ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

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第30章 移築作業

第248話 聖堂の移築(1)

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 サイナス司祭、更には領役所支所の人とリディナが話し合った結果。
 聖堂は公共用地に建てる事になった。
 
 場所は領役所支所の隣。うちの農場の出口から約10腕20m南の西側。
 ここが村の中心で、どの場所からも比較的行きやすいという事で。

 それでも村の端からだと結構ある。南西端からだと2離4kmだ。
 私は子供が通うのには遠すぎると思った。しかしリディナもセレスもそこは問題無いという判断だ。

「2離《4km》くらいは6歳の子供でも余裕かな。1時間あれば歩けるしね。この村の中は安全だし」

「そうですね。むしろある程度時間がかかる方が子供にとっては楽しいなんて事もあります。お手伝いとかしなくていい自由な時間ですから」

 リディナもセレスもそう言うという事は、きっとそれが正しいのだろう。元日本人である私の感覚とは違うようだ。

 さて、現地は公共用地とは言っても今のところは未利用地。開拓の後は整備していない。だから現状は背の高い草や雑木が生えている空き地だ。

 この『背の高い草や雑木が生えている空き地』というのもそれなりに有用らしい。生えている草や雑木を焚き付けや肥料、家畜の餌に使えるし、食用の野草や手工品の材料等も採れるとの事。

 だから特に手をつけずにそのままにしていた。なので使うとなると少しばかり気になったりする。

「ここの部分を造成して問題にならない?」

「元々役所の管理地だから問題ないと思うよ。それに整地するのは敷地のごく一部だし」
 
「そうですね。それに聖堂を移築する場所は私達の農場の前付近です。ですから他の場所よりは影響が少ないと思います」

 確かに言われてみればそうだなと思う。

「それより移築の現場を見られないようにしないとね。だから作業は夜、暗くなってからやろうか。暗くても魔法で見れば作業には支障ないでしょ」

「それがいいです。大分寒くなってきましたので、夜なら皆ぐっすり眠っていると思います」

 確かに寒くなってきた。
 山羊ちゃん達も外に出たがらない時がある。そうサリアちゃんやレウス君が言っている位だ。

 なおエルマくんは冬でも元気。毎朝決まった時間に2人を起こすらしい。そう言えば以前もそうだったな、とエルマ当番があった頃を思い出す。

 家庭菜園や山羊の世話は現在、ほぼ2人任せだ。私やリディナ、セレスは農作業が無くても教室の準備その他で結構忙しい。

 リディナは最近はセドナ教会や領役所支所との話し合いとか、加工食品の製造とか、みんなの食事作りとかがある。

 セレスの場合はサリアちゃんとレウス君の勉強や掃除洗濯、市場へ行ってお買い物等。

 そして今の私は聖堂の移動に向けた作業が中心。

 聖堂はひととおりの補修はしてある。しかし他の人の目に触れるなら、外見を更に整えておいた方がいい。

 例えば壁のひび割れを補修した跡。今までは色が違ったのをそのままにしていた。これを土属性魔法を使って成分を調整し、色を合わせる。

 床も同様。こちらは使用に問題が無いだろうと言う事で細かいひび割れは無視していた。
 でもどうせやるなら新品同様に。いや少し時間経過を感じさせた方が雰囲気が出るかな。

 更に清掃も念入りに。内側も外側も水属性魔法でお湯を勢いよく出して洗浄。

 机と椅子、更には大きめの作業台や教壇を用意するなんて作業もある。これはまあ、アイテムボックス内で製造して出せばいい。机なら1時間で10台は製造可能だ。

 聖堂を移動した後に図書室その他として使う建物も、アイテムボックス内で建築というか製造中。
 この建物はちょっと新技法を試してみた。今までのお家や山羊小屋とはかなり形や構造が違うものになっている。

 ◇◇◇

 そして全部の準備が終わった夜。

 いつもはとっくに寝ているサリアちゃんやレウス君も起きている。これからエルマくんも加えた全員で、聖堂の移動作業を実施するからだ。

「ここから聖堂が無くなるの、少し寂しいです。ここにあるのが当たり前だと思っていたので」

 サリアちゃんがそんな事を言う。

「広いし雨の日でもエルマと走れるし、残念」

 レウス君も。

「大丈夫だよ、代わりの建物はフミノが用意しているから。それにこの建物は無くなるわけじゃない。この村のもっと中の方で、みんなが使える場所になるだけ。
 子供達を集めて勉強会をするから、友達も出来るかもしれない。それはそれで楽しみじゃないかな」

「友達できるかな」

「大丈夫だと思いますよ」

 そう、この聖堂は無くなる訳じゃない。もっと多くの人を見守ってくれる場所になる筈だ。

「それじゃフミノ、お願い」

「わかった」

 聖堂を収納。かわりに新しい建物を出す。おまけで作った渡り廊下も一緒に。

「変わった!」

 確かにレウス君の目には聖堂が新しい建物に変化したように見えたかもしれない。聖堂を収納してすぐ、同じ場所にこの建物を出したから。

「大きい!」

「本当、大きいです」

 レウス君とサリアちゃんがそう言って新しい建物を見上げている。

「あと見た事がない形をしています」

「私も木造では初めて見るかな。石造りでは時々あるけれど」

 セレスやリディナの言うとおりだ。この建物は今まで私が作った建物と形が違う。理由は新構造を試してみたかったから。

 外見はカマボコ形。体育館なんかで時々見られる奴だ。しかしこの構造の特徴は外見より中身にある。

「中を見ていい?」

 レウス君の言葉にリディナは頷く。

「そうだね。ちょっと中を見てから行こうか」

 5人と1匹で建物の中へ。

「広い!」

 レウス君が言うとおりだ。中は柱のない体育館のような作りで奥行きが30腕60m、幅が10腕20m。天井の一番高いところは4腕8mある。

「前の聖堂より幅が広いよね」

 その通りだ。私は頷いて、そして説明を付け加える。

「新しい構造を試してみたかった。この構造なら中央に柱がなくても大丈夫」

 この農場で必要になる最後の建物かな。そう思ったのでいつもと違う構造を試してみた。
 雨の日でもエルマくんが走って遊べる広さにしたかった、なんてのもある。

「これは明日、明るくなってからもう一度しっかり見た方がいいかな」

「そうですね」

 なおエルマくんはあちこちの臭いを嗅いでいる。尻尾ブンブンで楽しそうだ。
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