上 下
286 / 323
拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

11 盗賊の襲撃?

しおりを挟む
 翌日時間通りに店に来たセレスと布の話をして、布の代金を商業ギルドまで行って受け取って。
 そして半月後に注文通りの布が入荷した事をファビオ経由でセレスに伝えて、店に来て貰って。

 その後も買い物に来たセレスと街の関係ないところで何度か出会ったり。
 その時に一緒に食事をして話したり。
 そのうち日と時間を決めて会うようになったり。
 結果こうやって1年後には結婚という事になった訳だ。

 秋になった頃から、特に用件もなく街をぶらついていると必ずセレスに会うというのは何だったんだろう。そんな疑問を思い出したりもする。

 あれは正直謎だった。まあそれでセレスとの間が一段と近づいたのは確かだけれど。

 なんて事を思った時だった。

「すみません。ちょっと嫌な予感がします」

 セレスが突然そんな事を言った。

「どうした、何か荷車かゴーレム車にあったか?」

「いえ、周囲の気配です。あくまで冒険者的な感覚ですけれど、敵が出てきそうな感じがします。魔物と言うより盗賊という感じです」

 えっ!
 今回、俺達は他の荷馬車等と隊列を組んでいない。
 速度が全然違う事、セレスがいれば大体の魔物は問題ないという事が理由だ。
 だから盗賊が狙いやすいというのは確かにあるかもしれない。

 そして盗賊だとまずいかもしれない。セレスは盗賊が苦手というか、トラウマがあるかもしれないから。
 セレスと同居していたリディナさんからそう聞いている。何故そうなのかまではあえて聞かなかったけれど。

「戻るか?」

「いえ、このまま行きましょう。この道の広さでは転回に時間がかかって危険ですから」

 今使っている荷車は荷物を大量に載せる関係上、前後長がかなり長い。
 だから幅員2腕4m程度の道で転回する際はゴーレムを一度外して、荷車だけで旋回させる必要がある。

 そうやって時間をかけると危ない。そうセレスは言っているのだ。

「わかった。どうすればいい?」

 男の俺がセレスにどうすればいいのか聞くのは何か間違っている気がする。
 しかし仕方ない。セレスは冒険者で俺はただの商人だから。

「一緒に御者席へいてもらっていいですか。私の魔法は基本的に周囲が見えた方が使いやすいですから」

「わかった」

 セレスが得意とするのは水属性の魔法。そう本人からは聞いている。
 ただしそれ以外の属性についてもその辺の冒険者よりずっと上らしい。これはファビオ経由で知っている。

 だから問題は全くないのだろう。
 それでもセレス自身は小柄な女性なのだ。
 一応防衛用の片手剣と小盾は御者席から取り出せるようにはなっている。ついそちらに手が行きそうになる。
 
「大丈夫ですよ」

 これはセレスだ。

「どうやら魔物では無く盗賊らしいです。でもそれほど人数は多くないようですね。せいぜい10人程度……10人ですね。
 魔法で足止めして通り抜ける事は出来そうです。でもそうした結果、他の旅人が襲われたら申し訳ありません。少し手間になりますけれど、ここで捕まえておいた方がいいでしょう」

 どうやらセレスには盗賊の姿がわかるようだ。
 もちろん俺には全くわからない。目をこらして見ても普通に森と道、そしてやや黄色みが強まった午後の空くらいしかわからない。

 ゴーレムの速度が落ちはじめた。だんだんゆっくりになっていく。

「盗賊より手前で止めます。後ろから襲われると対処が面倒ですから。手前で止めれば森の中を抜けてくるより道に出る方を選ぶでしょう」

 つまりそれだけ近くなったという事か。俺は注意して前方、道の両側の森を確認する。
 左側、少し不自然に木の枝が揺れた。ひょっとして。

「前方20腕位左側の、木の枝が揺れたような気がするのは」

 そう言っている間にも速度が落ちてくる。
 セレスは頷いた。

「正解です。あそこに弓がいますね。とりあえず動けなくします」

 ゴーレムが止まった次の瞬間、セレスの手元から水流が飛んだ。二本、連続して。
 道の両側の森から男達が出てくる。槍や長剣等で武装している。襲ってくるか。

 そう思った次の瞬間。全員がふっと力を失ったように見えた。槍や剣が手元から落ちる。そして本人達の身体もゆっくり左右へと倒れて。

 セレスはふっと息をついた後。

「終わりです。睡眠魔法をかなり強めにかけました。魔法で起こさない限り3日くらいは眠っていると思います。
 ただここからが面倒なんです。この盗賊をこの先、コゼンタまで持っていかなければならないですから。ここへ放置したら2時間以内に魔物か魔獣の餌ですし。それに……」

 何か言おうとしてセレスが口ごもる。何だろう。

「何かあるか?」

「いえ、全員運ぶのが大変そうだと思っただけです」

 確かにその通りだろう。

「どうする? 俺がここで待っているから、セレス一人で急いで街まで行ってくるか?」

 俺はゴーレムを操作できない。そして街はまだまだ歩いて行ける距離ではない。
 だから行くならセレスだ。何ならセレスとゴーレム馬だけで行ってもいい。

「いえ、大丈夫です。一応奥の手は用意してはあります。あまり使いたくなかったのですけれど。
 実は私、このハンドバックの他にも自在袋を2つ持ってきているんです。このポシェットとこの服のここについているポケット。
 このハンドバッグを含め3つとも、最大600重3,600kg程度の物が入ります。今はハンドバッグに少し私物を入れているだけですから、3つあわせれば積んでいる服や布地、糸等が全部入る筈です」

 えっ。確かにそれだけ入れば後ろに積んでいる商品は全部入るだろう。
 しかし……

「そんなに入る自在袋なんて初めて聞いた」

「市販の自在袋が高くて容量が少ないのは、作れる人が少ない事と、材料が高い事が理由です。
 そして材料で高くつくのは、自在袋の魔力起動と維持に必要な魔石の値段なんです。
 強い魔物を使えばその分容量が大きい自在袋を作れます。
 ただ強い魔物なんて滅多に討伐されない。だから強い魔物の魔石の値段は高い。それが材料費が高くなる原因なんです」

 なるほど、理屈は理解した。
 冒険者として魔物を狩るから魔石はそれなりに持っている。あと一緒に住んでいたうちフミノさんはゴーレムだけでなく自在袋も作る事が出来る。

 だからその気になれば大容量の自在袋もある程度自由に作れるし持てる。そういう事だ。

「ならとりあえず収納、お願いしていいか? 放っておくと日が暮れるからさ。コゼンタの街門が閉まったら大変だ」

「あ、そう言えばそうですね」

「なら商品の収納を頼む。俺はあの盗賊を引っ張ってくる。魔法で眠らせているから何をやっても起きない。そう思っていいんだな」

 セレスは頷いた。

「ええ。手荒に扱っても問題ありません」 

 ならさっさと運ぶことにしよう。
 俺は御者席から降りる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。