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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒆ 詮索・口外禁止

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「第二偵察分隊、位置と種別について確認して下さい」

 アルベルト氏から指示が飛ぶ。

「了解。位置は入口基準で約26離52km。魔力も形態も不安定で種別判定出来ません。ただし先程のリントヴルムと比較して魔力が5割以上大きいです」

 形態不安定、どういう事だ。
 そして魔力がリントヴルムより5割以上大きいとは……

「了解です。それでは第二偵察分隊のゴーレムを16離半33km地点まで物質転送魔法で後退させてください。後退後は引き続き監視を続け、変化ありましたら報告願います」

「了解」

 監視ゴーレムを下げるのは魔物を少しでも刺激しないようにする為だろう。
 何せ先程のリントヴルムより5割魔力が大きいのだ。
 とんでもない大物なのは間違いない。

迷宮ダンジョン奥の魔物、魔力が収束を始めました。形状が固定化。これは竜種ドラゴンです! 種別は竜種ドラゴン

 何だって!

「わかりました。引き続き竜種ドラゴンの監視を維持願います」

 アルベルト氏は少なくとも口調はそのままで、そんな指示をする。

「了解」

「冒険者のみなさん、連弩はあとどれくらい使用可能ですか?」

 このアルベルト氏の質問は迎撃を行う為だろうか。

「今すぐ使用可能が2台で、矢は30本ずつ装填済みです。一度使用した矢は再使用できないので現状はこれだけです」

 ヒューマが言う通り、使える連弩は予備分だけだ。

「わかりました。念のため2台とも現在位置ですぐ使えるよう展開して下さい。すみませんがもう少し待機を御願いします」

「了解」

 竜種ドラゴンへの警戒という事だろう。
 しかし竜種ドラゴンに連弩は効くだろうか。

 かつて読んだ魔物図鑑では、竜種ドラゴンは剣や槍の攻撃が効かないとあった筈だ。
 全属性の攻撃魔法も無効化するとも。

 風属性魔法で目一杯速度を強化しても、俺の投槍で効くだろうか。
 不安しか無いが、それを表に出す訳にはいかない。

「計画を変更します。第一誘導班は直ちに16離半33km地点までゴーレムを移動して下さい。いざという時に竜種ドラゴンを奥方向へ誘導できるように。

 ファリニシュは15離30km地点の広場へ前進。第一誘導班が突破された際のバックアップとして入って貰います。
 洞窟出口に配備している警備班は念のため迷宮ダンジョン誘導路上まで撤退してください」

「了解」

 警備班の席から1人立ち上がって天幕の外へ。

「第二偵察分隊後退完了。竜種《ドラゴン》、起き上がりました。羽を広げ、飛び立とうという様子です」

 まずい、とっさにそう思う。
 竜種ドラゴンに有効な攻撃が思い浮かばない。
 剣や槍が効かず、攻撃魔法も効かないのだ。
 対処のしようが無い。

 そう思った時だった。

「助かったようです」

 唐突にサリアがそんな事を言う。
 どういう意味だ! そう俺が思った時だ。

竜種ドラゴン、姿が消えました。迷宮ダンジョン内捜索を開始」

「不明ゴーレム2体出現。騎士団標準ゴーレムと似た犬型ですが一回り大きいです。位置は15離30kmの広場から伸びる上部出口への連絡通路内。状況から隠匿魔法を使って隠れていたと思われます」

迷宮ダンジョン内、竜種ドラゴンの魔力は確認出来ません。更に迷宮ダンジョン全体から魔物の反応が急速に消え始めています」

 魔法偵察隊席から矢継ぎ早に報告が上がる。
 何が起こっているんだ。
 あまりに予想外の事態に俺の思考が混乱しかけた時だった。

「フミノ先生ですね」

 ヒューマが俺達しか聞こえない小声で呟くように言った。
 サリアが頷く。

「ええ、ヒイロとカトルです。魔力もフミノ先生に間違いありません。でも何故ここに?」

 ヒイロとカトルとは先生達が自宅農場で使用している狼型のゴーレム。
 そしてサリアがフミノ先生の魔力を間違える訳がない。

 しかし何故フミノ先生がここに来てくれたのだろう。
 カラバーラからここまでは250離500km以上ある。
 いくらフミノ先生が規格外だと言っても、偵察魔法で見える距離ではない。
 
「リントヴルムに挑戦する事を書いて手紙を出しておいたんです。ここの拠点を作った翌日に」

 ヒューマの言葉でおおよその状況はわかった。

 フミノ先生は空属性魔法が得意だ。
 本気で超高速移動魔法を使えば100離200kmの距離でも1時間かからないと以前聞いた。
 そして隠蔽魔法は空属性。

 つまり、手紙を読んだフミノ先生は、すぐに此処まで駆けつけて、隠蔽魔法を展開しつつこっそり俺達の様子を伺っていたのだろう。

 ただ竜種ドラゴンをどうやって消したのだろう。
 俺には全く想像出来ない。
 ただフミノ先生ならそれくらい出来そうな気がする。
 先生達の中でも特に規格外な人だから。

「心配いりません。そのゴーレムは味方です。対応する必要はありません」

 アルベルト氏も気付いたようだ。
 そう言えば彼は以前、フミノ先生が竜種ドラゴンと戦った場面を見ていたのだ。
 魔力を覚えていても不思議ではない。

迷宮ダンジョン内の魔物、全て反応消失。残った反応はゴーレムだけです」

迷宮ダンジョン内空間が揺れ始めています。迷宮ダンジョン消失の前触れです」

 調査隊席から続けざまに報告。

 どうやらフミノ先生、この迷宮ダンジョン内の魔物を全て消し去ってしまった模様だ。
 何をどうすればそんな事が出来るのだろう。

 わからないけれど、フミノ先生の仕業には間違いない。
 そんな事が出来そうな人は他にはいないから。

 アルベルト氏がふうっと息をついて、そして周りを見回してから口を開く。

「今回の作戦はこれで終了でしょう。ただし皆さんに御願いです。最後に出現したゴーレム2体とその持ち主、これについては詮索及び口外禁止となります。当人がこの後挨拶にやってくるかもしれませんが、名前や外見その他一切については、皆さんの心の中だけにとどめておいて下さい。
 あの人は目立つ事や名前を知られる事を望んでいませんし、国もそれを認めています。ですから知っているのは騎士団と国の上層部、それもごく一部だけです。
 今回の件については私が直接騎士団長と国王庁に報告します」

 フミノ先生についてはそういう扱いのようだ。
 そう言えばアルベルト氏が最初に竜種討伐者ドラゴン・スレイヤーについて話した際、具体的な個人情報を一切言わなかったなと思い出す。
 きっとフミノ先生の意志を尊重した結果なのだろう。

 そう言えばアルベルト氏、こうも言っていた。
『本当に危機がやってきた時は、きっと何とかしてくれるのだろう』
 何というか結果としてその通りになってしまった様だ。

迷宮ダンジョンの反応、消失しました」

「第二偵察班です。ゴーレムが迷宮ダンジョン入口だった洞窟前の広場に転送されました。
 他のゴーレムや持ち込んだ資材も同様だと思われます」

「洞窟前広場にリントヴルムや、ファリニシュが倒した魔物の死骸が出現しています。これは他の迷宮ダンジョンが消失した時には無かった現象です」

「魔物の死骸については先程現れたゴーレム2体の持ち主の仕業でしょう。問題はありません」

 迷宮ダンジョン攻略は完了したようだ。
 俺達や騎士団ではなく、最後の最後に突如出現したフミノ先生のゴーレム2体によって。

「それでは臨時指揮所は解散とします。
 まずは冒険者の皆さんからゴーレムや連弩等の資材を回収してください。
 またリントヴルムはこちらの大容量自在袋で回収します。それ以外の魔物の死骸の方は冒険者の皆さんの方で処理を御願いします。
 リントヴルム討伐や迷宮ダンジョン攻略完了についてはこちらから本日中に冒険者ギルドへ報告します。
 お疲れ様でした」

 魔物の死骸をこちらで処理するというのは、アルベルト氏か第四騎士団による俺達へのサービスだろう。
 俺達が回収すれば素材を売ったり褒賞金を受け取ったりする事が出来るから。

 リントヴルムは滅多に出現しない魔物だ。
 だから死骸は王国の研究所等へそのまま送る事になるのだろう。
 リントヴルム討伐については依頼で褒賞金が別に出る事になっている。
 だから騎士団側から冒険者ギルドに経緯を報告して貰えれば、現物がなくとも問題はない。
 
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