎士より数段上の実力を持つ者を擁して、武を司ると自称するナイケ教会以上の神器を、卒業生に配ることが出来るくらいの」
「本当はルディに、お忍びでカラバーラに来てもらいたかったんだがな。あそこならルディも、自分の実力を正当に俯瞰出来ただろうからさ」
カラバーラか。
そう聞くと、思い浮かぶ名前がある。
「カレンさんは元気だろうか。あそこの領主夫人だと聞いているけれど」
「俺は領主夫人としてより、領騎士団長としてのカレン団長しか知らないけれどさ。団長も、未だ俺が勝てない人の一人だな」
どうやらカイルは、カレンさんとも知り合いのようだ。
そしてやっぱり、僕が知っているのと変わらずに、カレンさんは強いらしい。
「僕が、せめてカレンさんくらい強ければ、また話は変わるんだろうけれどな」
本来ならカレンさんこそが、教団騎士となる筈だった。
しかし魔法が使えない事から、本来の籍を外され、姿を眩ましてしまった。
結果、僕が次期教団騎士候補となり、そして教団騎士に就任してしまった訳だ。
家としても僕自身としても、断るという選択肢は無かった。
結果、実力不足というのがわかったまま、教団騎士に就任して、そのままずるずるとやっている訳だ。
「カレン団長か。あの人は確かに強いな。それでも今のルディなら、歴代の教団騎士から見ても水準には達していると思うぞ。そう卑下したものじゃない」
カイルはいつもそう言ってくれる。僕が弱い訳じゃないと。
教団騎士として必要な強さには充分達していると。
しかしだ。
「でもカレンさんなら、カイルの師匠のリディナ氏ともいい勝負になるんじゃないか?」
「ああ。その組み合わせは何度かカラバーラで見た。騎士団での見本としてさ。最近の勝率は五分五分ってところだ」
カレンさんでも、五分五分なのか……
「ならますます、僕に勝ち目はないな」
「ああ。でもだからこそ、チャンスだ。ルディ、お前が本当に自分の実力に気づく為のさ」
それってつまりは、こういう事だろうか。
「教団騎士にふさわしい実力がない、そういう事にか」
「違う」
カイルはそう強く言って、そして続ける。
「自己評価の低さはルディの欠点だ。どうしてもカレン団長と比較されるからかもしれないけれどさ。今のルディは充分強い。何度も言っているが、本心だ」
カイルはそう言って、ふっと溜め息に似た感じで息をつく。
「本当はカラバーラにお忍びで連れて行って、先生達やカレン団長、更には騎士やうちの後輩達と手合わせをするのが正しいんだろう。そうすれば自分の強さに対する、正当な評価が出来るんだろうけれどさ」
正当な評価か。
しかし僕が強くないのは確かな筈だ。
「ただリディナ先生が出てくるのなら、それこそチャンスだ。確かに勝てる相手ではないかもしれない。それでもいいから、全力で食らいつけ。本気で、全力で望めば、勝ったにせよ負けたにせよ見える筈だ。今の自分の実力が俯瞰的にさ」
実力が、俯瞰的に見えるか。
「わからない境地だな」
「それはここの環境のせいだ。ルディの強さを評価しないくせに、ルディが全力を出しきって実力を確認出来る相手がいない、ここの環境がさ。ただし、今のルディではまだ足りない。だから審判までの間、俺が力を貸す」
「どういう事だ」
やはり僕にはわからない。
カイルが何をするかも、何故そうするかも。
「ルディは魔法剣士と戦った経験が無いだろう。ただレベル5程度の攻撃魔法を撃てる程度じゃ無い、。レベル6以上の魔法を防御や移動、剣術の強化に使うといった戦い方が出来るレベルの剣士とさ」
レベル5の攻撃魔法なら、かなり強力な筈だ。
ほとんどの魔物なら倒せる筈だし、騎士団の魔法部隊でも中堅以上の実力だろう。
「レベル5でも充分以上に強力だろう。とんでもない実力だな、それは」
カイルは苦い顔をして、首を横に振った。
「いや、その位までなら、勉強する環境があって本人にもやる気があるのなら、数年程度で到達出来る。でもそこが、もうひとつのスタートラインなんだ。迷宮ボスによくいる、魔法が効きにくい魔物等と戦う世界のさ」
なるほど。つまりはこういう事か。
「僕とはレベルというか、世界が違う訳か」
「いや、違う」
カイルは首を横に振った。
「ルディは既にその実力に達している。ただ、そういった世界、そういった戦い方を知らないだけなんだ。しかしリディナ先生との審判に出るにはこのままではまずい」
カイルはそこで一呼吸して、そして続ける。
「さっきも言ったとおり、本当ならカラバーラでそのレベルの連中と模擬試合をやりまくりたいところだ。でも審判まであと5日しかない。だから、そういった魔法剣士の最低限の動きは俺が教える。模擬試合ならリディナ先生やカレン団長と何度もやっているからさ。未だ勝った事はないけれど、そんな俺相手でも全くやらないよりはましな筈だ。それに本来のルディの実力なら、やり方さえわかれば俺より強くなる可能性も高い」
僕にとっては、間違いなくありがたい提案だ。
しかしカイルの立場を考えると、頷いていいのか疑問に感じる。
だからつい、僕は効いてしまう。
「いいのか。カイルにとっては、僕はむしろ敵だろう。少なくとも今度の審判においては」
「まあそうだけれどさ」
カイルはニヤリと笑みを浮かべた。
「俺が教えたくらいじゃ、リディナ先生は揺らぎもしないだろう。それに先生達が今の俺の立場なら、きっとそうすると思うんだ。それが今のルディに必要だとか言ってさ、だから」
カイルの槍を見て、そして感じて。
僕は槍をカイルに返して、正直な感想を口に出す。
「どうやら僕が知らないだけで、そっちの勉強会はナイケ教会以上の組織のようだ。教会騎士より数段上の実力を持つ者を擁して、武を司ると自称するナイケ教会以上の神器を、卒業生に配ることが出来るくらいの」
「本当はルディに、お忍びでカラバーラに来てもらいたかったんだがな。あそこならルディも、自分の実力を正当に俯瞰出来ただろうからさ」
カラバーラか。
そう聞くと、思い浮かぶ名前がある。
「カレンさんは元気だろうか。あそこの領主夫人だと聞いているけれど」
「俺は領主夫人としてより、領騎士団長としてのカレン団長しか知らないけれどさ。団長も、未だ俺が勝てない人の一人だな」
どうやらカイルは、カレンさんとも知り合いのようだ。
そしてやっぱり、僕が知っているのと変わらずに、カレンさんは強いらしい。
「僕が、せめてカレンさんくらい強ければ、また話は変わるんだろうけれどな」
本来ならカレンさんこそが、教団騎士となる筈だった。
しかし魔法が使えない事から、本来の籍を外され、姿を眩ましてしまった。
結果、僕が次期教団騎士候補となり、そして教団騎士に就任してしまった訳だ。
家としても僕自身としても、断るという選択肢は無かった。
結果、実力不足というのがわかったまま、教団騎士に就任して、そのままずるずるとやっている訳だ。
「カレン団長か。あの人は確かに強いな。それでも今のルディなら、歴代の教団騎士から見ても水準には達していると思うぞ。そう卑下したものじゃない」
カイルはいつもそう言ってくれる。僕が弱い訳じゃないと。
教団騎士として必要な強さには充分達していると。
しかしだ。
「でもカレンさんなら、カイルの師匠のリディナ氏ともいい勝負になるんじゃないか?」
「ああ。その組み合わせは何度かカラバーラで見た。騎士団での見本としてさ。最近の勝率は五分五分ってところだ」
カレンさんでも、五分五分なのか……
「ならますます、僕に勝ち目はないな」
「ああ。でもだからこそ、チャンスだ。ルディ、お前が本当に自分の実力に気づく為のさ」
それってつまりは、こういう事だろうか。
「教団騎士にふさわしい実力がない、そういう事にか」
「違う」
カイルはそう強く言って、そして続ける。
「自己評価の低さはルディの欠点だ。どうしてもカレン団長と比較されるからかもしれないけれどさ。今のルディは充分強い。何度も言っているが、本心だ」
カイルはそう言って、ふっと溜め息に似た感じで息をつく。
「本当はカラバーラにお忍びで連れて行って、先生達やカレン団長、更には騎士やうちの後輩達と手合わせをするのが正しいんだろう。そうすれば自分の強さに対する、正当な評価が出来るんだろうけれどさ」
正当な評価か。
しかし僕が強くないのは確かな筈だ。
「ただリディナ先生が出てくるのなら、それこそチャンスだ。確かに勝てる相手ではないかもしれない。それでもいいから、全力で食らいつけ。本気で、全力で望めば、勝ったにせよ負けたにせよ見える筈だ。今の自分の実力が俯瞰的にさ」
実力が、俯瞰的に見えるか。
「わからない境地だな」
「それはここの環境のせいだ。ルディの強さを評価しないくせに、ルディが全力を出しきって実力を確認出来る相手がいない、ここの環境がさ。ただし、今のルディではまだ足りない。だから審判までの間、俺が力を貸す」
「どういう事だ」
やはり僕にはわからない。
カイルが何をするかも、何故そうするかも。
「ルディは魔法剣士と戦った経験が無いだろう。ただレベル5程度の攻撃魔法を撃てる程度じゃ無い、。レベル6以上の魔法を防御や移動、剣術の強化に使うといった戦い方が出来るレベルの剣士とさ」
レベル5の攻撃魔法なら、かなり強力な筈だ。
ほとんどの魔物なら倒せる筈だし、騎士団の魔法部隊でも中堅以上の実力だろう。
「レベル5でも充分以上に強力だろう。とんでもない実力だな、それは」
カイルは苦い顔をして、首を横に振った。
「いや、その位までなら、勉強する環境があって本人にもやる気があるのなら、数年程度で到達出来る。でもそこが、もうひとつのスタートラインなんだ。迷宮ボスによくいる、魔法が効きにくい魔物等と戦う世界のさ」
なるほど。つまりはこういう事か。
「僕とはレベルというか、世界が違う訳か」
「いや、違う」
カイルは首を横に振った。
「ルディは既にその実力に達している。ただ、そういった世界、そういった戦い方を知らないだけなんだ。しかしリディナ先生との審判に出るにはこのままではまずい」
カイルはそこで一呼吸して、そして続ける。
「さっきも言ったとおり、本当ならカラバーラでそのレベルの連中と模擬試合をやりまくりたいところだ。でも審判まであと5日しかない。だから、そういった魔法剣士の最低限の動きは俺が教える。模擬試合ならリディナ先生やカレン団長と何度もやっているからさ。未だ勝った事はないけれど、そんな俺相手でも全くやらないよりはましな筈だ。それに本来のルディの実力なら、やり方さえわかれば俺より強くなる可能性も高い」
僕にとっては、間違いなくありがたい提案だ。
しかしカイルの立場を考えると、頷いていいのか疑問に感じる。
だからつい、僕は効いてしまう。
「いいのか。カイルにとっては、僕はむしろ敵だろう。少なくとも今度の審判においては」
「まあそうだけれどさ」
カイルはニヤリと笑みを浮かべた。
「俺が教えたくらいじゃ、リディナ先生は揺らぎもしないだろう。それに先生達が今の俺の立場なら、きっとそうすると思うんだ。それが今のルディに必要だとか言ってさ、だから」
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