236 / 285
拾遺録2 イリアちゃんの寄り道
その14 意識?
しおりを挟む
この家に引っ越して3ヶ月ちょっと経過した。
その間にうちの住人は2人ほど増えてしまった。
増えたのはシモーヌとベアトリス、7歳と4歳の姉妹だ。
両親は小舟に乗って漁師をしていたが、ある日帰ってこなくなってそれきりだったらしい。
ここへ住んで1月した頃にエミリオが発見して連れてきた。
当初は2人ともずっと暗い表情で、全く笑顔を見せなかった。
1日に何度も元の家を見に行っては泣いている。
そんな感じだったのだ。
しかし今では笑顔も見せるし、手伝いも積極的にしてくれる。
イリアが毎日話しかけたり一緒に行動したり。
エミリオも一緒に元の家を見に行ってやったり、買物に連れ出したり。
そんな日々の積み重ねの結果だと思う。
さて、今のこの家の日程は、
○ 朝、起きて皆で朝食
○ 俺かイリアのどちらかが冒険者ギルドへ行って依頼を受け、そのまま依頼へと出向く
○ 残った方が午前中エミリオ、シモーヌ、ベアトリスに勉強や魔法を教える。
○ 昼食を食べて午後は自由時間。
エミリオは見回りに出かける。
買物や家事なんかもこの時間にやる
○ 冒険者ギルドに出た方が戻ってきて夕食
といった感じだ。
冒険者ギルドへ行くのは俺の方が多い。
これは俺に家事能力がないから、というかイリアの家事能力が完璧過ぎるから。
確かにイリア、先生達の家の子供や家事担当だとは聞いていた。
しかし正直ここまでとは思わなかった。
料理の腕は俺が見る限りレズンと対等に近い。
裁縫なんてのも得意で、服のサイズ直しなんてのもあっという間にやってしまう。
洗濯だって水属性魔法を使って出来るし、部屋掃除は以前見た通りだ。
この家事能力が一般の普通だとは俺は思えない。
イリアは当然のようにやるし、エミリオやシモーヌ達にも教えているけれど。
まあこんな感じで驚く事は多い。
でも一番驚いたというか俺として問題が生じた事案は、引っ越して3日目くらいに起きた出来事だったりする。
◇◇◇
朝食を食べながらの雑談の最中だった。
エミリオが唐突にこんな事を言ったのだ。
「カイルさんとイリアは結婚してたり恋人同士だったりじゃないのか? 寝るのも部屋が別だしさ」
ちょっと待って欲しい。
「同じ勉強会にいた仲間ってだけだぞ。この街で会ったのも偶然だし、それも2年ぶりくらいだしさ」
「だよね。勉強会の時もあまりカイルさんとは接点無かったし。それにA級冒険者ならそれなりの相手がもういるんじゃない?」
実はその辺、ちょっとトラウマに近いものがあったりする。
「名前が売れると面倒な事の方が多いぞ。ある日冒険者ギルドに行ったら一度も会った事が無い女が婚約者ですと称して待っていたりとかさ。
東海岸に逃げて来たのだってそういった面倒から逃げる為なんてのもあったりするしな」
実はもっとえぐい事案もあったりする。イリアにもエミリオには言えないようなのが。
どうしようもないので審判庁へ駆け込み魔法真偽判定をして貰って何とかなったけれど。
そんなこんなで女性関係は当分遠慮したいと思っていた訳だ。
ただ、その辺イリアが相手なら問題ないかもしれない。
一瞬だけ、一瞬だけだけれどそう思ってしまった。
あまり接点が無かったとは言えあの勉強会出身のイリアなら、俺の事を過大評価する事はないだろう。
自活能力は充分あるから金目当てという事も無い。
家事能力は知っての通り完璧を通り越している。
顔だって結構可愛い。
でも待て、俺。
まずイリアの方にはその気は全く無い筈だ。
エミリオへのさっきの返答からもそれは確か。
それにあの勉強会出身者というのは微妙に普通というか一般の常識から逸脱している。
ましてやイリアは先生の家出身。
常識も能力も更に逸脱しまくりだ。
普通の人は振り回すだけで槍を折ったりしない。
ゴブリンどころか魔猪まで武器を使わずにキックとパンチだけで倒したりはしない。
俺自身は結婚相手はごく世間並みの普通の相手がいいのだ。
俺だって正直恋人は欲しい。
それなりの性欲だって間違いなくある。
いい相手がいたらそのままゴールインなんてしても本望だ。
しかし現実に近づいてくるのはA級冒険者を身内に入れて箔をつけようとする貧乏貴族とか商家とか。
行く先々の冒険者ギルドで待ち構えられたり、あげくの果てには泊っている宿屋にいきなり肌もあらわな女が……
悪夢が蘇る。
ならいっそ誰かとくっついてしまった方が楽になるだろう。
しかしそんな相手に出会う機会なんてのはほとんどない。
だったら、いっそ……
そう思って、そしてふと気づくわけだ。
イリアの方はその気は全然ないという事に。
◇◇◇
それ以来、俺は必要以上にイリアの事を気にするようになってしまった。
エミリオのせいだと言いたいがそうもいかない。
何と言うか悶々とする。
それでも此処を出て行く気にはならない。
エミリオがいるし、シモーヌとベアトリスもいる。
それに此処の雰囲気そのものは好きなのだ。
かつての村の勉強会と似た感じがあって。
イリアが持ち込んだ教材その他だけが原因はでない。
言葉に言い表せない何かがそう感じさせるのだ。
そんな訳でここで生活して3ヶ月ちょい。
秋を迎え、エミリオが一通り文字を読めるようになった頃。
その手紙はやってきた。
アギラからだ。
『あと半月程度で一緒にそちらに向かいます』
要約するとそんな内容になる。
一緒にというのは勿論ヒューマだろう。
その間にうちの住人は2人ほど増えてしまった。
増えたのはシモーヌとベアトリス、7歳と4歳の姉妹だ。
両親は小舟に乗って漁師をしていたが、ある日帰ってこなくなってそれきりだったらしい。
ここへ住んで1月した頃にエミリオが発見して連れてきた。
当初は2人ともずっと暗い表情で、全く笑顔を見せなかった。
1日に何度も元の家を見に行っては泣いている。
そんな感じだったのだ。
しかし今では笑顔も見せるし、手伝いも積極的にしてくれる。
イリアが毎日話しかけたり一緒に行動したり。
エミリオも一緒に元の家を見に行ってやったり、買物に連れ出したり。
そんな日々の積み重ねの結果だと思う。
さて、今のこの家の日程は、
○ 朝、起きて皆で朝食
○ 俺かイリアのどちらかが冒険者ギルドへ行って依頼を受け、そのまま依頼へと出向く
○ 残った方が午前中エミリオ、シモーヌ、ベアトリスに勉強や魔法を教える。
○ 昼食を食べて午後は自由時間。
エミリオは見回りに出かける。
買物や家事なんかもこの時間にやる
○ 冒険者ギルドに出た方が戻ってきて夕食
といった感じだ。
冒険者ギルドへ行くのは俺の方が多い。
これは俺に家事能力がないから、というかイリアの家事能力が完璧過ぎるから。
確かにイリア、先生達の家の子供や家事担当だとは聞いていた。
しかし正直ここまでとは思わなかった。
料理の腕は俺が見る限りレズンと対等に近い。
裁縫なんてのも得意で、服のサイズ直しなんてのもあっという間にやってしまう。
洗濯だって水属性魔法を使って出来るし、部屋掃除は以前見た通りだ。
この家事能力が一般の普通だとは俺は思えない。
イリアは当然のようにやるし、エミリオやシモーヌ達にも教えているけれど。
まあこんな感じで驚く事は多い。
でも一番驚いたというか俺として問題が生じた事案は、引っ越して3日目くらいに起きた出来事だったりする。
◇◇◇
朝食を食べながらの雑談の最中だった。
エミリオが唐突にこんな事を言ったのだ。
「カイルさんとイリアは結婚してたり恋人同士だったりじゃないのか? 寝るのも部屋が別だしさ」
ちょっと待って欲しい。
「同じ勉強会にいた仲間ってだけだぞ。この街で会ったのも偶然だし、それも2年ぶりくらいだしさ」
「だよね。勉強会の時もあまりカイルさんとは接点無かったし。それにA級冒険者ならそれなりの相手がもういるんじゃない?」
実はその辺、ちょっとトラウマに近いものがあったりする。
「名前が売れると面倒な事の方が多いぞ。ある日冒険者ギルドに行ったら一度も会った事が無い女が婚約者ですと称して待っていたりとかさ。
東海岸に逃げて来たのだってそういった面倒から逃げる為なんてのもあったりするしな」
実はもっとえぐい事案もあったりする。イリアにもエミリオには言えないようなのが。
どうしようもないので審判庁へ駆け込み魔法真偽判定をして貰って何とかなったけれど。
そんなこんなで女性関係は当分遠慮したいと思っていた訳だ。
ただ、その辺イリアが相手なら問題ないかもしれない。
一瞬だけ、一瞬だけだけれどそう思ってしまった。
あまり接点が無かったとは言えあの勉強会出身のイリアなら、俺の事を過大評価する事はないだろう。
自活能力は充分あるから金目当てという事も無い。
家事能力は知っての通り完璧を通り越している。
顔だって結構可愛い。
でも待て、俺。
まずイリアの方にはその気は全く無い筈だ。
エミリオへのさっきの返答からもそれは確か。
それにあの勉強会出身者というのは微妙に普通というか一般の常識から逸脱している。
ましてやイリアは先生の家出身。
常識も能力も更に逸脱しまくりだ。
普通の人は振り回すだけで槍を折ったりしない。
ゴブリンどころか魔猪まで武器を使わずにキックとパンチだけで倒したりはしない。
俺自身は結婚相手はごく世間並みの普通の相手がいいのだ。
俺だって正直恋人は欲しい。
それなりの性欲だって間違いなくある。
いい相手がいたらそのままゴールインなんてしても本望だ。
しかし現実に近づいてくるのはA級冒険者を身内に入れて箔をつけようとする貧乏貴族とか商家とか。
行く先々の冒険者ギルドで待ち構えられたり、あげくの果てには泊っている宿屋にいきなり肌もあらわな女が……
悪夢が蘇る。
ならいっそ誰かとくっついてしまった方が楽になるだろう。
しかしそんな相手に出会う機会なんてのはほとんどない。
だったら、いっそ……
そう思って、そしてふと気づくわけだ。
イリアの方はその気は全然ないという事に。
◇◇◇
それ以来、俺は必要以上にイリアの事を気にするようになってしまった。
エミリオのせいだと言いたいがそうもいかない。
何と言うか悶々とする。
それでも此処を出て行く気にはならない。
エミリオがいるし、シモーヌとベアトリスもいる。
それに此処の雰囲気そのものは好きなのだ。
かつての村の勉強会と似た感じがあって。
イリアが持ち込んだ教材その他だけが原因はでない。
言葉に言い表せない何かがそう感じさせるのだ。
そんな訳でここで生活して3ヶ月ちょい。
秋を迎え、エミリオが一通り文字を読めるようになった頃。
その手紙はやってきた。
アギラからだ。
『あと半月程度で一緒にそちらに向かいます』
要約するとそんな内容になる。
一緒にというのは勿論ヒューマだろう。
576
お気に入りに追加
3,130
あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく
しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ
おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。