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拾遺録3 仕入れ旅行の帰りに

5 勉強会の場所

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 この建物を外から見た時は教会に見えた。しかし祭壇をはじめとしたそれっぽい設備が見当たらない。
 しいて教会らしいところをあげれば正面奥に神像らしい像が並んでいるところだろうか。

 ただし俺が知っている教会の神像とは大分異なる。大抵の教会は神像が中央に1つ。しかしここは7体の像が並んでいる。

 他の様式も俺の知っている教会と少なからず違う。少なくともセドナ教会やマーセス教会、ナイケ教会といった有名どころとは。

「変わった教会ですね」 

「今の各教会が出来る以前の古い建物のようです。広くて使いやすいので勉強会に使わせてもらっています」

「教会としては使っていないのですか」

「ええ。セドナ教団の教会が別にこの村にありますから。ここは主に勉強会用ですね、今では」

 そう言えばここは私塾ではなく、有志がやっている無料の勉強会だった。

 ただ名前はどうであれ勉強を教えるのは同じ筈だ。しかし私塾によくある教壇とかそちらを向いた机というのが無い。確かに机は幾つもあって聖堂の前側を向いているけれど。

 あと集まっている子供の年齢がまちまちだ。下は6歳位から、上は15歳以上っぽいのまでいるような……
 どこまでが手伝いかわからないけれど。
 
 セレスは建物の中程、勉強用の机ではなくテーブルが並んだ場所の椅子を引く。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 俺が座った反対側にセレスが腰掛ける。なおその後、つまり前の方の机の一つにファビオの姿が見える。同じ位の年齢の四人で何か話しているようだ。

「飲み物は冷たい麦茶でいいですか」

「ありがとうございます」

「どうぞ」

 彼女は持っていたバッグからコップに入った麦茶を取り出した。俺の前と自分の前に置く。

「そう言えばそのバッグは自在袋でしたね」

「ええ。あとこの服、あの時の布地なんです。肌触りが良くて皆にも評判良かったんですよ、これ。安かったですし。あの時はありがとうございました」

「いえ。こちらこそお買い上げありがとうございました。使っていただけて嬉しいです」

 彼女のように使いこなせる人が手に入れたなら布地も幸せだろう。

「ところで最近はお仕事、お忙しいのでしょうか。2週間ほど前にお店の方に伺ったのですがいらっしゃらなかったので」

 2週間前か。その頃は……

「ちょうど買い出しに行っていました。月に一度はネイプルに買い出しに行きますから。
 元々お店にはあまり出ないんです。月の前半はネイプルへの買い出しに出ていますし、月の終わり頃はネイプルへ売りに行く品物の仕入れをしています」

「そう言えば仰っていましたね。直接ネイプルへ行って仕入れてきているって」

 そう言えばそんな話をした気がする。布の説明の時だったろうか。

「ええ。毎月行っているのですけれど、往復と買い付けで二週間近くかかりますので。
 あと私はそういった仕入れが主で、お店の方はあまり出ないのです。あの時は父が風邪を引いたので私が代わりに出てました」

「なるほど、そうだったのですね。実は今度、麻か綿で頑丈な布地が欲しいと思ってお店に行ったのですけれど、ちょうどいいのが無くて。いらっしゃれば相談しようと思っていたのですけれど」

 麻か綿で頑丈な布地か。

「どのようなご用途に使われるのでしょうか」

「肌着や作業衣です。だから頑丈だけれど肌触りがいいのが欲しくて。ただそうなると糸と織りが少し贅沢になるからか、今は在庫がないと伺ったんです。少し高くても、あの一巻きで小金貨12枚120万円位までなら欲しかったのですけれど」
 
 なるほど。確かにそういった布地は店にはあまり置いていない。単価が高くなるので仕立屋等で注文を受けない限り仕入れないからだ。

 ただ逆に言えば仕入れてくれば問題はない。値段もそれ位の予算があれば余裕だ。

「それでしたら相談していただければ次の機会に仕入れてきますよ。ある程度の見本は店にもあるので来ていただければ」

「わかりました。今日はこの後勉強会があるので、明日はいらっしゃいますでしょうか」

 それは俺がという事だろうか。でも話の流れからはそうとしかとれない。父と母なら店にいつもいるから。

「明日は倉庫整理位なので大丈夫です。時間さえ教えてくれれば店にいるようにします」

「なら明日10の鐘の頃でいいでしょうか」

 どうやら本当に俺が相手でいいようだ。

「ええ。それでは見本を準備しておきます」

「わかりました。それでは宜しくお願いします」

「こちらこそ」

 頼りにして貰えるならこちらとしては嬉しい。セレスと話していると楽しいし。

「これから勉強会をやるので私はこれで失礼します。ですがどうぞゆっくりしていって下さい。何でしたら終わるまで見ていただいても大丈夫です。
 また他に何かありましたらそちらで小さい子を預かっている教会の方に言っていただければ。
 それではすみません、失礼します」

 セレスはそう言うと立ち上がって前の方へ歩いて行く。いつの間にかセレス分のコップは消えていた。

 明日、来るのか……
 なら見本の他に近い布地等も用意して、わかりやすくしておこう。

 そう思ったところで鐘の音が聞こえた。朝10の鐘だ。
 この勉強会は昼2の鐘まで。今からカラバーラの街へ戻っても馬の世話をして1時間位で出ることになる。

 ならセレスの言葉に甘えて、ここで待たせて貰おうか。

 でもその前に馬に水と干し草をやっておこう。ここで待つ可能性もあったので一応馬車に干し草は積んである。水は水路があったのでそちらで汲ませて貰おう。
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