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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

8 勉強会の状況⑶

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 教会の外に出て、教会の外側に沿って馬車や馬を繋いでいる場所の先へ。
 石畳の広場状のところを通り抜け、街壁っぽい構造物についた階段を上って行く。

 俺も後に続いて上る。
 やはり街壁っぽい雰囲気の場所だった。高さ1腕半3mくらいの壁で、上が半腕1m程の幅の通路になっている。

 ただ囲っている範囲はずっと狭い。内側は100腕200m四方くらいの平らに均した土の広場で、ところどころ背の低い草が生えている。

 これって魔法訓練用の場所なのだろうか。
 確かにこの街壁っぽい部分は頑丈そうだ。それなりの魔法が直撃しても問題無さそうな位に。
 
 しかしこれって相当な工事費がかかっている気がする。これもあの教会と同じように最初からあった施設なのだろうか。

「それではまず、ファビオ君の挑戦からです。皆さんはこの上から見学していて下さい」

 セレスとファビオが階段で内側へ。
 残った先生1人と他の生徒は壁の上から2人を見る形だ。
 さて、挑戦と言ったけれどどんな事をするのだろう。

「ルールはいつもと同じです。魔法も攻撃も自由。私からは魔法で直接の攻撃はしません。ただし砂時計1回分経った後は防御や足止めの魔法を使います。
 時間はいつも通り砂時計2回分で。フミノ先生、お願いします」

「了解」

 小柄な先生が大きい砂時計を出した。ガラス製で普通の砂時計と同じ形だけれど高さが4半腕50cm位ある。どれくらいの時間用なのだろう。

 あと気になるのはセレスが言った『魔法も攻撃も自由』。それってもろ実戦訓練だろう。

 確かにファビオと比べればセレスの方が5歳くらいは年上だろう。
 しかし身長はファビオとセレス、そう変わらない。そしてどう見てもセレスの方が華奢に見える。

 更に言うとファビオは片手剣を構えている。セレスは素手だ。大丈夫なのだろうか。

 ただもう1人の先生は特に気にする様子は無い。ファビオ以外の生徒も特に騒ぐ様子はない。
 だから俺もあえて異を唱えるようなことはせず、黙って見ることにする。

「それではいつでもどうぞ」

 セレスがそう言ってファビオが構える。そして次の瞬間。

 セレスが動き出した。すっと後ろに下がり、そして予備動作無しに左へと動く方向を変える。
 ファビオの方はまだ剣を構えたままだ。

「空即斬の発動がかなり速いですね。あと目で直接見なくても起動出来るのは見事です。視線を向けるとそれだけ気づかれやすくなりますから」

 セレスの言葉が正しいのなら、ファビオは目で見えないながら何らかの攻撃を仕掛けているようだ。そしてセレスはそれを避け続けていると。

 ただし俺にはセレスが不規則に動いている事しか見えない。

 ファビオが視線をセレスの方に向けた。直後ファビオの前から何かがセレスに向けて延びる。

 セレスはさっと左に避けた。延びた何かが勢いを失い下へと落ちる。石畳の上に落ちて広がったのは水だ、多分。

「あと半分」

 右側で小柄な先生が砂時計をひっくり返した。その直後。

「行きます!」

 ファビオが突如としか言いようのない唐突さで前にダッシュした。何だ今の動きはと思う間もなく、セレス目がけて真っ直ぐかつすさまじく速い突きを繰り出す。

 セレスはそれを拳二個分程度の距離で避けた。更に次の瞬間、セレスの右側で何かが弾ける。氷? キラキラ光って石畳の上に落ちて染みになる。

 セレスの動きが少し速くなった。ファビオが繰り出す突きをかわしつつ舞うように動く。
 時折セレスの周囲に水が出現して跳ねる。何か剣以外の攻撃、おそらく何かの魔法を防いでいるのだろう。
 俺には全くわからないけれど。

 というかセレスの動きがとんでもないのは別として、ファビオもあそこまで動けるとは知らなかった。

 俺自身は剣も魔法もまるで使えない。しかし毎月の仕入れで冒険者に護衛をして貰っている。仕入れに行く途中でゴブリンが3匹出てきて冒険者が戦っているのを見た事もある。

 そういった時のC級冒険者の動きと比べると、ファビオの動きはとんでもなく速く見える。片手剣で高速の突きを入れながら、更に俺には見えない魔法でセレスを攻撃している。

 しかしファビオよりセレスの方が少しだけ速い。そしてファビオの攻撃はほぼ全部見切られているようだ。ほんの少しの差で避けられ、あるいは出てきた水に曲げられたりしている。

 そこでふと俺は気づく。セレスの方がほんの少し速いのは偶然だろうかと。あれはファビオの攻撃をぎりぎりで避けられる位の速度に抑えているだけではないかと。

 ファビオは突いたり打ったりと連続で攻撃を繰り出している。しかしセレスはほぼ全ての攻撃を拳二個程度の差で避ける。更に時折すっと予想出来ない方向に滑るように動いたりもする。

 超上級者による演武のようだと感じる。お互い動きが速くなおかつ無駄がない感じが。
 ファビオの攻撃だって相当なものだ。俺の目で見えるのは剣と身体の動きだけ。
 それでも俺の知っているファビオと同一人物とは思えない。

「終わり」

 小柄な先生がそう告げる。ぴたっと2人の動きが止まった。
 そしてセレスが軽く拍手する。

「前よりずっと強くなっています。空即斬も剣技も実戦レベルです。今回は私も魔法を使って防がないと危なかったですから。
 騎士団でも相当訓練を積みましたね、この感じでは」

 えっ!? 騎士団が何故出てくるんだろう、ここに。
 確かに騎士団で剣の練習をすれば強くなるだろう。
 しかしファビオ、そんな事までしていたのか。家でそんな事はまったく聞いていないのだが。

「ええ。カレン団長が操るゴーレム相手に魔法と剣両方使う戦闘方法を練習したんです。今度こそは届くかと思ったのですけれど」

「惜しかったです。この調子であと半年も練習すれば、私も本気を出さないと負ける位になると思います。
 今回の戦いで強いて言えば……」

 何か講評を始めた。しかし俺の思考はそれどころではない。

 騎士団のカレン団長と言ったら、少なくともカラバーラでは一人しかいない。

 カラバーラ領騎士団団長でスリワラ伯爵夫人であるカレン・ララファス・スリワラ。
 この国の元第二王女でスリワラ伯爵夫人、そして攻撃魔法無効スキルを持つ、免状持ちの剣士。
 何でそんな人に稽古をつけて貰っているのだ、ファビオは。

 あと今のセレスの言葉。

『あと半年も練習すれば、私も本気を出さないと負ける位になると思います』

 やはり本気ではなかったようだ。どういう強さなんだ一体。
 後でファビオによく聞いておこう。俺の常識を越える部分が多すぎて整理できない状態だから。
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