ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録2 イリアちゃんの寄り道

その14 意識?

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 この家に引っ越して3ヶ月ちょっと経過した。
 その間にうちの住人は2人ほど増えてしまった。

 増えたのはシモーヌとベアトリス、7歳と4歳の姉妹だ。
 両親は小舟に乗って漁師をしていたが、ある日帰ってこなくなってそれきりだったらしい。

 ここへ住んで1月した頃にエミリオが発見して連れてきた。
 当初は2人ともずっと暗い表情で、全く笑顔を見せなかった。
 1日に何度も元の家を見に行っては泣いている。
 そんな感じだったのだ。

 しかし今では笑顔も見せるし、手伝いも積極的にしてくれる。
 イリアが毎日話しかけたり一緒に行動したり。
 エミリオも一緒に元の家を見に行ってやったり、買物に連れ出したり。
 そんな日々の積み重ねの結果だと思う。
 
 さて、今のこの家の日程は、
  ○ 朝、起きて皆で朝食
  ○ 俺かイリアのどちらかが冒険者ギルドへ行って依頼を受け、そのまま依頼へと出向く
  ○ 残った方が午前中エミリオ、シモーヌ、ベアトリスに勉強や魔法を教える。
  ○ 昼食を食べて午後は自由時間。
    エミリオは見回りに出かける。
    買物や家事なんかもこの時間にやる
  ○ 冒険者ギルドに出た方が戻ってきて夕食
といった感じだ。

 冒険者ギルドへ行くのは俺の方が多い。
 これは俺に家事能力がないから、というかイリアの家事能力が完璧過ぎるから。

 確かにイリア、先生達の家の子供や家事担当だとは聞いていた。
 しかし正直ここまでとは思わなかった。

 料理の腕は俺が見る限りレズンと対等に近い。
 裁縫なんてのも得意で、服のサイズ直しなんてのもあっという間にやってしまう。
 洗濯だって水属性魔法を使って出来るし、部屋掃除は以前見た通りだ。

 この家事能力が一般の普通だとは俺は思えない。
 イリアは当然のようにやるし、エミリオやシモーヌ達にも教えているけれど。

 まあこんな感じで驚く事は多い。
 でも一番驚いたというか俺として問題が生じた事案は、引っ越して3日目くらいに起きた出来事だったりする。

 ◇◇◇

 朝食を食べながらの雑談の最中だった。
 エミリオが唐突にこんな事を言ったのだ。

「カイルさんとイリアは結婚してたり恋人同士だったりじゃないのか? 寝るのも部屋が別だしさ」

 ちょっと待って欲しい。
 
「同じ勉強会にいた仲間ってだけだぞ。この街で会ったのも偶然だし、それも2年ぶりくらいだしさ」

「だよね。勉強会の時もあまりカイルさんとは接点無かったし。それにA級冒険者ならそれなりの相手がもういるんじゃない?」

 実はその辺、ちょっとトラウマに近いものがあったりする。

「名前が売れると面倒な事の方が多いぞ。ある日冒険者ギルドに行ったら一度も会った事が無い女が婚約者ですと称して待っていたりとかさ。
 東海岸に逃げて来たのだってそういった面倒から逃げる為なんてのもあったりするしな」

 実はもっとえぐい事案もあったりする。イリアにもエミリオには言えないようなのが。
 どうしようもないので審判庁へ駆け込み魔法真偽判定をして貰って何とかなったけれど。

 そんなこんなで女性関係は当分遠慮したいと思っていた訳だ。
 ただ、その辺イリアが相手なら問題ないかもしれない。
 一瞬だけ、一瞬だけだけれどそう思ってしまった。

 あまり接点が無かったとは言えあの勉強会出身のイリアなら、俺の事を過大評価する事はないだろう。
 自活能力は充分あるから金目当てという事も無い。
 家事能力は知っての通り完璧を通り越している。
 顔だって結構可愛い。

 でも待て、俺。
 まずイリアの方にはその気は全く無い筈だ。
 エミリオへのさっきの返答からもそれは確か。

 それにあの勉強会出身者というのは微妙に普通というか一般の常識から逸脱している。
 ましてやイリアは先生の家出身。
 常識も能力も更に逸脱しまくりだ。

 普通の人は振り回すだけで槍を折ったりしない。
 ゴブリンどころか魔猪まで武器を使わずにキックとパンチだけで倒したりはしない。

 俺自身は結婚相手はごく世間並みの普通の相手がいいのだ。

 俺だって正直恋人は欲しい。
 それなりの性欲だって間違いなくある。
 いい相手がいたらそのままゴールインなんてしても本望だ。

 しかし現実に近づいてくるのはA級冒険者を身内に入れて箔をつけようとする貧乏貴族とか商家とか。
 行く先々の冒険者ギルドで待ち構えられたり、あげくの果てには泊っている宿屋にいきなり肌もあらわな女が……
 悪夢が蘇る。

 ならいっそ誰かとくっついてしまった方が楽になるだろう。
 しかしそんな相手に出会う機会なんてのはほとんどない。

 だったら、いっそ……
 そう思って、そしてふと気づくわけだ。
 イリアの方はその気は全然ないという事に。

 ◇◇◇

 それ以来、俺は必要以上にイリアの事を気にするようになってしまった。
 エミリオのせいだと言いたいがそうもいかない。
 何と言うか悶々とする。

 それでも此処を出て行く気にはならない。
 エミリオがいるし、シモーヌとベアトリスもいる。

 それに此処の雰囲気そのものは好きなのだ。
 かつての村の勉強会と似た感じがあって。
 イリアが持ち込んだ教材その他だけが原因はでない。
 言葉に言い表せない何かがそう感じさせるのだ。
 
 そんな訳でここで生活して3ヶ月ちょい。
 秋を迎え、エミリオが一通り文字を読めるようになった頃。
 その手紙はやってきた。
 アギラからだ。

『あと半月程度で一緒にそちらに向かいます』

 要約するとそんな内容になる。
 一緒にというのは勿論ヒューマだろう。
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