ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒇ 事態の収拾

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 斜路ではなく階段を通って、迷宮ダンジョン入口の洞窟があった広場へ。
 洞窟は影も形もなくなっていた。
 単なる崖という状態だ。

 崖の前の広場は足の踏み場もない状態。
 俺達や騎士団のゴーレム、中で洞窟を塞いでいた障壁の丸太や板、俺達の連弩や連弩の鉄矢、投槍、そして魔物の死骸が散らばっている。

「とりあえず全員で回収して、拠点で整理しよう」

 魔物の死骸だけは一箇所に集められているが、他はバラバラ。
 物が多すぎてどうしようもない状態なのでそう提案してみた。

「そうですね。ここで整理するのは時間がかかりそうです」

「それがいいと思うんだな」

 皆さん同じように感じてくれたのだろう。
 そんな訳で全員で手当たり次第に俺達の物を自在袋に収納していく。
 ゴーレム2種類、槍、連弩の矢、そして魔物。

 6人でやると回収作業もそこそこ早い。
 ゴーレムに装備した自在袋も使って、何とか魔物の死骸まで全部収納していく。
 5半時間12分程度で無事回収終了。

「もう一度リントヴルムをじっくり見ておきましょうか。もう見る機会は無いでしょうから」

「だな」 

 という事でリントヴルムの死骸の近くへ行き、自分の目でじっくり観察。

 羽根はボロボロで穴や欠けだらけ、面積的にも本来の6割程度しか残っていない。
 胴体や脚にも連弩の鉄矢がボコボコに突き刺さっている。
 やはり連弩だけで既に致命傷を負っていたようだ。

 何と言うか……
 俺がゴーレム操縦を鍛える必要があったのだろうか?
 何か徒労感のようなものを感じてしまう。

 だいたい今回は、このリントヴルムでさえ前座に過ぎなかったのだ。
 これより5割も魔力が大きい竜種ドラゴンが奥に控えていた。

 おそらく竜種ドラゴンにはゴーレムを使った近接攻撃は効かなかっただろう。
 俺は戦うどころか存在を感じる事すら出来なかったけれど。

「それじゃ戻りましょうか」

「そうだね」

 ヒューマとレウスのやりとりに俺達も頷いて、階段を上へ。
 俺達の分の回収が終了した事をアルベルト氏に報告した後、拠点へと戻る。

 すぐに気がついた。
 俺達が普段使っているのと違うゴーレムが、ゴーレム車の影に佇んでいる事に。

 馬形ゴーレムのグラニーより二回り大きい、人と馬が合体したような特異な形状。
 先生達が使っているゴーレム、ライだ。

 その隣、ゴーレム車の出入口部分によく知っている小柄な人が腰掛けている。
 隠蔽魔法が展開されているからいつもの魔力は感じられない。
 しかし目で見れば間違いなく俺達がよく知っている人だとわかる。

「フミノ先生、今回はありがとうございました」

 俺は、そして他の皆も続いて頭を下げる。

「ううん、今回はルチア達の卒業記念品用の素材調達の為に来ただけ。ちょうどいい迷宮ダンジョンがあると手紙で聞いたから」

 もちろんこれはフミノ先生流の言い訳というか謙遜みたいなものだろう。
 ただ懐かしい名前が出た事で、俺は思わず村でやっていた勉強会の事と、勉強会を卒業してもうすぐ1年経つ事に気付く。
 そうか、もう第2回目の卒業の時期なのだなと。

「皆、元気ですか?」

「うん、皆元気で特に変わりない。ただ勉強会の参加者が少し増えた。あとうちの農場に5人、新しい子が来た。こっちはうちの村ではなくカラバーラの街から」

「農場の方は大丈夫ですか? 新しい子の面倒なんかは? もし必要なら私はいつでも戻れますけれど」

「大丈夫。イリアがいるし、レイナとリードもよくやってくれている」

 サリアとフミノ先生とのやりとりで遠く南にある俺達の村に思いをはせる。
 遠いといってもフミノ先生の魔法なら5時間程度で行けるのだろうし、サリアの魔法でも丸1日あれば帰れるのだけれど。

「一度戻って卒業式を見に行ってもいいですね」

「そうですね。ルチア達の卒業式は何時の予定ですか?」

「11月5日の予定。来てくれると勉強会の皆も喜ぶと思う。もし実家に泊まらないならうちの農場にまだまだ空き部屋がある。泊まっても大丈夫」

 もうあと10日しか無い。
 やはり素材調達というのは単なる言い訳だ。
 そう思った時だった。

「アルベルトさんが来ます」

 サリアの言葉で俺は偵察魔法を起動する。
 確かにアルベルト氏だ。
 騎士団の天幕からこっちに向かって歩いてきている。

「この続きはゴーレム車で話しましょう。お茶とおやつを用意して」

「確かにその方がいい。アルベルトさん、甘いものが好きだから」

 アルベルト氏の甘いもの好きはフミノ先生も知っている模様だ。
 準備と言っても大した手間はかからない。
 ゴーレム車内のテーブルにお茶と御菓子を用意するだけ。
 どちらもレズンが自在袋にストックしている。

 俺達の拠点の入口、道路終点地点へ。
 アルベルト氏より数秒程度早く到着した。

 アルベルト氏はフミノ先生を見て、頭を下げる。

「お久しぶりです。今回も本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。いつもお仕事お疲れ様です」

 どうやらアルベルト氏が相手の場合、フミノ先生も一般的な話し方をするようだ。
 そんな事を思いながらゴーレム車の中へ。
 
 レズン、今回のデザートとして特別なものを出してきた。
 秋になって栗のシーズンになった頃、村の勉強会でお楽しみとして毎年出てきた複雑かつ凝ったケーキだ。

 ケーキの下の台部分はパイ生地。
 その上にナッツが効いたしっとり甘い生地が乗っていて、その上にやや硬めの生クリームが甘く煮た栗を包んだ状態で乗っている。
 更にその外側と上とを細めのパスタのような形に絞った栗のクリームでぐるぐる覆っているという凝った代物だ。

「これははじめて見るケーキですね」

「私の故郷にあったものを再現したものです。作ったのはレズン?」

「良い栗が手に入ったから作ったんだな。レシピはリディナ先生から教わった通りなんだな」

 このケーキを食べるのも1年ぶりくらいだ。
 味は記憶にあるとおり、無茶苦茶美味しい。

「美味しいですね、これは。今まで食べた中でも一番です」

 アルベルト氏も気に入ったようだ。
 確かにこのケーキは甘いもの好きでなくとも美味しいだろう。
 少なくとも俺はそう思っている。
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