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拾遺録4 帰りたい場所
11 一週間(6日)後、審判前(ラツィオ新報 エミル記者視点)
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そして一週間後。
僕は王宮前広場の、中央西側、前から三段目に設けられた記者観戦席にいた。
まもなく、アシャプール侯爵の代理人とリディナ氏の決闘が、行われる会場だ。
名目は決闘ではない。法律上は王国法第57条に基づく名誉防衛の為の必要な措置、ナイケ教会的に言えばナイケの審判。
だが実態は互いの意見を賭けた、原始的な決闘以外の何物でもない。
それにしても……僕は周囲を見回す。
ここ王宮前広場は、北側に王宮外宮殿があり、その正面が|南北60腕、東西120腕の広場になっている。
そしてこの広場を囲むように、観覧席としても使える石段が東南西側に15段程度設けられているという造りだ。
ここは基本的には重要な王国行事の為に使われる。
国王陛下が記念日等にお出になり、一般に挨拶をする場合や、騎士団の観閲式を行う等の際に使用される場所だ。
広いし、収容人員も多い。
僕はこの決闘は、てっきり警備がやりやすい、王宮内施設で行うだろうと思っていた。
しかし用意された会場は、この王宮前広場だ。
確かにここなら、結果が秘匿されたりねじ曲げられたりする事はないだろう。
平民の観戦者が大勢いるから。
しかしテロ等が発生する危険性は、間違いなく高くなる。
不特定多数に紛れる事が容易くなるから。
あと国の正規の行事でもないのに、王宮前広場の使用許可が下りたというのにも疑問を感じる。
勿論王宮前は、国の行事以外でも貸し出される事はある。
しかし一侯爵家の私闘的なものに貸し出されるかというと、疑問だ。
つまり侯爵家やナイケ教会以外、いや以上の何処かの思惑が絡んでいるのは間違いないだろう。
さて。僕は観客席をざっと確認する。
この広場の中央、平坦な部分で催し物をする場合、北の王宮側を使用しない場合、観客が大体8,000人位は入る。
今日は中央正面に、貴賓席だの記者席だのが設けられているけれど、それでも他の部分はかなり人が入っている。
概ね4,000人位といったところだろうか。
この決闘の事はどこの新聞もかなり書き立てた。
だから一般に知られているのは不思議ではないし、人が集まるのも理解できる。
ただこれだけ人がいるとなると、もし自爆覚悟でテロを起こそうとした場合、回避する手段はあるのだろうか。
悪意に反応する魔法はあるし、一定以上の魔法を検知する魔法もある。
ただ気づいた後、対処する魔法の起動が間に合うかはわからない。
もっと狭く、かつ人が少なければ、騎士団の魔法部隊を充分に配置すれば何とかなるかもしれない。
しかしこの人数で、この広さだと……。僕の常識では、無理だろうとしか思えないのだ。
念の為、社から同道しきた同僚のカーチス記者に聞いてみる。
「カーチス、この状況でもしテロを起こそうと思ったら、防げるものなのか?」
カーチスは元冒険者だ。
最初は騎士団にいたのだが、準十卒長になったところで退団。
その後は特例C級冒険者として2年間全国を回った後、ラツィオ新報社に入社。
普段は騎士団関係や魔物情報等を担当している。
今回は決闘という事で、魔法や近接戦闘に詳しいカーチスに同道してもらった。
国王局担当の僕ではそういった事が良くわからないから。
「普通に考えれば無理だ。騎士団魔法部隊もかなり密に配置はしているが、観客が多すぎる」
そうなのか。
「騎士団の配置については気づかなかったな。所々で騎士団員が警戒しているのはわかるけれど、それとは別なんだろう」
「ああ。一般人の格好をした魔法部隊員があちこちに配置されている。それでも魔法を起動されてしまえばどうしようもない。対抗魔法はどうしても遅れるからな。100人規模で吹っ飛ばす事は充分可能だ。審判中の2人を狙うのも不可能ではないだろう。ただ……」
カーチスはそこで言葉を止めた。
何となく想像はつくので、こっちから聞いてみる。
「リディナ氏の相手はおそらく、教会騎士エルディッヒだろう。そして攻撃魔法はエルディッヒには効かない。そういう事か」
「ああ、そう考えるのが普通だろう。ただ俺はカラバーラにもいた事がある。そしてカラバーラには伝説がある。ここ十数年に出来た、新しい伝説が」
僕もリディナ氏関係でその辺は調べた。
だからカーチスの言葉が何を指しているのか、想像はつく。
「迷宮消去者か、そうでなければ『殲滅の魔人』の事だろうか」
「『殲滅』の方も知っていたか」
カーチスには意外だったようだ。
「カラバーラ支局発の情報をあるだけ読んだ。リディナ氏がどんな人物か、こっちにはほとんど情報は無かったからさ」
カラバーラ支局が出来たのは10年前だ。
だからそれ以前の情報はない。
それでも『殲滅の魔人』については、ある程度の情報が入っている。
どの情報も裏付けは取れなかったようだけれど。
「なら話は早い。ただし、俺が言うことは記事には書くなよ」
カーチスは妙な前置きをした。
「どういう事だ」
「『殲滅の魔人』と呼ばれるパーティの正体は、実はわかる奴にはわかっている。ただ本人達に知られたくない、その事が広まって欲しくないという意思がある事もわかっている。だからまともな奴は広めない。まあ広めない理由のひとつには、恐怖もあるかもしれんがな」
また意外な単語が出てきた。
「恐怖って何でだ」
「魔物がほとんど出てこないカラバーラの冒険者ギルドに、ほぼ毎週、討伐した魔物を持ち込む女の子達がいる。そうなると、依頼にあぶれた不良冒険者としては面白くないだろう。ちょっとくらい絡んでみたくなる訳だ」
なるほど、何となく想像はつく。
でもここは聞いてみるのが礼儀だろう。
「で、どうなった」
「どうにもならなかっただけさ。別に絡んでみた冒険者が消息を絶ったなんて訳じゃない。ただ、その次からは絡もうとしなくなっただけだ。その女の子達の誰かが来ただけで、奥へ逃げるように姿を隠すなんて奴も出たな」
そういう話ならばだ。
僕はこう聞いてみる。
「その女の子達が『殲滅の魔人』で、その1人が、あのリディナ氏って事か」
カーチスはニヤリとした。口には出さないが、これは肯定とみて間違いないだろう。
背後の方がざわついてきた。どうやら誰か、入場してくるようだ。
「そろそろお出ましかな。今日の主役が」
カーチスの言う通りだろう。
僕は王宮前広場の、中央西側、前から三段目に設けられた記者観戦席にいた。
まもなく、アシャプール侯爵の代理人とリディナ氏の決闘が、行われる会場だ。
名目は決闘ではない。法律上は王国法第57条に基づく名誉防衛の為の必要な措置、ナイケ教会的に言えばナイケの審判。
だが実態は互いの意見を賭けた、原始的な決闘以外の何物でもない。
それにしても……僕は周囲を見回す。
ここ王宮前広場は、北側に王宮外宮殿があり、その正面が|南北60腕、東西120腕の広場になっている。
そしてこの広場を囲むように、観覧席としても使える石段が東南西側に15段程度設けられているという造りだ。
ここは基本的には重要な王国行事の為に使われる。
国王陛下が記念日等にお出になり、一般に挨拶をする場合や、騎士団の観閲式を行う等の際に使用される場所だ。
広いし、収容人員も多い。
僕はこの決闘は、てっきり警備がやりやすい、王宮内施設で行うだろうと思っていた。
しかし用意された会場は、この王宮前広場だ。
確かにここなら、結果が秘匿されたりねじ曲げられたりする事はないだろう。
平民の観戦者が大勢いるから。
しかしテロ等が発生する危険性は、間違いなく高くなる。
不特定多数に紛れる事が容易くなるから。
あと国の正規の行事でもないのに、王宮前広場の使用許可が下りたというのにも疑問を感じる。
勿論王宮前は、国の行事以外でも貸し出される事はある。
しかし一侯爵家の私闘的なものに貸し出されるかというと、疑問だ。
つまり侯爵家やナイケ教会以外、いや以上の何処かの思惑が絡んでいるのは間違いないだろう。
さて。僕は観客席をざっと確認する。
この広場の中央、平坦な部分で催し物をする場合、北の王宮側を使用しない場合、観客が大体8,000人位は入る。
今日は中央正面に、貴賓席だの記者席だのが設けられているけれど、それでも他の部分はかなり人が入っている。
概ね4,000人位といったところだろうか。
この決闘の事はどこの新聞もかなり書き立てた。
だから一般に知られているのは不思議ではないし、人が集まるのも理解できる。
ただこれだけ人がいるとなると、もし自爆覚悟でテロを起こそうとした場合、回避する手段はあるのだろうか。
悪意に反応する魔法はあるし、一定以上の魔法を検知する魔法もある。
ただ気づいた後、対処する魔法の起動が間に合うかはわからない。
もっと狭く、かつ人が少なければ、騎士団の魔法部隊を充分に配置すれば何とかなるかもしれない。
しかしこの人数で、この広さだと……。僕の常識では、無理だろうとしか思えないのだ。
念の為、社から同道しきた同僚のカーチス記者に聞いてみる。
「カーチス、この状況でもしテロを起こそうと思ったら、防げるものなのか?」
カーチスは元冒険者だ。
最初は騎士団にいたのだが、準十卒長になったところで退団。
その後は特例C級冒険者として2年間全国を回った後、ラツィオ新報社に入社。
普段は騎士団関係や魔物情報等を担当している。
今回は決闘という事で、魔法や近接戦闘に詳しいカーチスに同道してもらった。
国王局担当の僕ではそういった事が良くわからないから。
「普通に考えれば無理だ。騎士団魔法部隊もかなり密に配置はしているが、観客が多すぎる」
そうなのか。
「騎士団の配置については気づかなかったな。所々で騎士団員が警戒しているのはわかるけれど、それとは別なんだろう」
「ああ。一般人の格好をした魔法部隊員があちこちに配置されている。それでも魔法を起動されてしまえばどうしようもない。対抗魔法はどうしても遅れるからな。100人規模で吹っ飛ばす事は充分可能だ。審判中の2人を狙うのも不可能ではないだろう。ただ……」
カーチスはそこで言葉を止めた。
何となく想像はつくので、こっちから聞いてみる。
「リディナ氏の相手はおそらく、教会騎士エルディッヒだろう。そして攻撃魔法はエルディッヒには効かない。そういう事か」
「ああ、そう考えるのが普通だろう。ただ俺はカラバーラにもいた事がある。そしてカラバーラには伝説がある。ここ十数年に出来た、新しい伝説が」
僕もリディナ氏関係でその辺は調べた。
だからカーチスの言葉が何を指しているのか、想像はつく。
「迷宮消去者か、そうでなければ『殲滅の魔人』の事だろうか」
「『殲滅』の方も知っていたか」
カーチスには意外だったようだ。
「カラバーラ支局発の情報をあるだけ読んだ。リディナ氏がどんな人物か、こっちにはほとんど情報は無かったからさ」
カラバーラ支局が出来たのは10年前だ。
だからそれ以前の情報はない。
それでも『殲滅の魔人』については、ある程度の情報が入っている。
どの情報も裏付けは取れなかったようだけれど。
「なら話は早い。ただし、俺が言うことは記事には書くなよ」
カーチスは妙な前置きをした。
「どういう事だ」
「『殲滅の魔人』と呼ばれるパーティの正体は、実はわかる奴にはわかっている。ただ本人達に知られたくない、その事が広まって欲しくないという意思がある事もわかっている。だからまともな奴は広めない。まあ広めない理由のひとつには、恐怖もあるかもしれんがな」
また意外な単語が出てきた。
「恐怖って何でだ」
「魔物がほとんど出てこないカラバーラの冒険者ギルドに、ほぼ毎週、討伐した魔物を持ち込む女の子達がいる。そうなると、依頼にあぶれた不良冒険者としては面白くないだろう。ちょっとくらい絡んでみたくなる訳だ」
なるほど、何となく想像はつく。
でもここは聞いてみるのが礼儀だろう。
「で、どうなった」
「どうにもならなかっただけさ。別に絡んでみた冒険者が消息を絶ったなんて訳じゃない。ただ、その次からは絡もうとしなくなっただけだ。その女の子達の誰かが来ただけで、奥へ逃げるように姿を隠すなんて奴も出たな」
そういう話ならばだ。
僕はこう聞いてみる。
「その女の子達が『殲滅の魔人』で、その1人が、あのリディナ氏って事か」
カーチスはニヤリとした。口には出さないが、これは肯定とみて間違いないだろう。
背後の方がざわついてきた。どうやら誰か、入場してくるようだ。
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カーチスの言う通りだろう。
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