135 / 282
第27章 大規模開拓?
第224話 聖堂の祭壇にて
しおりを挟む
「もしそんな人が来てしまった場合、何とかならないんですか」
セレスの質問。
リディナは小さく頷いて、返答する。
「領主家はほぼ何も出来ない。強いて言えば孤児院や救護院を増設する位。でも働ける健康な人はそれでは拾えない。
もしやるなら領主家や領役所で雇う事くらいかな。でも文字が読めない人を雇っても領役所の仕事にはほとんど役に立たないよね」
ここは日本では無い。だから年金も生活保護も存在しない。
宗教的善意に基づいた施設が僅かにある程度だ。
私がそんな事を思っている間もセレスとリディナの問答は続いている。
「なら領主家以外なら何とか出来るんですか?」
「資本を持っている商家なら開拓団を結成して、なんて事は出来るかもしれない。
ある程度物分かりがいい人や有能な人は、ここまで流れてこない。
むしろ逆。善良ではないのか、物分かりが悪いのか、もしくは無能。だからこそやっていけなくなったという方が多いと思う。
ある程度の判断力や情報収集力があれば、途中で南部の正しい情報を聞いて、開拓の大変さに気付くだろうから。
だから此処へ来るまでの間に開拓団を探したり、栄えている街で仕事についたりする。
開拓団を組織する際は普通、現地でなく別の場所で募集して、更に開拓団でやって行けそうか選考する。さっきも言った理由で現地では使えない人材ばかり集まっている可能性が高いから。
そしてもし開拓団を組織して、そしてそういった人を開拓団員として雇ってしまった場合はね。その後ずっとその人達に関わる事を覚悟しなければならないと思うの。
そういった人達だから放っておくとまた失敗する可能性が高いから。目を離すと問題を起こす可能性が否定できないから。
その土地で、その人達が生きている限りずっと」
リディナ、厳しい。でも理屈はわかる。それだけの覚悟が必要だと言っているのだ。そうでなければ手を出さない方がいいと。
「確かにそうですね。私のいた村でもそうでした。頭が悪くて要領の悪い人か、性格が悪くて人付き合いの悪い人。いなくなるのはそんな人が多かった気がします。家人が事故で亡くなったりとかどうしようもない理由の場合は別として」
私は少し違うけれども似たような事例を思い出した。『援助が必要な弱者』だからといって、必ずしも救いたくなるような人物とは限らない、そんな事例、いや実例を。
前世、いや日本にいた頃の事。うちの家は母子家庭で収入が少なく貧乏だった。そういう意味では『救うべき弱者』ではあった筈だ。
しかし母は福祉の金が入ると男と遊び歩いたりパチンコでお金を使ったり。
福祉の世話になる前の一時期、母は職業訓練に通っていた。しかしさぼりまくったせいであっという間に退学になった。
そうしたら退学になった事と手当てが減った事を怒鳴り込みに行った。そうなるのは当然なのに自分の事は顧みない。
私が担当の人だとして、そんな相手に温かく接することができるだろうか。『救いたい』『救うべき対象』と思えるだろうか。
もちろん母と、今考えている『開拓で援助が必要な人達』とでは状況が違う。それでも今のリディナの説明と何かが重なってしまうのだ。
ただ日本の福祉のおかげで私が生存出来たのは事実。最悪に近い環境だったけれど、それでも生存出来たのは。
そしてスティヴァレにはそういった福祉制度は無い。生存権だの基本的人権だのといった権利も法律に規定は無い。そもそもそんな概念があるかもわからない。
考えがまとまらない。セレスの質問と私の過去。リディナもセレスの疑問や思いを否定している訳では無い。ただ『厳しい』という意見を言っているだけなのだ。
よし。考えがまとまらず、もやもやする時は。
「少し夜風に当たってくる」
「気をつけてね」
お家を出て少し歩く。目的地は聖堂だ。
この聖堂は図書室にしている北側部分以外は使用していない。机や祭壇っぽいものを少しだけ作って置いたけれどそれだけだ。
しかしこの聖堂の中の空気というか雰囲気が私は好きだ。だから何となくもやっとした時などはここに来る。
ここで静かに周囲の空気に身を任せているだけで、何か落ち着くというかすっきりするから。
ドーム状になっている中央部の先、東側部分には私が作った木製の簡素な祭壇がある。その祭壇を、背後にある7体の神像が見下ろして、いや、見守っている。
つまりはヴィラル司祭がいた開拓村の聖堂と同じつくりだ。勿論此処には司祭はいない。けれど空気感は同じ感じで落ち着く。
祭壇の中央に小さな木箱が置いてある。これはかつてヴィラル司祭に頂いたものだ。
中には小さな円形の鏡が渡された時のまま入っている筈だ。開けて見てはいないけれど魔法で見て知っている。
何となくその木箱を手に取って、蓋を開ける。
中にあるのは小さな円形の鏡。
私は鏡を取り出して見てみる。形は厚めの円盤状。材質は色と重さから判断して青銅だろう。
裏側の文様には円と弧を描いた何かが多数。花とサクランボのようにも見えるが多分違うのだろう。
そして表面、鏡の部分はと。私は鏡の面を顔の方に向ける。
視界が一気にぼやけ、変化した。軽い浮遊感が私を襲った。
セレスの質問。
リディナは小さく頷いて、返答する。
「領主家はほぼ何も出来ない。強いて言えば孤児院や救護院を増設する位。でも働ける健康な人はそれでは拾えない。
もしやるなら領主家や領役所で雇う事くらいかな。でも文字が読めない人を雇っても領役所の仕事にはほとんど役に立たないよね」
ここは日本では無い。だから年金も生活保護も存在しない。
宗教的善意に基づいた施設が僅かにある程度だ。
私がそんな事を思っている間もセレスとリディナの問答は続いている。
「なら領主家以外なら何とか出来るんですか?」
「資本を持っている商家なら開拓団を結成して、なんて事は出来るかもしれない。
ある程度物分かりがいい人や有能な人は、ここまで流れてこない。
むしろ逆。善良ではないのか、物分かりが悪いのか、もしくは無能。だからこそやっていけなくなったという方が多いと思う。
ある程度の判断力や情報収集力があれば、途中で南部の正しい情報を聞いて、開拓の大変さに気付くだろうから。
だから此処へ来るまでの間に開拓団を探したり、栄えている街で仕事についたりする。
開拓団を組織する際は普通、現地でなく別の場所で募集して、更に開拓団でやって行けそうか選考する。さっきも言った理由で現地では使えない人材ばかり集まっている可能性が高いから。
そしてもし開拓団を組織して、そしてそういった人を開拓団員として雇ってしまった場合はね。その後ずっとその人達に関わる事を覚悟しなければならないと思うの。
そういった人達だから放っておくとまた失敗する可能性が高いから。目を離すと問題を起こす可能性が否定できないから。
その土地で、その人達が生きている限りずっと」
リディナ、厳しい。でも理屈はわかる。それだけの覚悟が必要だと言っているのだ。そうでなければ手を出さない方がいいと。
「確かにそうですね。私のいた村でもそうでした。頭が悪くて要領の悪い人か、性格が悪くて人付き合いの悪い人。いなくなるのはそんな人が多かった気がします。家人が事故で亡くなったりとかどうしようもない理由の場合は別として」
私は少し違うけれども似たような事例を思い出した。『援助が必要な弱者』だからといって、必ずしも救いたくなるような人物とは限らない、そんな事例、いや実例を。
前世、いや日本にいた頃の事。うちの家は母子家庭で収入が少なく貧乏だった。そういう意味では『救うべき弱者』ではあった筈だ。
しかし母は福祉の金が入ると男と遊び歩いたりパチンコでお金を使ったり。
福祉の世話になる前の一時期、母は職業訓練に通っていた。しかしさぼりまくったせいであっという間に退学になった。
そうしたら退学になった事と手当てが減った事を怒鳴り込みに行った。そうなるのは当然なのに自分の事は顧みない。
私が担当の人だとして、そんな相手に温かく接することができるだろうか。『救いたい』『救うべき対象』と思えるだろうか。
もちろん母と、今考えている『開拓で援助が必要な人達』とでは状況が違う。それでも今のリディナの説明と何かが重なってしまうのだ。
ただ日本の福祉のおかげで私が生存出来たのは事実。最悪に近い環境だったけれど、それでも生存出来たのは。
そしてスティヴァレにはそういった福祉制度は無い。生存権だの基本的人権だのといった権利も法律に規定は無い。そもそもそんな概念があるかもわからない。
考えがまとまらない。セレスの質問と私の過去。リディナもセレスの疑問や思いを否定している訳では無い。ただ『厳しい』という意見を言っているだけなのだ。
よし。考えがまとまらず、もやもやする時は。
「少し夜風に当たってくる」
「気をつけてね」
お家を出て少し歩く。目的地は聖堂だ。
この聖堂は図書室にしている北側部分以外は使用していない。机や祭壇っぽいものを少しだけ作って置いたけれどそれだけだ。
しかしこの聖堂の中の空気というか雰囲気が私は好きだ。だから何となくもやっとした時などはここに来る。
ここで静かに周囲の空気に身を任せているだけで、何か落ち着くというかすっきりするから。
ドーム状になっている中央部の先、東側部分には私が作った木製の簡素な祭壇がある。その祭壇を、背後にある7体の神像が見下ろして、いや、見守っている。
つまりはヴィラル司祭がいた開拓村の聖堂と同じつくりだ。勿論此処には司祭はいない。けれど空気感は同じ感じで落ち着く。
祭壇の中央に小さな木箱が置いてある。これはかつてヴィラル司祭に頂いたものだ。
中には小さな円形の鏡が渡された時のまま入っている筈だ。開けて見てはいないけれど魔法で見て知っている。
何となくその木箱を手に取って、蓋を開ける。
中にあるのは小さな円形の鏡。
私は鏡を取り出して見てみる。形は厚めの円盤状。材質は色と重さから判断して青銅だろう。
裏側の文様には円と弧を描いた何かが多数。花とサクランボのようにも見えるが多分違うのだろう。
そして表面、鏡の部分はと。私は鏡の面を顔の方に向ける。
視界が一気にぼやけ、変化した。軽い浮遊感が私を襲った。
330
お気に入りに追加
3,000
あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。