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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

10 事情聴取

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 そして更に2時間。デザートが出ない事以外は今までの授業とほぼ同じ感じの時間を過ごした後。

 セレスを始め先生方に挨拶して、そして馬車に皆を乗せてカラバーラへ帰る。

 今回もファビオを助手代わりに御者席横に座らせた。だから話を聞くのにちょうどいい。
 なのでまずはこんな感じで聞いてみる。

「お前、あんなに動けたんだな。まさか騎士団で練習しているなんて知らなかった」

 ファビオはふっとため息をついた。

「今回はそれなりに鍛えたつもりだったんです。敵わないまでももう少しはセレス先生に迫れると思ったんですけれどね」

「結構いい線行っていたように見えたけれどな」

 セレスもそんな事を言っていた。
 しかしファビオは首を横に振る。

「全然ですよ。セレス先生、身体強化すら使いませんでしたから。氷防御の魔法を使ったのは見本として皆に見せる為ですね。セレス先生の動きは本気では無かったですから」

「そうなのか?」

 やはりあの動きの更に上があるのか。

「たまにミメイ先生とかミメイ先生が連れてきた騎士団の人とかと模擬試合をしたりするんですよ。
 特にミメイ先生相手だと全然レベルが違う動きをします。まあミメイ先生、いきなりクレイゴーレムを7体出して攻撃とかしますから」

 何だそれ。

「そのミメイ先生って何者なんだ? 騎士団の人を連れてくるって言ったけれど」

「騎士団の顧問ですよ。うちの先生達とは知り合いらしいですけれど。3人の先生のうち誰かがいない時は代わりに教えてくれますし、そうでなくとも月に1回くらいやってきて勉強や魔法を教えてくれています」

 そう言えば前に聞いたなと思い出す。

「領騎士団の顧問が時々教えたりもしていると聞いたな。それがそのミメイ先生か」

「そうです。顧問と言ってもリディナ先生やフミノ先生と同年代の女性ですけれど。
 あとはリディナ先生が逆に騎士団へ行ったりなんて事もしています。リディナ先生は魔法だけでなく剣や槍、戦斧を使ったりしますから。冒険者を目指す生徒はリディナ先生と一緒に騎士団に行って訓練したりなんて事もしますし。
 僕もそうやって騎士団に何度か行って、今では顔パスで騎士団道場まで入れるようになりました」

 なるほど。そのミメイ先生を通じて騎士団との繋がりが有り、こちらの勉強会からも交流しているという訳か。
 それにしてもだ。

「ところであの勉強会、内容が凄すぎないか。俺がネイプルで通った私塾と全然違うぞ」

 ファビオが何故かそこでため息をついた。

「そうなんでしょうね、きっと。ただほとんどの生徒が気づいていないんですよ、その事に。先生達も隠していますしね。
 まあ街から通っている年長の連中、例えばここの馬車に乗っている半数以上は気づいていますけれど」

 えっ!?

「だってそうだろう。そもそも魔法を教える私塾なんて他では聞いた事がない」

「他の私塾に行ったことがないからわからないんですよ。それにあの勉強会は魔法が出来て当たり前ですから。卒業要件も12歳以上でレベル4以上の魔法が使えるようになるのが条件ですし」

「レベル4ってどういう意味だ」

 わからないから聞いてみる。

「魔法の難しさと魔力使用量でつけられた基準です。レベル1が一番簡単で、レベル2、3とどんどん難しくなっていく形で。
 レベル4は一般的な攻撃魔法が使えるようになる状態です。水属性なら水撃とか氷弾といった攻撃魔法がレベル4です」

 攻撃魔法が使えるレベルか。ならばだ。

「冒険者C級を魔法使いで取るのと同じ基準という訳か」

 護衛の冒険者からそんな事を聞いた覚えがある。

 何故か俺の言葉にファビオがうんうん頷いた。

「なるほど、そういう基準だったんですか。なら納得です」

 一人で納得しているが、俺には訳がわからない。

「どういう事だ?」

「前にリディナ先生が言っていたんですよ。卒業レベルに達したら、秋の卒業式で冒険者ギルドに連れて行って一緒に登録までしてくれるって。
 つまり卒業レベルというのは冒険者C級を意味していたんですね」

 ちょっと待って欲しい。

「冒険者C級っていうのはどんな魔物でも相手に出来るってレベルだぞ。私塾を出たばかりの新人がいきなりなるようなレベルじゃない」

「あの勉強会を見てそう言えますか?」

 なるほど、確かに。それでふと思いついたので聞いてみる。

「ファビオは魔法、どれくらいなんだ?」

「水属性がレベル5で空属性がレベル4です。火と風、土はレベル3ですね」

 おいちょっと待て。

「何だそれは。さっき言った通りならその辺の冒険者よりよっぽど強いだろう」

「まあそうですけれどね。ミメイ先生含む先生達はそんなレベルじゃないですよ」

「セレス先生もか」

「勿論です」

 ファビオはそう言って、そして俺しか聞こえないような小さい声でこう、俺に尋ねた。

「兄さんは殲滅の魔人という名前の冒険者パーティ、知っていますか?」

 名前は聞いた事がある。ほとんど伝説という感じで。

「名前だけは。10年くらい前に中部に出来たダンジョンを数日で攻略して、更に東海岸中部のバーリからカラバーラまでの魔物や魔獣を殲滅に近い状態まで倒したという伝説のパーティだろ。今でもカラバーラ近辺に魔物がほとんど出ないのは、あのパーティが狩り尽くしたからだという」

「その伝説は半分だけ本当です。魔物が出ないのは狩り尽くしたからではなく今でも出たらすぐに狩っているからなんです。殲滅の魔人が。
 その正体があの先生3人なんです。セレス先生、リディナ先生、そしてフミノ先生」

 え゛っ!!

「何だって!」

 名前とセレスがイメージ的に結びつかない。
 しかし先程見たあの動きや魔法が使えるのなら、強さ的には確かに……

「冗談では無く事実です。勉強会に来ている生徒でもほとんどは知りませんけれど。
 去年の11月に先輩達の卒業式をやった時にリディナ先生が言っていたんです。知っているのは卒業者6人とその場にいた僕ら4人だけですね。
 この事については念の為ミメイ先生やカレン団長にも確認しました。間違いないそうです。先生達も普段は隠しているので僕も普通は言いませんけれど」

 うーむ。どう考えても冗談にしか聞こえない。
 しかしさっき見た強さ以外にも思いあたる節がある。

 例えば今日出ていた魔猪の肉。この辺一帯は魔物や魔獣は滅多に出ない。つまり魔猪なんてのもほとんどお目にかかる事はないのだ。

 それを普通に料理に使っているという事は。
 人知れず狩った。そう考えればつじつまが合う。

 それに今までセレスは言っていた。3人で冒険者をしていたと。

 つまりあの勉強会の先生3人。全員20歳前半の女性だけれども、その正体は伝説の冒険者パーティという事か。
 勿論セレスも。

 確かに強いのはファビオ相手の模擬戦で充分わかった。しかし微妙に納得出来ない。理屈ではなく感覚的に。

「ところで兄さんはセレス先生と知り合いみたいですけれど、そうなんですか? そうだとしたらどうやって知り合ったんですか?」

 逆に質問されてしまった。仕方ない。それに教えてもやましい事は何もない。
 店で布を売った時の事を簡単に説明する。

「なるほど。でもそれにしては何か雰囲気が良かった気がするんですけれど」

「そんな事はないさ。今回も勉強会に生徒を出している父兄で、ついでに布の注文を頼んだ相手ってところだろ」

 そう、それだけの関係の筈だ。多分、今のところは。
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