ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

11 盗賊の襲撃?

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 翌日時間通りに店に来たセレスと布の話をして、布の代金を商業ギルドまで行って受け取って。
 そして半月後に注文通りの布が入荷した事をファビオ経由でセレスに伝えて、店に来て貰って。

 その後も買い物に来たセレスと街の関係ないところで何度か出会ったり。
 その時に一緒に食事をして話したり。
 そのうち日と時間を決めて会うようになったり。
 結果こうやって1年後には結婚という事になった訳だ。

 秋になった頃から、特に用件もなく街をぶらついていると必ずセレスに会うというのは何だったんだろう。そんな疑問を思い出したりもする。

 あれは正直謎だった。まあそれでセレスとの間が一段と近づいたのは確かだけれど。

 なんて事を思った時だった。

「すみません。ちょっと嫌な予感がします」

 セレスが突然そんな事を言った。

「どうした、何か荷車かゴーレム車にあったか?」

「いえ、周囲の気配です。あくまで冒険者的な感覚ですけれど、敵が出てきそうな感じがします。魔物と言うより盗賊という感じです」

 えっ!
 今回、俺達は他の荷馬車等と隊列を組んでいない。
 速度が全然違う事、セレスがいれば大体の魔物は問題ないという事が理由だ。
 だから盗賊が狙いやすいというのは確かにあるかもしれない。

 そして盗賊だとまずいかもしれない。セレスは盗賊が苦手というか、トラウマがあるかもしれないから。
 セレスと同居していたリディナさんからそう聞いている。何故そうなのかまではあえて聞かなかったけれど。

「戻るか?」

「いえ、このまま行きましょう。この道の広さでは転回に時間がかかって危険ですから」

 今使っている荷車は荷物を大量に載せる関係上、前後長がかなり長い。
 だから幅員2腕4m程度の道で転回する際はゴーレムを一度外して、荷車だけで旋回させる必要がある。

 そうやって時間をかけると危ない。そうセレスは言っているのだ。

「わかった。どうすればいい?」

 男の俺がセレスにどうすればいいのか聞くのは何か間違っている気がする。
 しかし仕方ない。セレスは冒険者で俺はただの商人だから。

「一緒に御者席へいてもらっていいですか。私の魔法は基本的に周囲が見えた方が使いやすいですから」

「わかった」

 セレスが得意とするのは水属性の魔法。そう本人からは聞いている。
 ただしそれ以外の属性についてもその辺の冒険者よりずっと上らしい。これはファビオ経由で知っている。

 だから問題は全くないのだろう。
 それでもセレス自身は小柄な女性なのだ。
 一応防衛用の片手剣と小盾は御者席から取り出せるようにはなっている。ついそちらに手が行きそうになる。
 
「大丈夫ですよ」

 これはセレスだ。

「どうやら魔物では無く盗賊らしいです。でもそれほど人数は多くないようですね。せいぜい10人程度……10人ですね。
 魔法で足止めして通り抜ける事は出来そうです。でもそうした結果、他の旅人が襲われたら申し訳ありません。少し手間になりますけれど、ここで捕まえておいた方がいいでしょう」

 どうやらセレスには盗賊の姿がわかるようだ。
 もちろん俺には全くわからない。目をこらして見ても普通に森と道、そしてやや黄色みが強まった午後の空くらいしかわからない。

 ゴーレムの速度が落ちはじめた。だんだんゆっくりになっていく。

「盗賊より手前で止めます。後ろから襲われると対処が面倒ですから。手前で止めれば森の中を抜けてくるより道に出る方を選ぶでしょう」

 つまりそれだけ近くなったという事か。俺は注意して前方、道の両側の森を確認する。
 左側、少し不自然に木の枝が揺れた。ひょっとして。

「前方20腕位左側の、木の枝が揺れたような気がするのは」

 そう言っている間にも速度が落ちてくる。
 セレスは頷いた。

「正解です。あそこに弓がいますね。とりあえず動けなくします」

 ゴーレムが止まった次の瞬間、セレスの手元から水流が飛んだ。二本、連続して。
 道の両側の森から男達が出てくる。槍や長剣等で武装している。襲ってくるか。

 そう思った次の瞬間。全員がふっと力を失ったように見えた。槍や剣が手元から落ちる。そして本人達の身体もゆっくり左右へと倒れて。

 セレスはふっと息をついた後。

「終わりです。睡眠魔法をかなり強めにかけました。魔法で起こさない限り3日くらいは眠っていると思います。
 ただここからが面倒なんです。この盗賊をこの先、コゼンタまで持っていかなければならないですから。ここへ放置したら2時間以内に魔物か魔獣の餌ですし。それに……」

 何か言おうとしてセレスが口ごもる。何だろう。

「何かあるか?」

「いえ、全員運ぶのが大変そうだと思っただけです」

 確かにその通りだろう。

「どうする? 俺がここで待っているから、セレス一人で急いで街まで行ってくるか?」

 俺はゴーレムを操作できない。そして街はまだまだ歩いて行ける距離ではない。
 だから行くならセレスだ。何ならセレスとゴーレム馬だけで行ってもいい。

「いえ、大丈夫です。一応奥の手は用意してはあります。あまり使いたくなかったのですけれど。
 実は私、このハンドバックの他にも自在袋を2つ持ってきているんです。このポシェットとこの服のここについているポケット。
 このハンドバッグを含め3つとも、最大600重3,600kg程度の物が入ります。今はハンドバッグに少し私物を入れているだけですから、3つあわせれば積んでいる服や布地、糸等が全部入る筈です」

 えっ。確かにそれだけ入れば後ろに積んでいる商品は全部入るだろう。
 しかし……

「そんなに入る自在袋なんて初めて聞いた」

「市販の自在袋が高くて容量が少ないのは、作れる人が少ない事と、材料が高い事が理由です。
 そして材料で高くつくのは、自在袋の魔力起動と維持に必要な魔石の値段なんです。
 強い魔物を使えばその分容量が大きい自在袋を作れます。
 ただ強い魔物なんて滅多に討伐されない。だから強い魔物の魔石の値段は高い。それが材料費が高くなる原因なんです」

 なるほど、理屈は理解した。
 冒険者として魔物を狩るから魔石はそれなりに持っている。あと一緒に住んでいたうちフミノさんはゴーレムだけでなく自在袋も作る事が出来る。

 だからその気になれば大容量の自在袋もある程度自由に作れるし持てる。そういう事だ。

「ならとりあえず収納、お願いしていいか? 放っておくと日が暮れるからさ。コゼンタの街門が閉まったら大変だ」

「あ、そう言えばそうですね」

「なら商品の収納を頼む。俺はあの盗賊を引っ張ってくる。魔法で眠らせているから何をやっても起きない。そう思っていいんだな」

 セレスは頷いた。

「ええ。手荒に扱っても問題ありません」 

 ならさっさと運ぶことにしよう。
 俺は御者席から降りる。
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