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第29章 ちょっとだけ単独行

おまけ 今日は海の日(上)

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 私がアコチェーノから無事帰ってきた日の翌日、朝食の席で。

「もしフミノが回復していたらだけれども、午前の御仕事が終わったら皆で行ってみたいところがあるんだけれどいいかな?
 海の近くで遊べそうなところがあるの。エルマが走り回れそうな海岸もあるし、魚釣りや貝拾いも出来そうなんだけれど」

 リディナがそんな事を言った。
 何処だろう? この辺りの地形を知っている私は疑問に思う。

 カラバーラ周辺の土地は海岸沿いまで台地で、海岸線は大体が断崖絶壁。カラバーラの街部分だけが低くなっていて港が作れる地形になっている。
 つまり街以外の海岸線は断崖絶壁で、海には容易に近づけない。

 例外は1箇所だけ。カラバーラの南、1離2kmの場所に低い海岸がある。ここは自然の浜では無い。人工的に作った海岸だ。

 作ったのはミメイさん。以前クラーケンが出現した際、クラーケンを岸に引き込んで戦う場所として、台地のやや低い部分を土属性魔法で加工して造成した。

 高さ5腕10m近くあった台地を、土を圧縮しまくって岩盤化させるとともに低くして、余った土で海を埋めて低く平らでやや遠浅な海岸にしたのだ。

 しかしその部分は現在、騎士団の演習場になっている。だから一般人は入る事が出来ない。
 それに人工的に海に土を入れたり加工したりしたので、魚もまだ居着いていない筈だ。

「楽しそうですね。どの辺りの場所なんですか?」

「前にクラーケンを退治した場所があるじゃない。あそこは今は騎士団の演習場になっているけれど、南側の端に演習場じゃない区画があるの。
 そこを通っていけば海に出られるし、演習場と反対側の海辺にも出られるみたいだよ。小さな砂浜やそこそこ生き物がいそうな岩場もあるし、楽しいと思うよ」

 そうか、クラーケン退治の直前、私が土を得る為に収納した岬があった場所だ。

 あそこは確かに騎士団の演習場にはなっていない。現状はただの草地だ。今はそこそこ草が生い茂っているけれど、私達の魔法を使えば問題無く入っていくことが出来る。

「どんな風に遊ぶの?」

「食べられる魚や貝を捕ったり出来るんだよ。サリアもレウスもきっと楽しいと思うよ。あとエルマもいつもと違う場所を思い切り走れるから楽しいと思うしね」

「どんな風に捕まえるのでしょうか?」

 サリアちゃんはイメージがわかないようだ。まあリディナやセレスも元々知らなかったから、この国で一般的な遊びでは無いのだろう。

「それは行ってからのお楽しみですね。でも楽しいのは間違いないです」

 セレスも何気に釣りにはまっていたからなあ。以前、海岸でそんな遊びをしていた事を思い出す。

「そうそう。行こうと思っている場所はフミノがいない間、偵察魔法を使って周囲に魔物がいないか探していた時に見つけたんだけれどね。魚もけっこういるし、貝も美味しそうなのが岩にくっついていたから。あと蟹もいたけれど捕れるかな?」

「蟹って何?」

「手の代わりにハサミがついた小さな生き物だよ」

 レウス君、リディナにそう説明されても想像出来ないようだ。まあ無理もないよなと思う。ああいった物は実際に見た方が早い。
 それに楽しいのも確かだろう。ならば、だ。

「私の方は大丈夫だと思う。大分筋肉痛も回復してきた」

 何度も筋肉痛には苦しめられている。だから魔法で回復させる技もその分進化しているのだ。

「なら午前中の御仕事が終わったら、そのまま出かけて向こうで御飯を食べようか。いつもと違って楽しいと思うよ」

「わかった!」

 レウス君の返答で午後の予定は無事、決定した。

 ◇◇◇

 かつて岬があった場所の直近でゴーレム車を停める。ここからは歩きだ。

「フミノ大丈夫? 何なら先頭は私が歩こうか?」

「問題無い」

 筋肉痛は問題無い。それに先頭の方が自分のペースで歩ける分、楽だ。
 行き先を遮る草を熱魔法で分解し、足場を踏み固め魔法で固めながらゆっくり歩いて行く。

「こんな草の中も歩いて行けるんですね」

「これでもフミノさん、周囲に危険が無いか、注意して歩いているんです。私達3人も元々は冒険者ですから。だから真似はしない方がいいです」

 セレスがサリアちゃんにそんな説明をしている。

「冒険者って、セレスさんも魔物を倒したりもするの?」

「最近はほとんどやっていないです。農場の周囲一帯はフミノさんやリディナさんが魔法で監視していますから。フミノさんなら遠くにいる魔物でも魔法で狩って、そのまま回収出来ますからね」

 そんな事を話しながらのんびり歩いて行く。
 土の軟らかいところは固めて、段差があるところはアイテムボックススキルと土属性魔法で成形する。だからレウス君でも足下には問題無い。

 エルマくんは放って置くとそのまま先まで飛び出して行ってしまいそうだ。だから今は胴輪をつけて紐に繋ぎ、リディナが紐を持った上で一緒に歩いている。

 さて、そろそろだな。
 蔓延るススキのような背の高い草を魔法で熱分解する。目の前の景色が一気に開けた。
 青い海、平らに削り取られたような岩場、そして海と岩場の間の小さな浜辺。

 目的地に到着だ。
 
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