ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

16 コゼンタ到着

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「魔法の練習はそろそろ終了。ここまで出来れば充分」

 フミノさんがそう言うと同時に、独楽が俺の意思とは別に動き始めた。回りながらフミノさんの方へと近づいていく。
 フミノさんの足元まで来たところで、彼女は独楽に手を触れた。独楽がすっと姿を消す。

「これで大丈夫。貴方は魔法を使うという事を理解した。あとはさっき渡した紙を読んで練習すれば大丈夫。
 ただその前に、私の安心の為に一つ確認。貴方がゴブリンを倒せるかどうかを試してみる」

 フミノさんは先程まで盗賊団員が倒れていた路上を見る。
 土が出現。みるみるうちに盛り上がっていき人型になった。
 いや、人ではない。これはゴブリンだ。頭と手が大きくそれ以外が小さい。
 
「俗に言う土属性魔法でゴブリンの形をした土人形を作った。これを使用して貴方の魔法の確認をする。
 この首から上の部分が高熱で真っ赤になるイメージをしてみて欲しい。それが一番簡単な倒し方」

 言われた通りイメージしてみる。真っ赤になる位に高熱になる姿を。
 ボン、破裂音がして頭が吹っ飛んだ。
 フミノさんが頷く。

「土人形の水分が急激に熱せられて爆発した。これが出来るならもう問題無い。もう貴方にはその魔法を使う能力がある。ゴブリンが何匹出ても意識するだけで倒すことが可能」

 あっさり。本当だろうか。しかし今、俺が意識したとほぼ同時に土人豪の頭が吹っ飛んだのは本当だ。
 だからおそらく、その通りなのだろう。勿論後で再確認しておく必要はあるだろうけれど。

「セレスの方は盗賊のボスを倒した。捉えられている被害者は無し。
 ただ盗賊団は現場に11人いた。多すぎてセレスが運ぶのに困るだろう。
 手伝いに行ってくる。10半時間6分かからずに戻ってくる予定。それまで此処で待っていて欲しい」

 これは返事をしていいだろう。だから俺は口に出す。

「わかりました」

「ありがとう。それでは行ってくる」

 その言葉とともにフミノさんは姿を消した。セレスの時と同じ、走るのとは別次元の何かを使ったようだ。

 この移動魔法も貰ったメモに載っているのだろうか。そう思うとメモを確認したくなるが、それは後。

 今はゴブリン等の魔物が出てこないか注意しないといけない。メモを読むのはセレスが戻った後でいいだろう。 

 一人になると急に不安が襲ってきた。
 大丈夫、さっき自分でゴブリンを倒せたし、今は魔法も使える。そうは思ってもやはり怖いものは怖い。

 こういう怖さは場数を踏まないと慣れないのだろうか。
 だとしたらセレスやフミノさんはどれだけ場数をこなしたのだろうか。
 そう思いつつ、周囲の音にビクビクしながら待ち続ける。

 ◇◇◇

 そして。

「お待たせしてすみません。戻りました」

 声とともにセレスが出現した。

「お疲れ様。盗賊の方はどうだった?」

「11人いました。捕まっている被害者はなしです。
 それでまもなくフミノさんが盗賊を運んで来るのですけれど、この荷車に一緒に載せていいでしょうか」

 それはもちろん想定済みだ。

「ああ、大丈夫だ」

「わかりました。それではフミノさん、お願いします」

 ぐらっ。荷車が揺れた。何が起きたかは想像はつく。それでも一応荷台を確認。
 荷台に寝ている盗賊の数が明らかに増えていた。重ならない状態でぎっちりという感じだ。

 そして荷台の手前側端にフミノさんが出現している。入ってきたのでは無く出現という感じで。

「遅くなって済まない。だからおまけ。コゼンタの開門時間に間に合うよう、高速移動魔法を使う。途中の風景が少しおかしく見えるけれど気にしないで。理屈はあのメモに書いてある」

「わかりました」

「ではコゼンタの北街門半離まで移動開始」

 ゴーレム馬が動き始める。

「それにしてもこんなものだったんですね、盗賊って」

 セレスがぽつんという感じでそんな事を言った。
 おそらくトラウマといった件に関わる言葉なのだろう。背景がわからない俺は返答できない。

 俺の代わりにフミノさんが頷いた。

「そう、今のセレスにとってはこの程度。元B級の魔法使いが率いる盗賊団でも」

「あれからもう10年以上経っているんですね、考えてみれば」

 これもわからない内容だ。何から10年以上なのか、そしてその事について俺が聞いていいか、両方とも。

「勉強会ももうすぐ3回目の卒業者が出る。サリア達も今や冒険者A級。今のセレスもそれ以上の力はあって当然」

 まあそうなんだろうなと思う。ファビオ達も名目はC級だけれど実力はB級以上らしいし。 

 ふっと周囲の景色が変わった。瞬くような感じになるとともにぼやけつつ色を失って灰色になる。荷車の振動もなくなった。

 フミノさんが言っていた高速移動魔法の影響だろう。確かにこれは言われなければ不安になる。
 
 トン、と振動を感じる。一瞬だけどこかの景色が見えた気がした。街道上で両側が森だけれど、先ほどと違う場所だった気がする。

 そういった振動が十数回続いただろうか。周囲の景色が再び瞬き始めた。先程と逆でだんだん景色が普通に見え始めて、そして森の中の街道上に戻る。
 荷車の振動が戻ってきた。

「コゼンタから半離1kmの場所に出た。私はここで降りる。セレス、あとはお願い」

 えっ!?

「一緒に行かないんですか?」

 フミノさんは頷く。

「私1人ならこのゴーレム荷車より速い」

 とんでもない話だ。けれど事実なのだろう。

「わかりました」

「それでは、また」

 フミノさんはふっと姿を消した。高速移動魔法で動いたのだろう。

「それでは行きましょうか」

「わかった」

 ゴーレムは再び普通に動き出した。普通にといっても普通の馬車より遙かに速いのだけれど。

 少し走ると街門が見えてきた。太陽はまだ山より高い位置にいる。
 盗賊に出遭わずにそのまま走るのとほぼ同じ位に到着したようだ。
 もちろんこの後に捕らえた盗賊の処理に、予定外の時間がかかるだろうけれど。
 
 街門の手前でゴーレムは速度を落とす。そして5腕10m位手前で完全に停まった。

「それじゃ門番さんに説明してきます」

 セレスが御者助手席から降りて門番のところへ。
 こういった事は冒険者として慣れた作業なのだろうか。そう思いつつ、俺はセレスの後ろ姿を見ている。
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