上 下
252 / 323
拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒃ 部隊到着

しおりを挟む
 アルベルト氏が来た日から4日後、11の鐘の少し後。

「街道、西側から馬車12台の車列がやってきます。旗から見て第四騎士団です。あと2時間くらいでこちらに到着するでしょう。
 あと1名、馬車から降りて高速で近づいてきます。これはアルベルトさんです。5半時間12分程度で到着します」

 大天幕の方からサリアのそんな報告が聞こえた。

「僕の偵察魔法ではまだ見えませんね」

「ちょうど10離20km先です。アルベルトさんの方はまもなくヒューマさんの魔法でも見えるようになると思います。高速移動魔法にしてはゆっくりなのは、こちらが準備する時間を考えてでしょう」

 サリアとヒューマのそんなやりとりで俺達は個々にやっていた作業を中断する。

 準備は既に終わっている。
 連弩は予備も含めて5台完成しているし、専用の矢も200本準備した。

 ゴーレムで操作する練習も何度か行っている。
 俺が操るゴーレムも、自分と同程度まではいかないがかなりいい線まで動けるようになった。

 出迎え準備をして道の終点地点へ集合したところでアルベルトさんが到着。

「お疲れ様です。迷宮ダンジョンの方は異常無いでしょうか」

「今の所は以前と変わらずです。討伐状況や内部詳細についてはこれから説明致します。こちらへどうぞ」

 ヒューマが受け答えをして、そしてゴーレム車へ案内する。
 お茶とおやつ、本日はプリンを出して、食べながら会議だ。

「既に見えていると思いますが、あと2時間ほどで対策部隊がやってきます。
 魔法偵察隊から魔物誘導分隊を含む15名、工兵隊から12名、歩兵部隊から24名。私を含め合計で52名。今日から準備をして明後日には作戦を開始出来るようにするつもりです。

 到着後、ここの東側の雑木林を使って臨時の拠点設置と、洞窟前広場までの搬送路工事を行いたいと思います。領主には既に連絡済みですが、皆さんの方は宜しいでしょうか」

「わかりました。勿論結構です。こちらこそ宜しくお願いします。もし何でしたら雑木林の切り拓きをしておいた方がいいでしょうか?」

「いえ、工兵隊がいるのでそのままで大丈夫です。それでは迷宮ダンジョンの現況について教えて下さい」

 迷宮ダンジョンの状況説明はサリアから。
 ただ前回の説明と状況はそれほど変わっていない。
 俺達の魔物討伐数が増えた程度だ。

「なるほど。魔物を800匹以上討伐したが、状況は変わりない。リントヴルムもほぼ同じ地点にいる。そういう事ですね」

「その通りです」

 サリアが頷くとともに、今度はヒューマが口を開く。

「ところで部隊が到着した際、私達は部隊の皆さんや隊長さんにご挨拶をした方が宜しいでしょうか?」

「特に挨拶はしなくて大丈夫です。本日来る部隊の方にあらかじめ皆さんについて説明済みですから。
 あと今回の臨時派遣部隊の隊長は私という事になっています。ですので特別な挨拶は不要です」

 なるほど、百卒長と言えば騎士団の中隊長だ。
 標準的な部隊では150名程度の騎士・兵士を指揮する。
 しかも魔法偵察隊は騎士団でも精鋭。
 だから臨時部隊の隊長としても文句ない地位なのだろう。

 そしてその隊長は、美味しそうにプリンを食べ始める。

「それにしても此処のデザートは美味しいですね。騎士団の駐屯部隊には甘い物がほとんどありませんから。何故か酒はそこそこあるのですが、酒より甘い物派の声はあまり反映していないものでして」

 この人は酒より甘いものが好みなのだろう。
 何と言うか、妙にほのぼのしてしまった。

 ◇◇◇

 その後予定通り騎士団が馬車12台とともに到着。
 その日のうちに東側の雑木林を切り拓き、濃緑色の大型天幕を多数設営。
 更に資材を通す為、洞窟前広場まで幅1腕2m長さ80腕160m位の斜路まで作ってしまった。

 以前フミノ先生が魔物見物場を作ったように、魔法一発であっという間に作り上げた訳では無い。
 それでも実質3時間程度でそこまで出来るのは流石だと思う。
 しかも土属性をはじめ火属性、水属性等様々な魔法を工事で使用していた。
 どうやらかなり強力な魔法使いが何人もいる模様だ。

 
 そして翌日、迷宮ダンジョン出口に障壁が作られた。
 障壁が設けられたのは迷宮ダンジョンに入ってすぐ、洞窟が分岐する手前の部分。
 太い丸太を組み合わせた頑丈そうな構造だ。

「火属性の魔法があれば燃やされるでしょう。しかしリントヴルムは水属性と土属性です。鉄のバネで洞窟壁面に食い込む形になっていますので、相当な力で押しても動かない筈です」

 設置した後、工兵隊の分隊長さんが俺達を案内して、そう説明してくれた。

「出入りは魔法で行うのでしょうか」

「ええ。魔法偵察小隊の高速移動魔法か物質転送魔法を使用する事になります」

 この辺の理屈が空属性が苦手な俺にはわからない。
 なので後程、夕食時にサリアに説明して貰った。

「高速移動魔法はただ速く移動するだけではありません。この世界を短絡して飛び飛びに移動する魔法です。
 ですので途中に障害物があっても無視できます。この世界の障害物がある部分を通らなければいいのですから」

「なるほどな。ありがとう」

 そう頭を下げたけれど、実のところやっぱり俺にはよくわからない。
 何となくわかったような気はするけれど。
 しかしサリアが大丈夫というのなら、問題はないのだろう。
 とりあえず今はそれでいい。

「ところでさ、違う話になるけれど、ここの騎士団、親切だし丁寧だよな。障壁について説明してくれた分隊長さんも、それ以外の歩兵風の人もさ」

 レウスの言葉を聞いて、そう言えばそうだなと俺も思う。

「確かにそうだ。国の騎士団はもっと態度がでかい横柄な連中だと思っていた。カラバーラの領騎士団とかは別として」

 これはアギラ。
 やはり同じように感じていたようだ。
 こういった話題について答えを知ってそうな奴と言えば。
 皆の視線がヒューマを向く。

「その辺は騎士団によりますね。近衛とか第一騎士団とかは割と横柄な感じの連中が多いらしいです。使えない貴族子弟が多いからどうしてもそうなってしまうようですね。

 逆に第二以降の騎士団は平民出身がほとんどなので、そういった横柄なのは少ないと聞いています。まあ中には変なのがいるかもしれないですけれど」

 やはりヒューマ、事情を知っていた。
 レズンが感心したように頷く。

「なるほど、騎士団によって違う訳なんだな」

「近衛と第一が特殊なだけだと思います。この2つは魔物討伐等もしないで王都ラツィオで警備しているだけですから」 

 どうやら騎士団も隊によってカラーが違うようだ。

「さて、今日は早めに休みましょうか。明日はいよいよリントヴルム討伐ですから」

「確かにそうだな」

 ヒューマの言う通り明日、10の鐘の時間に作戦開始の予定。
 騎士団百卒長のアルベルトさんも認めた作戦なのだ。
 成功するだろうとは思っている。

 ただそれでも不安が無い訳ではない。
 かつて隣国に出現した際は倒す事が出来ず、広範囲に被害を及ぼしたとされる魔物が相手なのだ。

 微妙に高ぶっている自分を感じる。
 普通には眠れそうにない気がする。

 何なら少し睡眠魔法を自分にかけてしまおうか。
 俺の睡眠魔法なら持ってせいぜい2時間程度。
 明日に響く事はないだろうから。 
しおりを挟む
感想 114

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。