ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
182 / 282
第33章 対・竜種作戦 

第267話 相談しよう

しおりを挟む
 私は此処へ来て何度目かの来客を迎えていた。
 勿論今回も相手はアルベルトさんだ。

 彼は2~3日おきにこの拠点までやってくる。どうやら隊の方から連絡要員として指定されているようだ。
 私にとっても相手がアルベルトさんというのはありがたい。彼なら話すのが楽だから。

「おかげでシンプローン迷宮ダンジョンもかなり弱体化しました。今ではコボルトキングは出なくなりましたし、トロル類もほとんど見かけません。
 以外の魔物の大半はコボルトで、数もフミノさんがいらした頃の2割以下になっています」

 確かにアルベルトさんの言う通りだ。
 しかしいい事ばかりではない。
 特に最近、気になっている事がある。  

「ただはそのままなんですよね。見た感じでは弱体化もしていませんし。

 それに中の魔素マナを減らすのが難しくなってきました。毎日、の警戒範囲外の魔物はほぼ全て倒して回収していますが、ここ2~3日はほとんど変化を感じないのです」

 毎日コボルトキングを倒していた頃は、迷宮の弱体化をある程度実感出来た。

 しかしコボルトキングの代わりにコボルトジェネラルが出るようになり、更にそれがコボルトナイトになる頃になるとあまり変化を感じなくなった。

 そしてついに中ボス格が出なくなった。それから今日までの5日間は感じられる変化は全く無い状況。毎日雑魚コボルトを倒すだけとなっている。

「それでも迷宮ダンジョンが弱体化しているのは確かでしょう。本日朝、フミノさんが討伐を開始する前の時点で内部の魔物は87匹。これだけしか出ないのなら、そのうち迷宮ダンジョンも縮小するか消え失せるのではないでしょうか」

 そうかもしれない。
 ただ1日に100匹以下のコボルトを倒す程度では、減る魔素マナも少ないと思うのだ。

 このペースでやっていくなら、そして今後更に出る魔物が減るのなら。
 迷宮ダンジョン消滅まで数ヶ月、あるいはもっとかかってしまいそうだ。
 此処へ来てもう少しで1ヶ月。いい加減お家が恋しくなってきた。さっさとお仕事を終えて帰りたい。

 何なら2~3日だけ討伐を休んでお家に顔を見せに行ってくるなんて事も考えた。
 しかしどうにもこの迷宮ダンジョンを放っておけないのだ。竜種ドラゴンはそのままだし、何が起きるかわからないから。

「隊の方はどうですか。対策の方はどうなっているでしょうか?」

「避難指示は解除されました。避難者もまもなく戻り始める模様です」

「えっ!」

 何故だ。
 そう思ったのがわかったのだろう。アルベルトさんは小さくため息をついた後、説明する。

「きっかけは国が避難活動にかかる費用の援助を取りやめたからです。国の方針を受け、領主であるメディオラ侯爵も避難活動の中止を宣言しました。

 迷宮ダンジョンが地底奥深くへ潜った事により、当面のが出てくる可能性は遠のいた。国及び侯爵家はそう判断したようです」

 つまり竜種ドラゴン対策はむしろ後退したという状態か。

 偵察魔法で竜種ドラゴンの強大さを知っている私は安全と言い切る事が出来ない。地下5離10kmに閉じ込めても大丈夫だという確信は持てない。

 しかし現場で竜種ドラゴンの脅威を見ていない、報告を受けただけの国や領主家の判断は違うようだ。

「第6騎士団分遣隊の方は今のところ人員はそのままです。
 現在ほとんどの部隊は待機、訓練、周囲の魔物の探索・排除任務で、魔法偵察部隊だけが迷宮ダンジョン内任務を行っています。

 ただ、魔法偵察部隊以外については近々任務解除される可能性があります。

 迷宮ダンジョンが地中に没して入口が閉鎖されたことにより迷宮ダンジョン前警戒任務が解除されました。なので偵察と警備に必要な部隊以外は本隊に帰隊する事が検討されているそうです。

 の強力さを知っている現場としては避難活動継続・部隊配備の強化を訴えているところです。ですが迷宮ダンジョンの出口が見えなくなった今、脅威は後退したとの見方が一般的になりつつあります。
 第6騎士団本隊幹部の方もそう判断しているようです」

 騎士団の魔法偵察部隊は私と同じ意見のようだ。ただそれが現場以外には通じていない。
 そういう事だろう。

「魔法偵察部隊としては、今後も監視業務を続ける方針です。ただ以前にも申し上げた通り、監視以上の事は能力的に出来ません。

 迷宮の魔素がこのまま減少していくなら、監視だけで大丈夫でしょう。ですが万が一迷宮が再び成長するのを監視ゴーレムで確認しても、私達にはどうすることも出来ない。

 そう思うと今後ともフミノさんの魔法に頼るしかないのが現状です。騎士団としては大変心苦しいのですが」

「いえ、作戦を考えて、迷宮を地下へ閉じ込めたのは私ですから」

 そう、この結果は私が招いたものでもある。
 余分なものを背負い込んでしまったのかもしれない。それでも竜種《ドラゴン》が出てくるのを防ぐには仕方なかったと思う。今でもこれ以上の方法は思いつかない。

 しかし迷宮ダンジョンの弱体化が進まなくなってきた。 
 そして時間が経つごとに避難民は戻ってくる。更に騎士団の実働部隊が帰還してしまう可能性すらある。

 もし避難民が完全に戻ってきて、更に第6騎士団が偵察部隊以外帰隊してしまったら。
 そしてその状態で迷宮ダンジョンから竜種ドラゴンが出てきてしまったら。
 最悪の事態を迎える事になる。

 それならいっそ、早期に勝負をかけた方がいいかもしれない。
 避難済みの者が戻ってくる前、第6騎士団分遣隊がまだ今の人数いる、今のうちに。

 コボルトキングを倒し続けている時に思いついた作戦がある。竜種ドラゴンを倒せるかもしれない、そんな作戦だ。

 ただ本当に竜種ドラゴンを倒せるかはわからない。竜種ドラゴンを怒らせて取り返しのつかない事になってしまうかもしれない。
 だから思いついても今まで実行はしなかった。

 しかし時間が経ってもこれ以上迷宮ダンジョンが弱体化せず、住民や騎士団等の状況が悪くなる一方なら。
 早いうちに仕掛けた方がいい。

 ならば……

「アルベルトさん。実はを倒せるかもしれない作戦があるんです……」

 一人で考えているより誰かと相談した方がいいだろう。そしてアルベルトさんは信頼していい人だ。その事は今までのやりとりでわかっている。

 だから私は彼に話す事にした。竜種《ドラゴン》を倒せる可能性のある、私が考えた作戦を。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。