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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

9 勉強会の状況⑷

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 その後は先程ファビオ達が戦った壁の向こう側へ全員で降りて、2組に分かれて魔法の訓練。

 セレスやファビオと一緒にいる合計7人が水属性魔法の上級で、他はそれ以外なのだろう。
 先程年長っぽい先生が言った言葉を考えると。
 なのでまずはファビオやセレスがいる方を見てみよう。

「それでは標的を作ります」

 セレスがそう言って、俺から見て正面向こう側を見る。
 ボコボコッ、そんな感じで5個所程の土が盛り上がった。見る間に高さ半腕1mちょっとの人型になる。

 いや、人ではない。これはゴブリンだ。買い付けに出た際に何度か見ているのでわかる。貧弱な身体のわりに大きな頭と手、手に持った短い剣。
 
 言葉と仕草からしてセレスが魔法で作ったのだろう。
 しかしこれ、水属性だろうか。どう考えても土属性の魔法のような気がするけれど。

「それでは練習を始めてください。質問があれば随時受け付けます」

 そして生徒達が出した魔法がまた予想外だった。手元から強力な水流らしきものを放ったり、氷弾らしきものを撃ったり。

 ファビオの奴は氷弾、細くて真っ直ぐで土人形を貫通する位の水流、そして土人形を押し流す威力の波のような水流と何種類も使っていた。
 
 あいつ、こんな事が出来たのかと思う。もうこの時点でそこらのC級冒険者より数段強いのではないだろうか。

 更に生徒の1人、ファビオと同じ位の女の子がセレスに何かを告げる。
 セレスが頷いて周囲の生徒に何かを告げた。ここからは声が聞こえないからわからないけれど。

 何だろう。そう思ったらセレスの前10腕20m位のところで水の柱が立った。
 いや、水では無く氷。直径3腕6m高さ4腕8m位はありそうな巨大な氷の柱だ。

 きっとあの女子生徒に頼まれてセレスが魔法の見本を見せたのだろう。
 しかしあの魔法……とんでもなくレベルが高い魔法のような気がする。

 確かに上級者とは言っていた。しかしこれ、単なる子供向け勉強会の上級ってレベルでは無い。
 俺の常識が間違っていない限りは。

 気を取り直して初心者という方を見てみる。こちらはどうだろう。
 いや待て、こっちの方が訓練はむしろ異常だ。
 ファビオ達の方は土人形はその場で動かなかった。しかしこっちの土人形は動いている。数は3体と少ないが、それぞれが全く別の場所で、左右全く別に。

 動く土人形目がけて魔法が飛んでいく。火球とかは見た目でもわかりやすい。10歳程度の子供が使う魔法とは思えないけれど。

 小柄な先生は生徒達にアドバイスしたり、何やら自分で魔法を使ったりしているようだ。
 おそらく土人形を動かしているのも彼女なのだろう。ただそちらを見て操作しているような様子は見えない。

 土人形は左右に勝手に動いて、時々魔法を食らって倒れ、そしてまた復活して歩き始めるというのを繰り返している。
  
 そちらの生徒が試しているのは攻撃魔法だけでは無い。土を盛り上げる魔法とか穴を掘ったりする魔法とかもやっている。

 焚き火みたいに火を燃やすだけの魔法もある。火が大きくなったり小さくなったりしているのはわざとなのかコントロール不足なのか。

 10歳位とかそれ以下の子供がそんな事をやっているのだ。何というか、非常識的な風景だなと感じる。
 
 そんな練習風景らしきものをずっと見ていた結果、常識とか現実感とかがぐちゃぐちゃになった頃。
 ゴーン、ゴーン……
 12の鐘が鳴り始めた。

「お昼御飯の時間です。聖堂に戻りましょう」

 セレスが周囲にそう声をかける。
 全員が魔法の練習をやめ、魔法のターゲットになっていたゴブリンの土人形が形を失い元の土に戻って。
 セレス、生徒達、小柄な先生という順でぞろぞろ歩いて聖堂へと向かう。

 俺も後をついていって聖堂の中へと入り、先程座っていた机へ。
 生徒達は席に座る前に前の方、先程はおやつが並んでいたテーブルの方と向かっている様だ。
 テーブル上に並んでいるお皿とスプーンとタンブラーを取って、自分の机へと戻っていく。

「今日のお昼御飯はカツドンだよ。おかわりは3杯までOKだから焦って取らなくても大丈夫。
 あと正規の授業は終わりだけれど、今日もご飯を食べた後から2の鐘までは勉強も魔法の練習も質問を受け付けるから」

 2限目に中に残っていた年長っぽい先生がそう言いながらテーブル上にどんどん皿やコップを並べている。
 今度のお皿は深くて大きいタイプだ。そして皿の中には黄色い玉子焼きっぽい何かが載っているのが見える。

 あの皿に入っているのは何だろう。そう思いながら生徒や先生達の動きを見る。

 ひととおり生徒が取り終えて食べ始めたところで、セレスが俺のいる机にやってきた。

「よろしければどうぞ。生徒と同じものですけれど」

 出されたのは何かの揚げ物を卵で覆った何か。見たことのない料理だ。

「ありがとうございます。はじめて見る料理です。確かカツドンと言っていましたけれど」

「ええ、肉を揚げて卵でとじたものを、白飯の上に載せたものです。フミノ先生の郷土の料理と聞いています」

 白飯は知っている。パエリアと違って味付け無しで炊いた米だ。その上に卵とカツが乗っているのか。
 どんな味だろう。今ひとつ見当がつかない。

「いただきます」

 そう言ってから口に運ぶ。予想外の味だ。甘くて、そしてしょっぱいというのだろうか。知らない味だけれど美味しい。

 次はカツ。そこそこの厚さがあるがスプーンで押すと切れる位に柔らかい。

 食べてみる。味としては豚肉だろうか。牛や鹿では無い肉だ。衣部分が甘辛い汁を吸っていて美味しい。
 でもこれだけの肉を使うとなると相当なお金がかかるだろう。生徒の人数を考えると。

「美味しいです。このお肉は豚ですか?」

「討伐した魔猪なんです。だからこれもお金はかかっていないですね」

 いやいやそんな事は無い。そう言いそうになるのをあえて飲み込む。魔猪だって売れば相当な額になる筈だ。 

 味は間違いなく美味しい。こんなのが出たら確かに毎日通いたくもなるだろう。
 それともこれは何か特別な昼食なのだろうか。そういう雰囲気は感じないけれど。

 なんて事を考えていると前からファビオがやってきた。

「どうした?」

「お願いです。本来は勉強会はこれで終わりです。でもいつもは昼2の鐘まで、帰りの馬車が来るまでここで自習したり教えあいをしたりしているんです。
 だから今日もいつも通り2の鐘までここにいていいですか?」

 何となくそんな話が出ることは予想していた。

「ああ。元々昼2の鐘までと聞いていたからさ。俺は構わない。早く帰りたい子がいれば別だけれどな」

「いないと思いますよ。見ればわかるでしょう」

 うん、雰囲気的にわかる。この勉強会、どの子も楽しそうだから。

「ああ。そんな感じだな」
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