上 下
251 / 323
拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⒂ 作戦決定

しおりを挟む
 サリアの説明とアルベルト氏の補足。
 それらのおかげで俺達はフミノ先生が何時、どうやって竜種ドラゴンを討伐したのかを知った。

 竜種ドラゴンを倒したのは勉強会をフミノ先生が1ヶ月休んでいて、代わりにミメイ先生が来てくれた時期だった事とか。
 話を聞いて即日出かけて行った事とか。
 俺達の装備に使っている素材もその時に手に入れたものが多い事とか。
 
 アルベルト氏が付け加えたのはフミノ先生が竜種ドラゴンを倒した具体的な方法。

 フミノ先生は空気を抜いた縦穴に竜種ドラゴンを落として倒したそうだ。
 ただ落としただけではなく、落ちていく竜種ドラゴンの上に大量の空気を出して。

「まさかそんな方法で竜種ドラゴンを倒すとは、想像していませんでした」

 サリアの言う通り想像の外にあるような方法だが、確かに理屈は通っている。
 空気が無いから羽根があっても飛べない。
 空気が無いところに空気を大量に出したから、猛烈な風が起きて下へと加速する。

 なるほど、それならば頑丈で強力な竜種ドラゴンであろうと倒せてしまうだろう。
 アルベルト氏によればその結果、竜種ドラゴンは穴の底で潰れてしまったとの事だ。

「他の人では不可能でしょう。私も何をどうやってどんな方法で空気を抜いたりしているのか、残念ながら把握できませんでした。現象面は偵察魔法で全て確認して把握済みなのですけれど」

 アルベルト氏はそう言うが、俺達にはわかる。
 フミノ先生はどんな物でもどれだけの量でも収納可能という魔法かスキルを持っている。
 きっとそれを使って穴を掘り、空気を収納し、そして空気を取り出したのだろう。

 そんな作戦、普通は出来ないし、出来たとしても思いつかない。
 そういう意味ではいかにもフミノ先生らしいと思う。
 常識を超越しているという意味で。

 またアルベルトさんは俺が使っているコボルトキングの槍についても話してくれた。
 この槍もフミノ先生が竜種ドラゴン討伐の過程で手に入れたものだそうだ。

「あの迷宮ダンジョンで、コボルトキングは2番目に強い魔物でした。なので倒せば迷宮ダンジョンが弱体化し、竜種ドラゴンももっと弱体化するのではないか。
 そうフミノさんは考えたそうです。

 ただこのコボルトキング、一度倒しても翌朝には同じ場所に復活してしまいました。それをフミノさんがまた倒して、また復活して。

 10日間、毎朝の恒例行事のようにコボルトキングを倒していましたね。結果、迷宮ダンジョンは目に見えて弱体化しました。出てくる魔物もぐっと弱い物ばかりになって。
 
 ただそれでも竜種ドラゴンは弱体化しなかったのです。だから結局、フミノさんは竜種ドラゴンを討伐しようと決意した訳です」

 コボルトキングを、毎朝の恒例行事で!?
 行事にしていいような代物なのだろうか、それは。

「コボルトキングも竜種ドラゴンと同様に攻撃魔法が効かない上、剣や槍が通らない魔物ですよね」

 まさに俺が思った事をヒューマが口にした。

「ええ、その通りです。なので深さ2離4kmある穴を掘って落とした後、下の方の空気を抜いて加速させて叩きつけていました。後に竜種ドラゴン相手に使った方法の簡略版ですね」

 うん、やっぱりフミノ先生、強者というか化物級だ。

 ◇◇◇

 フミノ先生の竜種ドラゴン討伐の話の後。

「さて、それでは私達がリントヴルムを倒すために考えた作戦を説明します。
 基本的には僕が説明しますけれど、付け加えるべき事がありましたら各自お願いします」

 ヒューマがそう前置きして、そして説明を開始。
 途中、参考としてサリアが試作した連弩を見せたり、Tシリーズゴーレムの見本としてコンボイを出したり。
 そんな感じで俺とレウスが操るゴーレムによる近接格闘戦までの流れを説明する。
 
「……以上です。いかがでしょうか? アルベルト百卒長の御意見を伺いたいです」
 
 アルベルト氏が頷いて口を開いた。

「確かに充分勝算がある作戦だと思います。連弩の段階で飛行能力を奪えれば、迷宮ダンジョンから出てくる可能性は少なくなります。

 万が一外に出てきても、飛行出来なければ上空から広範囲を一度に冷凍波コールドブレスで攻撃する事は出来ません。消滅までの間にテュランまで辿り着く可能性も低いでしょう」

 なるほど、連弩で羽根を使えなくする事にはそんなメリットもある訳か。
 アルベルト氏の話は更に続く。

「この後、私は冒険者ギルドとアデライデ伯爵館経由で、フレジュス迷宮ダンジョン群跡で待機している隊へ戻るつもりです。

 冒険者ギルドと伯爵館ではこちらの現状を説明した後、リントヴルム退治や迷宮ダンジョン攻略の際の褒賞金等について詰めておきます。せっかくの高度な討伐がただ働きになってしまっては申し訳ないので」

「そこまで気を使っていただき、ありがとうございます」

 こちらの褒賞金にまで配慮してくれるようだ。
 何と言うか、視野が広いなと感じる。

「いえ、当然の事です。行為には正当な褒賞を出すべきですしょう。
 話し合いが終わったら、一度フレジュスにいる隊に戻ります。そちらでこちらの状況を報告し、更に一度隊本部と連絡を取って、必要な部隊を揃える必要がありますから。

 本来の運用ではフレジュスにいる駐屯隊を一度本隊に戻して、本隊に待機している別の部隊を出すところです。

 ですが今回は短期で討伐出来る可能性が高い事から、フレジュスにいる部隊を直接こちらに動かす事を提言するつもりです。幸い必要な部隊はまだフレジュスで帰隊待機中の筈ですから」

 運用の原則は前にヒューマが言った通りのようだ。
 出した部隊は一度本隊に戻して、そして別の部隊を出すという。
 それを曲げるというのは『俺達が討伐出来るだろう』とアルベルト氏が判断しているという事だろう。

 ならば俺達も期待に応えなければなるまい。
 そんな責任感がのしかかって来るような気がした。

 アルベルト氏の話は続く。 

「こちらに送り込む部隊は工兵隊2分隊と、魔法偵察隊魔物誘導分隊、あとは周辺警備の為の部隊2分隊程を想定しています。

 工兵隊を呼ぶのは作戦開始前に迷宮ダンジョン入口の洞窟内に防護柵を設置する為です。

 リントヴルムは水属性と土属性。ですから木製の大型防護柵で左側の洞窟全面を塞げばそれなりの効果があるかと思われます。
 組み立て式で洞窟の大きさに合わせる事が可能なので、到着さえすれば設置は1日で充分でしょう」

 洞窟全面を塞ぐ木製の防護柵なんて専用装備がある訳か。
 木製なら土属性魔法は意味ないし、水属性魔法でも壊したり動かしたりするのは困難だろう。

「魔物誘導分隊はゴーレムで魔物を誘導する訓練を受けています。入口を塞いだ上で魔物誘導を使えば、万が一の場合でもリントヴルムが外に出てくる可能性を最大限に減らす事が出来るでしょう。

 ここまで準備すれば万が一の際にも被害を出す可能性は最小限に留められる筈です。
 順調に行けば明日から数えて3日後に部隊到着、4日後に体制が整います。その時点でリントヴルム討伐の実行をお願いしたいと思います」

 魔物を誘導する役割の班まであるとは知らなかった。
 組み立て式防護柵といい、そんな特殊な装備や部隊までいるなんて流石騎士団だ。

 役割の違う部隊を動かす話を聞くと、これぞ本当の作戦という気がする。
 その辺りが一介の冒険者パーティと騎士団幹部の差なのだろう。

「わかりました。それでは準備完了まで、こちらで監視を続けながら待機したいと思います」

「よろしくお願いいたします。こちらに部隊を送り込むのに、私の見込みでは4日程かかります。もしその間に内部で特異な動きがあれば冒険者ギルドに速報してください」

 アルベルト氏はそう言って、そしてチーズケーキを口に運んだ。

「それにしても懐かしい味です。かつてフミノさんに出して頂いたものと同じ味がするような気がします」

「レシピが同じなんだな」

 つまりリディナ先生のレシピという事だ。
 フミノ先生はリディナ先生が作った食事やおやつを大量に持ち歩いている。
 アルベルト氏が食べたのも、そんなおやつのひとつだろう。

「なるほど、そうなんですか。私の記憶違いではなかったのですね」

 アルベルト氏はそう言って微笑んだ。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

追放された武闘派令嬢の異世界生活

新川キナ
ファンタジー
異世界の記憶を有し、転生者であるがゆえに幼少の頃より文武に秀でた令嬢が居た。 名をエレスティーナという。そんな彼女には婚約者が居た。 気乗りのしない十五歳のデビュタントで初めて婚約者に会ったエレスティーナだったが、そこで素行の悪い婚約者をぶん殴る。 追放された彼女だったが、逆に清々したと言わんばかりに自由を謳歌。冒険者家業に邁進する。 ダンジョンに潜ったり護衛をしたり恋をしたり。仲間と酒を飲み歌って踊る毎日。気が向くままに生きていたが冒険者は若い間だけの仕事だ。そこで将来を考えて錬金術師の道へ進むことに。 一流の錬金術師になるべく頑張るのだった

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。