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第33章 対・竜種作戦 

第268話 対・竜種作戦

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 コボルトキング等の中ボスを落とした迷宮ダンジョン北西端の他、新たに北東端、南西端、南東端にも同じような広場と縦穴を掘った。

 厳密には全く同じでは無い。縦穴や広場の周囲の壁を分厚い岩にして頑丈にしてある。北西端の広場と縦穴も同様に頑丈に追加加工。

 最初の作戦が上手くいけば、これらの縦穴と広場は使わずに竜種を倒せる筈。
 この縦穴はそれでも倒せなかった場合の保険だ。

 また作戦の影響からヒイロ君とウーフェイ君を守る為、土を出してゴーレムの周囲をきっちり囲む岩の部屋を作った。出口が無い頑丈な部屋だ。

 この部屋の中にヒイロ君とウーフェイ君を移動させる。アイテムボックス経由以外では移動できなくなるが仕方ない。
 これで迷宮ダンジョン内がどんな環境になっても、ヒイロ君達は大丈夫な筈だ。

 元々ヒイロ君やウーフェイ君を動かす事はほとんど無い。2体は迷宮ダンジョンの空間内にいさえすればいいのだ。
 そうすればどちらかを経由して偵察魔法で迷宮ダンジョン内を見る事が出来るし、空即斬で攻撃だって出来るから。

 同様に騎士団の偵察用ゴーレムも防護措置を取って貰った。土属性魔法で周囲の土を岩に加工して、内部にゴーレムを納めているようだ。
 騎士団の偵察用ゴーレムは小型なので、周囲の土を集めれば囲む程度の岩は作れる模様。

 騎士団の方はゴーレム以外にも準備している模様だ。部隊を山の方や村の方へ動かしている。
 これは最悪の事態が発生した時に備えてだろう。

 アルベルトさんが来た日から2日後の朝、5半の鐘が鳴った後。
 アルベルトさんとの打ち合わせ通り、私は作戦を決行した。

 まず最初の作戦は、迷宮内の気圧を極限まで下げる事で竜種を倒すというもの。

 北西端から竜種の感知範囲手前までの空気を収納する。こちら側は中ボスが出なくなった後に魔物がほとんど出なくなったので作業がやりやすい。

 洞窟内に一気に霧が立ちこめた。気圧が下がった影響だろう。しかしまだ高山へ行ったのと変わらない程度の筈だ。

 少し待った後、再び北西端から竜種ドラゴンの感知範囲手前までの空気を収納。
 何度も何度も繰り返す。

 1回で内部の空気を2割減らせると仮定すると、3回やっても気圧は半減程度。実際は水分が蒸発したりするからもっと減りは遅いだろう。

 それでも10回収納すると大分効果が出てきた。雑魚コボルトはほぼ倒れたし、竜種ドラゴンもいつもと違う、何かを探すような動きをしている。

 しかしまだまだ。目標は気圧が低すぎて水が常温で沸騰するまで。いくら竜種ドラゴンでも身体を構成する水分が沸騰しはじめれば無事では済まないだろう。

 現に竜種ドラゴン、落ち着きのない様子をしている。何かが起きていてそれが自身に有害だ、そう感じているのだろう。

 さて、それでは再び収納!
 その時だった。竜種ドラゴンが北西側をきっと睨む。偵察魔法の視点に気付いたのだろうか。そんな事は無いだろうと思うけれど、念の為少し位置を変える。

 竜種《ドラゴン》は周囲を見回すと、北西側へ向け四つ脚になって走り始めた。
 かなり速い。縮地を使わないライ君の全速よりもっと速そうだ。

 しかしこれは私にとってはチャンス。竜種ドラゴンが遠ざかった南側、南東端から中央部の合流点を通して南西端までを意識し、一気に空気を収納する。

 これで更に気圧が下がった筈だ。それでも竜種ドラゴン、まだ走っている。
 竜種ドラゴンは走りながら前方へ向け炎を吐いた。そして更に先へと速度を上げる。

 私は更に空気を収納する。もうかなり気圧は低い筈だ。
 しかし竜種ドラゴン、それでもまだ動いている。

 まさか竜種ドラゴンは不死身なのだろうか。真空でも平気とかそういう部類なのだろうか。宇宙怪獣みたいな。
 そう弱気になりかける自分の心を鼓舞して、私は更に広い範囲で空気を収納。
  
 周囲から水その他が蒸発しているのだろうか。それとも他に気圧を保つ何かがあるのだろうか。
 気圧は偵察魔法でも見えないし感知出来ない。雑魚コボルトの死骸がボロボロになっているのが見えるだけだ。

 空気が薄くなったせいか、広範囲でアイテムボックススキルを使っても収納出来る空気が極々ごくごく少ない。

 収納を何度も繰り返す。1回ごとに収納出来る量が変わらない感じ。迷宮ダンジョン内でこれ以上空気を薄くする事が出来ないと感じる。

 竜種《ドラゴン》は健在。空気が薄くなった為か、更に速い速度で走っている。

 どうやら作戦の第一段階『迷宮ダンジョン内の空気を抜きまくる』だけでは竜種ドラゴンを倒せないようだ。

 しかしまだ大丈夫。第二段階がある。

 次に空気を抜くのは北西端側の広場と縦穴だ。
 どちらも魔物がいない。 だから空間内の空気を一気に収納出来る。

 勿論水分等が蒸発するから完全な真空にはならない。それでも内側は岩にして密閉してある。
 だから空気は迷宮ダンジョン内より更に薄く、限界近くまで薄く出来る筈。

 念入りに何度も空気を抜いて、迷宮ダンジョン内よりも更に真空に近づける。

 竜種ドラゴンが北西端に近づいてきた。どうする、広場まで穴を開けるか。

 そう思った瞬間、竜種が炎を吐いた。炎は竜種ドラゴンの前方に長く広がり、北西端の出口を塞いでいた土や岩に直撃。赤く溶かし始める。

 一方で炎を吐いた竜種ドラゴンは強烈に減速。どうやらこの炎、ロケットのように噴射するタイプだなと私は推測。

 通路を塞いでいる土や岩が広場近くまで赤熱した。熱でもろくなったが迷宮ダンジョン外、気圧の低い広場側へと飛び出し穴が貫通する。

 竜種ドラゴンも気圧差で広場側へ一気に加速。

 ここで私は収納した空気の一部を竜種ドラゴンの背後に出してやる。
 竜種ドラゴンはそのまま広場へと飛び出し、そのまま壁に激突した。
 強化済みの壁は僅かなひびが入っただけ。そして残念ながら竜種ドラゴンは無事な模様。

 大丈夫、これくらいで竜種ドラゴンがくたばるとは思っていない。作戦第二段階はここからが本番。

 私は広場の床部分の岩を収納。次に迷宮ダンジョンに繋がる洞窟を土を出して封鎖。
 封鎖した土はすぐに土属性魔法で岩盤化し固めまくる。

 足下に何も無くなった竜種ドラゴンは翼を広げた。しかし翼を支える空気は無い。竜種ドラゴンは下へと落ちていく。

 どうやら竜種ドラゴン、反重力とか慣性操作で飛べる訳では無いようだ。
 勿論そういった方法で飛べても大丈夫なよう作戦の理論構築は構築済み。しかし現状の方が私にとって都合がいい。

 私は竜種ドラゴンの上方向に、今まで収納した空気を一気に出した。

 出した空気が爆発するように膨張する。強烈な空気圧の差が竜種ドラゴンを下へと押しやった。
 竜種ドラゴンは下へ、偵察魔法で追う事が困難な程に加速。

 竜種は岩盤化した穴の下へと激突し、かつてのコボルトキング以上に潰れた。
 数秒遅れて地響き、そして更に遅れて轟音。
 どちらも10離20km以上離れた私のところまで確かに伝わった。

 偵察魔法で念入りに確認。間違いない、竜種ドラゴンは死んだ。ぐちゃっと潰れている。魔力も消えつつある。

 竜種ドラゴンだった残骸をアイテムボックスで回収する。大丈夫、回収出来た。つまり間違いなく竜種ドラゴンは死んでいる。

 ヒイロ君経由の偵察魔法の視界が揺れ始めた。
 この感じは覚えがある。かつて攻略していた迷宮ダンジョンが消えた時と同じ感じだ。

 私はヒイロ君とウーフェイ君を収納する。迷宮ダンジョンが消えるなら残しておく必要はない。

 20位数える時間の後、地下にあった不可視の部分が消え失せた。迷宮ダンジョンが崩壊したのだ。

 元々あった場所にもさっきまであった地中にも、もはやそれらしい痕跡は何も残っていない。

 念の為迷宮ダンジョンがあった場所を念入りに確認。騎士団のゴーレムの反応も無い。魔法で回収したのか、迷宮ダンジョン消失時のお約束で外、騎士団のところへ戻ったのか。
 どちらであっても問題は無いだろう。確認は出来ないけれど。
 
 終わった。改めてそれを実感する。
 しかし達成感というのはあまりない。何とかなったという安堵感だけだ。

 とりあえず作った穴を埋めておこう。地盤沈下なんて起きたら嫌だから。塞ぐのは縦穴&広場を4箇所と、デュオ君を送り込んだ観測用の穴。

 勿論デュオ君は観測用の穴を埋める前に回収しておく。あとは土をアイテムボックスから出して埋めるだけ。

 埋めて埋めて完全に埋めれば作業完了だ。
 これでやっとお家に帰れる!
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