ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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拾遺録1 カイル君の冒険者な日々

俺達の決意⑵ 重要案件指定報告依頼

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 しかし消え去った迷宮ダンジョンに未練を残しても仕方ない。
 今、この場で出来る次善の策は……

「仕方ない。此処のギルドに何か依頼が無いか見るか」

「そうですね」

 ヒューマ以外の皆も頷いたので、カウンターから掲示板前へ移動。
 さて、いい感じの依頼があればいいのだが。

 しかし掲示板を一目見た瞬間、大した依頼が無い事がわかった。
 依頼内容が記載された紙が少な過ぎる。
 全部で何と6枚だけ、内容も……

「常時依頼だけなんだな、これは」

 レズンの言う通りだ。
 張り出されているのは魔物討伐や薬草採取等、冒険者ギルド共通の常時依頼だけ。

「魔物の出没が少ないのでしょう。フレジュス迷宮ダンジョン群目当ての冒険者や騎士団が良く通るでしょうからね」

 ヒューマが言う通りなのだろう。

「テュランへ戻りましょうか」

 サリアの言葉がきっと正解だ。
 ここから30離60km東にあるテュランの街は、スティヴァレでも有数の大都市。
 あそこの冒険者ギルドなら良さそうな依頼もある筈だ。

 来る時はテュランの街を素通りした。
 だから街の様子はちらっと眺めただけだ。

 何なら少し滞在してみてもいい。
 ここまでそこそこ稼いでいるからお金はそれなりにある。
 知らない街でゆっくりして、知らない事物を楽しむのも悪くない。

「テュランで美味しい物を探すのも悪くないんだな」

 レズンも同じような事を考えたようだな。
 そう俺が思った時だ。

「どうやら戻る必要は無さそうです」

「そうですね」

 サリアとヒューマがそんな事を言った。

「姉さん、どういう意味?」

「ここから西北西、1離半3km程の場所です」

 サリアがレウスにそう答える。
 つまりそこで何かが起きたという事だろう。
 その場所を偵察魔法で見ればわかる、そういう意味のようだ。

 レウスやレズンもそのくらいの距離なら偵察魔法を使える。
 しかし俺とアギラは偵察魔法は苦手。
 だからそう言われても分からない。

「ギルドに話を通しておきましょう。その方が被害が少なくて済みますから」

 そんなヒューマの言葉の意味も分からないまま、俺達は再び受付カウンターへ。

「何かありましたでしょうか?」

 先程受付してくれたお姉さんの言葉にヒューマが頷く。

「ここから西北西、約1離半3kmの場所に間口の広い洞窟がいきなり出現しました。魔力の反応から見て迷宮ダンジョンだと思われます」

 周囲が一気に静まり返った。

「あの……どういう事でしょうか」

 受付のお姉さんは当惑した表情だ。

「偵察魔法が使える方は確認をお願いします。場所は此処から西北西に約1離半3km。川の北側の崖に幅5腕10m、高さ4腕8mの開口部が出来ているのが見えると思います」

「地中に偵察魔法で見えない場所がある為、内部が迷宮化しているのは確実です。魔法で見えない部分を辿っていますが終わりが見えません。長さがフレジュス迷宮ダンジョン群を超えるのは確実と思われます」

 ヒューマとサリアが畳みかける。

「わかった。至急調査しよう」

 おっと、奥にいた少し偉そうな中年男がそう返答してきた。
 
「ギルマス、いいのですか」

 次に偉そうなのが今の男にそう呼びかける。
 という事はこの中年がこの冒険者ギルドのギルドマスターのようだ。

「確認できないからと言って報告を無視するわけにはいかないだろう」

 ギルドマスターはそう言って俺達の方を見る。

「残念ながら現在、偵察魔法で1離2km以上先を確認でいる者はこのギルドにはいない。それに迷宮ダンジョンが出来たのなら現地へ行って確認した方が実態がよりわかるだろう」

 ギルドマスターはそこで一度言葉を切って、そしてギルド事務室内をひととおり見回してから俺達の方を見る。

「だから君達パーティにその迷宮ダンジョンへの案内を依頼したい。勿論只ではない。今の報告と現地までの案内をセットにして当ギルドからの重要案件指定報告依頼とする。それでいいかね」

 つまり現地に案内し、実際に迷宮ダンジョンがあった時点で依頼達成とする訳か。
 これなら実際に迷宮ダンジョンが無ければ依頼失敗となる。

 そのかわり現地に迷宮ダンジョンがあった場合は、冒険者ギルド規定に基づく褒賞金が支払われる訳だ。
 重要案件指定報告依頼なら6時間以内の依頼で小金貨1枚10万円だったかな。
 こっちにとっても悪い話ではない。

「冒険者ギルド規定の重要案件指定報告依頼ですね。わかりました。引き受けましょう」

「頼む。案内して貰うのは私を含め2名だ。私は此処、スーザ冒険者ギルドのギルドマスターのシグルと言う。一応元B級冒険者だ。
 あともう1名もC級の冒険者証持ちとしよう。グレアム君、一緒についてきてくれ」

「わかりました」
 左側のカウンターにいた若い男が頷いて立ち上がった。
 若いと言っても俺達より上、20代半ばくらいだろう。
 彼はグレアムというのか、顔を見て頭の中に記憶する。

「ミレア君は招集可能な冒険者のリストアップ作業。あとは取り敢えず通常業務だ。後の指揮はマシュー君、頼む」

「了解です」
「わかりました」

 シグル氏とグレアム君と呼ばれた若い男がこちらにやってきた。

「それでは頼む」

 即、出発するつもりのようだ。

「了解です。サリア、ゴーレム車をお願いします。最速で行きましょう」

「わかりました」

「ゴーレム車なんてものまで持っているのか」

 シグル氏が驚いたような声をあげる。

「ええ。うちのパーティは商会としても活動していますし、荷物搬送の依頼も請け負う事がありますから」

「しかしゴーレム車とは……。大商会でさえ馬車がメインで、ゴーレムを使っているのは一部の貴族家か、王家くらいだと聞いている」

「南部、特にスリワラ領では結構使われていますよ。カラバーラにはゴーレム製作者が2人いますから」

 実際はヒューマが言う程一般的に使われている訳では無い。
 それでも他の場所に比べればゴーレムもゴーレム車も多いようだ。
 これは旅をするようになってからわかったのだけれど。

 スリワラ領の領騎士団はゴーレム馬とゴーレム車を普通に使っているし、広域開拓等にゴーレム馬を貸し出したりもしている。
 ゴーレム馬に乗って巡回警備をしている騎士なんてのもカラバーラでは日常風景。

 しかしカラバーラを出た後、ゴーレム馬もゴーレム馬に牽かせているゴーレム車もほとんど見ない。
 唯一の例外が王都ラツィオで見たラモッティ伯爵家の専用ゴーレム車という状態だ。

 東海岸のフェルマ領では鉱山で十数台稼働しているとリディナ先生から聞いている。
 しかし実際に俺達がこの目で確かめた訳ではない。

 この様子では冒険者でゴーレムを運用しているのは俺達と、あとは先生達くらいではないだろうか。
 俺はそう思っている。
 ファビオやミケーレ達が冒険者になった時は、きっとまた専用のゴーレム車をフミノ先生が作るだろうけれど。

 なおゴーレム製作者2人とは、勿論フミノ先生とミメイ先生の事だ。
 あとはサリアも作れるらしい。

『フミノ先生程工作の腕が無いので、グラニーと同じくらいのものを私が1から作ると1ヶ月はかかります。修理程度なら大丈夫ですけれど』

 以前そう言っていたし、旅に出てからも彼女がゴーレムの分解整備をしている。
 なおグラニーとは俺達のゴーレム車を牽引しているロバ型ゴーレムの名前だ。

 シグル氏とグレアム氏2人を伴って冒険者ギルドの外へ。
 周囲を見て交通の邪魔にならない事を確認した後、サリアは斜め掛けしているショルダーバッグに手を伸ばす。

 ドン、とグラニーとゴーレム車が出た。
 俺達にとってはいつもの光景だ。
 しかしシグル氏とグレアム氏は驚いた模様。

「こんな大きなものを自在袋に入れているのかね」

「ええ。先程も申しましたように、搬送依頼も受けていますから」

 ヒューマは何でもない事のように言って、そしてゴーレム車の後ろ側にある扉を開ける。

「どうぞお乗りください。急いだほうがいいでしょう」
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