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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々
俺達の決意⑽ 新型ゴーレム
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「どうだ、ゴーレム訓練は」
アギラの問いに俺はパンケーキを切る手を止め、ため息とセットで返事をする。
「難しいな、正直なところ」
「でも必ずしも必要という訳じゃないだろ。リントヴルムが外に出ないようならそのまま騎士団に投げてしまえばいい」
確かにアギラが言っているのが普通の解決方法だ。
現にいくつかの迷宮は騎士団の監視下にある。
フレジュス迷宮群もそうだったし。
それでも倒せる方法があるなら倒した方がいい。
「そうなんだけれどさ。万が一リントヴルムが出てきたらまずいし、俺達が倒せれば問題は全て解決だろ。
ところで今、迷宮内の様子はどうなんだ?」
「リントヴルムの方は変化なしです。午前と午後でコボルト中心に計132匹を討伐しています。あとは内部偵察用ゴーレムを交換する際、必要ならば討伐する予定です」
132匹か。
サリアは簡単に言ったけれど、普通の冒険者パーティでは考えられない数だ。
全部コボルトだとしても、小銀貨3枚が132匹分で、小金貨4枚近い金額になる。
それに此処にいるだけで自動で1日あたり小金貨5枚と正銀貨5枚が入ってくる。
この調子でいけば実家の農業での年収を4日で越えてしまう計算だ。
勿論俺達は6人パーティだから、1人当たりの収入はこの6等分。
しかし何と言うか、こんなに儲かっていいのだろうかという気がする。
そんな事をヒューマに言ったら、きっとあれやこれや数字を出して褒賞金等の妥当性を説明されてしまうのだろうけれど。
「そう言えば姉さん、偵察用ゴーレムを交換するって言ったけれどさ。もう小型ゴーレムは完成した?」
「ええ。取り敢えず2頭完成させました。残った部品は明日組み立てて、合計6頭完成させる予定です」
えっ、6頭?
「何でそんなに作るんだ?」
アギラが俺より先に質問する。
「1頭作るのも6頭作るのもそれほど手間に差はありません。それに偵察に使う2頭の他、交代用に2頭、修理・改良・試験・予備として2頭は必要です。このゴーレムは私が1から作ったので、改良すべき点がまだまだあるでしょうから」
そんなものなのだろうか。
サリアの常識がフミノ先生的に歪んでいるのか。
ゴーレム門外漢の俺にはわからない。
「出来たのなら後で見せてよ。操縦もしてみたいし」
「完成した2頭は持ってきてあります。これです」
サリアがポーチ型自在袋に手を伸ばす。
レウスが座っている横に全身が黒色で、濃い緑色の首輪をした小型犬サイズのゴーレムが出現した。
「名前はインゲボルグです。操作そのものはバーボンと同じです」
バーボンとは先生達が使っている犬型ゴーレムだ。
厳密には犬型というより狼型というべきだろうか。
それに比べると今出したゴーレムはずっと小さい。
「この大きさで移動は大丈夫?」
レウスの質問にサリアは頷く。
「走行速度はTシリーズと同程度です。ただし近接戦闘は無理なので、討伐は魔法でやる必要があります」
それにサリアなら高速移動魔法を使える。
だから実用上の問題は無いのだろう。
「操作を試してみていい?」
「ええ。交代は夕方にやるつもりなので、それまでは大丈夫です」
「なら僕だけじゃなく皆で試そう」
「そうしてくれると助かります。ついでに使用者登録が出来ますし、私が気付かない改善点が出るかもしれませんから」
レウスの言う皆とは俺も含まれていたのだろうか。
使用者登録をするという事は、サリアはそのつもりなのだろうけれど。
しかし人型のTシリーズでもこれだけ苦労しているのに、犬型のゴーレムなんて果たして操縦出来るのだろうか。
アギラ、ヒューマ、そして俺は馬型ゴーレムのグラニーを操作する事は出来ない。
人間と動きが違いすぎて思い通りに動かないのだ。
真っすぐ歩かせる事すら難しい。
それでも一応使用者登録はしてあるけれども。
グラニーと同じで犬型ゴーレムも動かせないのではないだろうか。
まあ俺達が動かせなくても問題は無いだろう。
俺達がこの犬型ゴーレムで何かする事は無いだろうから。
◇◇◇
パンケーキは美味しかった。
1人3枚ずつあったので量も充分。
満足してゴーレム車を出る。
「それではEシリーズのゴーレムの確認を御願いします」
ゴーレム車横でサリアがもう1頭ゴーレムを出した。
これも黒色で、首輪の色は水色に近い緑色。
「こちらはユースタシアです。インゲボルグと全く同じ構造で、違いは首輪の色だけです」
改めて見ると小型犬というより子犬っぽい形だ。
頭と耳が大きく丸めでマズルが短め。
「ルースが小さい頃に似てる」
「ええ。小型のゴーレムという事でルースが家に来たばかりの頃をイメージしました」
サリアがレウスにそんな返答。
でもルースとは何だろう。
「ルースって何なのかな?」
「うちで飼っている犬。もう大きくなったけれど、子犬の頃はこんな感じだったんだ」
レズンにレウスがそう返答し、更にサリアが続ける。
「ゴーレムの機構上、動き回るにはある程度魔力受容体の面積が必要です。更に偵察能力を高めるため耳と目を大きめにした結果、子犬型が最適かなと判断しました」
サリアはそう言っているけれど、きっとそんな合理的な理由だけでない気がする。
単にこの形が好きだった、他の形より優先して思いついた。
そんなところだろう。
別に指摘はしないけれども。
「それじゃインゲボルグは僕が試してみる」
「ならユースタシアは僕が試してみるんだな」
レウスとレズンがまずは試すようだ。
ゴーレム操作の腕前順という訳だな。
そもそもアギラと俺は人型でないゴーレムを操作できるか怪しいし。
2頭の子犬型ゴーレムが動き出す。
ゆっくり歩いて、次に走って急に曲がって、1腕位ジャンプして。
「動きが軽いんだな」
「だね」
見かけは子犬だが、動きは何というかとんでもない。
速いしジャンプ力も凄い。
これだけ動ければ魔物に襲われても容易く避けられるだろう。
近接攻撃は無理だろうけれど、ゴーレムは操縦者の魔法をそのまま使える。
だから魔法攻撃無効なんて敵が相手でなければ問題ない。
「偵察して魔法攻撃だけならTシリーズより軽くていい」
「自在袋を使うのが難しそうなんだな」
レズンの言う通りだなと思う。
ショルダーバッグ型は持たせられる大きさではないし、ポーチ型をお腹に取り付けたら地面と擦ってしまいそうだ。
「ポーチ型の自在袋なら背中に取り付けられます。両側の前脚は上へ回転させる事が出来ますから、一応出し入れも可能です」
ゴーレムの一体が立ち止まり、右前脚を上げて背中側にやる。
「なるほど。でも戦闘中なんかに素早く取り出すのは無理かな。ゴーレムが小さいから仕方ないけれど」
「それ以外は問題無いと思うんだな。動きそのものは文句ないんだな」
レウスやレズンにとっては操作しやすいゴーレムのようだ。
「それじゃカイルさん達も試してみてよ」
「そうなんだな」
俺とアギラの前にゴーレムがやってくる。
俺の前に来たのは首輪が濃い緑色の方。
確かインゲボルグという名前だったな。
「でも俺、グラニーも動かせないぞ」
「グラニーよりは動かしやすいと思うよ」
「盗難防止を含め、使用者登録をしますので、動かせなくても起動だけはして下さい。
シリーズ一括管理にしていますから、どちらか片方だけで大丈夫です」
ゴーレムは使用者や所有者の設定が必要らしい。
その辺の管理は全てサリア任せだから、俺はよく知らない。
とりあえず起動だけでもしておくか。
俺は目の前のゴーレムの頭に手を当て、ゴーレム操作魔法を起動。
視界が増えた。
今起動したゴーレムの視界だ。
さて、それでは動かしてみよう。
右の前脚を上げて、前へ置いて、次は右後ろ脚を……
うまく歩けない、頭がこんがらがりそうだ。
「レウスやレズンはよくこんなの、いきなり起動して走らせるなんて出来るな」
四本脚で歩くなんて普通の人間はやった事が無いと思うのだ。
同じ四本脚でもゴーレム馬であるグラニーとはまた大分違うだろうし。
サリアやレウスは先生達の家で犬型ゴーレムを使った事があるかもしれない。
しかしレズンは初めての筈だ。
何故それでいきなり走らせたりジャンプさせたり出来るのだろうか。
「動き方はゴーレムが知っているんだな。僕はただ、どんな風に動きたいかを考えて、ゴーレムに任せるだけなんだな」
えっ?
どういう事だ!?
アギラの問いに俺はパンケーキを切る手を止め、ため息とセットで返事をする。
「難しいな、正直なところ」
「でも必ずしも必要という訳じゃないだろ。リントヴルムが外に出ないようならそのまま騎士団に投げてしまえばいい」
確かにアギラが言っているのが普通の解決方法だ。
現にいくつかの迷宮は騎士団の監視下にある。
フレジュス迷宮群もそうだったし。
それでも倒せる方法があるなら倒した方がいい。
「そうなんだけれどさ。万が一リントヴルムが出てきたらまずいし、俺達が倒せれば問題は全て解決だろ。
ところで今、迷宮内の様子はどうなんだ?」
「リントヴルムの方は変化なしです。午前と午後でコボルト中心に計132匹を討伐しています。あとは内部偵察用ゴーレムを交換する際、必要ならば討伐する予定です」
132匹か。
サリアは簡単に言ったけれど、普通の冒険者パーティでは考えられない数だ。
全部コボルトだとしても、小銀貨3枚が132匹分で、小金貨4枚近い金額になる。
それに此処にいるだけで自動で1日あたり小金貨5枚と正銀貨5枚が入ってくる。
この調子でいけば実家の農業での年収を4日で越えてしまう計算だ。
勿論俺達は6人パーティだから、1人当たりの収入はこの6等分。
しかし何と言うか、こんなに儲かっていいのだろうかという気がする。
そんな事をヒューマに言ったら、きっとあれやこれや数字を出して褒賞金等の妥当性を説明されてしまうのだろうけれど。
「そう言えば姉さん、偵察用ゴーレムを交換するって言ったけれどさ。もう小型ゴーレムは完成した?」
「ええ。取り敢えず2頭完成させました。残った部品は明日組み立てて、合計6頭完成させる予定です」
えっ、6頭?
「何でそんなに作るんだ?」
アギラが俺より先に質問する。
「1頭作るのも6頭作るのもそれほど手間に差はありません。それに偵察に使う2頭の他、交代用に2頭、修理・改良・試験・予備として2頭は必要です。このゴーレムは私が1から作ったので、改良すべき点がまだまだあるでしょうから」
そんなものなのだろうか。
サリアの常識がフミノ先生的に歪んでいるのか。
ゴーレム門外漢の俺にはわからない。
「出来たのなら後で見せてよ。操縦もしてみたいし」
「完成した2頭は持ってきてあります。これです」
サリアがポーチ型自在袋に手を伸ばす。
レウスが座っている横に全身が黒色で、濃い緑色の首輪をした小型犬サイズのゴーレムが出現した。
「名前はインゲボルグです。操作そのものはバーボンと同じです」
バーボンとは先生達が使っている犬型ゴーレムだ。
厳密には犬型というより狼型というべきだろうか。
それに比べると今出したゴーレムはずっと小さい。
「この大きさで移動は大丈夫?」
レウスの質問にサリアは頷く。
「走行速度はTシリーズと同程度です。ただし近接戦闘は無理なので、討伐は魔法でやる必要があります」
それにサリアなら高速移動魔法を使える。
だから実用上の問題は無いのだろう。
「操作を試してみていい?」
「ええ。交代は夕方にやるつもりなので、それまでは大丈夫です」
「なら僕だけじゃなく皆で試そう」
「そうしてくれると助かります。ついでに使用者登録が出来ますし、私が気付かない改善点が出るかもしれませんから」
レウスの言う皆とは俺も含まれていたのだろうか。
使用者登録をするという事は、サリアはそのつもりなのだろうけれど。
しかし人型のTシリーズでもこれだけ苦労しているのに、犬型のゴーレムなんて果たして操縦出来るのだろうか。
アギラ、ヒューマ、そして俺は馬型ゴーレムのグラニーを操作する事は出来ない。
人間と動きが違いすぎて思い通りに動かないのだ。
真っすぐ歩かせる事すら難しい。
それでも一応使用者登録はしてあるけれども。
グラニーと同じで犬型ゴーレムも動かせないのではないだろうか。
まあ俺達が動かせなくても問題は無いだろう。
俺達がこの犬型ゴーレムで何かする事は無いだろうから。
◇◇◇
パンケーキは美味しかった。
1人3枚ずつあったので量も充分。
満足してゴーレム車を出る。
「それではEシリーズのゴーレムの確認を御願いします」
ゴーレム車横でサリアがもう1頭ゴーレムを出した。
これも黒色で、首輪の色は水色に近い緑色。
「こちらはユースタシアです。インゲボルグと全く同じ構造で、違いは首輪の色だけです」
改めて見ると小型犬というより子犬っぽい形だ。
頭と耳が大きく丸めでマズルが短め。
「ルースが小さい頃に似てる」
「ええ。小型のゴーレムという事でルースが家に来たばかりの頃をイメージしました」
サリアがレウスにそんな返答。
でもルースとは何だろう。
「ルースって何なのかな?」
「うちで飼っている犬。もう大きくなったけれど、子犬の頃はこんな感じだったんだ」
レズンにレウスがそう返答し、更にサリアが続ける。
「ゴーレムの機構上、動き回るにはある程度魔力受容体の面積が必要です。更に偵察能力を高めるため耳と目を大きめにした結果、子犬型が最適かなと判断しました」
サリアはそう言っているけれど、きっとそんな合理的な理由だけでない気がする。
単にこの形が好きだった、他の形より優先して思いついた。
そんなところだろう。
別に指摘はしないけれども。
「それじゃインゲボルグは僕が試してみる」
「ならユースタシアは僕が試してみるんだな」
レウスとレズンがまずは試すようだ。
ゴーレム操作の腕前順という訳だな。
そもそもアギラと俺は人型でないゴーレムを操作できるか怪しいし。
2頭の子犬型ゴーレムが動き出す。
ゆっくり歩いて、次に走って急に曲がって、1腕位ジャンプして。
「動きが軽いんだな」
「だね」
見かけは子犬だが、動きは何というかとんでもない。
速いしジャンプ力も凄い。
これだけ動ければ魔物に襲われても容易く避けられるだろう。
近接攻撃は無理だろうけれど、ゴーレムは操縦者の魔法をそのまま使える。
だから魔法攻撃無効なんて敵が相手でなければ問題ない。
「偵察して魔法攻撃だけならTシリーズより軽くていい」
「自在袋を使うのが難しそうなんだな」
レズンの言う通りだなと思う。
ショルダーバッグ型は持たせられる大きさではないし、ポーチ型をお腹に取り付けたら地面と擦ってしまいそうだ。
「ポーチ型の自在袋なら背中に取り付けられます。両側の前脚は上へ回転させる事が出来ますから、一応出し入れも可能です」
ゴーレムの一体が立ち止まり、右前脚を上げて背中側にやる。
「なるほど。でも戦闘中なんかに素早く取り出すのは無理かな。ゴーレムが小さいから仕方ないけれど」
「それ以外は問題無いと思うんだな。動きそのものは文句ないんだな」
レウスやレズンにとっては操作しやすいゴーレムのようだ。
「それじゃカイルさん達も試してみてよ」
「そうなんだな」
俺とアギラの前にゴーレムがやってくる。
俺の前に来たのは首輪が濃い緑色の方。
確かインゲボルグという名前だったな。
「でも俺、グラニーも動かせないぞ」
「グラニーよりは動かしやすいと思うよ」
「盗難防止を含め、使用者登録をしますので、動かせなくても起動だけはして下さい。
シリーズ一括管理にしていますから、どちらか片方だけで大丈夫です」
ゴーレムは使用者や所有者の設定が必要らしい。
その辺の管理は全てサリア任せだから、俺はよく知らない。
とりあえず起動だけでもしておくか。
俺は目の前のゴーレムの頭に手を当て、ゴーレム操作魔法を起動。
視界が増えた。
今起動したゴーレムの視界だ。
さて、それでは動かしてみよう。
右の前脚を上げて、前へ置いて、次は右後ろ脚を……
うまく歩けない、頭がこんがらがりそうだ。
「レウスやレズンはよくこんなの、いきなり起動して走らせるなんて出来るな」
四本脚で歩くなんて普通の人間はやった事が無いと思うのだ。
同じ四本脚でもゴーレム馬であるグラニーとはまた大分違うだろうし。
サリアやレウスは先生達の家で犬型ゴーレムを使った事があるかもしれない。
しかしレズンは初めての筈だ。
何故それでいきなり走らせたりジャンプさせたり出来るのだろうか。
「動き方はゴーレムが知っているんだな。僕はただ、どんな風に動きたいかを考えて、ゴーレムに任せるだけなんだな」
えっ?
どういう事だ!?
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