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第33章 対・竜種作戦 

第269話 帰還

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 本当は一休みしてから帰った方がいいだろう。それはわかっている。
 しかし私としては一刻も早く帰りたい。お家が恋しい。

 今まで出していた2階建てのお家と平屋の客間兼作業場を収納。トイレや排水用に空けた穴を埋めて後始末完了。
 ライ君を出して跨がった時だった。

 この場所へ向かって動く魔力反応を発見した。アルベルトさんだ。しかしいつもと動きが違う。反応が途切れ途切れで、移動速度がやたらと速い。

 そうか、縮地だ。一般的な魔法用語で言えば高速移動魔法。アルベルトさんは魔法偵察小隊の隊長さんなのだ。それくらいの魔法が使えても不思議ではない。

 今まで使わなかったのはいざという時の為に魔力を温存していたからだろう。でも迷宮ダンジョンが消えた今なら節約する必要が無い訳だ。

 なら出発は少し待とう。私はライ君から降りる。
 すぐにアルベルトさんが姿を現した。

「すみません、お待たせしたようで」

 そう前置きした後、まっすぐ立って、そして私に頭を下げる。

「今回は竜種ドラゴン討伐及び迷宮ダンジョン攻略、本当にありがとうございました。まずは厚く御礼申し上げます」

 そんなに丁寧に感謝されると困る。私としてはどう対応していいかわからない。
 それでも何とか言葉をひねり出してみる。

「いえ、これは私が勝手にやった事ですから」

「たとえそうだとしても、騎士団部隊では出来なかった事をやって頂いたのです。おかげで被害が全くないまま、長年攻略し続けていた迷宮ダンジョンを消去出来ました」

 アルベルトさん、そう言ってまた頭を下げ、そして更に続ける。

「これは間違いなく国として表彰すべき案件だと思われます。それでもし 良ければですが、第六騎士団シンプローン分遣隊が証人として国王陛下に功労賞を申請しようと思っておりますが、どうでしょうか」

 あ、これは苦手な奴だ。受けたくない奴だ。
 ただアルベルトさん達としては好意でやってくれようとしているのだろう。
 どう断ればいいだろうか。考えて言葉を絞り出す。

「お気持ちは大変ありがたいと思っています。ただ私はあくまで一介の、ひっそり目立たない普通の人でいたいのです。ですので大変失礼ではあるのですけれど、この話は遠慮させていただこうと思います」

 アルベルトさんは苦笑いかな、微妙な笑みを浮かべて、それでも頷いた。

「そう言われるような気がしました。指名依頼をあえて受けなかったフミノさんの事ですから、きっと」

 私の反応はどうやら予想済みで、機嫌を損ねる事は無かったようだ。ちょっと安堵しつつ、次の言葉をひねり出す。

「大変有り難い申し出に、恐縮なのですけれども」

「いいえ、大丈夫です。
 きっとフミノさんにとっては、栄誉とか名誉とか称号というのは必要ないものなのでしょう。そういったものが他から与えられなくても、欲しいものは自分で得る事ができるのでしょうから」

 ちょっと待って欲しい。

「私はそんな大した人間ではないです。ただ面倒な事が苦手なだけで」

 言ってすぐしまったと思う。話の流れから、栄誉とか名誉とか称号とかを面倒と言ってしまったのと同じだなと気づいたから。
 でもアルベルトさんは機嫌を悪くしたような様子は無い。
 
「フミノさんにとっては確かに面倒な事なのでしょう。栄誉や名誉とはそれを受けた人をいざという時に使えるよう、縛る為のものでもありますから。

 しかしフミノさんを縛る必要は無いのでしょう。もしフミノさんの力が必要な何かが起こったら、貴方はきっと依頼が無くても動いてくれるでしょうから。
 依頼を受けていないと言いつつ此処で、竜種《ドラゴン》を倒すまで戦い続けてくれたように」

 あ、まずい。アルベルトさん、結構私の事を理解している。いやまずくはないのかもしれないけれども。

 そういえば此処にいる間、騎士団は私に対して、面倒な事や嫌な事等を一切要求しなかった。挨拶に来いとか説明しろとか、勝手にやったのだから責任を持てとか。

 きっとアルベルトさんが私の事を理解して、そのあたりを上手く調整してくれたのだろう。

 さて、そのアルベルトさんは一度言葉を切り、そして少し横に移動する。

「どうやら御出立の邪魔をしてしまったようです。折角ですから此処で見送らせて下さい」

 どうしようか。此処でライ君に乗ってこのまま去ったら失礼にならないだろうか。
 でも騎士団の駐屯地に挨拶に行くなんてのはしたくない。だからまあ、ここからお家に帰るのは仕方ないだろう。
 ただ一言、アルベルトさんに言っておこう。

「わかりました。こちらもアルベルトさんのおかげで気持ちよく討伐が出来ました。本当にありがとうございました」

「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました」

 何か礼をさせてばかりで申し訳ない。そう思いつつライ君に跨がる。

「それでは失礼します」

 相手がアルベルトさんならいきなり縮地+を使ってもいいだろう。アルベルトさん自身もここまで縮地でやってきた事だし。
 だから私はライ君が歩き始めると同時に縮地+を起動する。
  
 あっという間にアルベルトさんと、一ヶ月程過ごした森の中の平地は見えなくなった。
 我ながらいい仕事が出来たなと思う。うまく調整してくれたアルベルトさんのおかげというのもあるけれど。

 ただもう一度というのは勘弁だ。一か月もお家を離れるなんてのは考えたくない。

 それでは飛ばそう。早くお家に帰りたくて仕方ないから。
 来た時は5時間程度かかった。でもそれは到着後も動けるよう、ある程度余裕を持って移動したからだ。

 帰るだけなら全力でも構わない。疲れてもお家なら大丈夫。またシェリーちゃんに抱えて貰って温泉に入ればいいだけだ。

 縮地+に慣れた今の私なら、どれくらいの時間で帰る事が出来るだろうか。
 挑戦だ! 私は腰を浮かして振動に備え、そしてライ君を一気に最高速までスピードアップする……

 ◇◇◇

 懐かしいお家が目の前にある。
 私はライ君の姿勢を低くして降りようとした。しかし筋肉痛で足が上がらない。

 考えてみればこの一ヶ月、私は拠点にしたお家とその周辺から動いていない。完全な運動不足状態だ。

 そしてここまで最高速度で走っているライ君の上下動を中腰で受け止めながら来た。身体強化をバリバリにかけながら。
 筋肉痛になって当然だと思う。しかしここで足を上げなければライ君から降りる事すら出来ない。

 どうしよう。そう思った時、お家の玄関扉が開いた。リディナが飛びだしてくる。

「おかえり、フミノ! ……どうしたの?」

「おかえりなさい」

「お疲れさまでした」

 皆さんお家からぞろぞろ出てきた。エルマくんとルースくんもだ。
 時間的にお昼だし、皆お家にいたのだろう。見た限り皆変わらず元気そうだ。一ヶ月しか経っていないから当然だけれど。

「ただいま」

 さて弱った。出迎えてくれたのはいいが、私はこの状態から動けない。足が上がらなくてライ君から降りられないのだ。
 どうしよう……

 あ、リディナが苦笑した。さては気づいたな。大体私が考えている事はリディナにはまるわかりなのだ。だからまあ仕方ない。

「足を怪我したんじゃなくて、筋肉痛だよね」

 やはりバレていた。仕方ない。

「運動不足のせい。この一ヶ月、私自身はほとんど動かなかったから」

「はいはい」

 リディナ、私をさっと抱えてライ君から下ろしてくれた。恥ずかしいがありがたい。そうしてくれないと確かに私、動けなかったから。

「それじゃ先に温泉ハウスの方に行く? シェリーちゃんを使って」

「そうする」

 折角皆に出迎えて貰ったのに、これじゃ少ししまらないよな。そう思うけれど仕方ない。
 それにそんなのは些細な事だ。やっとこのお家に帰ってくる事が出来たのだから。

 私の大好きなこのお家へ。 
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