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第32章 のんびりした生活の後に
第257話 私の作戦
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「ごめんね。困るよね、こんな事を言われても」
リディナはそう言って、少なくとも言葉は落ち着いた調子で続ける。
「本当はわかっているの。フミノは絶対見過ごせないんだろうなって。誰かが不幸になると感じたくない、感じたまま放っておくのを許せないんだろうって。
だから今のは私の我が儘、気にしないで」
いや違う。そう思うけれど、やはりどう返答していいかわからない。でも言わなければ伝わらない。
実は伝わっているかもしれない。リディナには私の考えている事は見え見えのようだから。
それでも言葉に出して言わなければならない気がする。
仕方ない。私はうまく言葉にならないまま、口を開くことにする。
「リディナの言っている事は理解出来る。ありがたいとも、嬉しいとも思うし、だからこそ申し訳ないと思う。リディナに謝りたいけれどどう謝ればいいのかわからない。
私は今夜、シンプローンに向けて旅立つ。依頼は受けずに直行する。そうしようと思っている事はもうリディナもわかっていると思う。
リディナがさっき言ったように見ていられないから。善とか正義とか愛とかそんな理由じゃない。むしろマイナス方向、呪いのようなもの。
だから私自身、止める事が出来ない。行かなければ私の何かが壊れてしまう。そんな気がするから」
ちらっとリディナの方を見る。私の方を見て、頷きながら聞いてくれている。
だから私は続ける。うまく結論がまとまらないけれど、思っている事をできるだけ正直に伝えようと必死に文章を考えながら。
「それでもリディナがさっきのように言ってくれた事は嬉しいし、感謝したい。シンプローンへ行く事と矛盾している。けれどそう感じるし間違いなくそう思う。そう思っている。
だから出る前に約束する。必ず此処へ帰ってくる。私が帰る場所は此処しかないから。だから絶対此処に帰ってくる。
それくらいしか今は約束できない、だけど……」
言っていて自分でもどうかと思う。これでは説得力が無いなと。
ならどうしようか。しかし今の私が出来る事ってそんなあやふやな約束しか無いのだ。
わからない。言葉が続かない。
ふっとリディナが笑みを浮かべた。苦笑というか、仕方ないなという感じの笑みだ。
「まあフミノの言う事だから信じるね。他人以上に危険な事をしても毎回ちゃんと帰ってきてくれているし。今回は黙って出ないだけ、いつもよりましかな。
ただ今回は現場で倒れるとかボロボロで搬送されてくるってのは無しだよ。遠いし山のなかだし、此処から迎えに行けないから」
確かにそのあたり前科が結構あるような……
でもまあここは約束しておこう。
「わかった。気をつける」
「それじゃ出かける準備をしておこうか。さしあたってはご飯かな。フミノは放っておくと食べ忘れるから。出ているあいだはちゃんと3食食べること。
あとはゴーレムはどうする? ライ君とWシリーズは勿論だけれど、バーボン君やTシリーズは?」
正直ほっとする。こういった事なら答えられるし台詞も浮かぶから。
「バーボン君とTシリーズは置いていく。メンテナンスはサリアに任せれば大丈夫。サリアが無理となったら、申し訳ないけれど冒険者ギルド経由の指名依頼でミメイさんにメンテを頼みたい」
「依頼の必要は無い。フミノがいない間、毎日一度はここへ顔を出すようにする。表向きフミノの捜索扱いで」
「ありがとう」
ミメイさんが立ち寄ってくれるなら安心だ。
「でもバーボン君やTシリーズ無しでも大丈夫? きっとゴーレムを使って戦うつもりなんだよね」
リディナ、やっぱり私の作戦までわかっているような気がする。しかしリディナがわかっていたとしても、やはり言葉に出して説明した方がいい。ミメイさんもいる事だし。
だからどうやって戦うかについて、2人に説明を開始。
「まずは迷宮全体の位置を調べて、その下部分全てを収納する。更に迷宮化した部分の周囲の土を収納する。
これで迷宮そのものが下へ落ちるようなら、できるだけ下、以前にクラーケンを落としたより更に下まで迷宮そのものを落とす。そうすれば魔物が外に出る事が難しくなる」
ミメイさんが頷く。
「フミノしか出来ない力業。確かに有効」
「でももし下に穴を掘っても迷宮が落ちなければどうするの?」
もちろんリディナが言うような事態についても考えてある。
「その場合は出口部分に深い落とし穴を作った後、周囲をできる限り大量の土で塞ぐ。山の2~3個は削るくらいのつもりで。そうすれば飛行可能でかつ土を排除できる能力を持つ魔物以外は出るのが困難。この前のクラーケンレベルは無いと脱出不能」
「この前のクラーケン以上なら、山の1つ位は壊せる。竜種《ドラゴン》ならきっと可能」
ミメイさんの言うとおりだ。
だからこれで終わりという訳では無い。
「あくまでこれは魔物の出入りを防いで、竜種が外に出にくくする為。
こうやって出口に蓋をした後、Wシリーズ経由で偵察魔法や空即斬を使って迷宮内の竜種以外の魔物を狩って、魔石や死骸を回収していく。
ただ迷宮内には最低1体はゴーレムが必要。いなくなると偵察魔法も空即斬も、アイテムボックスで他のゴーレムを送り込むことも出来なくなるから。
しかしWシリーズでは竜種は倒せない。他にも倒せない魔物がいる可能性もある。
だからゴーレムに危険が近づいた場合、出来るだけ離れた安全な場所に別のゴーレムを出し、元のゴーレムは収納する。
竜種以外の魔物を狩り、迷宮内の魔素を減らす。
そうやって迷宮が消滅するまで迷宮内の魔素を減らしていく。これが基本的な作戦」
竜種と戦わずに迷宮ごと潰す。これが私の作戦だ。
「迷宮が消滅すると、中の竜種も外に出てこない?」
「多分大丈夫。以前、グランサ・デトリアの迷宮を潰した際、中にいた筈の魔物は迷宮とともに消滅して外に出てこなかった」
あの時はまだ内部にアークトロルくらいの大物が残っていた。それでも迷宮が消滅した際、私達と同じように外に出てきた魔物はいなかった。
「まずは迷宮を地中に埋めるか、大量の土砂を被せて封鎖する。
その後は雑魚魔物を倒して魔素《マナ》を減らし迷宮の消滅を目指す。
迷宮消滅とともに竜種が消えれば万々歳。万が一竜種《ドラゴン》が迷宮外に出ても、地上に出るまで時間を稼いで活動停止するのを目指す。そういう事ね」
「そう」
リディナの言うとおりだ。
「ただ竜種が発生するような迷宮なら、消えるくらいに魔物を狩るのは相当時間がかかるよね、きっと」
これもリディナの言うとおりだ。だから私は頷く。
「以前攻略した迷宮よりは時間がかかると思う。でもあの頃より私も強くなっている」
「フミノなら万が一ゴーレムが壊れても修復、何なら新造だって可能って事か。材料はイオラさんから来年分の注文を受けても大丈夫な位の在庫がある、そう言ってたよね」
まったくその通りだ。やはり私は頷く。
リディナも頷いた。
「今の作戦が上手くいけば、フミノも無事ここへ帰ってくる事が出来ると思う。勿論時間はかかると思うけれど。
でも万が一何かが想定と違って上手くいかなかったら。その時は全力で逃げてね。少なくとも自分の安全を確保して欲しいな。フミノには待っている人がいるし、これからも救える人がいる筈なんだからね」
私は頷く。多分守れると思うから。
「あと生活は健康的に。睡眠はちゃんととって、食事も3食食べる。出来れば適切な運動もしてね。お風呂はまあ、フミノなら毎日入るだろうから心配しないけれど。いい?」
やはり私は頷く。くれぐれも心がけよう。確かに何かに夢中になると食事とか睡眠を後回しにする癖があるから。
「それじゃ出発準備ね。私はフミノがある程度向こうに居ても十分な程度の食事をこれから作るから、フミノはそれ以外に必要な準備をして。着替えとか生活関連道具もちゃんと持ってね」
リディナはそう言って、少なくとも言葉は落ち着いた調子で続ける。
「本当はわかっているの。フミノは絶対見過ごせないんだろうなって。誰かが不幸になると感じたくない、感じたまま放っておくのを許せないんだろうって。
だから今のは私の我が儘、気にしないで」
いや違う。そう思うけれど、やはりどう返答していいかわからない。でも言わなければ伝わらない。
実は伝わっているかもしれない。リディナには私の考えている事は見え見えのようだから。
それでも言葉に出して言わなければならない気がする。
仕方ない。私はうまく言葉にならないまま、口を開くことにする。
「リディナの言っている事は理解出来る。ありがたいとも、嬉しいとも思うし、だからこそ申し訳ないと思う。リディナに謝りたいけれどどう謝ればいいのかわからない。
私は今夜、シンプローンに向けて旅立つ。依頼は受けずに直行する。そうしようと思っている事はもうリディナもわかっていると思う。
リディナがさっき言ったように見ていられないから。善とか正義とか愛とかそんな理由じゃない。むしろマイナス方向、呪いのようなもの。
だから私自身、止める事が出来ない。行かなければ私の何かが壊れてしまう。そんな気がするから」
ちらっとリディナの方を見る。私の方を見て、頷きながら聞いてくれている。
だから私は続ける。うまく結論がまとまらないけれど、思っている事をできるだけ正直に伝えようと必死に文章を考えながら。
「それでもリディナがさっきのように言ってくれた事は嬉しいし、感謝したい。シンプローンへ行く事と矛盾している。けれどそう感じるし間違いなくそう思う。そう思っている。
だから出る前に約束する。必ず此処へ帰ってくる。私が帰る場所は此処しかないから。だから絶対此処に帰ってくる。
それくらいしか今は約束できない、だけど……」
言っていて自分でもどうかと思う。これでは説得力が無いなと。
ならどうしようか。しかし今の私が出来る事ってそんなあやふやな約束しか無いのだ。
わからない。言葉が続かない。
ふっとリディナが笑みを浮かべた。苦笑というか、仕方ないなという感じの笑みだ。
「まあフミノの言う事だから信じるね。他人以上に危険な事をしても毎回ちゃんと帰ってきてくれているし。今回は黙って出ないだけ、いつもよりましかな。
ただ今回は現場で倒れるとかボロボロで搬送されてくるってのは無しだよ。遠いし山のなかだし、此処から迎えに行けないから」
確かにそのあたり前科が結構あるような……
でもまあここは約束しておこう。
「わかった。気をつける」
「それじゃ出かける準備をしておこうか。さしあたってはご飯かな。フミノは放っておくと食べ忘れるから。出ているあいだはちゃんと3食食べること。
あとはゴーレムはどうする? ライ君とWシリーズは勿論だけれど、バーボン君やTシリーズは?」
正直ほっとする。こういった事なら答えられるし台詞も浮かぶから。
「バーボン君とTシリーズは置いていく。メンテナンスはサリアに任せれば大丈夫。サリアが無理となったら、申し訳ないけれど冒険者ギルド経由の指名依頼でミメイさんにメンテを頼みたい」
「依頼の必要は無い。フミノがいない間、毎日一度はここへ顔を出すようにする。表向きフミノの捜索扱いで」
「ありがとう」
ミメイさんが立ち寄ってくれるなら安心だ。
「でもバーボン君やTシリーズ無しでも大丈夫? きっとゴーレムを使って戦うつもりなんだよね」
リディナ、やっぱり私の作戦までわかっているような気がする。しかしリディナがわかっていたとしても、やはり言葉に出して説明した方がいい。ミメイさんもいる事だし。
だからどうやって戦うかについて、2人に説明を開始。
「まずは迷宮全体の位置を調べて、その下部分全てを収納する。更に迷宮化した部分の周囲の土を収納する。
これで迷宮そのものが下へ落ちるようなら、できるだけ下、以前にクラーケンを落としたより更に下まで迷宮そのものを落とす。そうすれば魔物が外に出る事が難しくなる」
ミメイさんが頷く。
「フミノしか出来ない力業。確かに有効」
「でももし下に穴を掘っても迷宮が落ちなければどうするの?」
もちろんリディナが言うような事態についても考えてある。
「その場合は出口部分に深い落とし穴を作った後、周囲をできる限り大量の土で塞ぐ。山の2~3個は削るくらいのつもりで。そうすれば飛行可能でかつ土を排除できる能力を持つ魔物以外は出るのが困難。この前のクラーケンレベルは無いと脱出不能」
「この前のクラーケン以上なら、山の1つ位は壊せる。竜種《ドラゴン》ならきっと可能」
ミメイさんの言うとおりだ。
だからこれで終わりという訳では無い。
「あくまでこれは魔物の出入りを防いで、竜種が外に出にくくする為。
こうやって出口に蓋をした後、Wシリーズ経由で偵察魔法や空即斬を使って迷宮内の竜種以外の魔物を狩って、魔石や死骸を回収していく。
ただ迷宮内には最低1体はゴーレムが必要。いなくなると偵察魔法も空即斬も、アイテムボックスで他のゴーレムを送り込むことも出来なくなるから。
しかしWシリーズでは竜種は倒せない。他にも倒せない魔物がいる可能性もある。
だからゴーレムに危険が近づいた場合、出来るだけ離れた安全な場所に別のゴーレムを出し、元のゴーレムは収納する。
竜種以外の魔物を狩り、迷宮内の魔素を減らす。
そうやって迷宮が消滅するまで迷宮内の魔素を減らしていく。これが基本的な作戦」
竜種と戦わずに迷宮ごと潰す。これが私の作戦だ。
「迷宮が消滅すると、中の竜種も外に出てこない?」
「多分大丈夫。以前、グランサ・デトリアの迷宮を潰した際、中にいた筈の魔物は迷宮とともに消滅して外に出てこなかった」
あの時はまだ内部にアークトロルくらいの大物が残っていた。それでも迷宮が消滅した際、私達と同じように外に出てきた魔物はいなかった。
「まずは迷宮を地中に埋めるか、大量の土砂を被せて封鎖する。
その後は雑魚魔物を倒して魔素《マナ》を減らし迷宮の消滅を目指す。
迷宮消滅とともに竜種が消えれば万々歳。万が一竜種《ドラゴン》が迷宮外に出ても、地上に出るまで時間を稼いで活動停止するのを目指す。そういう事ね」
「そう」
リディナの言うとおりだ。
「ただ竜種が発生するような迷宮なら、消えるくらいに魔物を狩るのは相当時間がかかるよね、きっと」
これもリディナの言うとおりだ。だから私は頷く。
「以前攻略した迷宮よりは時間がかかると思う。でもあの頃より私も強くなっている」
「フミノなら万が一ゴーレムが壊れても修復、何なら新造だって可能って事か。材料はイオラさんから来年分の注文を受けても大丈夫な位の在庫がある、そう言ってたよね」
まったくその通りだ。やはり私は頷く。
リディナも頷いた。
「今の作戦が上手くいけば、フミノも無事ここへ帰ってくる事が出来ると思う。勿論時間はかかると思うけれど。
でも万が一何かが想定と違って上手くいかなかったら。その時は全力で逃げてね。少なくとも自分の安全を確保して欲しいな。フミノには待っている人がいるし、これからも救える人がいる筈なんだからね」
私は頷く。多分守れると思うから。
「あと生活は健康的に。睡眠はちゃんととって、食事も3食食べる。出来れば適切な運動もしてね。お風呂はまあ、フミノなら毎日入るだろうから心配しないけれど。いい?」
やはり私は頷く。くれぐれも心がけよう。確かに何かに夢中になると食事とか睡眠を後回しにする癖があるから。
「それじゃ出発準備ね。私はフミノがある程度向こうに居ても十分な程度の食事をこれから作るから、フミノはそれ以外に必要な準備をして。着替えとか生活関連道具もちゃんと持ってね」
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