ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀

文字の大きさ
上 下
127 / 281
第26章 大物討伐

第217話 非常事態

しおりを挟む
 気がついたら2ヶ月経っていた。
 畑の作物も順調だし、エルマくんもアレアちゃん達も元気だ。
 マスコビーに至っては既に小さいのが何羽も増えている。

 しいて言えば今のエルマくん、何でもかみかみしてしまうのが問題点だろうか。

「歯が抜け替わる時期で口がかゆいので、つい噛んでしまうみたいです。ただ噛む犬にならないように、噛んだ時は駄目と叱ってやった方がいいです」

 実際来たばかりの頃とは違って今のエルマくん、口の力が結構あるし歯も尖っている部分がある。だから噛まれると痛い。

 それもあって噛まれたらすぐに叱るようにしている。すぐに叱らないと、何で叱られたか分からなくなるらしいし。
 それでも気が付くと座卓だの椅子だのをかみかみしてしまう。結果、家具の端部分等についた噛み跡が順調に増えてしまっている今日この頃だ。

 可愛いのはエルマくんだけではない。
 アレアちゃんやノクトくんも可愛い。人懐っこくて放牧中に顔を見せるとこっちに向かって走ってくる。そのまま頭突きをしてくる事もあるけれど、これは山羊なりの親愛の情らしい。

 なおアレアちゃんとノクトくんはセレスに一番懐いている。そしてセレスは慣れているのか頭突きが直撃する事は少ない。
 逆にリディナは時々直撃を受けている。怪我する程の事はないけれど。私はまあ、常時偵察魔法で警戒しているので避けられる。

 農場の施設も更に充実。
 草地や貯水池の東側、岩だらけの急斜面に炭焼き用の穴と製陶用の窯を作った。これで炭が焼けるし木酢液も取れる。

 前に3人で肥料作りをして、木をゆっくり焼く作業をして思ったのだ。これって炭で代用できないだろうかと。

 そう言えば木酢液もセレスが言うように虫の忌避剤として使ったり出来ると聞いた事がある。ならばと思って炭焼き用の場所を作ってみた訳だ。

 セレスに聞くと薄めた木酢液を散布するのでも効果は同じらしい。液体なら散布用機材を作るのも簡単だ。そんな訳で炭焼きは今までに2回程やっている。

 製陶用の窯は実用というよりはお遊び。でもあると楽しい。時々3人で粘土をこねて、魔法で乾燥させた後、横の穴で作った炭を使って焼いて、実用と芸術の狭間にある物体を作ったりもしている。

 街は少しずつ大きく賑やかになってきている。
 開拓地も街に近い方は人の気配が増え始めた。場所によっては魔法を使って一気に木々を焼き払ったりなんて事もしている。

 カレンさんやミメイさんはどうしているのかな。時々そんな事を思う。

 ミメイさんは間違いなくカラバーラの街にいる。時々大規模な魔法を使っている気配を感じるから。
 同様にミメイさんも私達がここを開拓した時の魔力に気づいただろう。

 ただ連絡その他は無い。冒険者ギルドや商業ギルドを通じた連絡や依頼も。

「こちらから領主家や領役所に押しかけたりするのも失礼だしね。フミノのスキルは開拓に効果的だけれど、その分知られると危険だったりするし。カレンさんがその辺を考えてくれているのかも。
 だから私達も静観かな。魔物だけはきっちり周辺からいなくなるように狩って」

 そんなリディナの意見通り、特に連絡を取らないままになっている。

 さて、今日は久しぶりに雨。だから皆外に出ないでリビングにいる。リディナは料理中で、セレスは何やら専門書を読んで何かを調べ中。
 そして私はリビングでエルマくんと遊びながら、アイテムボックス内で注文を受けたゴーレムを作っていた。

 作っているゴーレムは2種類。フェルマ伯領の鉱山で作った猪型の牽引・採掘両用ゴーレムとケーブル式トロッコの動力ワイヤー用ゴーレムだ。

 鉱山から注文が来たのではない。商業ギルド経由でラモッティ伯爵家から注文が来たのだ。

「新しいゴーレムを記録したり分類したり、今後の参考にしたりする為だと思うよ。特に秘密にしたい部分等がなければ受けた方がいいんじゃないかな」

 そんな部分はない。それに鉱山用ゴーレムの方は元々ラモッティ伯爵家製造のバーボン君や05君の機構を参考にして作っている。だからまあいいかなと判断。

 お値段も牽引・採掘型が正金貨8枚400万円、ショゴス君タイプが正金貨15枚750万円とローラッテの鉱山よりさらに高く買ってくれるようだし。

 そして今の私はアイテムボックス内でも自由に作業が出来る。細かい作業もシェリーちゃんをアイテムボックス内に入れて作業すれば問題ない。
 
 商業ギルド経由で注文した魔法金属が届くまで2週間かかる。届くまでゴーレム全部は作れないけれど、今のうちに作れる部分は作っておくつもり。

 そしてアイテムボックス内で製作作業をする傍ら、エルマくんとボール遊びなんて事もする。ボールというよりは木球だけれども。大きさはテニスボールよりやや大きい位で私の手製。

 ① ボールを速い速度で転がす
 ② エルマくんがボールを追いかける
 ③ 大きくて微妙に銜えきれないボールを、それでも銜えようとしたり転がしたりしながらエルマくんが持って戻ってくる
 ④ 私の近くまでボールを持ってきたら、しばらくはかみかみしたり前脚で持ったりして遊ぶ
 ⑤ そうやって遊ぶ事に飽きたら、エルマくんは私の前にボールを持ってきて置く
 ⑥ 『転がして!』と期待に満ちた目で私を見る

 これの繰り返しだ。
 エルマくん、結構大きくなっている。ただ動きはまだ子供っぽい。それがまた可愛い。

 そんな時だった。私の偵察魔法がこの家に近づく何かを捉えた。異様に速い。私が縮地を使っているのと似た動きだ。何だ、これは。

 更に偵察魔法で詳細を調べる。人、それも知っている魔力。ミメイさんだ。雨の中、ゴーレム馬に乗って、更にミメイさん自身とは違う魔法を使って移動している。

 目的地は此処だ。そう直感した。何だ、何が起きているのだ。

「何かが起きた。ミメイさんが来る」

「えっ」

 更に説明する程の時間はなかった。
 扉をノックする音。ミメイさんだというのは判っている。
 私はエルマくんをさっと抱きかかえて、そして返答する。

「どうぞ」

「ごめん、急に」

 やはりミメイさんだ。以前と同じ濃い灰色のフード付きマント姿、身長は少し高くなった感じ。しかしそんな感想を言うような余裕はなさそうだ。  

「どうしたの」

「大型の魔物。海から近づいてくる。空属性、地属性、風属性、水属性の魔法は効かなかった。おそらく特定属性しか効かないタイプ。申し訳ないけれどフミノの手を借りたい」

「わかった」

 ミメイさんがそう言うならその通りなのだろう。私は抱きかかえたエルマくんをセレスに渡し、リディナとセレスに告げる。

「行ってくる。エルマくんをお願い」

「わかったわ」
「わかりました」

 本当はもっと状況を聞きたいし知りたい。しかしミメイさんの様子を見ると急いだほうがいい。説明を聞く時間すら惜しい感じだ。

 アイテムボックスから錬金術師のアルケミストローブの透過タイプを出す。ある程度防水だし耐火耐熱耐寒耐衝撃だからちょうどいい。

 外は雨だ。風もそこそこ強い。

「説明必要?」

「時間がない、違う?」

「ありがとう。乗って」

 ライ君よりは一回り小さいゴーレム馬だ。ちゃんと2人乗りできるように後席用の鞍と鐙がある。本物の馬と違って乗りやすい。

 ミメイさんの後ろに乗って、ゴーレム本体にある持ち手を握る。同時にゴーレム馬が走り出した。やはり空属性の魔法を使っている。縮地と同じ魔法だ。

「誰の魔法?」

「メレナム、現スリワラ伯爵。フェルマ家は代々空属性持ち」

 カレンさんの夫か。

「それで魔物は?」

「メレナムが最初に発見。海上にゴーレム船を出して魔法攻撃した。しかし土、水、風、空属性どれも効かなかった。火属性は相手が海中なので効きが悪い」

 私も偵察魔法の視点を動かして確認しようとする。しかし他人の縮地が起動しているのでうまく出来ない。

「向かっている場所は?」

「カラバーラの南、1離2kmにある海岸。カレンが領内騎士団を率いて戦闘準備中」

 この雨の中をか。

「魔法使いや騎士等、戦力的に大きい方が魔物を引きつけ易い。最悪の際でも街に直接上陸するのを防げる」

 理解した。そこまで覚悟する程の相手だという事を。
しおりを挟む
感想 115

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。