ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
207 / 280
拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⑼ 俺の課題

しおりを挟む
「カイルさんはゴーレムを使って近接戦闘を仕掛けるつもりでしょう」

 サリアは説明をはじめる。

「リントヴルムは弩弓の攻撃を避けたと聞きました。つまり弩弓や槍、剣など弓矢より強力な武器なら通用する可能性が高いです。
 ですから
  ① 冷凍波コールドブレスや広域冷凍魔法に耐えられ
  ② 空を飛んでいる状態でも攻撃出来る方法があれば
倒せるかもしれません。

 例えばゴーレムを熱魔法で加熱し、冷凍波コールドブレスを受けてもある程度動けるようにしておく。
 その上で冷凍波コールドブレスや広域冷凍魔法にはカイルさんやレウスの火属性魔法で対抗。
 地震や岩塊落下といった地属性の魔法は私の地属性魔法で抵抗。
 そうすれば戦いが成立する可能性が高くなります」

「そうか! 迷宮ダンジョンの洞窟内ならそれほど高くは飛べない。それならカイルさんの投槍で攻撃できる」

 レウスの言葉にサリアは頷く。

「そういう事です。ただそれだけでは空中を高速で逃げられた場合、逃してしまう可能性があります。
 ですからまず連射出来る弩弓、連弩ポリボロスで攻撃をかけ、リントヴルムの翼に被害を与え飛行出来なくする。それが私の考えです」
  
連弩ポリボロスですか。初めて聞く武器です」

 これはヒューマ。
 俺も今までにそんな武器の名前を聞いた事は無い。
 どんな武器なのだろう。

「魔法が戦争に使われる以前に使われていた武器です。ハンドルを回すことにより、装填してある強力な矢を20本以上、連続で発射出来ます。

 ゴーレムの腕力で回せば、短い間隔で多数の矢を射る事が可能な筈です。ただ詳しい構造については私もよく知りません。図書館で調べる必要があります」

 なるほど、どんな武器か俺もイメージできるようになった。
 ならば思いついた戦い方でいいか確認してみよう。

「連射出来る強力な弩弓でリントヴルムを攻撃し、飛べなくなったらゴーレムで近接戦闘をする。そういう作戦か」

「ええ、その通りです」

 確かにこれなら勝算は充分ある気がする。

「なるほど。それで連弩ポリボロスについては図書館に行けば調べられるでしょうか?」

 ヒューマがサリアに尋ねた。

「おそらく大丈夫だと思います。私も連弩ポリボロスについては本で知りましたから」

「なら僕が調べに行きましょう。テュランの図書館ならそれなりに詳しい本もあるでしょうから。いい本があったら買ってしまってもいいですね。
 サリアはリントヴルムの監視があります。ですから出来るだけ此処を離れない方がいいでしょう」

 確かに最寄りの街であるスーザよりテュランの街の方が遥かに大きい。
 何せ国内有数の大都市だ。 
 図書館だって大きいだろうし、本も当然揃っているだろう。 

 テュランまでは30離60kmあるが、ヒューマ1人で動くなら全く問題ない。
 ヒューマは自分一人なら高速移動魔法を自在に使えるから。
 片道1時間もあれば充分だろう。
 
「ではヒューマさんに御願いしていいでしょうか。あと、出来れば連弩ポリボロスを作るための材料や、ゴーレムの補修・改造に必要な金属類も手に入れたいです」

「大丈夫ですよ。何なら必要なものをメモしてください。自在袋2つで入るだけ、手に入れてきますから」

 サリアの方はOKだな。
 残りは俺とレウスだ。
 俺はゴーレム操作がまだ全然駄目。
 そしてレウスが普段使う武器は片手剣で、相手がリントヴルムならリーチが足りない。

「なら午後、俺とレウスはゴーレムを使った訓練をしよう。レウスは片手剣でなく槍を使う訓練、俺はゴーレムで近接戦闘をする訓練だ。

 ヒューマは買い物と調べ物で、サリアは迷宮ダンジョン監視を続行。
 残ったアギラとレズンで本日2回目の討伐。今日の午後はこれでいいか?」

 こんな感じで午後の予定は決まった。

 ◇◇◇

 そんな訳で午後も俺はゴーレムの訓練。
 ただし今度は相手がいる。
 レウスが操るTシリーズゴーレム、ロディマスだ。
 
 レウスは普通の近接戦闘でもかなり強い。
 小柄で使用する武器も間合いの短い片手剣。
 しかし少しでも気を抜くと俺でも一撃食らってしまう。

 ただし今度は片手剣ではなく槍。
 サリアが元々持っていたゴーレム用のもので、俺の槍とほぼ同デザインだがフミノ先生が作ったもの。

 この武器に慣れていないレウス操るロディマスと、ゴーレムに慣れていない俺が操るセイバーが戦うと……
 悲しい位にけちょんけちょんにやられてしまう訳だ。
 勿論俺が。

 1時間以上やって、未だに一度も勝てない。
 勝てないどころか続かない。
 数回のやり合いで俺のセイバーが倒されてしまう。

「レウス、槍も使えるんだな。槍を使っているところを見た事はなかったんだけれど」

「リディナさんが家で練習している時一緒に練習したからさ、ある程度は使えるんだ。僕自身の身長と腕力だとうまく操れないけれど、ゴーレムを使ってなら大丈夫だし」

 レウスは槍を使ってもそこそこ強い模様。
 一方で俺のゴーレム操作はまだまだ全然。

「レウス並みとは言わないけれどさ。俺がゴーレムでまともに近接戦闘出来るようになるまで、どれくらいかかるだろ」

「でも朝より動きは良くなっていると思う。反応がまだ遅い気がするけれど」

 確かにそうなのだ。
 自分自身の身体を使う時よりどうしても反応が一拍遅れる。
 戦闘ではその遅れが命取りになる訳だ。

「これは訓練を重ねるしかないよな」

「だと思う。それじゃ次、やろうか」

 幸いな事にゴーレムを酷使しても筋肉痛にはならない。
 だから俺はレウス相手に何度も模擬戦闘を繰り返す。
 何故なら今回の作戦における最大の問題は、ゴーレム使用時の俺の戦闘能力だから。

 サリアが連弩ポリボロスを作れるだろうか、なんて不安は全く無い。
 彼女の工作の腕前は信頼出来る。
 フミノ先生譲りの知識と空属性魔法による正確な切断。
 魔法で熱や水分を自在に操り木材すら曲げ加工可能な技術。

 フミノ先生ほどの異常な製作速度は無いけれど、腕前そのものは一流の技術者並み。
 物によってはそれ以上だ。

 だからこの作戦の最大の問題点は俺のゴーレム操作の腕。
 俺が風属性魔法と火属性魔法を使いながらゴーレムで近接戦闘を出来るかどうかだ。
 最悪俺が駄目でもレウスに任せるという事も出来る。
 既にレウス、槍装備のゴーレムでかなり戦える状態だから。

 ただし火属性魔法と風属性魔法のレベルは俺の方がレウスより高い。
 だから出来ればリントヴルムと対峙するのは俺の方がいい。
 それにここでも活躍出来ないと、このパーティにおける魔物討伐では、俺の出番が永久に無くなるような気がする。

 しかしゴーレムの訓練、何かうまく行かない。
 勿論レウスが今まで積み重ねた域まで1日で到達できるとは思っていない。
 それでも何か、足りない事があるような気がするのだ。

 何度も戦い、同じだけレウスに倒された後。

「お茶の時間なんだな」

 レズンの声が聞こえた。
 どうやら本日の迷宮ダンジョン内討伐はとっくに一区切りついている模様だ。

「一旦休憩するか」

「そうだね」

 レウスは自分の身体とゴーレムを同時に操れる。
 しかし俺は片方ずつしか動かせない。
 だからゴーレムを自分の天幕まで戻した後、起動解除して向かう事になる。

 そんな訳でレウスに遅れてゴーレム車に到着。
 今日のおやつはパンケーキだ。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
簡易説明 転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です 詳細説明 生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。 そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。 そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。 しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。 赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。 色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。 家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。 ※小説家になろう様でも投稿しております

異世界召喚?やっと社畜から抜け出せる!

アルテミス
ファンタジー
第13回ファンタジー大賞に応募しました。応援してもらえると嬉しいです。 ->最終選考まで残ったようですが、奨励賞止まりだったようです。応援ありがとうございました! ーーーー ヤンキーが勇者として召喚された。 社畜歴十五年のベテラン社畜の俺は、世界に巻き込まれてしまう。 巻き込まれたので女神様の加護はないし、チートもらった訳でもない。幸い召喚の担当をした公爵様が俺の生活の面倒を見てくれるらしいけどね。 そんな俺が異世界で女神様と崇められている”下級神”より上位の"創造神"から加護を与えられる話。 ほのぼのライフを目指してます。 設定も決めずに書き始めたのでブレブレです。気楽〜に読んでください。 6/20-22HOT1位、ファンタジー1位頂きました。有難うございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。